戦争が終わり、華陀の失脚と次郎長の隠居により
微妙な力関係で保たれていたバランスは崩れ始め
例年にない緊張状態だ…とあちこちで聞くが
そんな話はどこ吹く風といったように
街は相変わらずの騒がしさを見せていた
「それにしても水臭いじゃないの幸美ぃ〜」
ボスと、あの男とも一緒に店まで様子を見に行けば
西郷はすっかり完治し 他のオカマ連中共々
元気に営業している様子だった
「何にも言わずに危険な場所へ行くなんて
命知らずにも程があるわよアンタ」
「俺も住人として、この街を護りたかったんだよ」
生真面目なセリフに 相手の顔も笑みに緩む
「分かってるわよ…そういう性格だものね」
「でもアンタらとちゃんのおかげで
狂死郎様との縁も深まったワケだし感謝してるわ」
ハートマークを浮かべるヒゲ面横目に、戦友へ問う
「…って誰だ?」
「ああ、さんの偽名だよ」
アイツここでも働いてんのかよ…物好きな
…と 向けられた視線に不穏なものが
混じりだしていることに気がついた
第十四訓 生まれも育ちも江戸はかぶき町
「狂死郎様やホストの子も素敵だけど…
銃使いのアンタも中々イイじゃな〜い?」
「なっ、お、オレか!?」
「幸美も、せっかく帰ってきたんだから
たっぷり楽しんでいきなさいよぉ〜」
ニヤニヤ笑いながらオカマどもがオレ達を取り囲む
奴ら二人は既に腕を掴まれているが
幸い こちらにはまだ魔手が伸びていない…!
そうと決まれば行動は早かった
「あ、オレはまだ軍の調整とか仕事残ってるから
悪いけどお前達だけで楽しんでくれ」
「貴様ぁぁ!一人だけ逃げる気か!!」
「おいコラ待てそこのグラサンんんん!」
道連れを作ろうとする二人の手も、店へ
引き込もうとするオカマの手もどうにか擦り抜け
オレは足早にその場から離脱する
「裏切り者ぉぉぉぉぉ…!」
スマン!お前達の死は無駄にしないからな!!
「あらぁ〜ん残念、また来てねぇんv」
絶対イヤだ!口には出さんし出せんけど!!
―――――――――――――――――――――
あの人が戻り、ようやく近辺が落ち着いて
仕事へ行く所だったそうなのでついでに付き添い
「お妙さん、ご心配かけてゴメンなさい」
彼女はスナックの前で会ったお妙さんへ
申し訳なさげに 深々と頭を下げた
「いいのよ…手当ての時にあの人が
アナタの無事を伝えてくれていたし」
「それに、のっぴきならない事情も
おありでしたから仕方ありませんよね」
まさか別々に人質を取られていたなんて
あの時には知る由も無かった
…本当、には感謝しなきゃ
「そこは同意見だけど…ところで決着つける
って話、アレどうなったのかしらぁ?」
「あら〜せっかく街の皆さんが仲直りと
相成ったのに無粋じゃありませんこと?」
互いに笑顔のまま火花を散らすと
あの人がうろたえた様子で仲裁に入る
「まぁまぁ抑えてお妙さん…てゆうか
さんも余計にあおらないでください」
「あら、これが私達の日常じゃありませんか
そうでしょうお妙さん?」
そう返せば呆れたようなため息が一つ
「ったく本当…食えないピーマン男だこと」
その呼び方は止めて欲しいなぁ、なんて
思いながら僕も小さく笑みを零して
…ふと空を仰いで 病院でのやり取りを
思い出しながら改めて願う
場所を記したメモと 同じものを銀さんが
平子さんへと渡していることを告げて
『兄ちゃんよぉ…オレぁ、どういう面して
娘に会えばいいんだと思うよ?』
戸惑ったように問う 不器用なあの人へ
『月並みでも、不器用でもいいから
ありのまま思ったことを仰ればいいんです』
僕は心からの言葉を伝えて後押しする
『帰って来てくれる親(ひと)が…
相手がいてくれればそれだけで、待ってた方は
報われるんですよ?親分さん』
今度こそ、"お父さん"が子供の元へ戻れるように
―――――――――――――――――――――
あの戦いを経て…普段の様相に戻った街も
やはり少しばかり変化があった
たまさか鉄子殿の顔を見に 鍛冶場へ足を運べば
「よぉ!しばらくぶりだなネェちゃん」
「こんにちは辰巳殿、ここで会うとは奇遇だな」
「あれ以来仲良くなって 時々顔見せに
来てくれるんだ…お茶でも入れようか?」
「お構いすんなって、なぁネェちゃん!」
「そうとも お主らの様子が見れて何より」
それぞれ職や、己や、万事屋との出会いを
話し合い…楽しく過ごす事が出来た
「私も一緒にガールズトークしたかったネ
なんで呼ばなかったアルの薄情モン!」
「む…すまぬ、立ち寄ったのも気まぐれゆえ」
話を聞き、不満げに酢昆布食む神楽と私の目の前を
「アニキぃ〜!そっち行ったっす!!」
「えぇい逃がすかぁ!ここが年貢の納め時だ
大人しくお縄に…あ、待てコラカミュぅぅぅ!!」
泥棒らしき人間を追った妙な同心と与力の二人組が
全力疾走していった
「小銭形殿…だったか?熱心なモノだな」
「あんなダメおやじでも同心ってんだから
この街も大概懐が広いアル」
同意して頷いた直後、店先へ新八が姿を現す
「やっとお使いから戻ったアルか新八」
「たま殿はまだ源外殿の所か?」
「いや、もう調整も済んだみたいで先に店に
戻ったみたいですけど…」
そこまで告げて 途端に言葉が行き詰まる
「どうしたネ?なんか歯にスルメイカが
挟まったツラしてるアル」
「よもや源外殿の様子に何か?」
「いやあの…源外さんは元気だったんだけどね…
工房でそのー…長谷川さんっぽい人が
魔改造をされていたようないなかったような」
「マダオはソレぐらいでちょうどいいネ」
「いやよくないでしょ!?」
よく分からなんだので、会計を済ませた
銀時へと訊ねてみる
「魔改造とは何だろうか?」
「まー切ったり取ったりくっつけたりだな
ついでにもくっつけてもらえば?胸とか」
「…取り外せるとは知らなんだ」
思わず胸に両手を当てると、更にこの男は言う
「オレとしちゃー人工的にデカくするよりかは
自然にサイズアップした天然モノが好みだけど」
「「オメーの嗜好は聞いちゃいねーよ!」」
二人揃っての足蹴に一糸の乱れも無いとは…
成長しているな、お主ら
ちょうど道の真ん中で踏みつけられていたので
「やかましいわ!…なんじゃお前らかぃ」
「そないなトコで暴れると邪魔じゃけぇ
ちょっと脇によけてんか」
しばし柄の悪い二人が、三人が避けるまで
その場で立ち往生をしていた
次郎長一家の者達の後ろ姿を軽く睨んで
「相変わらず態度デカいアルなーヤクザは」
「ちょっと、聞こえるから言わないで神楽ちゃん
戦争終わったとはいえ立場的にアレだし」
放った神楽の言葉に触発されてか、銀時も
意地悪げに笑いながら口を開く
「そういやよぉ、こないだ道のど真ん中で
ダサガリジョーが徒党組んで歩いてたの見たぜー」
肩とかこーんなエラッそーに怒らせてよぉ、と
七三殿の真似をするその顔はどこかおかしくて
「お、がニヤつくなんて珍しいアルな」
「こうして街中で仲間と笑い合えるのは
つくづく幸せだ、そう想ったのでな」
「…そうですね」
互いに笑んで ふいと顔を上げれば
空は青く晴れ渡っていて
―街を発った"あの父子"の姿が思い起こされた
「平子殿と次郎長殿は…もう、会えたかな」
口にした次の瞬間、頭に慣れ親しんだ
力強い重みと温もりが乗っかった
「会えただろ?…約束してたからな」
無骨で温かな言葉は 撫でる手の平と同じで
「そうですよさん、心配しなくても
きっと二人とも…花畑で会いますよ」
「ああ、そうだな」
仲間の微笑みに安堵しながら私は
再会した二人の絆がもう二度と
途切れる事の無いようにと 密かに願う
他愛の無い雑談を交わして、店へと戻り
「オ前ラドコホッツキ歩イテタンデースカ」
「お登勢様が既に中でお待ちしておりますよ」
「さ、行きましょう皆さん」
兄上達と共にお登勢殿の待つ仏間へと揃い
「遅かったじゃないか」
「悪ぃなバーさん、待たせちまってよ
選りすぐりのまんじゅう買って来たぜ」
辰五郎殿の仏壇へ供え物を済ませ、それぞれが
用意した花を水差しへと手向け
定春共々並んだ一同の先頭に座るお登勢殿が
静かに笑って 言葉を放つ
「ただいま」
――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:イレギュラーや変則で一時は不安を
抱えましたが、無事に収束いたしました
全員:ありがとうございました〜!!
銀時:毎度アレだけどよ、オレの頭
撫ですぎじゃね?いつかハゲたらどーすんの
神楽:パピーみたいなみっともない姿
さらさない内に全剃りをオススメするネ!
新八:誰向けスキンヘッドの夢主って!?
つーか作中の内容は完全スルーかお前ら!!
妙:諦めなさい新ちゃん、これがかぶき町の
スタンダードってヤツよ
西郷:それにしても街の功労者だってのに
あの金髪グラサンももったいないコトするわね
たま:あの方の生体反応から察するに恐怖
狐狗狸:はーい余計な事は言わない!
お登勢:ったくガヤガヤ騒ぎやがって…
シメるならビシっとシメな!
キャサリン:全クデスヨネオ登勢サン
最後の台詞、原作では次郎長親分が言ってましたけど
きっとこっちでもお登勢さんは言っていたと思います
オリキャラ視点からの進行となりました
長編にお付き合い頂き、誠に感謝の極み
次回は…早くて夏の終わりから秋口
遅いと秋口から冬辺りに始動予定
様 読んでいただきありがとうございました!