「…べっぴんにゃ興味ねーが、ブサイクと
オッさんには興味津々らしいな」


皮肉げな軽口にも意を解さぬまま





「……蜘蛛手の地雷亜 オレの一世代上だが
お庭番歴代最強とうたわれた親父に
匹敵する力を持っていたと言われてる」





相手の強さと危なさを淡々と語り





「悪いこたァ言わねェ…あの女は諦めろ」


静かにそう告げる全蔵に、銀時が片眉を跳ね上げ





「奴の巣にかかっちゃ、もう救えやしねーよ
…って聞いてんのそこの小娘コラ!


は再び店を出ようと歩き出す





「オーイちょっ、空気読んでやれよお前
もう少し聞いてからでも…おい止まれって!





聞く耳を持たず"雷神"が入り口を潜ろうと…







「…待てっつってんだろが "亡霊葬者"っ!





ピタ、とその場で足が止まって





「あん?亡霊「その名で呼ぶな」


機械仕掛け顔負けの速さで身を捻った
彼女の放つ気は、ぶっちゃけ瘴気に近かった





人外な雰囲気に若干引き気味になりつつ


「とりあえず地雷亜…だっけか?
奴についての話を聞いとこうぜ」





言う銀時に 気配を収めて相手が頷く





「……了解した」











第六訓 火元は早めに見っけてぶっち切ること











適当な席に移動しつつ、彼は声を潜め
発言者へと問いかける





「なぁ、"亡霊葬者"って何?」


「あー…江戸に来る前、アイツ他所じゃ
どうもそう呼ばれてたらしくてなぁ」


人が勝手につけた呼び名だ…あまり
いい思い出はない故 その名は好かぬ」


台詞を先取りする形で、
それ以上の情報のやり取りを中断させる





どうにも尻の座りの悪さを感じて


向かいに座る全蔵が語りを始める前に

銀時は"もう一人"の話題を振る





「そういやアイツは、何で地上に?」


「あのべっぴんさんの行方探しと
調整した刀かなんか取りに戻る…だと」







言いつつ彼は店の娘に何本かのボトルを
持ってこさせ、中身を早速告ぐ





「あんのヤロ一人だけいいカッコしようと
しやがって…せめて一声かけてけっつんだ」


「どうでもいいからさっさと地雷亜の話題に
入ってくれ…月詠殿が心配だ





舌打ちしつつ自分の酒を用意する銀髪と

何処か気忙しげな黒髪とを見比べながら





蜘蛛手の地雷亜 変幻自在の糸を操り
いかなる場所をもまるで己の巣のように
縦横無尽に闊歩し蹂躙する」





合間に酒を傾けつつ、低い声が紡がれる





「偸盗術 暗殺術をもって奴の右に出る
者は無かったという…


だが奴の真に恐るべき所はそんな所じゃねぇ
……その、忠誠心さ」







忍は侍と違い 主君への忠誠心を持ち合わせず


鍛え上げた己の技のみを信じ、その技を
買う相手であれば誰の下でも付く"職人"





…しかし、地雷亜だけは違っていた







病的なまでに将軍に固執し そのためだけに
働いていたと語られた辺りで


彼女が片眉を僅か跳ね上げる





「将軍殿にか?」


「今の若い将軍様じゃねェ、先代の時代だったが」





一口酒を煽り 全蔵は言葉を続ける







将軍の為ならどのような汚い仕事も危険な任務も
その身を捨てるように働き





ついには自らの顔を焼き潰し


名も自らの存在すらも捨てた…と





「滅私奉公…」


「そう…きこえはいい言葉だが
一つの事しか見ねェ奴ってのは気付かぬうちに
闇に足をとられていることがあんのさ」





淡々と流れるその言葉が、どこか自分にも
向けられているような心地を感じて


の瞳が微かに揺れ





気付いてか気付かずか、二人は無言で
コップに注いだ酒で喉を湿らす







そして…二十年前の天人襲来の折





強硬姿勢の天人達へ戦う事を主張する主戦派と


将軍の意に沿い天人へ迎合する穏健派に
分かれた派閥争いがお庭番内で起こった





それに対し主戦派の存在を疎んじた将軍が
下したのは、非常なる下知





「主戦派は一族郎党に及ぶまで歴史から
その姿を消した 勿論手を下したのは…
地雷亜だ」








仲間を殺して尚、顔色を変えなかったその男は





将軍との謁見の際 堂々とこう口にする









「私は獲物に糸がかかった事すら気付かせない
弱らせもしない…餌を与えます」






忠実な家来や自愛に満ちた師の如く

自らの身を投げ打ち、獲物に餌を与え


最も己が憔悴し獲物が肥え太った時
それを食す…








語るその言葉に滲むあからさまな狂気に
動揺を浮かべ出す周囲に構う事無く





面を上げた地雷亜が、瞬時に糸で周囲を絡めとり


踏み込んだ御簾の先にいる将軍へ凶刃を振るう





…が 事前に地雷亜の危険な匂いに感づいた
全蔵の父が影武者として対峙した事で


将軍の命は結果として護られた







地雷亜はその後…お庭番に囲まれ

瀕死の重傷を負いながらも奮闘し、逃げ延びて





「オレの親父はそん時忍者の命の"足"
やられちまってね 隠居して後進の世話の方に回った

ただ汚ねー世界に嫌気がさしただけなのかもしれねーが」





と語る全蔵の言葉に、少し遅れて何か納得し
真剣に聞いていた彼女が口を挟む





「お主の父上も忍だったのか」


「「今更そこかよ!?」」


ステレオでのツッコミが間を置かずに入った







地雷亜を仕留めきれず世に野放しした責


当人なりに気にして、その行方を
全蔵は追っていたらしい





「なるほど…それでお主はあの場にいたのか」


再度納得する相手の横で、今更ながらに
浮かんだ疑問を口にする銀時





「しかし高見の見物かましてたクセに
オレらを助けるたぁ…どーいう風の吹き回し?」


別に、テメェらに死なれっと寝覚めが
非常に悪くなっから…特に


「あー…それは同感だわ磯村君」


「誰だよ磯村って!」


同意しつつもボケる銀時へ反射でツッコンでから





「オレァあんな変態とやり合うの御免だね
悪いこたァ言わねえ お前さんらもやめときな」





獲物に対する歪んだ忠誠心は、弟子である
月詠に向かっている
…と





ため息混じりに彼が言葉を締めくくった瞬間





「ならば尚の事急がねばならぬではないか!」


ガタリと立ち上がったが 席を乗り越え

入り口へと向かいかけるが







その袖ごと腕を、無言で捕まれ動きが止まる





「っ何をする銀時!離さぬか!





力の篭る戒めを擦り抜けるべく
手首の間接が外されかけ





「そいつの判断は正しいぜ、





横手からの冷めた物言いが彼女を留める







「実際対峙したんならヤツに叶わない事ぐらい
頭の足りないテメェでも気付いてるだろ?


それともライバル兵士に感化されて
"吉原護る救世主"気取りで熱くなってんのか」





前髪に隠されていながらも己へ注がれる
揶揄の混じった視線へ


返す緑眼は、闇を含んで眇められた





私は罪人だ 己が全てを護れると
自惚れる気は無い…だが」





刹那彼女の思考にかけるのは、昨夜の情景







一人で片付けるべく 両者を返そうと
突き放していたこと


それでも身を引かぬ彼らを信用し

少しでも助力しようとしていたこと





大切な者が再び"一番辛い方法"で失われかけ


護るべく死力を尽くしたのに、全く
届く事が無かった己の無力さ―







「もう力及ばず助けられぬのは御免だ」





重く放たれた後悔の言葉に、相手は
苦々しげにもう一度息をつく







「…だから苦手なんだよテメェは
いいか、もう一辺だけ忠告しとくぞ」





地雷亜の獲物に対する異常な執着と


非道に手を染めぬことを厭わぬ
凶悪さを端的に告げて





「ウカウカしてたらてめーらも
餌にされちまうぜ…今度はしらねーから」


全蔵が二人へと言い放った、正に直後





外から複数のけたたましい悲鳴が轟く







勢いで店を出た三人が目にしたのは





宙を走る幾筋もの炎に包まれて燃え盛る
吉原の建物と、逃げまとう人々








「あれは…地雷亜の糸か…!?」





上空を仰ぎ 我知らず呟いたその一言を


引き継ぐかのように、全蔵も呟く





「ワリー わざわざ助けて連れてきてやった
ココも、蜘蛛の巣の中だったようだな」


「……願ったり叶ったりだよ」





同じ様に上を見上げたそのままで


「蜘蛛の巣にかかっちまった獲物が
生き残る唯一の術を教えてやろうか」






黙っていた銀時が、低く静かに言う





「蜘蛛を食い殺すんだよ」


その眼に…強い"意志"と"光"を宿して





いつになく剥き出されたその"感情"を
悟り、二人は顔色を変える







「お前…」


「銀さんんんん!?」


っ、まだ生きてるアルか!」






言い差した彼の言葉を遮るように


神楽と新八、そして晴太が銀時の元へと駆け寄った








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:いよいよ吉原も燃え出して、展開も
拍車をかけてバトルに入ります!


新八:って月詠さんのシーン丸々カット!?
ファンに怒られても知りませんよ!!


月詠:構わん、展開上已むを得なかったんじゃろ


神楽:こんなダメ管理人に義理立てしなくても
大丈夫アルよツッキー


晴太:そーだよ、ここでもオイラの扱い
あんまり増えてないし!


狐狗狸:お子様って残酷だなぁ(涙目)


全蔵:ハイハイ泣くな泣くな…それで
アイツの二つ名っていつ付いたの?結局


狐狗狸:兄を探して地方ドサ回りしてた頃
勝手に付いた模様です、"人斬り〜"とか
"逃げの小太郎"なんかと同じカンジ


銀時:そこでヅラを引き合いに出すなよ!




逆鱗に触れた蜘蛛へ、"吉原の救世主"達の
反撃が今始まる…!


様 読んでいただきありがとうございました!