車椅子を押しながら、ひたすら目立たず

安全なルートで店へ進んでいたけれど





「ったく聞いたこと無いねぇ
病み上がりのババアより足腰弱い介護師なんて」


「め…めんもくな…はふ……ぜぱぁっ…」





気疲れと体力の減少は如何ともしがたく


目的地まであと少しという所の路地裏で
息切れして、その場にヒザをつきかけていた





品が無いけど…気を抜くと胃の中身が
逆流しそうだわ、ガチでリバりそう





…こういう時ばかりは の体力を
少し分けて欲しいとか考えてしまう


いや、むしろ神楽ちゃんとかお妙さんの馬力かな







くだらなくもそんな事をぼんやり考えている所に





「ったく人が厠に行ってる間に
どこまで抜け出してんねんバーさん!」



怒鳴り気味に現れたのは、顔に傷跡があり
見事なまでに七三分けの 一人の男





一見しただけで極道者だと分かるその人は

僕も名前ぐらい承知していた


「ナースと他所のババアに上手く化けたもんやな〜

けどな、アンタの面と目ェ
妹どもども忘れられへんでぇ?ベッピンはん」


「黒駒…勝男…!」





自分が戦うタイプじゃないのは理解していたけど


とっさに、ほとんど反射に近い形で
お登勢さんの前へ飛び出して盾になる





相手は…ニッと小さく苦笑してこう言った


心配すなやベッピンはん、ワシは
あの天パから直々にバーさん頼まれてんねや」





その一言に 僕の脳裏での言葉が蘇る











第十訓 そんな強き意志集う街











『銀時は、七三ヤクザ殿にお登勢殿を頼んでいた
七三殿は約束を護るとも言っていた…


あの男のその言葉は、信頼していいと思う





「え…もしかし…妹が、いっ…言って…げふげふ


「いやあの大丈夫かベッピンはん エラい
体力ないのぉ〜そんなんで仕事勤まるんか

いや"本番一本"っつった方がええんかのぉ?」





余計なお世話…いや下世話だとイヤミ一発
言ってもバチは当たらない気もしたけど


まともにしゃべれそうに無いから止めておく





「悪いけど、コイツにゃ責任はないよ
アタシが店に戻りたいって言ったんさね」


「分かるわんな事は だからこっからは
ワシがアンタを連れてったるわ、バーさん」





僕はその場から動かず 相手へと問いかける





「…信じても、いいんですか?」


「やっぱり姉妹だけあって言うコトは一緒やな

安心しぃネーちゃん、ワシは約束は護る男や
それに…あそこへ行く用もあるしな」





嘘の気配と見抜く術は長い間で培っている


言った相手の目と顔には ソレが全くなかった


何よりあの子が…"信頼"を口にしたなら

今はこの人を信じても大丈夫だろう





「分かりました…お登勢さんをお願いし」


言いつつその場から身を横に引いて―







「気が利かない連中だねぇ、すっぴん
人前に出させる気かぃ?」


「「え」」





すっくと立ち上がったお登勢さんが、カツラを
かなぐり捨てて勝男さんへと叫ぶ





「着替えと場所を用意しな!」


はぁ!?ちょお待てやバーさん、そんなヒマが
いいから場所用意しな、
アンタは着替えと化粧を手伝っとくれよ?」





血管を浮かせ、不満を呟く勝男さんには悪いけど





「…承知いたしましたわ お登勢さん!


普段通りの調子に戻った彼女へ 僕は

ただただ嬉しさしか感じなかった





―――――――――――――――――――――







思わぬ攻撃に合い、しばし混濁していた意識を
取り戻して身を起こせば





「こんな役立たず達…もういらないですよう
西郷さんだって…裏切りたいなら裏切ればいい」





ちょうど頭部から流血した手負いの平子が


刀を手に、よろよろと立ち上がりざま

言葉を放ちつつ歩き出した所だった





「私は…一人になったって 親父の味方です〜







ここへ来る前から、あの娘については
一通り調べはつけてあった





たとえ全ての者が次郎長を敵と見なしても


次郎長の眼中に 自らの存在が無くとも






「…約…束、したもの

必ず…帰ってくるって 約束したもの





"大事な相手の帰りを待つため"だけに

街を巻き込み、全てを敵に回すとは





つくづくこの国の連中は分から…ん?アレは







「華陀の援軍!!」


行く手へ現れた黒服へ後を任せ、次郎長の元へ
一歩踏み出しだ平子へ





脇にいた二人が短刀を振り上げて襲いかかり





「くっ…!」


気付いて銃を手にするが一瞬遅く 刀が閃き





「お…お嬢オオォォォォ!!







間一髪の所で…左腕と右肩とを犠牲にして





「どうやら…私らまとめて

…あの女狐にハメられたようだね」


「ママあああ〜!!」


西郷が娘をかばい、拳をもって辰羅の兵を
殴り飛ばすが


出血に気を取られた隙をつき 別の二人が
すかさずその巨体を狙う





「ママぁぁ!!危ない!!」





…死角からの追撃が届くよりも早く


今度こそ、兵隊へ弾丸を喰らわせ床へ転がし





「やれやれ…無粋な輩がいたものだ」


銃を回しながら、オレはたじろぐ兵隊どもと
街の連中との前へようやく姿を現した





「誰の差し金であろうと、決着がつかん内から
アイツの存在理由を消されては困…る゛っ!





キメ台詞の最中に 火消しの女が投げはなった
そこらのガレキをきっかけに





「何カッコつけてんだテメェ!」


「今更こんなタイミングで現れて助太刀しても
悪目立ちもいいトコです空気読んでくださいな」


そうよそうよぉ!遅いのよぉん!!」


「気取るなら、せめて女性を危険にさらす前
行って欲しいものですね」


「全くその通りじゃあ!ノコノコ出てきて
見苦しいことこの上ないんじゃい!!」



「兄ちゃん…ハードボイルドってモンを
勉強して出直してきな カミュ」


敵対勢力・味方勢力の両方から罵詈雑言と
ガレキの集中砲火を受け





飛んでくるブツを避け、或いは銃で弾きながら





「お前達が出番を奪ったんだろうがぁぁぁ!!」


オレは極めて真っ当な返答を返す





が、ふざけていられたのもそこまでだった







周囲の路地から屋根の上に至るまで


華陀の兵が辺り一体を包囲し こちらの勢力を
内側へと押し込めつつ攻撃の機を狙っていた







流石にこれだけの傭兵部族が相手では
戦いを楽しんでいる余裕などない





まして、ここの連中は負傷し

先程の戦いでほとんどが疲弊しきっている





オレとした事が……迂闊だった





「か…華陀の奴 裏切りやがった





この程度のことが読めずにいたとは







突き刺さった刀を抜き放ち、西郷が口を開く





「マヌケな話じゃないかい…私達がくだらん
喧嘩してる間に この街は、天人ら(あいつら)に
首根っこつかまれちまったワケだ」





―――――――――――――――――――――







行く手を阻む尖兵どもを薙ぎ払い


ようやく華陀の居城の最上階へと駆け上がり







「なっ…なんじゃ貴様ら!!





一斉にふすまを蹴倒し 私達四人は


白尽くめの辰羅の兵どもがひしめき

四天王二人の居並ぶ本陣へと現れる






「待たせたな ガングロジジイ」


開口一番に、十手を担ぎ銀時が告げれば





「待ってたぜ 白髪の兄ちゃん」


窓の縁へ背をもたせかける次郎長もまた
余裕を含んだ笑みで返した







沈黙した空気を、集う兵達の殺気が満たす





借り 返しに来た…っていいてェ所だが

どうやらモタモタしているうちに勝手が
変わっちまったようだな」





言葉と共に銀時が視線で差すのは


辰羅の兵に護られ、扇で口元を隠す華陀





―不意に屋敷でのやり取りが脳裏に閃く







『あの子が…辰羅の兵士に、華陀の城に
連れて行かれたの…私…護れなかった…!!





抑えてある人質を囮にしてまで罠を張るとは
どういう事かと道中考えていたが





なるほど、あの者達を手玉に取った手際も


これだけの辰羅が軒を連ねていたのも


「全ては…女狐の策か」





呟きが聞こえてか 正解だとでも
言いたげにキセルを咥え、次郎長は言う





「察しがいいじゃねーか」







……嫌な予感ほどよく当たるモノだ


平子殿を利用し、戦争を引き起こして
四天王の疲弊を狙っていたのなら





街に残る者達やキャサリン殿の身が危ない







「新八 神楽 





奇しくも同じ事を察してか


背後に控える私達へ 淡々と言葉が放たれる





「西郷の息子とアイツんトコの
ガキんちょのことは頼んだ」





時間が無いと告げる言い分はもっともだが


名高い傭兵部族の群れと四天王とを相手に
一人で戦うなど、死に急ぐも同然







……けれど





「銀ちゃん…「約束しただろ」


不安げな神楽の頭へ、手を置いて





「てめーら信じて頼んでんだ
だったらてめーらもオレを信じろ」



静かに それでも確かな言葉が放たれる





交わした眼差しは正にほんの一刹那


それでも…そこに宿された魂の灯を
見逃すことは無かった








頼もしき大きな背を瞳へと焼き付け





「……銀さん」


「銀時」


侍へ背を預けたまま





「かぶき町で また会いましょう」





新八の声を合図に、私達は行くべき場所を
目指して廊下を走り出す









さん!てる彦君達がいるのは
どのフロアだったか覚えてますか!!」


「任せておけ、兄上から賜った情報は
余す所無く頭に叩き込んである!!」


「さっすが超ド級のブラコンね!
普段は脳味噌ピーマn」


言葉半ばで飛び来る辰羅の兵を


銃撃と槍の一突きとで、返り討つ





ちょっ危なっ!今の僕まで
巻き込まれかけましたよ!!」



前々回も上の行でもいいとこナシ
パチスロに比べりゃそれぐらいマシね」


「時系列無視でメタネタ使うなぁぁぁ!!」


よく分からぬツッコミだが、それはどうでもいい







上階で戦うあの男が"約束"をしたのなら





『安心召されよ、あそこには腕の立つ者が
先にてる彦を探して忍び込んでいる…後ほど
私達も向かう 必ず助け出してくる故





私達も…私もまた、あの者達の約束を果たす!








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:屋敷の詳細は…気が向くか要望があれば
共演で書こうかな〜とか考えてますハイ


銀時:ってオイィ!オレの見せ場カットぉぉ!?


狐狗狸:いやそこはむしろ原作読んでもらう方向


新八:つーかあの人マジで可哀想なんですけど
どっかで活躍させてあげてください


神楽:無駄アル このバ管理人は版権だろーと
人様のだろーとイジり倒すドSね


狐狗狸:主語抜けとるから!
キャラと作品のみだからS発揮は!


新八:否定せんかぃぃぃ!!


アゴ美:でもあのしゃしゃり出てきた子
よく見りゃ結構イケてるじゃ…ってここでも
この名前表示かぁぁぁぁぁい!!




窮地に陥る、人と街とを救いに…今参上!!


様 読んでいただきありがとうございました!