すっかり昼間の装いに戻った三人は

作業の中心らしき場所を望める位置へ身を潜める





「面倒な猿芝居打ったってーのに、オレ達の
就職先はここじゃ末端中の末端の下請け会社に
過ぎなかったらしいぜ」


「そりゃそうじゃ かまぼこ強盗なんぞに
うつつをぬかす輩が何に使える」


かまぼこ?余程の食糧難なのか?」


「こっちの話だ、聞き流しとけ」


パタパタと手を振る銀時を尻目に





「だが どうにか糸は掴んだようじゃな」


コンテナに背を預けた月詠が、持っていた
折り畳み望遠鏡を組み立て


レンズを通して隙間から一人の人間を伺う





「大蜘蛛の巣につながる たった一本の糸が」


「なんだそりゃ…つか用意よ過ぎね?
オレにも貸してよ月詠ちゃーん」


「物を知らぬな銀時、ソレはきっとあの者
極秘に作った最新式の兵器に違…痛い


テメェは黙っとけ能面バカ
おーいオレにも貸して ねぇってばさ」







喧しい同胞を無視して彼女はピントを絞る





…と、男が急に笑みを浮かべて振り返った


まるで相手の視線に気付いたかのように











第三訓 絡まった糸は解くの超手間











「月詠殿っ!」


横手から飛んだ声と殺気に気付き


同時に顔から逸らした望遠鏡は
一本のクナイが突き刺さり


一拍遅れて 派手な破壊音が響く






間を置かず三人はその場から駆け出した





「マズイ、感づかれた!!


「オイオイウソだろ!?この人だかりの中
しかもあんなとこから」


「相手は手練、甘く見てはいかぬ!」





気付かれた驚愕と相手の力量、そして
微かな疑問が月詠の脳裏を駆け巡り







「…来るぞ!」


「あぁ?ってうぉぉぉ!!





身構えるの言葉通り、行く手から
刺青の男達が武器を手に群がり







たちまち三人は囲まれ 逃げ道を塞がれる





「蜘蛛の子がワラワラワラワラ 拉致があかねェ
だから蜘蛛は嫌いなんだよ!


「そうか?蜘蛛は刺して炙って食せば
そこそこ腹の足しになった、小さい頃は世話に」


「ここでゲテ食いカミングアウト!?
お前本気で空気読めぇぇぇ!!」






真顔の発言にツッコミを入れながらも
襲い来る男達を 一閃ずつで退ける二人へ





銀時、 わっちが時間を稼ぐ!!
その間にぬしらは吉原に戻って日輪と
百華にここの報を!!」


クナイを放ちつつ言う月詠だが、彼らは
頑として首を縦に振らない







「この件にぬしらを巻き込んだのはわっちじゃ
早くゆけ わっちも必ず後からゆく」


「いや月詠殿…悪いが元々私の仕事
お主らだけで行ってくれ」


「ワリーな別離(ワカレ)際に女が吐くたわ言は
真に受けねぇ事にしてるんだ…てーか
お前は余計に信用できるか歩く死亡フラ


言いかけた台詞の途中で彼女は一人
密集する敵陣へと突っ込んで行く





「って最後まで聞けよあのKYがっ!」


毒づきながらも 残った二人は
背中合わせで周囲の者達へ応対する





「わっちを女扱いするのはやめろ」


ケッ ぱふぱふ位でギャーギャー
喚いてた奴がぬかしやがるじゃねーか」


「アレはものの弾みじゃ、てゆうか
そう言うのとは全く違うと言うておろう」


「いや女ならあの反応は当たり前だから
多分、あのピーマン娘だって同じだと思うぜ」





呆れ交じりの言葉の応酬の末に







呟いた月詠の声音は、揺れていた





「お前とは対等な立場でいたいんじゃ
お前といると…決心が鈍る





自らの心と過去の決意との合間で、揺れていた





「これ以上 わっちの心をかき乱すな」





それが、一瞬彼女の反応を遅らせた


「よそ見してんじゃねェェェ!!」





短刀を大上段で振りかぶる敵の横っ面を
叩き落とした銀時の背後に







滲むようにして先程の男が現れる





「よそ見は お前さんの方さ





気配に気付いた銀時が防御の体勢を
取るよりも遥かに早く


打ち込まれたクナイが膝をつかせる





「「ぎっ…銀時ィィ!!」」


思わず叫んだ両者が反撃や接近を試みるも





「お前達は 黙っていろ」





無造作に振りかぶられたクナイが
彼女らの身体にも突き立てられた


「ぐっ…」


「月詠!」





傷口を押さえてうずくまる彼女へと
近寄る前に は蜘蛛達に押さえられる





月詠殿っ、くそっ…離せ貴様ら!!」


「うるせぇ黙れクソガキが!」





血に塗れて尚渾身の力で暴れる彼女も

それを殴りつける周囲にもまるで関心を示さずに







「…必ず来ると思っていたぞ」





男が見据えるのは月詠ただ一人





「美しくなったな見違える程に、だが…
その魂は、醜くなった 無残な程


「きっ…貴様…一体…誰じゃ」







問いに答えぬまま男は腕を伸ばし





銀時の喉を締め上げながら 側のコンテナへ
あらん限りの力で叩きつける






「ぐふっ!」


「銀時ィィィ!!」


「お前さんだろう、月を欠けさせたのは」


容赦なく喉元を締め上げながら
片手にトドメのクナイを用意して





「美しかったオレの月を汚したのは…
お前さんだろう」



殺気を乗せた笑みと共にそれを心臓目がけ
突きたてようとした 刹那





刺すような強烈な殺気が沸き起こり





『ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!?』


直後の濁った悲鳴に、弾かれたように
男が振り返って見たものは





取り押さえていた配下と周囲の者達の
両腕を全て一瞬にして泣き別れさせ


僅かな血飛沫を散らした槍の刃を

そちらに向けて睨み据えるの姿






「その手を離せ…
さもなくば八つ裂きにしてくれる」



「これは…面白い女が現れたものだ
だがお前の相手はこの男の後だ





再びトドメを刺さんと向き直るも


僅かに注意が逸れた隙を縫って銀時が

足に刺さったクナイで攻撃を防ぎ


次の瞬間 強い蹴りで男を吹き飛ばす





…が、相手はわざと飛ばされながら
取った距離を利用しクナイを投げる


それをかわした銀時が転がっていた木刀を
手にして 距離を詰めた相手の猛攻を弾く





対峙した両者は微かな傷を顔に負い


男が、薄く笑って口を開く





「…成程、その手負いでその身のこなし…
流石は鳳仙を倒しただけはあるな


「てめーは一体何者だァァ!!」







―――――――――――――――――――







時はこれより前後して、日輪の自宅にて





「…遅いなァ 銀さんと月詠姉と姉」





晴太の呟きをきっかけに 囲炉裏を囲む
三人も次々と言葉を零す





「何か変なことに巻き込まれてなきゃいいけど」


大丈夫アル 銀ちゃんも一緒ネ」


「銀さんが一緒だから心配な事もあるけどね」







そのまま済まなさそうに本日の成果を告げる
新八へ、"いいのよ"と笑いながら日輪は言う





「ホントはね麻薬云々なんかのことより
私はあの娘のことが心配だったのよ」


「ツッキーのことアルか」





神楽のつけたあだ名を気に入りつつ
彼女は月詠のことを語る





「あの娘…なんでも自分一人で背負い込んで
しまうタチだから いつも心配しているのよ」







人を護る事ばかりで自分は誰にも
護られようとしない その行動


一人で問題を抱え込んで考え込んで


自分の身を省みず無茶ばかりして
周囲に心配をかけぬよう動く…





そう続ける日輪へ二人はふっと笑いかける





「その気持ち、分かりますよ」


もツッキーとマジ
そっくりアルからな その辺りが」





昼間のやり取りを思い出し、親子は
クスリと小さく笑う





「そうね でもあなた達だけは違うの





見知った彼らの前でだけ、素の自分に戻り

女の子らしい顔になる月詠が見られる






だから、ヒマな時には会いに来て欲しいと
語る日輪に二人は口を開きかけ





「あの娘にはあなた達みたいな人が必要なの
…あの人がいなくなってしまった今では


その一言に 顔色を変えた





あの人…?あの人って誰ですか」





日輪の顔色が途端に暗く沈み、やがて
重く言葉を吐き出す


「昔…いたの、あの娘にも唯一頼れる人が







何があっても彼女を護り、月詠もまた
強く慕っていた相手がいた…


けれど彼が護っていたのは月詠ではなかった







苦い過去を連想させる口調に、おずおずと
新八が問いかける





「……誰なんですか、一体その人は」


「随一の腕を持ちながら咎によりお庭番衆を
追放され、吉原に落ち延びた忍


本当の名は誰も知らない…字名は…







――――――――――――――――――――







ひび割れた傷口から顔の皮を剥がす
男の下から現れた、醜き表


それを目にして三人は一様に固まり





「太陽のように人の上に輝けなくとも
人知れず地を照らす月の美しさを

オレだけは知っている」






長々と途切れる事無く語り続ける言葉が


月詠の記憶を、深く呼び覚ました





「そう…オレは護りにきたのさ
かつての美しい月を


「し……師匠!?





目の前に佇むは かつての彼女の師


初代百華頭領―地雷亜








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:バトル&シリアス展開突入です!
こっから流血とかグロとかバンバン増やして


銀時&新八:行くなぁぁぁ!(Wドロップキック)


狐狗狸:おうっふ!ちょ、場所と時空を越えて
シンクロしてるし!!


月詠:しかし…は幼い頃、どういう食生活を
してきたんじゃ?


狐狗狸:主に裏稼業で生計立てられるように
なるまでは半ば野生化してたんでしょうね


神楽:んなのどーでもいいネ、それより
肝心なのはアルよ!!


晴太:食べる気満々!?




かつての月詠の師が、牙を剥く…!


様 読んでいただきありがとうございました!