目の前に現れたかつての師に対し
「師匠…何故ぬしが…生きている」
月詠の表情に浮かぶは、露骨なまでの驚き
「何故ぬしが こんなマネをしている!?」
対して地雷亜はあくまでも淡々と返す
「しれたこと…お前に会うためさ月詠」
ジリジリと間合いを詰めながら囲んだままの
手下達を警戒しながらも
目の前の男の隙を、黙したまま三人は窺う
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幼少から月詠に技を教え、女として
生きる道を捨てさせ 一人の修羅に作り上げた
そして四年前吉原にて起きた大火で
負傷した月詠を抱え、落下した柱から
彼女を護り…自ら死を選んだ
そう語る日輪の口調は 未だに哀しみを
引きずっているようであった
「…感謝している……あの娘を命を賭して
護ってくれた事、ずっと支えになってくれた事」
けれど月詠が彼の背を追いかけ
誰かへ依ることを良しとしなくなった事
そして地雷亜が護ろうとしたモノが
本当は何だったのかを口にした途端
「…今のは本当か、日輪さん!」
襖を開け 包帯を巻いた金髪の青年が現れる
「あっアナタは…!」
「ダメだよ兄貴!まだ怪我がロクに
治ってないのに動いちゃ…!」
二人の言を無視し、彼は蒼い瞳に
強い懸念の色を浮かべて
「あまりにも三人の帰りが遅い…
恐らく奴と接触した可能性が高い…!」
それだけ告げると周囲の返答を待たず
踵を返して駆け出していく
「待つね!どこ行くアルかぁぁぁ!!」
追い縋ろうとする神楽の叫びも空しく
相手の後姿は最早何処にも無かった…
第四訓 どうせなので二つ名つけてみました
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地雷亜は死んだと思わせ、それからの
月詠の動向をずっと見守っていた
ただ…"弟子"ではなく"作品"として
「お前はあの時オレという存在を
失うことで…一度完成したんだ」
言いながら一歩 足が踏み出される
「そう、それで終わりになるはずだった
…お前さん達が現れるまではな」
この言葉は 銀時や、そして
ここにはいない"吉原の救世主達"に
対して殺意と共に向けられている
「まさかかような者達に心を許し
あろうことか共に鳳仙まで倒してしまうとは」
急速に月詠へ殺気を込めて距離を詰める
その動きに気付き 飛びかかる彼女へ
一瞥もくれず地雷亜の投げたクナイが刺さる
「ぐ…!」
「「っ!」」
咄嗟に距離を取ったものの、一連の動作が
周囲の浪人達を刺激したらしく
「こっ…殺されてぇのかテメェ!」
手近にいた数人の刃が迫り来る
…が、散ったのは彼ら自身の血潮で
転がるのは獲物を握る手や踏み出した足
「喧しい黙れ蜘蛛ども、刺して炙って喰うぞ」
背にまとう強烈な鬼気や吐いた言葉と相反し
向かう表情はあくまで無そのもの
緑色の双眸には、感情の色が欠片もない
「ひぃっ!」
蜘蛛達の輪が再び広がり、硬直する
だが、その数瞬の合間に地雷亜は
月詠の首を片手で絞め様に持ち上げ
斬りかかる銀時の木刀を
空いた手に握るクナイで受け止めている
「見ていろ月詠 今お前の目の前で
お前を護る者は消える」
両者の抵抗も殺気も物ともせず
楽しげに笑いながら、奴は続ける
「そして夜王に代わるお前の新たなる敵が
ここに生まれるんだ…この地雷亜がな」
「絞め殺させて…なるものか!」
即座に彼女は地を蹴り、槍の穂先を―
「銀時ィィィ、!逃げろォォォ!!」
引き絞るようにして放たれた月詠の叫びに
予感にも似た感覚が二人の身体に走り
身を引いた、正にその直後
地雷亜を中心に四方八方へ
クナイの嵐が巻き起こる
その内、大半が囲んでいた浪人達を
あっさりと骸へ変えてゆき
自らに向かうそれらを必死に弾く銀時と
同じ様に叩き落しながらも月詠を離さぬ
相手の手を切り落とさんと迫る
「その手を離さぬか貴様ぁぁぁぁ!」
「有守流槍術か…見事な殺気だな、だが」
斬りつけた一閃が腹を薙ぎ
「貴様も余計な者が多すぎる」
続けて放ったクナイが服と腕とを
刺し貫いて近くのコンテナへ縫い止める
「くっ…身体が、動かぬ…!」
クナイの攻撃を弾ききった銀時が見たのは
宙に浮かんで己を狙う、地雷亜
「既にお前さんは オレの巣の中だ」
「宙に…!?」
クナイの連打から間を置かず
宙を足場に迫る地雷亜の攻撃を防ぐも
予想外の相手の素早さと
思いもせぬ動きに翻弄され
「軌道が…読めねぇ!」
銀時の身体に傷跡が刻まれていく
「銀時ィィィィィ糸だ!!」
先程のやり取りで解放され、ようやく
息を吹き返した月詠が気付く
「ここは奴の放った糸が張り巡らされている
ここでは奴に勝ち目はない!!逃げろォ!!」
叫びが届き、銀時もまた気づいて
その場から走り出す
クナイによって張り巡らされた
目に見えない程の細い糸が絡まる"巣"から
だが、そこから抜け出した刹那
「蜘蛛の巣というのはな」
耳元で告げるように、音もなく忍び寄り
地雷亜がささやく
「かかったと気付いた時には
もう 何もかも遅いのさ」
擦れ違い様に背を切られ、血飛沫を上げ
バランスを崩して銀時の身体が傾く
「「銀時ィィィィ!!」」
二人の悲壮な叫びを背後に
「あの世で眺めるがいい オレの美しい月を」
海へと落ちる銀時へ、止めを刺さんと
クナイを取り出す地雷亜
一本のクナイが空を駆けて突き刺さる
心臓を狙ったクナイを持つ、相手の右腕に
飛沫を上げて海へ落ちた相手を見送り
地雷亜は、倒れ伏した瀕死の体で
クナイを投げた月詠を見やる
「…ぎ ぎ…ん…銀時…」
悔しげに拳を握り、彼女はその場に倒れ伏す
騒ぎが収まったと認識し 散っていた
蜘蛛達が再び集まる
「へっへ、このアマどうします地雷亜さ…」
下卑た笑みを浮かべ、月詠の身体へ
触れようとした浪人の
その顔面が横半分に斬られ飛ぶ
事切れて、倒れた骸を踏みつけ
「集るな蜘蛛ども!
この者には指一本触れさせぬ…!」
意識の無い月詠を護るように
槍を構えてが立つ
「この…死に損ないのガキがぁぁぁ!!」
瀕死の相手を与しやすいと値踏みし
獲物を突き出してくる浪人達だが
怒号にも殺気にも 眉一つ変えず
彼女はその場から一歩たりとも離れぬまま
奇異な動きで槍を振るい続け
襲い来る敵を屠り、辺りを血の色に変える
「こ、この女…何て強さだ…!」
「あれだけの怪我で表情一つ変えねぇ…
まるで 亡霊みてぇな…」
言いさした浪人の一人が、何かに気が付き
震えた声音で呟く
「槍に緑眼…まさか、"亡霊葬者"…!?」
伝播した一言に群がっていた男達も
次々と顔色を変え 包囲が少しずつ広がる
地雷亜は動じずへと問う
「娘…どうやってあの戒めから抜けた」
「間接を一度外したまで」
糸とクナイとに縫いとめられたそれを
無理やり間接を外す事で出来た隙間から
引き千切って脱出したらしい
「器用なマネを…それよりも
オレの月から離れろ」
最後の言葉が終わらぬ内にクナイを投げ
脚力を駆使して迫る地雷亜へ
投げられた獲物を弾き飛ばして
彼女は槍の一突きをお見舞いする
紙一重でかわすがその穂先は引っ込まず
ありえない速度で斬り払いの流れを見せる
「「くっ!」」
両者の血が、宵闇に舞う
が…の身体には新たな深い傷口が刻まれ
対する地雷亜は、首筋から僅かに
血を滴らせるのみ
避けるには間に合わぬ体勢にも拘らず
それを腕一本に握るクナイで受け止め
返す刀で距離を狭めて反撃したようだ
「…ほう、これは危ない所だった
その腕前に免じて最後の言葉を聞いておこう」
すかさず気道を片腕で締め上げられ
遠のく意識の中、彼女の脳裏に過ぎるは―
「あ、兄上…」
ソレは自覚の無い無意識だったのだろう
けれど、腕に込められた力は
ほんの僅かばかり確かに緩んだ
「フン……」
表情を歪め口角を下げた地雷亜が
ぐたりと意識を失う身体を海へと投げる
上がった小さな飛沫が収まるのを見届け
「まァいい…あの傷ではどちらとも
万が一にも、助かるまい」
呟くと 興味を失い踵を返して
月詠を連れ去り…蜘蛛の一味が去っていく
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:皆して何か二つ名っぽいもんあるから
ブームか?って思い、ウチの子にもつけてました
銀時:いるかぁぁぁぁぁ!!
もうアイツ持ってんだろーがそれっぽいの!
狐狗狸:アレとは違って、正に"誰が呼んだか"
的な名前なんですよ今回のは〜
神楽:にしても微妙なネーミングアルなー
パッとしないけど一応由来教えろヨ
狐狗狸:"有守の亡霊"や"亡霊掃除屋"とか思考後
誰でも情無く"葬"る"亡霊"のような"者"
っつー意味合いでいいかなと結論ついてアレに
新八:だとしてもどんだけ中二病!?
てゆかいつから付いたモンなんですか
狐狗狸:その辺りは追々お教えします
日輪:…何にしても"亡霊"は付くんだね
狐狗狸:ウチの子に一番似合いそうなんで(笑)
瀕死の二人を助けたのは、意外な奴ら…?
様 読んでいただきありがとうございました!