仕組まれた事とは言え、この"仕事"
恩人に対する礼だと解釈したらしく





「まァいい ぬしにはどのみち礼をせねば
ならんかったのじゃ」





二人きりのシチュエーションに腹をくくり





「これで…気がすむんじゃろう」


「オレは悪代官かァァァァァァァ!?」


用意よく敷かれた床の間へ座した月詠へ
銀時のツッコミが飛んできた





「どんな礼の仕方しようとしてんだ!!
日輪がお前にそんな事させるワケねーだろ!!」



「でも しゃくだけでもしてこいと…」


しゃくってそっちのしゃくじゃねーよ!!

お前おぼこっぽく見えて意外に
くわしいのな!!流石は吉原の女な!!」







即座に覗き見襖サイドでも動きが現れた





「…すまぬ、しゃくとおぼこの意味が」


分かんなくていいですから!
むしろ知らないままでいて下さい頼みます!」





必死に弁明する新八へ日輪が異を唱える





「何言ってんだい、いい年した娘なら
いー加減その辺りはキッチリ教えるべきだよ」


姉ならガチで子供はコウノトリが〜
なんて信じてそうだしね」


「そうとも晴太、子供は夫婦が七夕に
コウノトリへ祈願して運ばれてくるのだぞ」


「え゛え゛え゛え゛え゛え゛!?」


「お前らうるさいアル」





小声ながらも場を台無しにしかねない
喧しさに神楽が眉を引きつらせる











第十三訓 酔った娘には勝てない、
どーしたって勝てない












…一方室内では、座敷の作法を知らず
自らの役目に惑う月詠へ





「色々あったが…今日は余計なこと
全部忘れて飲め それが今日のお前の仕事だ


気楽に過ごせるよう銀時が猪口へ酒を注ぐ





しばし手の中の猪口を見つめていたが


納得したらしく、彼女は酒を口へ運ぶ







その様子を 隙間から面々と共に眺め





「ああしてると本当に普通の女の子みたい

たまにはこうしてハメを外して
ゆっくり休めばいいのよ 月詠」





自愛に満ちた眼差しと言葉を日輪が漏らす







……それが正に惨事の始まりとは


一体誰が予測できたであろう?









「オイ てめーばっか飲んでねーで
オレにも酌しろよ」





不満たらたら手酌で飲んでいた銀時の目の前に





黙々と飲んでいた月詠が、猪口を差し出し


「つげ」


「……え?」





言われた言葉の意味が理解できず問うた直後





「酒が足んねーっつってんだ!
樽ごと持ってこんかいワリャァァァァァ!?」






片手に握り締めた酒瓶が銀時の頭に直撃し


瓶が割れた程の衝撃が、攻撃を食らった
当人だけでなく襖の後ろの者達にも走った






「誰エエエエエ!?アレェェェェ!?」





すっかり恐ろしい形相と化した月詠の姿は

誰もがそう叫ばずにいられないだろう





「おお、月詠殿がまるで別人の如く明るく」


「別人過ぎでしょ!
てか明るいって括りアレぇぇぇ!?」



空気読まない(レイガイ)は別として







猪口のただ一杯で何か大切なモノさえ
外れたらしい月詠の狂乱は止まらない





豪快に瓶で酒をラッパのみし


銀時を意味無く往復ビンタした挙句
無理矢理酒瓶口にぶち込んだり





あ゛ん!?てめェ私の敷居またいどいて
日が昇る前に帰れると思ってんのか!!」


「冗談ですよ〜勘弁してくださいよ
月詠太夫 朝までお供しますってば〜」





普段なら言いそうに無い罵詈雑言
オンパレードまで披露する傍若無人ぶりだ







「し…知らなかった、あの娘があんなに
お酒に弱かったなんて そういやこれまで
一度も飲ませた事なかったわ」


「…弱いってレベルじゃないですよ
アルコールから未知なる力を抽出してますよ」







一体どこまで暴走するのか、別の意味で
月詠から目が離せなくなった五人だが







「…ちょっとぉ!いいじゃないソレくらい
ここはそーいう場所なんだから!」


「いやいやいや、いくらなんでもココじゃ
マズイって!サイト消されるって!!


「そこは管理人が上手く誤魔化してくれれば
万事オッケーでしょ!?」






お向かいの座敷から唐突に上がった男女の声が
彼らの行動の邪魔をしてくる


ナニをしようとしてるかは…言わずもがな





「あーもーウゼェよ後ろのバカップル
覗きに集中できないアル、文句言ってくるヨ」


「ダメェェ!今行ったら絶対ヤバイって!
色んな意味でトラウマな光景になるから!!」



「……皆のもの、隠れるぞ!!」


「えっどうしたんですかさ…うわわっ!





只ならぬ気配を察したへ釣られて

慌てて廊下の角へ五人が身を隠した直後





間一髪のタイミングで襖が開き、月詠が
凶相をあらわに眼前の部屋へ進んで


小気味よい音さえ立てて襖を両側へ押し退ける





「さっきっからギャースカやかましいんじゃい!
黙ってちちくり合えんのかいワリャア!!」








まさかの乱入とすっかり様変わりした月詠に
驚いて言葉も無いカップルを眺め





「そー言えばお前にも世話ンなったなぁぁ…
ついでじゃ、一緒に遊ばんかィィィ!


「え、ちょ月詠いや月詠さん 俺には
本当お構いなくて構わないからぁぁぁ!?


「ああっあの月詠さん、彼には私が…!」





侍っていた太夫姿の"彼女"が止めるのも構わず





あん?じゃお前もついでに来いやぁぁぁ!」


「えっちょっと月詠さ…キャアアッ!?


むしろ"彼女"ごと金髪の男を引きずって
月詠は元いた部屋へと戻って襖を閉める







そして問答無用の"あっちむいてホイ"が

男一人追加で開始されたのだが…





「あっちむいてホイぃぃぃ!!」


「太夫コレもう既に罰になってるぅぅ!!」


指差した方向に思い切り銀時の横面張ったり





「あっちむいてホイぁぁぁぁ!!」


「ちょっと待って太ゆぶべべべべべ!


隣の彼が指差し所か実質往復ビンタ食らったり





「あっちむいてホイ!!」


「太夫勝っても結局コレ、オレ負けてるぅ!!」


顔上げたまま手の指へし折られたりと

もはや暴君も真っ青の暴れぶりである







「両方とも大変だな」


「空気読め、大変どころじゃねーヨ!
ぶっちゃけもう拷問に近いアル!!」


「いや拷問ならあんなものでは」


「言わないで!それだけは言わないで!
規約的に色々引っかかるからぁぁぁぁぁ!!」



「フフ…月詠ったらホントに楽しそう
ああしてると本当にただの女の子みたいね」


「どこがァァァ!?」





襖一枚を挟んで、室内も廊下も大騒ぎ





だが覗き見していた五人が悠長に
構えていられたのもそれまでだった







「オイそこの隠れてる奴等もこっちに来い!
3秒以内に来ないと殺すから ハイ1、2…」






あからさまにこちらへ向けて宣言した月詠に


室内へ入らざるを得なくなり、全員が
おっかなびっくり現れる





「よーしよし…ん?何だ無表情な女だなぁ〜
一杯やって顔面の筋肉緩めてけぇ!」


「すまぬが未成年の飲酒はい…むご!?


「あん?アタイの酒を断るたぁ
いい度胸じゃワリャァァァァァァ!!」



『太夫!その量一気は死ぬ!
(さん・ちゃん)アル中で死んじゃう!!』






クワトロツッコミもオール無視で酒瓶一升が
無理矢理乾させられていく





強制的に飲まされたとて酒癖は
良い方といえな…否、むしろ悪かった


「兄上ェェェェェ!」


だから違うってばぁぁぁぁぁ!
どこ抱きついてんだ頼むからよく見ろ俺を!」


「ヒック!何らぁ?今度はお主までたばかるか!
いい加減にせぬか全く…ねぇ兄上

ってアレ?兄上が二人もおりゃれる〜」


「ホントッ頼むから姉ぇまでこれ以上
騒動を増やさないでぇぇぇぇ!」






片っ端から抱きつかれたり兄に間違われる
男性陣がより一層顔を引きつらせ





アーッハッハッハ愉快愉快ぃぃぃ!
じゃ宣言通りカルタやるぞ、お手つきしたら
一枚を没収なお前らぁ!」


『だからフェアと言う字辞書で引いて!
大きく丸書いて太夫ぅぅぅ!!』






果ての無い"狂"宴は全員が酔い潰れて
座敷の畳に寝転がるまで続いていた











「うーん…もう…飲め…ない…」







…皆が寝静まる薄闇の中、静かに起き出し

部屋を出ようとする彼女の背に





「見廻りか」





いつの間にか起きていた銀時の声がぶつかる


「結局変わりゃしねーんだな お前は」





両腕を頭で組み、片足を上げて寝転ぶ彼へ
振り向かぬまま月詠は訊ねる





「もし…この傷がなかったら わっちは…
もっと別の生き方をしていたのかのう」







僅かに間を置いて 答えが返る





変わりゃしねーだろ


…それが自分(てめー)が選んだ
自分(てめー)らしい生き方って奴なんだろ」





頬の傷へ手を当てたままの相手へ





「後悔する必要も恥じる必要もねェ

誰でもねェ 自分自身で選んだ道だ
胸張って歩けばいい」





天井を眺めたそのままで、低く銀時が諭す





「てめーのツラは醜くなんかねェよ…

傷一つねェ魂持った キレーな顔(ツラ)だ







その言葉は 真っ直ぐと心まで届いた







「…お前達に会えて……良かった」





振り返り…月明かりに映える笑みを
見せた月詠へ、起き上がらず無言のまま


しっかりと手を挙げ "五人"が返した





仲間達の繋がりに満足し…


月を背に、月詠は吉原の番人として
笑みを携え歩んでゆく








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:あの人匿名でケンカ売りつつ進めた
紅蜘蛛篇も、無事に終了の運びとなりました


全員:ありがとうございました〜!!


晴太:姉も酒グセ悪かったんだね…


狐狗狸:月詠さん程じゃ無いがどっこいで弱いね


神楽:そこもツッキーと同じて言い張るアルか
図々しいネ、バ管理人の分際で


新八:神楽ちゃん毎度言い過ぎだからソレ
…てゆーかあの人らも何しようとしてんですか


日輪:そいつぁ聞くだけ野暮ってモンだよ
今度 あの子にもしっかり知識つけるかね


狐狗狸:いやそれお兄さんがやるんでいいです!


銀時:ラスト後書きで主演のオレらハブたぁ
ズイブン偉くなったなぁバ管理人?


狐狗狸:イダダダダダ!頭掴まんで中身出るっ!


月詠:銀時、その辺にしといてやれ
次の作品が書けなくなりんしたらどうする




ひたすら謝罪モノな改変入れた長編に
お付き合いいただき ありがとうございました!


次回は…気が向けば八月末〜九月上旬?
(注:アテにしないで下さい)


様 読んでいただきありがとうございました!