勝男さんに手伝ってもらって屋根へと上がり
「ガラにもなく情けない声あげちゃってまァ
アンタらそれでもかぶき町の住人かい」
「お…お登勢ぇぇぇ 何故てめーがァァ!!
何故屋根の上にィィ!!」
お登勢さんは…街の為に戦う皆へ発破をかける
「つまらん喧嘩はこれでおひらきにしようじゃないか
みんなウチの店においで 次郎長一家も
オカマ一家もまとめて面倒見るよ」
辰羅の兵に囲まれて…傷つき疲弊しながらも
戦っていた全員の視線は、屋根の上へと注がれる
西郷さんにお妙さん達に狂死郎さん、源外さんに
長谷川さんに鉄子ちゃんに辰巳さん…
「こんなバーさんが重症の身体ひきずって
来てんのに 立てねェとは言わさないよ」
見知った方も見知らぬ方も 敵も味方も
「こんなバーさんが生き返って来たのに
もう諦めたとは言わさないよ」
ただ一心に彼女の言葉へ耳を傾ける
…と、地上にて仰ぎ見ていた僕は
近くの民家から狙う、黒尽くめの矢に気付く
マズい、あの位置じゃ勝男さんからも死角…!
「お登勢さ…!」
注意しようと声を上げ…る間もなく
僕の隣にも黒尽くめがぁぁぁ!
突き出される刃へとっさに両腕で自分を庇って
「…フン!!」
割って入った覆面の…大柄な男性が
黒尽くめ二人の腕を取って刃を止め
瞬く間に地面へ叩きつけて昏倒させた
第十一訓 雑草魂宿して、いらっしゃい
「全く、麗しい女性へ襲いかかるとは
怪しからん奴らだ…大丈夫ですか?お嬢さん」
さっきの動きに、銀さんに似たこの声…
「あのー…ひょっとしなくても副司令さん?」
「おや?どこかでお会いしましたか?」
あぁ、この姿と声じゃすぐ気付かないのも無理ないか
「んん゛!…僕ですよ」
「おぉ!何だか、誰か分からなかったよ」
「当たり前です変装してんですから…それより
何だって覆面してるんですか?」
訊ねた直後、ドサドサ、と重い音がして
先程狙いをつけていた黒尽くめ二人が落ちてきた
「クリア!」
階段の辺りにもいつの間にか銃を構えた覆面が
…なるほど、逆に狙撃し返したのね
「あくまで"オレら"は中立だからな…これで
誰に加担とか無く戦える、そうだろう?」
「それで覆面ですか…律儀ですね」
「それはアンタとにも言えるんだがな
…ま、おかげで随分助けてもらってるが」
この様子なら 人質は無事と見ていいらしい
「アンタは戦うタイプじゃないだろうから
安全な所で待機していてくれ」
「いいえ…僕も、ここに残らせてください」
心配の一言も命令で歩み寄ってくれた護衛も
丁重にお断りさせていただいた
たとえのように戦う力が無くたって
足手まといでも何でも…僕もここで
戦いの結末を見届けたい
「みんな この街が好きなだけじゃないかい
ただ…そんだけじゃないかい」
胸を張って―街を愛する住人の一人として
「お登勢さんあぶなっ…」
唐突な叫び声で、あちら側からまたも
黒尽くめが彼女を狙ったと気付いたけれど
「頭が高いんじゃボケェェェェェ!!」
今度はどうやら気がつき、間に合って
駆けつけた勝男さんが撃退したらしく
ものすごい轟音が響き渡った
彼はそのまま、下にいる部下の人達へ
怒号混じりに呼びかける
「立たんかィィ このまま負けっぱなしで
終わられへんで!!のうバーさん!!」
「全くだ…!」
答えるように呟くと
副司令さんは手振りで指示を出して
同じ覆面の方々と共に素早く建物の横や上を駆け
不穏な動きを見せる黒尽くめ達をけん制する
「何じゃいおんどれらぁぁぁ!?」
「オレ達?かぶき町が大好きな匿名集団だ!!」
―――――――――――――――――――――
敵を掃い、記憶に叩き込んだ図面を元に
「ここを行けば、二人の囚われた場所へつく」
道筋を辿った私は…新八と神楽へ進むべき先を示す
「ありがとうございますさん」
「礼には及ばぬが…その服装で行くのか?」
「キャサリン一人じゃ目立つ格好アルからな
三人でやればきっとてる彦達も安心するネ」
そういうモノなのだろうか…?
というより、キャサリン殿はともかくとして
お主らはいつの間にタイツなど用意していた
……まぁ どうでもいいかそんな事は
「本当にここから先…お主らのみで大丈夫か?」
「かぶきキャッツに盗めない獲物は無いネ!
泥舟に乗ったつもりで安心して任せるヨロシ!」
「大船ね 街の様子も心配だし、さんが
無事かどうかも気になりますでしょう?」
新八の言うことも一理ある
街にも辰羅の兵が差し向けられているなら
少しでも、戦力が多いに越したことは無い
「そうか…なれば私は今一度街へ戻ろう
二人を頼むぞ新八、神楽」
言って拳を打ち合わせようとして
二人の腕を引いて入れ替わり、迫る白刃を流す
僅かに遅く腕と肩をそれぞれ掠めて血が飛沫くが
「別れの最中に手を出すとは…恥を知れ!」
追撃の間を与えず、奴らの身を斬り払う
「気が変わった…街へ戻る前に少しばかり
内部の露払いをしてくる」
「大丈夫ですか?」
不安げな様子の仲間達へ…笑んで答える
「生憎だが、心配されるほど弱いつもりはない」
目を合わせ 不敵な笑みが返ってきた
「ハナッから心配なんてしてねーヨ
ちゃっちゃと片付けてくるアルよ、!」
「…そちらもな!」
互いに背を向けて、今度こそ別れを済ますと
そこここへと潜み 襲い来る兵を
ただひたすらに槍の錆へと変えていく
―――――――――――――――――――――
いまだ疲弊した街の連中へ襲いかかる奴らを
退けつつ、手助けをする合間
刀を振り上げる辰羅二人を飛び降り様に倒して
「何しとんじゃおどれら!!早よ立たんかい!!
わしらの街を 黙って天人どもに
渡すつもりかい!!」
勝男は いまだ呆然としているゴロツキ達へと叫ぶ
「勝男…」
「…お嬢 死んだフリこいてなきゃいかんかったん
でしょうけど このザマです…すんません」
弱々しく立ち上がる平子へ、アイツは語る
自分達は次郎長に拾われた その恩を
返すためならいつでも命を捨てる覚悟がある
けれども今まで曲がりなりにも
次郎長が護ってきた街を、自分達を拾ってくれた
街を捨てることだけはどうしても出来ない…と
ゆっくりと…傷だらけの身を起こした部下を背負い
「見とってください これがアンタの親父が
護ってきた街です」
そう言って髪形を決めた勝男が、ときの声を
上げながら目の前の黒尽くめ達へと突っ込んでゆく
「かぶき町は…わしらのもんじゃぁぁぁ!!」
ったく血気盛んな奴らだ…と息をつくも
包囲を抜けて、辰羅が三人ほど負傷している
西郷へ狙いをつけて迫る
「マズイ、西郷っ!」
呼びかけるがぼんやり突っ立ったままの相手へ
兵隊三人が一斉に刃を振りかざし
「かぶき町が アンタらのモンだって」
―次の瞬間 両側の壁と足元に思い切り
打ち付けられてめり込んでいた
「男のものでも女のものでもない
私らオカマのモンだ」
…怖ぇぇぇー!オカマまじ怖ぇぇぇぇー!!
「てめーらァァようやく思う存分暴れられる時が来たよォ!
オカマの真の力 見せてやりなァァ!!」
力のこもった一声に、オカマ達も武器を手に
立ち上がって加勢してくる
一瞬、チラリと手にしてた携帯が見えて
それと先程のセリフで、立ち尽くしていた
理由を理解する
「約束を守ってくれたか…なら、こちらも
尽力しないと……なっ!!」
自らを犠牲にした兵に足止めされていた勝男を
突き刺そうとしていた背後の兵の腕を取り
加減無く地面へと叩きつけて援護に入る
「今のはちょいと危なかったでぇ…
兄ちゃん達にゃデカい借りが出来たのぉ」
「おっと、礼ならに言ってくれよ?」
「あん?何であの嬢ちゃんの名前が出んねや」
訝しげなその顔へ 笑み混じりに答える
「アイツが言ったのさ…
アンタらもかぶき町の住人だから助けてくれってな」
「私達を…?」
呆然と呟く平子にも、一つ頷いて見せた
『その首 首級(しるし)として
華陀様の元へ持ち帰らせてもらおう』
敵の術中にハマって囚われ、危うく首を
斬られそうになった寸前
『ならば貴様が首を置いていけ』
現れ様に 相手の首を刎ね飛ばし
襲い来る兵士達を薙ぎ散らしたのは"亡霊葬者"
けれど…オレ達を解放し、"彼女"へ
心強い言葉を投げかけ
『お登勢殿の店の前で争うのは皆、街の者だ
余計な怪我人や死人を生まぬよう助けてくれ』
そう頼み込んだのは 一人の少女だった
『この街を愛する者なら…相手が誰であれ
同じ街の者を見捨てたりしない そう学んだ』
人ならざる冷たさを持った緑眼が緩んだ直後
宿った光を…忘れることは無いだろう
街を発つアイツも 覚悟を決めたも
何より、今ここで戦っている街の連中全員が
同じように浮かべていたから
アイツが認めた侍 "坂田 銀時"を彷彿とさせる
―護る意志を秘めた魂の灯を
「命令は一つ!敵味方問わずかぶき町の住民
全員の助力と保護 及び敵対勢力の無力化!
例えボスが不在だとしても、オレ達も
ボスの愛するこの街を護るぞ!」
『イエッサー!!』
残っていた街の連中も、身を起こして
笑顔を浮かべて武器を取り
「しかと思い知りなコイツが…
かぶき町だァァァァァァァァ!!」
お登勢の怒号を合図に辰羅達へ立ち向かう
「っと、お前もいたのか」
「個人としての私闘だ」
憮然と答えつつも弾丸を繰り兵力を削ぐ男も
ヤクザもオカマもキャバ嬢もロクでなしも
敵も味方も、性別も身分も人種も関係なく
ただ街を愛する者達として
オレ達は…心を一つにする
『おおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!』
――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:次回で銀さんと次郎長の対決を
どうにか出すつもりなので、今回は街サイドへ
重点置いて書いていきました
神楽:アイツらと兄貴でしゃばりすぎネ
今回一番がんばってるの私らアル
新八:まぁでも全く描写が無いわけじゃ
無かったんだし それでよしとしとこうよ
キャサリン:ブッチャケ兵隊ヨリ、ガキドモノ説得ガ
一番大変デシタネ…マジヤバカッタデス
てる彦:…だって怖かったし オレ男だから
しっかりしないとあの子護れないし
狐狗狸:てる彦君もお疲れ様
勝男:いやいや!ワシに労いは無いんか!?
地味に色々やってんねんど!!
狐狗狸:え〜?前半の部分とかもあるから
これでようやくプラマイゼロでしょ
街は救われ 二人の侠が互いに闘う
様 読んでいただきありがとうございました!