あらかたを片付け終え、皆と兄上の無事を
願いつ城を抜け出さんとして


遠くから響き渡る足音に気付く





「…あれは」


窓から見えたのは…お登勢殿を先頭に
こちらへと近づく、街の者達だった





どうやらあの者達の援軍も間に合ったようだ







ホッと胸を撫で下ろした直後


市中から城へと引き返す一人の兵を見かけ





反射でその姿を追い、頂上の部屋へ辿りつけば







「…この借り 必ずや春雨が返す」





捨て台詞を放ち、先程逃げ込んだ兵らしき者の
死骸を通り越し去っていく華陀の姿が


血塗れの襖の奥へと消えていった





「ま…」


「待ちやが…」





追い縋ろうとして…足をかけて

銀時と次郎長が同時にその場へ倒れこむ











第十二訓 決意の象徴











辺りの惨状は別れる以前よりもひどく


血の海に沈む辰羅の兵達は身動き一つせず
死屍累々と横たわっている





「若い衆が情けねェ話じゃねーか
オレが若い頃はもっと…」


「年寄りは思い出補正が激しくていけねェ」





か細く言葉を紡ぎながら、よろよろと
身を起こす二人へ近寄り呟く





「ヒドイ有様で無理をするな、お主ら」


「…オメーが言うな 血みどろ娘」


「半分は返り血だ」


「ふぅん…曲りなりに""の二つ名で
通るだきゃあるってワケか」





そこで次郎長の目が、銀時の懐にある
十手へと向けられた





「そいつは…辰五郎(ヤロー)の十手か
どうしてお前さんがそいつを…」


「……勝手に…約束して
勝手にかっぱらって来ただけさ」





掲げられた十手を一瞥して笑い


手にしていた煙管を咥えて…相手は返す


「オレもだ」







煙と共に…静かに吐き出されるのは


街を護る辰五郎殿に対する尊敬と罪悪


そうして、人を捨ててでも街を護る

一人の男の決意だった






「はいつくばっても この街で生き抜いて
護らなきゃいけねェモンがある

…たとえ この街に嫌われようと」


「……てめェ やっぱりバーさん
殺るつもりなかったな」





一拍の間を置いて続いた言葉は、半ば
銀時の言葉を認めている響きがあった





「人が何かする度横からギャーギャーと
小言はもう うんざりでな」





目の前の侍を透かしたその背後に





「邪魔なんだよ 辰五郎」


街に愛された男を見て、相手は立ち上がり言う





「白黒ハッキリつけようじゃねーか」







睨み合う両者の言葉を 様子を黙して見守る





「オレとてめーら…どちらがこのキセルと十手
番人の証を持つにふさわしいか」


「番人なんざ興味はねーよ ただもう二度と
約束を違うつもりはねェ…アンタも そうだろう」





己が志を…魂を懸けた果し合いには


何人たりとも手出しならぬが武人の掟








槍を納め、邪魔にならぬよう部屋の端へと移動すれば


目だけを動かし…次郎長殿は言う


「もしコイツが死んでも恨むなよ?嬢ちゃん」


「…合意が上の決闘に、他者が挟む口無し」





二人の口元が 僅かに緩んで笑みをもらす





「大したタマだ オレんトコの
若い衆に欲しいぐれぇだ」


「やめとけよ、そいつテメーよりバカだぞ」


「違ぇねぇ」





再び両者が向き合って、場の空気が
沈黙と緊張に満たされる





そうして…手の中の煙管と十手が


空中へ放り出されて 円を描く







「「俺は俺の約束のために生きる だから
お前はお前の約束のために」」






互いの腰にかけた刀へと手が携えられ





「「死んでゆけ」」





銀時と次郎長殿は同時に放って―床を蹴る







激しい足音と共に他の者を引きつれ





「おやじィィィィィィ」


駆けつけた平子殿の一声とほぼ同時に


すれ違い様に二人の刀が交差して







……痛いほどの沈黙が辺りを支配し





刀を振りぬいた状態で固まっていた二人の
すぐ側の畳に、乾いた音が鳴る





真ん中で斬られた煙管がそこに転がり


手元へと落ちる十手を手に取り、銀時は
ようやく言葉を放った





「砕けたのはてめーの約束だ
オレの勝ちだな」






刹那の間を置き 佇んでいた次郎長殿の
携えていた刀がその場で砕け散る





「てめェ…何故…斬らなかった」


「……言ったろ オレぁもう二度と
約束は違わねェ」





十手を懐へ、刀を鞘へと納めて





「禁煙しろ クソジジイ」


振り向かぬまま銀時が言葉を続けて





…次の瞬間、互いにその場へ崩れ落ちる





「…銀時っ!」





思わず身を寄せれば荒く息をつきながらも

しっかりと、こちらへ視線と笑みが返された





「悪ぃ…ちっと疲れたんで寝るわ」


「……三途へ行っても川は渡らず帰られよ」


「縁起でもねぇよ…バカた…れ…」





小突こうとした手は、届かずに力尽きる







ふと次郎長殿へ目をやれば そちらには
平子殿が飛びついて必死に呼びかけていた





「親父…!」





―――――――――――――――――――――







お登勢達は華陀の城へと乗り込もうとしていたが


中に兵が残っていると厄介なので、城の外で
治療ついでに待機してもらい


オレと残る大半の兵とで内部へ潜入すれば





「遅かったアルな、獲物は私達
かぶきキャッツが手に入れたアルよ!」


くそっ!またしてもやられ…いやいや
何だよお前らその格好は!?


「ノリツッコミ?いやまぁこれには理由が…」





程なく人質を救出した新八達と合流した





「助けに来てくれるって分かってたけど…
三人が来た時、ちょっと怖かった」


「まー仕方ないよな 特にキャサリン


「ケンカ売ッテンノカコノエログラサン軍人」


メンチ切られても、怪しさ満点のその姿
ツッコまれても仕方ないんじゃないかと





「街の方は大丈夫でしたか?」


「ああ、怪我人はいるが全員ピンピンしてる」


「母ちゃ…父ちゃんも?


もちろんだ ここはオレ達に任せて
お前達は下に戻って顔を見せて来い」







二人ほどを付き添わせて奴らと別れて進むが


予想に反して城内には所々で辰羅の兵が
転がっているだけだった





大半は刃による傷や腕や足などの損壊も目立つ





の仕業に違いない、と思いながらも
最上階へと辿りつけば







比較にならないぐらいの凄まじい有様に

度肝を抜かれて 少しの間立ち尽くす





「これは…まさか、そこの二人が…?


「どうやらそのようだ」





これだけの傭兵部族をたった二人で殲滅とは

…侍というのはつくづく恐ろしいモンだ





感心しつつも側の少女へ続けて訊ねる


「ところで、華陀はどうした?」


「…すまぬ 逃げられた」





無表情ながらも済まなさそうに垂れた頭へ


苦笑して、手を乗せオレは言う





「気にするな、はよくやってくれた」


「…ありがとう 約束を護ってくれて」





…やっぱり女の子には笑顔が似合うな





「なぁ、落ち着いたらこの礼がしたいから
今度一緒に食事「って何ナンパしてるネェェ!





突き刺さる声に振り返れば、普段着の神楽と
新八がジト目でこちらを睨んでいた





うぉっ!お前ら下降りたんじゃ」


「僕らそんなに怪我してないし、子供二人と
キャサリンさんを任せて手伝いに来たんです」


「なのにお前までロリコン発揮アルか
エセ銀ちゃんだけあって不潔よ、離れるね





真に受けてか部下達の視線が妙に冷たい


しかも、コイツまで言葉通り距離を取る始末





「いやいやいや!断じて違うから!
これはついつい口が滑ったって言うか!!」



「「認めてんじゃねぇかぁぁぁ!!」」


グハッ!こいつらガキのクセに
いい蹴り持ってやがる…!







…余計な一幕があったものの


無言のまま付き添う平子共々、重症の
次郎長と銀時を城から連れ出して


応急処置をすませた西郷もお登勢と一緒に
病院へと搬送の手配を済ませると





オレ達は息のある辰羅達の確保と同時に


負傷した街の連中の本格的な手当てに奔走する





もちろん、状況を説明し協力できそうな
街の面々にも手を貸してもらっている









と…手当てを受けるへ、勝男が歩み寄る





「まさかアンタがあの"亡霊葬者"とは
思わんかったで?はん」


「…勝手な二つ名は好かぬよ、七三殿」


「ワシの名は勝男や まっアンタとは
色々あったがこの際や、水に流して
仲良うしてもらえんかいな?」





アイツはニヤつく面を一瞥し、ただ一言





「兄上に危害を加えぬと誓うならな」


「え…兄上ぇぇぇぇ!?





アホみたく目と口をかっ開いて
裏返った声色で叫んだ男の肩を思わず叩く





「勝男…お前のその気持ちよーく分かるぞ!


「ふ、副司令はん…つぅことはアンタも?


一つ頷けば、見る間にその顔が親近感
帯びたものへと代わっていった





「アンタとはええ酒が飲めそうや」


「お主ら何故ゆえ意気投合する」


「…お子様には分からん事情があるんだよ」





詳しく説明しても分かってもらえないような気が
何故かしたので、適当にごまかしておいた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:夢主が空気ですが、二人の戦いが
中心なので仕方ないのであります


銀時:ヘバってるってのにあの一言が出た時ゃ
マジでKYだと思ったわ


新八:あの人はアレで通常ですからね


狐狗狸:あり?何だか悟った笑いしてない?


神楽:休ませてやるヨロシ、ボケが多いトコに
色ボケのエセ銀ちゃんまで加わって疲れてるネ


銀時:ちょっ…なんでそこでオレを見んの!?


次郎長:兄ちゃんらも大概忙しいもんだな


狐狗狸:いやあの…傍観して楽しまないで
あげてくださいな親分




戦いを終えて 彼が目覚めたのは…


様 読んでいただきありがとうございました!