唐突な火の手に戸惑いを隠せぬまま





「一体何が起きてるんですか!」


「ツッキーをさらった連中と関係アルアルかー!」






立ち尽くす三人へ、問い続ける二人だが
無言のまま答えは返らない





銀さん 姉ぇ!火は百華の皆が
消しとめるって!そのケガじゃ心配だから
早く逃げてくれって母ちゃんが!!」


「ありがとよ」


叫ぶ晴太が差し出した着物と木刀を受け取り
その頭をひと撫ですると





「新八、神楽 火の方は頼むぜ





背にした彼らへ、銀時はそう語りかける





「な…何言ってるアルか銀ちゃん?」





不安げに言葉を紡ぐ神楽の横を擦り抜け





待て銀時、私も同行するぞ」


首を横に振って槍を組み立てる彼女だが
彼はなおも振り向かずに言う





…テメェも火消しに回れ」


「無論そのつもりだが、火元から断てば
被害は広がらずに済むだろう」


言って火元を探らんとするべく、近くの
建造物へ槍を突き立てかけ







「待ってください二人とも!」





その腕を掴んで止めた新八の必死な叫びが
しばし銀時の足をも留めた





そんな身体でどこいくアルか!!
一番ヤバいのは銀ちゃ…」


引き止めるべく叫んだ神楽の言葉は


木刀を握り締めた手の振るえに
気付いた瞬間、途切れる












第七訓 師は時として弟子を侮るべからず











「……気にいらねェ


「…銀…ちゃん?」


「銀時…?」





呟かれた言葉の重みに、その場に留まった
さえ困惑の色を浮かべた







「全くもって 気に入らねェ」





繰り返す彼の脳裏に浮かぶのは


かつての師と過ごした日々と、自らに
向けられた嘘偽りのない笑顔





「地雷亜だけは 死んでも師匠なんぞと
名乗らせねェ」






鋭い眼光に怒りを満たしたその顔は


"白夜叉"の二つ名に相応しき怖ろしさ
周囲の者達へと感じさせた







緩み外れた腕の戒めを振り切ると





我に返ったが、建物へ突き立てた槍で


梃子のように身体を持ち上げながら
瞬時に刺す動作で屋根まで駆け上り


ぐるりと周囲の糸を見渡して―





「…鳳仙の城から糸が伸びている!
おそらく地雷亜と月詠殿はそこに!!」






下へ向けて叫んだその声を合図として

銀時がダッシュで駆け出していく





その後姿を見送ってから


「新八、神楽も上から糸を切ってくれ!
少しは炎の勢いが弱まるはずだ!」






続けての呼びかけに、顔を見合わせ
こくりと頷いた新八と神楽が





「分かったネ!」


「今からそっちへ行きますから
待ってて下さい!





面を上げて返し、屋根へと昇る為
即座に別方向へと散っていく





おろおろと辺りを見回していたものの


「おっオイラも消火活動手伝ってくる!


「無茶はするなよ、晴太」





言って駆ける晴太へ微笑んでから 
二人が到着するまでの合間


近くに張られた糸を断ち切っていく







それをどこか他人事のように眺めつつ





「ったく死にたがり屋が多いなココは」


路上に佇んだまま皮肉を零す全蔵が





「全蔵殿!」





屋根から呼びかける声に顔を上げれば


そこにはやや不安げにこちらを見やる
の姿があった





胸騒ぎがする…日輪殿の側にいてくれ」


はぁ?オレがそんなもん引き受けると
思ってるわけ…」


普段の調子でバカにするように返すも


曇りなき緑眼に射抜かれて、彼は
二の句を詰まらせる





「お主の腕と、敵対しておらぬ事だけは
信頼しているつもりだ…頼んだぞ」






あらかた糸を切り終えたからか


新八ィィ一本残さずぶった切るアル!
これ以上火を広めるワケにいかないネ!!」


「もうこれ以上この吉原には
誰にも手出しはさせない!」






這い上がり、次々と糸を斬り捨てていく
仲間達の姿を認めたからか


彼女は銀時を追って火元へと跳ぶ







懐からジャンプを片手に取り出し





「…知るかよ オレはなぁんにも、な





相手に聞こえぬ呟きを返して


全蔵の姿が、その路地から掻き消えた









燃え盛る炎をまとい 崩れる建物を縫って





「何が来たって 何度来たって護り通す!!」


新八と神楽が辺りの屋根から屋根へ移り





「「吉原の救世主なめんなァァァ!!」」





糸を次々と断ち切ってゆく







遥か下方の路地では、日輪の命を受けた
百華達が先陣を切って消火へ勤しむ





そして全ての元凶が集う鳳仙の城へ


白い着物を翻し、底知れぬ怒りを携え

銀髪の侍は路地を行く…が





「ここから先は行かせねぇぜ!」


「救世主だか何だか知らねぇが
この吉原の奴らは皆殺しとのお達しだぁ!」





四方八方から彼を取り囲むように


蜘蛛の刺青を入れた男達

各々獲物を手にぞろぞろ現れ、襲い来る





「邪魔…すんなぁぁぁぁぁぁ!!





腹の底からの怒号を響かせ足を踏み出し


銀時が木刀を振るう その度に


相手の持つ武器や、或いは相手自身の
骨がへし折れ砕かれ





手加減ナシの一撃に、勢い余って
身体を路上や近くの建物に叩きつけられ






次々と意識や戦意を喪失した男達の身体が


彼の後ろへ死屍累々と転がってゆく







だがそれでも、城への道は阻まれ続け





「おおおおおおおォォォォォ!!」





苛立つ銀時の背後から 僅かな隙をついて


大柄の男が大上段に刀を振りかぶり







それが身体に突き立つよりも早く





虚空から一直線に振り下ろされた
槍の一撃が、刀を握る両腕を断つ






「ぎゃあああああぁぁぁぁ!?」


轟く男の悲鳴に、微かに視線を動かせば





「助太刀いたす!」





血の飛沫を払いながら銀時の背へと
降り立つは、"雷神"纏う槍使いの少女





!お前…」


「道は私が作る、先に行け!


何か言いかけようとする彼の言葉を遮り





「私の様な咎や まして枷を負わす師など
…月詠殿には要らぬ!」






叫んで前へ進み出た彼女が、迫る白刃を
物ともせずに受け流し弾き


軌道の読めない柄や穂先で男達の身体を
吹き飛ばして 一直線に通り道を作る





出来上がった道が再び塞がれる前に


地を蹴り、一気に駆け抜けた銀時と





「死ぬなよ…!」


無論だ、後ほどまた会おう!」





擦れ違い様に言葉を交わして


今度はが群れ集う子蜘蛛達を相手取る







「まさか"亡霊葬者"が吉原の街を
救おうとするなんてなぁ…?」


「その名は好かぬ」





無表情で淡々と答えられ 嘲るように
見下す男の表情に僅か苛立ちが乗る





「"亡霊葬者"と言えど、これだけの数
相手に勝てると思ってんのか?」


「…貴様ら如きに遅れは取らぬ」


放たれた殺気と先程の腕前に
やや円陣が広がりかけるも


手負いの様子と数の優位があってか

蜘蛛達の態度は変わらない





「どこから来る自信か知らねぇが諦めな
見ての通り、吉原は間も無く燃え落ちる


「それに今頃…吉原の太陽も
我らの手に堕ちているだろうさ」






ニヤリと下卑た笑みを浮かべる面々に





「なめるな浪人ふぜいが」


突き放すように返す表情こそ
感情を廃した冷たさを持つものの





「吉原も、その太陽も…そして月も
簡単に落ちたりなどするものか」






この街と二人の仲間と、地上では
"伝説"とうたわれる忍の男と


何より先へと進んだ一人の侍を


信じるからこその不敵さが滲んでいた





絶望の見られない相手の様子が気に障り





「亡霊は亡霊らしく、滅んだ武術と
一緒に墓の下に眠っとけやぁぁぁぁ!」



気炎を上げ 刃と殺意とを剥き出して
子蜘蛛が彼女へと押し迫る








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:BGMと勢いにノって こっからは
原作よりニ〜三割り増しでバトル入りまーす!


銀時:言っとくけど、主人公オレだからね?
夢主のアイツら出張らせすぎんなっつの


新八:銀さんんん!折角の本編シリアスターンを
ココで丸々ぶち壊さないで下さい!!


神楽:てゆーかブチ切れてた割には銀ちゃん
移動の合間で、ちゃっかり着替えてるアルな


新八:そこツッコんじゃダメぇぇぇぇ!!


全蔵:ええと…本編のオレの活躍はカット?
珍しく真面目に頑張ったんだけど…(寂)


狐狗狸:あ、その辺は次回にフォロー入るんで


銀時:ちょっと待て管理人ゴラァ!だから
その辺のフォローは本来オレの為の(強制終了)




亡霊が呼ぶ"雷神"…そして月へ手をかける
蜘蛛へと届く夜叉の一撃!


様 読んでいただきありがとうございました!