冷たい雨が容赦なく身を打ち据える中


痛みと悔しさをこらえながら…私は立ち上がる





少し先に倒れた、銀時とお登勢殿とを
助けなければならない





そうだ…誰かに 誰かに助けを呼ばねば


「…っ誰か!誰か近くにおらぬか!!





砂利を蹴り上げ、辺りへ声を張り上げ続け







やがて遠くから見覚えのある服装の御仁
駆けてくるのが見えた





「どうしましたか!」


「来てくれ…銀時と、お登勢殿が深手を負って
すぐそこに倒れているんだ!!



待ってください!アナタの怪我も治療しなくては」


「私などよりも二人を先にしろ!
…さもなくばこの場で斬り捨ててくれる!!」






駆けつけた男の応急処置を手伝い


迅速に呼ばれた手配にて 二人は運ばれていく





手当てをされる最中、じっとその様子を
見守り続け…ぶり返す激痛に眼前が暗く染まる











第五訓 死は避け難し なれど人は
生きること生かすことを望む












「大丈夫ですか!?」





人の声が、音が徐々に遠のいていく







どうしてもっと早く気づかなかったんだ


あの時…無理を言ってでもお登勢殿へ
ついていれば、防げたかもしれないのに





二人とも 生きてくれ…!!







―――――――――――――――――――――







あの日…あの人から急な連絡を受けて
病院へと駆けつけた





『三人とも、墓場で発見された』







痛いくらいに鳴る心臓を押さえて駆けつければ

…待合のソファで知った顔を見つけた





「っ…新八君に、神楽ちゃん…それに
キャサリンさんと…たまさんも!」


さん!!」


「一体…一体、あの子達に、何があったの?」







話を聞けば、怪我を追う数時間前まで


彼らはお登勢さんやと行動を
共にしてたらしい





店に彼女を残して先に行っていた五人の前に


悪名高い黒駒 勝男が包帯姿で倒れて


それから間を置かずに一直線に駆けていく
銀さんを追ってあの子もどこかへと消え





あの人からの連絡によって…病院へ
運ばれたことを知ったのだ、と







「それで…三人の、容態は?





息を整えながら訪ねるけれど 四人は
一様に沈痛な面持ちを並べている





「銀時様と様のお二人は、幸いにも
怪我の治りが早いようですが…お登勢様は…







そこで僕は あの時感じた予感
現実になってしまったことを理解した





二人は…少なくともも、何か
嫌なものを感じ取っていたに違いない


だからあの子は迷う事無く 銀さんの後を追ったんだ





「私らはここにいるからピーマン兄貴は
早く妹の所へ行くアル」





神楽ちゃんの一言へ頷き返し、病室の
ベッドの側で様子を見守り続け…





「う…兄上?」


「よかった、目が覚めたんだね」





夜も遅くなった頃に、妹が意識を取り戻した





「銀時は…お登勢殿はどうされました?!


途端勢いよく起き上がるその身体を

どうにか抑えながら言葉をかける





「銀さんは隣のベッドにいるよ、怪我も
そんなにひどくないみたい」


「そうか…お登勢殿は?」


「……まだ、治療中みたい」





ベッドを降りようとするの肩を
再び精一杯の力で戻しながら言う





待って!新八君達が側についてるから
大丈夫だよ!!」


「しかし兄上っ」


「君だって怪我してるんだから
大人しくしてなさい…明日また来るから」









翌日、必要な物を揃えて病院へ行くと





……お前が、助けを呼んだんだろ」


「そうだ」


「…ありがとよ」


「……すまない





銀さんも意識を取り戻していた





けれど、入室して話しかけても


彼は二言三言生返事を返すばかりで
ただただ天井を見上げていた





気まずさの残る室内を後にして

先生から 退院はすぐだと聞いてから





お登勢さんのいる集中治療室へ立ち寄れば







―そこでは、会った時と変わらぬ様子の
四人がじっと待ち続けていた






「まさか四人とも…一晩中ここに?


「…言ったんですけど、みんなここから
離れられないみたいで」


「飲まず食わずでそこにいたって
仕方ないでしょう?一旦、出直した方が」


「知った口聞いてんじゃねーヨ、こんな状態で
のん気に留守番なんてしてられないアル」





不安そうにソファに腰掛ける子供二人も


べったりとガラスにへばりついたまま
こちらに見向きもしないキャサリンさんも


三人から距離をとった位置に憂い顔で
佇んでいるたまさんも





視線を…お登勢さんへと注いでいる





分かった…何か軽く食べられるものを
持ってくるから、待ってて」


「助かります さん」







外へと出て、休みを申請する為に
かまっ娘倶楽部へ電話をするけれども





「あれ…繋がらない…?」


携帯から聞こえるのは空しいコール音だけ





胸の内で沸いてくる不安を堪えながら


仕方なく、直接店へと赴く





―――――――――――――――――――――







兄上が持ってきてくださる差し入れを
口にしてはいたようだが


相変わらず四人は、お登勢殿の側を
片時も離れようとはしない





「怪我は…大丈夫なんですか?さん」


「…お主らこそ、ひどい顔をしている」


「お前に言われちゃおしまいヨ
ゆっくり傷治して来たらどうヨロシ」


いい、ここにいさせてくれ」


「…神楽ちゃんも 少し休んだら」


「他人ちでスヤスヤ眠れる程尻軽女じゃないネ」





一歩も動こうとしない全員へ…恐らく己自身へも
言い聞かせるように新八は言葉を続ける





「大丈夫だよ…きっと大丈夫

一旦家に帰って休んだ方がいい
みんなまで倒れたら…誰が一番悲しむか…」


「帰る家なんてもうありゃしないよ」







顔を上げれば、そこには花束を携えた





「アンタ達の居場所はもう
かぶき町(ここ)にはない」



「…西郷さん」





花を新八へと投げよこし 西郷殿は
真っ直ぐお登勢殿を見据えて呟く





「バカな奴だよ
あれほど逃げろっていったのに…」


「あの時の電話…もしかして…


「すまなかったなんていうつもりはないよ


私ゃ…何も出来なかった
それにこれからも…何もするつもりはない」





一時の間を置いて、西郷殿は重々しく告げる





「明後日 アンタらの店は私達
四天王勢力によって打ち壊される」








あまりの言葉に唖然とする私達を置き去りに


尚も淡々と…宣告は続く






「明後日だ それまでに荷物まとめて
この街から出ていきな」



「なんでそんな事っ…」


「きこえなかったかい もうこの街に
アンタらの居場所はないって」





不安が…現実になってしまった





「街中がアンタ達の敵なんだよ…

かぶき町(まち)そのものがアンタ達の敵なんだ


「西郷殿…どうして…」


「ガキでも人質にとられたか」


静かな言葉を投げかけたのは


…いつの間にか佇んでいた銀時





「お登勢一人で済む話だったんだが

連中 どうやら私を試すつもりらしい
…それともボロが出るのを待っているのか」





悲しげな目をして、西郷殿は
最後にこう付け加える





「パー子 コイツらの事 頼めるかい」


「…心配いらねェ もう店はたたむつもりだ
あとは、好きにやってくれ」





瞬間 叫び声を上げて猫耳年増殿が
銀時の胸倉へと掴みかかる





「オ登勢サンニコンナマネサレテ
ソノ上店マデ潰サレテ 尻尾マイテ
逃ゲルツモリカァァ!!」



「冗談よせよ 次郎長一人でも
このザマだってのに、その上もう一人化け物
相手取って何が出来るってんだ」





それでも怒号を納められない相手へ





「ババアが何で一人で次郎長の元へ
いったかわかるか」





壁に押し付けられたまま、この男は





「オレ達…護るためだよ」


突き放すように 抑揚無く言葉を並べる





「それでも死にてーんなら
勝手に残って勝手に死にな」





こちらを"赤の他人だ"と言い張る
その瞳には もはや虚無しか映っていない







「…キャサリン殿 もうこの男には
何を言っても無駄だ」





歯を食いしばり、それでも両手は
力なくあやつの襟から放されて





「待ってヨ銀ちゃん!!」


「銀さん!!」


追いすがる神楽と新八に
振り向きもせず、返事が返される





「すまねーな…オレぁ もう

何も…護れる気が……しねェ





いつも頼もしかった銀髪の大きな背が
ひどく弱々しく見えて



かける言葉を失った私達は、その場に
置き去りにされてしまった








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:こっからしばらくはシリアスターンに
なりそうです…僅かな隙を見つけてギャグを


新八:入れなくていいです、何ですか
その不必要な気配り


狐狗狸:マジメ面続けてたら息がつまるっしょ


神楽:てゆうか、今回はピーマン兄貴の語りが
やたら多かったアルな


キャサリン:ドーセ次ノ語リデ、アノ女男ヲ
行動サセル腹積モリデスヨ


狐狗狸:先バレしないでくださいませんか?


西郷:つーかパー子…誰が化け物だクラァ!!


銀時:ちょっオレ怪我人…ぎゃあぁぁぁ!!


狐狗狸&新八:西郷さん!
展開速すぎソレぇぇぇぇぇぇ!!





不穏なウワサが 街へと広まって


様 読んでいただきありがとうございました!