轟々と唸りをあげる炎も徐々に数を減らし


それを生み出す糸も、屋根上の救世主達に
よって着実に断ち切られてゆく





吉原を取り巻いていたそれらが残らず断たれ


「…全ての糸が断ち切られたか」





城の最上階から見下ろす地雷亜の背に





「地雷亜 頼む…もう…やめてくれ」





巣に宙吊りで磔にされた月詠が

弱々しく、言葉をぶつける







ゆっくりと振り返る地雷亜へ





「もう…誰も頼る事などしない もう
誰とも関わる事などしない…」


なおも彼女の口は止まらぬまま言葉を紡ぐ





「それでもわっちが気にくわぬなら
わっちを殺せばいい」





か細い声に、確かな覚悟を滲ませて





「わっちの大切な仲間を…
これ以上 傷つけないでくれ」






月詠はかつての師へと哀願する







…だが、それに対しての返答は





「ちーがうぅぅぅ!オレがお前に求めて
いるのはそんなものではないィィ!!」



怒りに満ちた絶叫と握り締めた拳で

荒々しく振るわれる暴力






「何故お前はそんなにも脆弱な魂を
持ち続けている!何故お前はオレの強さに
近づいてこない!!」






舞い散る血飛沫も漏れる呻きも構わぬまま





「何故お前は オレになれない」


地雷亜は月詠を弟子として育て上げた
動機を、滔々と語りだす











第八訓 おいしいトコ持ってく奴だって苦労はある











だが根本にあったのは彼女への情ではなく





己の欲求を満たさんが為の

限りなく歪んだ…修羅の狂気





「出来損ないが 仲間の死でも
まだ足りぬと見える」






虚ろな瞳で口を閉ざした月詠の表に
刻まれた頬の傷跡へ







「そうだ…皮をはごう





壊れたように笑いながら地雷亜が

取り出したクナイを突き立てる



かつての弟子を、自らと同じく

"存在しない"存在へと変えるべく





「きっとオレのように強くなれる
きっとオレと同じように…


刃先が血の量を増しながら、彼女の皮膚を
切り裂かんと滑り出し…






――――――――――――――――――――







轟々と唸りをあげる炎も徐々に数を減らし


それを生み出す糸も、屋根上の救世主達に
よって着実に断ち切られてゆく





そして…いまだ残っていた空中の糸が







「はぁぁぁぁ!」





瞬きの速さで駆け抜けた一陣の風と
影により全て斬り捨てられた






その光景と、そして影の正体を目にし


「「あっ…!」」





新八と神楽が驚きに目を丸くする





「もう糸も全て斬り落とした…二人は
先に下りて消火と救助を手伝っててくれ!」





それだけ言うと、再び一直線に走駆して





「無事か日輪さ…!?」


目当ての人物を見つけた彼は目を見張った







「全く…戻りが遅いじゃないか
何やってたのさ?英雄さん


こちらを見上げ、微笑む日輪と

彼女の車椅子の周囲に刺さったクナイ





そして倒れ伏す大勢の蜘蛛達という光景に





すまない、少し厄介な仕掛けの処理に
手間取って…それよりこの状況は一体誰が?」


「ふふっ、それはね」


愉快そうに笑う彼女の言葉を引き継ぐは
いつの間にか現れた全蔵


「テメェの得意ないいトコどりが
出来なくて残念だな?ライバル兵士」



「…吉原に仕掛けられた大量の爆薬がなければ
そもそも炎上などさせずにすんでたさ」





皮肉にやや不満を含んで返しつつも


彼はぐるりと転がる子蜘蛛どもを見回し、





「とはいえこれだけの数を一人で
片付けるとは…流石は"伝説の忍者"だな」


「へっ、テメーに褒められてもうれしかねぇよ」


「所であの二人の姿が見えないようだが…」


「野郎は大蜘蛛退治しに城に一直線だ
…あのバカ娘も一緒にな」


「銀さんとが!?無茶だ!
あんなケガで地雷亜と戦うなんて!!」



「それ、アンタが言えた台詞じゃないだろう?」


静かにささやく日輪の一言に、彼は
思わず荒げた声を途切らせる





それは銀髪の侍も二人の子供も黒髪の槍使いも

そして目の前にいる金髪の英雄もよく知る
彼女だからこそ言える


「どんな敵だろうと何があろうと…アンタ達は
仲間の為に立ち向かっていくじゃないか


感化される奴はいても、止められる奴は
誰一人としていやしないよ






そこでちらりと寄越された視線に


冗談!オレの仕事は技を買った主人を
狙う子蜘蛛狩りだけだ…」





言うや否や、一人の忍が煙の如く消え去る





「あらあら照れちゃって 豪遊する
お得意様の割には可愛い男だこと」


「…待っててくれ日輪さん、必ず
俺達がこの騒ぎを終わらせてみせる」





蒼い瞳を"紅く"変えた英雄もまた
雷光にも似た速度でそこから消えた







太陽と称された笑みを浮かべ、彼女は言う


「本当、頼むよ…救世主さん達」





――――――――――――――――――――







轟々と唸りをあげる炎も徐々に数を減らし


それを生み出す糸も、屋根上の救世主達に
よって着実に断ち切られてゆく





吉原を取り巻いていたそれらが残らず断たれ


街に散り、或いは城の周りに潜んでいた
子蜘蛛達の数も確実に激減してゆく







しかし…未だ残る十数人に囲まれて


は窮地へと追いやられていた





「っ…流石にこの数は…」





塞がりかけていない傷口が開き、じわりと
滲んだ血が身体に巻いた包帯を染め


無表情にはうっすらと汗が流れ


心なしか吐く息も 荒さを増している





「オレらを刺して炙って食うんじゃ
無かったのか?"亡霊"さんよぉ!


「殺人術の使い手がたかが吉原の女一人に
絆されるとはお笑いだな!






せせら笑う男達へ刃先を向けながら


「貴様らに…何が分かる!





歯を噛みしめて槍を振るい
踏み込んできた一人を打ち倒すも


やはり動きは普段よりも精彩を欠いており


払い切れない白刃が頬や腕を掠めて

いくつかの傷を作ってゆく





「安心しな"亡霊葬者"!後から仲間が
テメェの元につくだろうぜぇぇ!!」



叫び、一斉に足並みを揃えた
子蜘蛛達が彼女の身体を刻まんと圧し包み…







まるで同じフィルムを再現したかのように





の目の前に屋根の上から
一人の人影が降り立ち、敵の囲いを振り払う






「俺は雷…雨の化身」





金色の髪をなびかせ、紅い瞳で敵を見据えた
青年の身体から迸る電気が


と化して向かい来る敵の幾人かを打ち倒す





「すまない、色々あって遅くなった」


お主…何故私の場所が?」


「そんな目立つ作務衣を来て暴れてれば
嫌でも分かるさ、お誂え向きに"雷神"だしな」


ふっと柔らかく笑いかけてから彼は

輪を広げる蜘蛛どもを睥睨しつつ言う





「それより…ここは俺に任せて
お前も月詠の元へと急げ」



何を言う…お主とて病み上がりではないか」





表情は変わらぬまでも、込められた心配に
彼は刀の柄を握って応える





心配するな コイツの調整がようやく
間に合ったようなんでね」


抜き放った白銀の刀身は、とある戦いの果て

強敵から受け継いだシロモノ





行く手を阻む蜘蛛達にそれをちらつかせ





「死にたくなかったら…道を開けろ…!」


再び発した雷を目の前に落としてみせれば

怯んだ徒党が緩み、隙間が開く







信頼を宿した視線を一瞬相手へ送り


迷わず隙間をこじ開け 先へと踏み出す
"雷神"作務衣を見届けてから





「さあ…覚悟しろ子蜘蛛ども!





自分達を捉える、蛇そのものに近しい紅眼
改めて彼らへ恐怖を植えつけた





――――――――――――――――――――







刃先が血の量を増しながら、彼女の皮膚を
切り裂かんと滑り出し…






目を開いた月詠が見たのは


背後から飛び出た木刀と、それに
貫かれクナイを取り落とす地雷亜の右手






「……その手で 触んじゃねぇ」





蜘蛛の巣の奥にわだかまる闇の中から
怒りと殺気とを漲らせて


「そのうす汚ェ手で その女に触んじゃねェ」





銀時は突き出した木刀を真っ直ぐと
眼前に佇む地雷亜へ振り上げ


渾身の力を持って相手を天井まで吹き飛ばす







梁にぶち当たったその身体が重力に
従って床へと叩きつけられ、一拍の間を挟み





「…ぎ…銀時」





月詠が 目の前に現れた侍の名を呼ぶ








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:本日の吉原は火災時々流血、所により
クナイの雨が降るでしょう


新八:何で天気予報風!?間違ってませんけど


神楽:てーかピーマン妹ならまだしも、今回
名前出ねぇアイツが何で出張るアルか?


狐狗狸:主人公は遅れてやってくるって事で


銀時:うまくねーんだよ!夢主とかモブはいいから
とにかくオレを盛り立てろゴラァ!


新八:いやコレ月詠さんの話だから!
もうちょっと自重しろダメ主人公ぅぅぅぅ!!


神楽:てゆうか痔忍者がカワイイって…したら
銀ちゃんもカワイイ括りに入るアルよ?


日輪:そうかい?二人とも不器用でバカで
可愛い男達じゃないか


狐狗狸:うーむ大人の女の余裕ですな…




次回…蜘蛛と夜叉の流れ弾にご注意下さい
「「しつけぇぇぇぇぇ!!」」


様 読んでいただきありがとうございました!