日増しに人気の減っていく街のそこかしこで
誰ともなく、こうささやくのが聞こえる





「近々戦争がおっ始まるらしいぜ」


四天王の派閥争いがいよいよ
激化してきたらしくてな どいつもこいつも
びびって街に寄りつかなくなっちまった」







"四天王の一人、お登勢が次郎長一家と
揉めて死んだ"


"お登勢の店も近々他の三人に取り潰される"






不穏な噂は瞬く間に広まって、人々を
街から離れさせていくようだった





「…どうにも胡散臭いぜ」


「ええ、アナタのおっしゃる通りですよ
でも僕らには 手も足も出せそうにありません」





そう…この方の軍勢も抗う術を封じられ


妹や、ましてや僕などが戦ってみた所で
街の支配者達に適うわけも無い





英雄と呼ばれたあの人は急な任務で江戸を離れ


万事屋も お登勢さんの店と共に
取り壊されて散り散りになるしかない





クソ!こんな時にボスがいれば…!」


「憤ってみても仕方がありませんよ
僕らに出来ることなんて 限られてますから」


「だからって、アンタこのままこの街を
見捨てようって言うのかよ!?」








確かに、今までならば"仕方がない"と諦めて
どうしようもない現実を受け入れていたろう





…でも





「僕は僕に出来ることをするまでです
あの人達がいる限り、ここはかぶき町ですから





今度ばかりは絶対に諦めたりなどしない


万事屋の人達なら…なら、きっと
最後まで戦うことを選ぶだろうから












第一訓 幕開けて、乾いた風の音がすると思いねぇ











用あってお登勢殿の店の戸を開けた途端





「うがァァァもげる〜〜〜」


「オレぁ極道者じゃねーし舎弟なんていねーし
とるつもりもねーし用心棒なんて頼んだ覚えはねーし


さっさと帰れっつったしぃぃ!!
このドチンピラ子がぁ!!






銀時が見知らぬ女人のくくり髪を掴んで
宙吊りにしている図に出くわした


何やら暗黒街がどうのこうの、
よく分からぬ事を言い合っているようだが…







呆然と見守る新八と神楽へ問いかける





「…これは何事だ?」


「あのー、僕らにしてみてもいきなり過ぎて
ちょっと事情が…」


「何でも銀ちゃんの強さに惚れて
万事屋入りたいて言ってきたアルよ」





それはまた、珍しいこともあったものだ





「アンタは何しに来たんだい?」


「とある酒をお求めなのだが入手が難しいと
聞き お登勢殿に相談に参った次第」


「なるほど…兄貴絡みかぃ」


「察しが早くて助かり申す」


「アニキ〜このスケどこの組のモンですか?
もしかしてアニキの「んなわきゃねーだろぉぉ!!」


激しく振り子にされて、女人の悲鳴が強さを増す





「加減してやらねば髪が取れるぞ」





チッと舌打ちをして銀時が女人を下ろしてやった


「ありがとうございますぅ〜
アナタもアニキの舎弟ですかー?」


「単に縁があるだけ故、お主は万事屋に入ったばかりか」


「この度 万事屋一家末弟に加わりました
椿 平子ですぅ、アニキの縁者と知らず失礼しました〜
責任とって指詰めさせていただきますね」





抜き放った刀を手で止め、私は言う





「別に構わぬ 私こそ挨拶が遅れたな
と申す」


…?何かどっかで聞いたことあります〜
どこでしたっけねぇ〜ウフフ〜」


「気のせいであろう」





何だろうこの女人は…面は笑んでいるのに
どこか嘘くさい感じがする


まあ、考えても詮無きことか







お登勢殿によれば、平子殿はかぶき町の
四天王の一角・泥水次郎長の商売敵
植木鉢一家の手練らしい





「はぁぁぁ!?人斬りぃぃぃ〜!?
このもっさりしたのが!?」



「こんなもっさりっ娘が極道の鉄砲玉!?」


「見かけで強さは測れぬだろう」


「その通りね たまにいい事言うアルな」


「そんな大層なものじゃないんですぅ〜」





恥ずかしがりながら平子殿が言葉を進める内


銀時と新八の顔から血の気が引いていく





「…いくトコがねーって その一家とやらは
どうしたんだよ」


「なくなっちゃいましたぁ〜」





…そう言えば植木鉢一家は、次郎長一家の手で
取り潰されたとは聞いているが





「何にもなくなって何をしていいか
わからなくなっちゃって…でも私に
できることはお花を飾ることだけだから〜」


「花?」


「だからココに来たんですぅ
次郎長のいるこの街に…お花を飾るために」


ニッコリと微笑んで平子殿は、楽しそうに言う





「かぶき町を まっ赤なお花畑にするために」









"町内会の定例会議がある"とのことで
お登勢殿が店を閉めたので、私達も外へ出て


…成り行きのまま街へと繰り出し

態度も悪く路上を練り歩く神楽と平子殿を


離れて見守ったまま新八は沈痛な面持ちで呟く





「かぶき町お花畑にするって…血の海
するってことですよね 完璧銀さんの力借りて
次郎長親分に復讐するつもりですよね」







…懸念するその気持ち、分からなくは無い





昨今、立て続けて起こった諸々の騒ぎも含め

四天王の軋轢も重なって緊張状態にある現在


次郎長の首を狙おうものならば
巡り巡ってかぶき町に大戦争が起こりかねない





それ位は、私でも分かるけれど





「しかし、そうと決まったワケでもあるまい
当人が復讐を口にしたのでもなし」


「いやいやさん!さっきの平子さんの発言
聞いてたでしょ!?銀さんの舎弟希望なんて
絶対戦争起こす為に力を利用したいだけですよ!!」



ちょっ!何オレの価値勝手に決めてんの!?」


「まあ力以外に利用出来そうも無いが
だからといっていささか話が飛躍してはおらぬか?」


「無表情で肯定しないでくれる!?泣くぞ!!」





半分涙目になったりしつつモゴモゴと
銀時が弁解を述べている所で


平子殿が花屋の店先で足を止めて振り返る


アニキ〜見てくださいよォ キレイなお花ですぅ
コレ事務所に飾ったらきっとキレイですよォ」


「ホラ見ろ ああしてるとタダの女の子だろ」





安心したように呟いたのも束の間





「おばーちゃんショバ代ってしってる?

店を構えるにはその地域を縄張りにする
ボーリョク団に"みかじめ料"を払わなければ」


「おのれは人の名前使って何をさわやかに
レクチャーしてんだ」






瞬時に駆け寄った銀時が、平子殿の髪をワシづかむ





「一家をやりくりするのはシノギは必要不可欠です
大丈夫ですよう 代わりに用心棒をしてあげれば」


「おお、冴えてるな平子殿!」


「アンタは空気呼んで黙っててぇぇぇぇ!!」





何故か新八に後ろ頭を叩かれ、周囲の店も
次々に降ろし戸を閉じてしまった







咳払いをして 銀時は言葉を紡ぐ





「いいか 万事屋一家に入りたいのであれば
お前が今まで学んできた暗黒面のことは一切忘れろ」





何を思ったかは知らぬが、ともあれ
平子殿を"普通の女の子"として迎えるべく





「お前は椿 平子じゃない…今からは万 平子だ!!」


「どんな名前つけてんだ!!」





「ついでに女の子分もゼロなもこの機会に
 平平平子とその辺学ぶアルよ!」


「いいですねぇ〜仲間がいれば心強いですぅ」


「余計心配だぁぁぁぁ!!」


私も協力する形で 万事屋総出で
女の子らしい行動を学ばせることになった









まず洋菓子店にて雰囲気を掴む、とのことであったが


神楽と銀時がケーキを大量に貪る横で 水を飲みつつ
平子殿と新八のやり取りを眺めていると





「ごめんなさい〜わし意外と潔癖症なんで〜
極道とかそんなんカンケーなく」


「カンケーあれよォォ!!なんでそこだけ
普通に僕嫌がってんのぉ!!」



新八と何やら揉めてケンカになって店を出て







かと思えば目に留まったらしく
すぐ側の宝石店の店先の真珠の飾りを指され





「あ〜このパールなんかアニキのアソコに
ちょうど良さげじゃないですか〜さん」


「お目が高いな万 平平平平子殿
これならば兄上にも似合いそう故」


アニキ違いぃぃ!かみ合ってねんだよ
この超絶ブラコンバカァァァァ!!」



同時にチョップを食らったり







「とにかく、次また極道チックなことしたら
また一個平増やすからな名前だけどんどん
女の子らしくなってくからな 万 平平平平平子


「もう「平」はいいっつってんだよ!!」


よく分からぬが改名に関して一々新八が
何やら過敏に反応しているのを尻目に





「わ〜見て見て〜乾いてるよォ
カッサカッサだよォ」


イヤンカワイイ〜なんでこんなに乾いてんのォ」


「これも見事に乾いておるぞ、ホレ」


「「ホントだ〜カッサカサァァ!!」」


神楽にすすめられるまま乾物屋に立ち寄って


昆布や魚の開きの乾き具合を三人で話す





…よく分からぬが女の子らしくなるのは
中々に大変なようだ


が、勉強になるし 少しばかり楽しい







と、何やら平子殿にぶつかった男が

片腕が折れたと騒ぎ立てだした





「コルァ〜ネーちゃんどう落とし前
つけてくれるつもりだぁ」





脅し立てるように言う二人組の内、左肩を
抑えてる男へ近寄って訪ねる





「本当に折れたのか?少し貸してみろ
間接が外れているだけやもしれぬぞ」


「あんだネーちゃ…アダダダダ!
痛い折れるマジ折れる!!


「何だ折れておらぬではないか」


「いやいやコレ更に悪化すっから!
つーかテメェは引っ込んでろガキが!!」



腕を払い睨みつけて来る男どもへ口を開きかけ





「余計なことすんなぁぁぁぁ!」





新八の叫び声の直後、いきなり強い衝撃
顔面に食らってしばし脳を揺さぶられた





「なっ…なんだこの娘ぇ?いきなり倒れたぞ」


「あのォ ウチのツレが何かしましたか」







倒れたままで何やら物音怒鳴り声
いくつも飛び交うのを耳にして





…ようやく視界が元に戻ったので身を起こせば


平子殿をかばった銀時が、騒ぎ立てていた
男の拳を手首から掴んで受け止め





「腕は どうしたのコレ
大変な事になってんじゃ〜ん」






近くの店へと殴り飛ばしていた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:初っ端から駆け足気味ですが、結局
何だかんだで長くなるでしょう 四天王篇だし


銀時:何あの始まり方?兄貴だけじゃなく
アイツにまでOP持ってかれたよ


神楽:あからさまにまた匿名の裏取引
あったに違いないネ…間借りの分際で図々しい


新八:同じサイト&街にいるんだから
そこは不問に伏しておいてよ二人ともぉぉぉ!



お登勢:しかしアンタ、次回もロクに出来てない
状態で来週乗り切れんのかぃ?


狐狗狸:それは言わない約束でげす




初手から説明チックでスイマセン…言葉の暴力団と
ケーキ屋のやり取りは脳内補完でお願いします


様 読んでいただきありがとうございました!