画策した華陀が雲隠れし、四天王三人が
重傷を負って入院することになり


街で引き起こされた紛争は終わりを告げた





『街の復興とボスへの支援で人手不足でな
助力してもらえるとありがたいんだが…』


特に仕事も無く気分もよかったので

交代での院内の警備を引き受けることにして







…それからこの数日間ひっきりなしに

様々な見舞い客の顔を見かけるようになったが





「お主も忙しいことだ」





この無表情娘はその中で常連に位置している





「大活躍だったそうだな、お嬢さん」


でいいと言うに…何、がんばったのは
街の者達だろう?お主も含めてな」





つい最近まで入院し、そこそこ深手を
負っているにも関わらず…タフなものだ





「所であれから連絡がつかぬままであったが
…あの者は大丈夫なのか?」


「フン、どうやらお節介な仲間と侍とのお陰で
近々江戸に戻れるとのことだ」





息をついてから 再び声のトーンが落ちる





「平子殿は…相変わらずか?」


「ああ、あの娘の根気は表彰モノだな」











第十三訓 騒がしさは傷にも心にも響く











…次郎長が入院されてから、平子はずっと
片時も離れずに看病を続けている





お嬢、少しは眠られた方が』


『うるさいですよぅ』





それだけでなく 隣に眠るお登勢にも
逃げ出さないよう常時目を配っている





『…あんま根詰めすぎるとよくないアルよ』


『差し入れ、ここに置いときますね』


度々かけられる常連の見舞い客の声も

全く耳に入っていないような素振りだが







「敵対していたにも関わらず、それほど
あの娘が気になるのか」


「…父に会いたい想いは 分かるつもりだ」


「フ…なるほど貴様らしい返事だ」





と廊下の向こうでヘラヘラと笑う銀髪の侍が
職員へ声をかけているのが見えた





「すんまっせーん、ちょっと一人で風呂入んの
しんどいんで手伝ってもらえますかぁ?
なるべく美人の若いナースさん希望で」


「調子のんなよクソ天パぁぁぁ!!」





やれやれ…何一つ学ばんなあの男は





「…あのしぶとさもある意味表彰モノだか」


「それが銀時だ、とはいえ少しばかり
師長殿を仲裁しに行った方がよさそうだな」





片手を挙げ 踵を返し娘は眉一つ動かさぬまま
すさまじい乱闘の只中へ進んでゆく…







『お嬢 少々お耳を…』


そう言って次郎長一家の手のものが耳打ちし

表情を変えていたのがつい先程





生憎と詳しい内容までは聞き取れなかったが


こちらとて、警備だけをこなしていたワケではない







「小むす…





駆け行こうとする黒衣の背中を呼び止める





「貴様に一つ情報を教えておいてやる
これをどう活用するか、見せてみろ







…夕闇が降り 面会時間も終わったにも関わらず





「あのー…そのカメラなんですか?」





三人の四天王の病室の前には、奴らと縁のある
見舞い客が全員群れをなして揃っていた





「せっかくオジキが昔の情婦(イロ)と
同室じゃからな 滅多に見れへんシーンが
メモリアル出来るチャンスやろネェ…兄ちゃん」


「人の恋路に首突っ込もうなんて下世話ねぇ」


「ソウ言イナガラシッカリベストポジション
移動シテンジャネーヨソコノキャバ嬢」





確認できるだけでも数名が携帯や記録媒体を
手にしているのが見て取れる


しかもこぞって室内の会話を聞き取ろう

扉の前へと詰め寄ってさえいる始末





「オイオイ、何だってコソコソ聞き耳なんか
立てなきゃいけねぇんだよ?」


「まーいいじゃないの〜お嬢ちゃん
ママだって気になってるみたいだしさぁ?」


二人っきりの空気に水差すのも何だろ
ここは少し様子見とこうぜ、なっ君?」


「ノーコメントですわ」


「あ、あの…私は、銀さんの見舞いに
来ただけだったんだけど…」





文句や非難を口に出しはしても、結局は
全員が固まって二人の会話を聞いている


本当に…江戸の連中というのは騒がしいものだ





―――――――――――――――――――――







西郷さんのお見舞いを兼ねて店の皆さんとで
顔見せに病院へと訊ねたら


お妙さんや長谷川さんなど顔馴染みの方々や

次郎長一家の人々とも病室の前で鉢合わせし





「ああ…久しぶりに喧嘩って奴をした
侠と侠の喧嘩って奴を





…成り行きで室内の会話を聞く羽目になった





「結局オレぁ周り不幸にするだけ不幸にして
たった一つの約束すら護れなかった」





押すな押すな、と小声で言い合う熱気の中


相反するように淡々と次郎長さんは言葉を紡ぎ





「すまなかったな 幸せにしてやれなくて…」


「……次郎長」





ようやく、お登勢さんが返事を返す―寸前で







全員分の重みに耐え切れず病室のドアが倒れて
僕達は室内へ雪崩れ込む






「何やってんのよアンタらァァ!!
せっかく面白くなりそうな所だったのに!!」



「せやから押すないうたやろが!!」





そのままあれよあれよと室内は大騒ぎになり





「あんたらこんな時間に何やってんの!!」


聞きつけたナース長も、酒瓶片手の源外さんを
筆頭とした人々に丸め込まれて


半ば乱闘にも似た騒ぎが始まった





おう!飲んでるかいベッピンさん!」


「いや、飲んだらマズいんじゃ…病室だし」


「固いこと言いっこナシやで〜のまにゃ
そんじゃ楽しんだれぶべら!


「あらぁゴメンなさーい、ちょっとばかし
オカマに集中しすぎたその顔がムカついて〜」


既に出来上がってるお妙さんの酒瓶攻撃
必死で避けながら隅へ避難すれば







「…あんたにゃ果たさなきゃならない約束が
まだたくさん残ってるじゃないかい」





暴れ回る見舞い客から目を離さないまま


お登勢さんが、次郎長さんへと語りかけている
言葉が一字一句逃さず聞こえてきた





「私ゃねェ次郎長 今とっても幸せだよ」





このかぶき町で辰五郎さんと、万事屋さんも
僕らも含めた全員と…


"二人"の好きだった次郎長さんにまた出会えた






「今迄ありがとうよ 次郎長」







優しくそう締めくくると…彼は、うつむいて


「いけねーや いよいよ目ェも悪くなったらしい」





目頭を押さえて 弱々しくこう呟いた





「小便のキレが悪くなったと思ったら……上もだ







…男の人のこうした状況には、下手に立ち入らず
放っておくのがいいって知っているけれど


多分 今を逃したらコレを伝えるチャンスが無い





銀さん達に頼まれた手前もあるし…何より

僕自身もやっぱり見過ごせなかったから







「本当やんちゃにも程がある方々ですよねぇ
…そこが江戸の魅力なんでしょうけど」





軽口混じりに二人の側へ寄りつつ

お登勢さんへ話しかける


少し驚いたような顔の後…呆れたような
笑みがこちらへと寄越される





「その割には出刃亀乱痴気騒ぎ
止める気は無いんだねぇ(アンタ)」


「そりゃあ言って止まる方々じゃ
ありませんでしょうから、アナタと同じで」


「…お前さん……その髪に目の色」


「ああ、初めまして 兄のと申します
が重ね重ねお世話になりました」





頭を下げて 僕は次郎長さんへ用件を切り出す





「本日は万事屋一家に頼まれ…こちらを
お届けにあがりましたの」



「こいつぁ…?」





―――――――――――――――――――――







国は違えど密偵だけあってか、あの男が
得ていた情報は正確だった





病院へ…残る尖兵を引き連れて華陀が
四天王の暗殺へと乗り込んでいた








だが、屋上へいち早く駆けつけた平子殿が


先陣を切って斬りかかってゆく





「ぬかせ小娘ェェェ!!一番の邪魔者は
貴様だというのがまだわからんかァ!!」



「わかってますよう、邪魔者は消えます…
ただし 邪魔者を道連れに


言葉の合間に、襲い来る辰羅を切り捨てる中

人垣で視界が遮られた一瞬を縫って





「消えるのは貴様だけじゃぁっ!!」


華陀が斜に構えた刃つきの扇子を手に迫り





―割り込んで横合いから 一撃の下に砕く





「弁えろ、女狐


「なっ…邪魔するな亡霊めが!!





こちらへ視線を向けて懐へ腕が伸ばされ―







銀時の十手が後頭部へと直撃して
そのまま床へと倒れこむ





「ア…アニキ!!


「落とし前なんてつけさせませんよ」


「敵と相討ちなんかでお前の罪が消えると
思ったら大間違いじゃビッチがぁぁぁ!!」






続く新八と神楽が一撃にて辰羅達をしとめ





「一人で死出の旅とはいかぬよ?平子殿」


「だ…そうだ さてどーするピラ子ちゃんよ」





兵隊全てが沈黙した中、問う銀時へ







「私の役目は終わりましたァ あとは
煮るなり焼くなりなんなりと〜」


平子殿は観念したように刀を捨てて言う





「結局 私にはオヤジを護れなかった
オヤジを救ったのはアニキです







目の前の男と、街の者達の強さとを並べ





"会いたかった 待ち続けていた父が
帰ってきた"
と笑うそのまなじりには


…涙がハッキリと浮かんでいた





「アニキ 万事屋一家の皆さんにさん

謝るなんておこがましくてできないけれど
これだけは言わせてください」



涙声のまま土下座をして、平子殿は続ける





「最後に親父に会わせてくれて
ありがとうございました」






弱々しく続く感謝の言葉に、私達はただ
黙ったまま耳を傾けて…







「どうぞ落とし前を…」





言い終えたと同時に 銀時が歩き出し





平子殿の前に、紙を落として行く





「泣いてる女シバく程ドSじゃねーんだ
もう疲れたしな そこに書いた場所で待ってろ


傷がいえたらきっちり落とし前つけにいく
それまでに泣きやんどけよ」







背中越しに語りかける男と共に屋上を後にし







私は…ため息混じりに物申した





「…全く、襲撃があると知っておきながら
厠で遅れるとは何事だ」


「ナース長の一撃で三途ツアー行ってた
ちゃんに言われたくありません〜」


「銀ちゃんもどっちもどっちネ」





軽口を叩くその横で、戻ってきたあの者と
新八が言葉を交わしている





一応 少数に別れてた辰羅は全員抑えたぞ
出来れば華陀も早めに確保したいんだが…」


「気持ちは分かりますけど、もう少しだけ
待ってあげてください」





あちらもこちらも街の者達の声で
溢れる病院は…騒がしくも心地がよかった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:この辺書き出しててジワジワと涙腺が
緩んで手ぇ止まりました…ヤベ、年だ


銀時:あのガングロジジイじゃあるまいし
しっかりしろってのバ管理人


神楽:お前もな、どんだけキレの悪いションベンで
人も閲覧者も待たすアルか


新八:裏事情はどーでもいいから…にしても
見舞い客の皆さんと姉上何やってんですか


妙:あら?さんやパチスロ男達の出刃亀を
諌めてたわよ私(片手にケータイ)


狐狗狸:説得力n…いえ、戯言ですスイマセン


華陀:わしの兵を削るとは…あの亡霊娘を
甘く見ておったわ…ぐぅぅぅ


狐狗狸:軍の人ぉぉぉ!女狐脱走してまーす!!




かぶき町と、遠い旅の空の下で


様 読んでいただきありがとうございました!