夜王・鳳仙の支配から解き放たれ、自由を
取り戻した吉原ではあったが


抑止力の消えた色町で犯罪が増加し
秩序が狂っていくのは自明の理





とりわけ自警団・百華を悩ますのは麻薬の売買





その麻薬取引の一切を取り仕切る一人の男の
正体を突き止め、捕まえて欲しい



日輪が彼らを呼んだ理由を平たく訳せば

概ねそんな形になるだろうか





「オィオィ、んなもんオレらよかアイツ
頼みゃ一発解決だろーが」





やる気なく頭を掻く銀時の言葉へ


それが…と彼女の声音が気まずげに濁る





「先にあの人にも頼んではいたけれども…
どうやら、返り討ちにあったらしいの」





途端 万事屋三人の目の色が変わる





「えぇっ…あの人が返り討ちに!?


「マジアルかその話!」





思わず身を乗り出す二人へ、月詠が
一つ頷いて続ける





「今の所は大事を取って休養しておるが
面が割れてしもうたからな…下手に動かせん」


「それでオレらが呼ばれたって事か?」


「理由の一つとしてはそうじゃ」







物騒な相手と事を構えるかもしれない状況
四人が口を閉ざして沈黙する











第ニ訓 蜘蛛の糸は思わぬ所にくっつく











その心中を悟ってか 煙をひと吐きしてから
月詠は努めて軽く二の句を告げる





「身構えんでもいい、今日の所はぬしらに
情報収集を頼むだけのつもりじゃ」


「あんたらがいれば心強いってこの子も
言ってるしね…頼めるかい?





迷いが切れたか、三人が
すかさず了承の意を表した





「出来る限りやってみます」


救世主の私達に任せとくネ!」


「日輪殿には所縁もあるし、月詠殿には
助けてもらった恩を返さねばな」







自然と視線が集まり 何も言わずにいた
銀時が渋々と言った様子で呟く





「ったく…やっぱり面倒ごとかよ」









「結果がどうあれ ある程度したら
ここに戻ってきてちょうだいね?」





送り出す日輪の笑みを背に、五人は
吉原から地上へと出る





「それじゃ僕らはその"羽柴藤之介"って
男の人の情報を探せばいいんですね?」


「んじゃいっちょいって来るかぱっつぁん」





意気揚々と拳を上げた神楽に釣られて
新八も街の人ごみへと紛れていく







「で、オレらはどうすりゃいいの?」


「わっちと共に動けばいいじゃろ…
はどうする?」





問われて彼女は平素の無表情を
まったく崩さぬそのままで


やや重々しげに口を開いた





「…先程の話 少しばかり心当たりが
ある故、そちらを当たる事にする」


「オイ心当たりって何…ってコラ
何サクサク行動してんの!?ねぇ待てって!





訝しげに訊ねる相手に答えず


"雷神"を背負う目立つ作務衣が
あっと言う間に遠ざかって消えていった





「…相変わらずあのピーマン娘はよぉ!
もうちょっと言葉足せっつーの!!」



「あやつはあやつなりに何か思う所が
あるのじゃろう…任せてやりなんし」


「え、何その妙な信頼感は…やっぱ
胸がデカイと器もデカくなるもんか?」


「どこを凝視しておる串刺されたいか」







とにもかくにも残った二人は


月詠が見た"蜘蛛の刺青"を頼りに





ちょっとしたTOLOVEるを
引き起こしつつも有力そうな手がかりの


"紅蜘蛛党"への潜入を果し







「…銀時 大丈夫なのか?」


「大丈夫だろ」


「いや、大丈夫じゃないだろうコレ」


「大丈夫だろ」





支給された黒いタイツに身を包み


ものすごい少数精鋭(はずれクジ)
麻薬班としてトラックに残り







月浮かぶ夜、どうにか倉庫へと辿りつく





「ここは…本当に麻薬倉庫かのぅ」


かまぼこ工場ってこたぁねーだろ、多分」





辺りを散策しようと動きかけた二人へ
同じ黒タイツの運転手が言う





「新入りども、テメーら何処行くんだ?」


「あっスイマセーンちょっと厠に…」


「嫁まで行く必要があんのか?」


「わっ…わっちも催したんじゃ」





やや頬を紅潮させる月詠の様子を


下世話な方へ受け取り、いやらしげな
笑みを浮かべて運転手は言う





「夫婦だけあってシモも一緒ってか?
まーいい、受け持ち説明すっからスグ戻れよ」





…早足でその場を離れる銀時には隣の人間による

"その面覚えんした…後に覚悟せぇ"


なんぞと小さくも物騒な呟きが聴こえていた







「蜘蛛の刺青が紅蜘蛛党以外にもこんなに…」


「どうやらあちこちから盗賊団やら
攘夷浪士やらが集まってるみたいだな」





物陰から様子を伺いつつ、動き回る男達の
身体の要所に蜘蛛の刺青を確認し


目当ての人物を探して移動していた二人は





進んだコンテナの曲がり角で
見知らぬ風体の三人とかち合った





「テメェら何処のもんだ?」


「そういうぬしらこそ、何者じゃ」


「すんまっせーん あの僕ら今日付けで
入社したものなんですけどぉ迷っちゃって」





誤魔化すように笑う銀時だが、逆に
相手は険を深めて短刀を構える





ここの組織の奴らか…見られたからにゃ
ちょいと眠ってもらおうかぃ」


「ちょお兄さん、いきなりドンパチは
マズくね?せめても少し話し合おう、なっ」





諌めんと声をかけるも聞く耳は持たれぬまま





「あの野郎のせいで殺られた頭の敵じゃ
邪魔するならテメェらから先、に゛っ」



気炎を上げて、今にも二人へと

襲い掛からんとしていた男の言葉が途切れ
次の瞬間 くたりと前のめりに倒れる





それが背後に突如現れた覆面姿の仕業

瞬時に気付くは、銀時と月詠のみ





「なっ、何だテメ」


「兄貴っ…テメェ何しやがっ」





刃の矛先を刹那に変えて憤る
二人組の二の句を遮るかのように


覆面は無造作に追撃を繰り出し


その一撃ずつで程なく三人を冷たい床へ
沈めると、チラリと残った二人を一瞥し





「その格好は変えた方がいい、ここでは
返って浮く…怪我せぬ内に引き返せ


それだけ呟いて踵を返し―





すっかり呆れ返った低い声がその背にぶつかる





おーいちゃん?何してやがんの
何ですかそのワザとらしい覆面」


「…私はだ」


「いやバレバレだから、そのダ作務衣
全てを台無しにしてるから」


銀時 それ以上ゆうてやるな
当人がそう言うならそうなんじゃろう」


「お前まであのバカの面子立てなくて
いーから…つーわけで覆面取れ」


「断る、いいから早く去れ…いいな」





にべ無く突き放し、再び背を向けた


音も無く迫った月詠がクナイを突き出し


槍とクナイの刃先が 互いの急所で
示し合わせたが如く寸止めされる






「なるほど…それなら有守流の使い手
聞き及ぶだけのモノがありんすな」





言いつつクナイを引いた月詠は
視線を外さぬまま相手へと続ける





殿、わっちはぬしと事は構えん
だがここにいる目的も察しはつくじゃろう


差し支えなくば…昼間に告げた心当たり
ぜひとも聞かせてくりゃれ」







考える間があって 槍を引いた彼女は
無言のままこくりと頷く





「ついでにその覆面も取れよ」


「…ならお主もその服を着替えろ」





銀時へ答えるその声音は、若干ながら
昼間の調子を取り戻していた







「最近の仕事で、ある組織に用心棒として
潜入し…活動していた」





受けた内容は簡潔にして明快





"麻薬の密売ルートの流れが
ある場所に集中している


それを取り仕切る存在を見極め

必要とあらば 命を奪え"







…正直、彼女などよりも適役が幾らでも
いそうな仕事ではあったが


要職の護衛などが多く重なり
手空きの手練がいないお鉢が廻ったらしい





「幾つもの組織の頭を潰し、壊滅せしめた
腕前ゆえ 慎重を期すべく傘下の仕事を
引き受けながら素性を探っていたのだが…」


「そこにわっちの頼みがかち合ったか
…こちらの世界も狭いもんじゃな」


「仕事って…麻薬運びじゃねぇよな?」


「…麻薬の横取りを狙う無謀な残党の
露払いだな、主に」





床に転がる男達へ向かう声と眼差しは
闇の住人に相応しい冷たさを孕んでいる





改めてその姿を目の当たりにして銀時は


"敵に回すと容赦ないコイツ"なんぞと
薄ら寒い気持ちを抱いていた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:散々悩みましたが、倉庫での合流で
いーんじゃね?って事で舞台は夜に


銀時:ざけんなゴラァ!ダ作務衣よりも
TOLOVEる優先しろよ、視点的によぉ!


新八:どんだけ目立つのに貪欲なんだアンタ!?


神楽:それより何で戦ったアルか?ツッキー


月詠:…アレは己の実力を見せつつ、相手を慮り
普段の調子へ戻す為にしたことじゃ


狐狗狸:ですね、あーでもしなきゃ多分
気絶させてでも止めてましたよ?ウチの子


銀時&新八:本気で容赦ねぇぇぇぇ!




潜入した三人だが、蜘蛛の巣にかかり…


様 読んでいただきありがとうございました!