「何か お登勢さん…変じゃありませんでした」





ポツリと新八が呟いたのは、もうスグ店の前へ
差し掛かる頃合の事だった





「何か?」


「お主もそう感じたか」


「マアアノ人、オゴルッテ言ッタ時ハ
大体何カ裏ガアリマスカラネ」


「いや…そーいうんじゃなくてなんか…」





悩む新八の右肩に、何者かがぶつかる





「ぎゃああああ血だらけぇぇ!!」


この男…昨日のヤクザ?何故ここに…!





「オイ今走り去ってったポリバケツ!!」







すさまじい勢いで通りを駆け去る、バケツ姿の
見知った銀髪侍を目にし





いても立ってもいられず後を追う





さん!?」





声をかけられ、咄嗟に私は振り返り





「お主らはそこで待たれよ!」


それだけを言い捨てて再び走り出す











第四訓 幽霊は墓場でなくても大暴れ











―――――――――――――――――――――


正直、呼び出しを食らった時から
ある程度のきな臭さは感じていた





「しかし、まさか華陀と次郎長が組むとはな」


「そうね…私もまさか、あのババアと
アイツにあんな因縁があると思わなかったわ」





ため息混じりに呟く西郷へ、オレも深く頷く







『お初にお目見えします 次郎長が娘
泥水平子と申しやす』





アイツらが探していた娘が堂々と名乗り
現れた時点で、奴らの目的に気づいた


最初から協定を結んでおいて あらぬ罪を
銀時に擦りつけ…それにかこつけてお登勢を
亡き者にするつもりだった





止めようとした西郷へ平子と華陀は
息子のてる彦を人質に取る事で脅しにかかる





『…待ってもらおうか 不十分な証拠を元に
越権行為を続けるならオレ達が黙っちゃいない』





そう告げるが、あの女は眉一つ動かさない





『おや…あくまで中立だと申したのは
他でもない そちであろう』


『こうも言ったハズだぜ?争いに"仲裁"はすると』





立ち上がり先へ行こうとしたオレへ

刀をチラつかせながら 平子はこう言った


『そう言えば、アナタの軍隊のボスって
今 危険な兵器を処分しに江戸を出てるんですよね?』


『えっ…ちょっとどういうことよ!!





慌てるオカマ達に構わず、彼女は笑みを
崩さないままで言葉を続ける





『家に大事な彼女と子供を残すなんて
まるで誰かさんみたいですよねぇ〜』


一緒にするな、アイツはオレ達を信頼して
ここを出た…貴様らの好きにさせると思うか!』


『残念じゃが 既に女子供の身柄は押さえてある』





華陀があごをしゃくると、出てきた黒尽くめが
オレの足元に何かを放る





『こ…これは!!』


そこにあったのは女物のかんざし血塗れの無線

…どちらもよく見知ったシロモノだ





『そういうワケですから、下手に手を出したら
タダじゃすみませんから〜アナタも、あの二人も





にっこり微笑むと平子は最後 唇だけを動かし


それから寺を後にして去って行く







抗う手を封じられたまま、情けなくもオレ達は
引き下がることしか出来なかった





「所で…幸美が兵器をぶっ壊しに出てたなんて
初めて聞いたわよ 何で黙ってたの」


「そう簡単に軍の機密を一般人に明かせるか
…それにボスが秘密にしてくれと言ってたんだ」





クソっ…もっと早く疑うべきだった





恐らくあの任務は、奴らがアイツを江戸から
引き離すことを目的に仕組んだ可能性が高い


秘匿されているハズの情報を知っていたこと

タイミングのよさ…何よりも別れ際の無言の一言





『あの英雄さんも』


あの娘は ハッキリとそう口にしていた





「…何のための中立だ、チクショウ!


「憤るのも無理は無いわ でもね」


「副司令!大変です!!」





暗雲が立ち込めだす道に佇むオレ達の下へ
隊員の一人が、血相を変えて走り寄る





―――――――――――――――――――――







やはり…あの電話は偽りだったのか


お登勢殿は何かを隠していた





胸に宿る不安が濃さを増し、一刻も早く
店に戻らんと細い路地を抜け





刹那 眼前に白刃が閃く





寸前で取り出した槍の柄で受け弾き
勢いに任せ距離を取れば


人一人無かった通りに、佇む女が一人





「どこへいくんですか〜さん」


「急がねばならぬのだが…何の真似だ?」





向けた切っ先も言葉も意を解さず


平子殿は刀を抜き放ったまま、笑んで答える





「言ったでしょ〜次郎長にキレイなお花を飾るって
…誰にも邪魔はさせませんよぉ?」







佇むその姿から感じ取れるは 敵意と
決して先を通さぬ固き意思





昨日、垣間見た"決意"と同じモノを目の当たりにし


直感ながらも…ようやく理解する





「どうやら…始めからお主は次郎長の味方か」


「わかっちゃいましたぁ?」


「ついでにもう一つ、次郎長の縁者でもあろう
恐らくは…娘か?」





ようやく、平子殿の表情が変わった





バカだと思ってましたけど〜意外に鋭くて
ビックリですぅ〜スゴイですねさん」


踏み出された一歩を牽制し、私もまた距離を詰める





「それとも、"亡霊葬者"さんって
言った方がいいんですかねぇ〜?」





振り出した雨粒が…頬を伝って落ちる





「悪いが小競り合う暇はない…加減は出来ぬ故」


「気にしないでください〜こっちこそ
もしかしたら殺しちゃうかもしれませんか…ら!





最後の言葉と同時に踏み込んで、鋭い一突きが
真っ直ぐにこちらへと向かい来る


即座に両腕で回転させた柄の部分で
弾きながら横手を擦り抜けようと動き





背後からの風の唸りを感じて


石突きを地面へ叩きつけ、飛び上がりながら
宙へ背を返し横薙ぎの切り払いをかわす





すごいすごーい!まるで曲芸みたいですぅ」


「お主も…手練と称されるだけはある」


「ほめてもここは通せないんで
大人しくここで斬られちゃってくださーい!」


大上段に振り上げた一撃を柄で受け弾く





が、跳ね上がったのは片腕に握られた鞘


「残念でしたぁ」





間を置かず左から胴を狙って刀が唸る


その一撃は、命を奪うに十分





「お主がな」





屈むように一歩懐へと入り 柄を握る手へ
捻り上げるようにして槍底を叩きつける





ぐっ!」


痛みに迫り来る刀の切っ先が鈍った一瞬


すかさず空いた胴元へと突きを
いくつかお見舞いする





衝撃に耐え切れず、平子殿は少し先の
地面へと吹き飛ばされよろめくも


こちらを睨みつけながら 今のやり取りで
足元に転がった愛刀へと手を伸ばす





再び斬り合いとなる前に意識を飛ばさんと


私は地を蹴って再び懐に飛び込み





「っぐ…!」





肩から胸にかけて焼けるような痛みが奔る





また騙されるなんて、やっぱり
バカなんですね〜さんって〜」





右手に握られた短刀による、心臓狙い
二撃目を柄で流しながら距離を取る







懐に獲物がまだあったとは…流石に
迂闊に踏み入りすぎたか





「やっぱり亡霊って呼ばれるだけあって
赤い花がよく似合いますねぇ〜うふふ〜」





嬉しげに笑いながら、平子殿は赤く塗れた
短刀を構えて息もつかせず次の手を繰り出す


「もっとお花を咲かせてあげますねぇ!」





存外深い傷にも血にも 迫る凶刃にも構わず





「なれば、お返しに白き花…受け取り候へ!





歯を食いしばり…私は相手の眼前へ刃を突きつけ

幾重もの槍閃を閃かせる





「なっ…何これ…っ!?


思わず立ち止まり、短刀を盾とする平子殿へ

更に詰め寄り狙いを顔と短刀へ絞る





素早く攻撃を捌くものの


刀身へ徐々にヒビが入り、短刀は微塵に散る





「くっ!」





とっさに手を離し、腕で身を庇い
破片を避けるその一瞬の隙を突き


槍を使い宙を越え 平子殿を通り越して行く





「行かせない…待て…!





追う声に…しかし気配は数歩ずつ遅れ


私は振り払うようにして先を駆ける









あの者はここを通さぬよう立ちはだかっていた


なれば…お登勢殿がこの先にいる可能性は高い







当てもなく駆ける耳に、届いたのは
何かの砕けるような音





導かれるように足を運べば


墓場から騒音と血の匂いが漂ってくる


あたかも物の怪がそこで暴れているかのように







「…何だ、これは…!」





いまだ遠い雨景色に浮かび上がるのは、血を流し

墓に寄りかかるように眠るお登勢殿


そして未だ争い続ける次郎長と銀時



いや…あれは、あの気配は…





白夜叉…?」





微かに居合いの太刀を見せ 次郎長が
襲い来る侍の獲物を斬り砕く


けれども夜叉は宙へ吹き飛ぶ木刀の切っ先を
掴むと迷わず相手の右肩へと刺す





そのまま振りかぶる木刀が届く前に


次郎長の刀が、侍の右腕を貫き
押し出す形で背後の墓石へと縫い付ける





破壊音と距離と雨音が言葉を遮っていたが





「消えな番犬(わんころ) もうここには
てめーの護るべき主人(モン)は何もねェよ」



墓石ごと夜叉を拳で殴り飛ばした
次郎長の言葉だけはしっかりと耳に届いた







全ては…本当に一瞬の出来事だった





私などが割って入る隙間など一部も無い
力と力による殺し合いが終わった







「…おやぁ?誰だい、お嬢ちゃん」





去ろうとする次郎長へ、槍頭を突きつける





勝てる見込みは露ほども無いだろう


それでも 黙って帰せるほど腑抜けてはいない





「私の仲間に…何をした…!」


「そういや"亡霊"だかだかっつー
若いのが有守流使いだって話を聞いたな」


悠々と語る合間に渾身の突きを繰り出し





殺気に気づき、ひるがえした身体に

浅からぬ一太刀が刻まれ…ひざを突く





「悪いがお前ぇさんじゃ俺(オイラ)にゃ
掠り傷が精々だ…死にたくなきゃ手ぇだすな





腕から一筋の血を滴らせた次郎長が
笑みを深くしてその場を去る








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:書いてから、もう少しスマートに原作と
折り合いつけたいとかバトル描写力入れとけばとか
色々考えたりする私であります


銀時:じゃー書くな!てゆかコレ、オレの出番
後々ちゃんとあるのかよ!?


新八:あるでしょ銀さんは むしろ僕らのが
心配しなきゃいけない立場だと思うんですけど!


神楽:アイツんとこが今回もでしゃばって
ページ圧迫してるアルからな


狐狗狸:そーなんですよ…今度から原作沿いの
長編は"既読推奨"って書いとこかな?


平子:てゆうか勝手にわしのドス壊してくれて
どう落とし前つけてくれるんじゃコラァ〜


狐狗狸:壊したのは展開上仕方なくで
そもそも私じゃ…ぎにゃー!(斬)




雨降る墓場での争いが終わって…


様 読んでいただきありがとうございました!