着替えを終え、普段の調子を取り戻した
月詠は自室にて四人と対峙する





「色々気をつかわせてしまったようじゃな
すまぬ 余計な心配ばかりかけて」


含んだ煙管の煙を吐き出し彼女は言う





「だがこの通りわっちは元気じゃ
心配はいらんぞ」








ソレに対して答えるのは銀時だが





あり余ってるみたいだね〜元気
ホント何よりだわ〜それが何よりだわ〜」


両隣の神楽と新八からの視線を受けながら


先程のやり取りでズタボロになった顔を
若干怒りに引きつらせての返答だ





「アレは流石に失礼極まりなかろう
怒られて当然と思うg…イダダダダダ


「掴むトコのねぇテメェは黙っとけ!」





神楽の隣に座していたへ腕が伸ばされ


頭を脇の辺りでガッチリホールドされて

握り拳を擦りつけ気味に捻じ込まれた





聞き分けのない小学生男子に対して

父親や血の気の多めな母親なんかが行う


"グリグリ攻撃"的なアレを想像して欲しい











第十二訓 仕事バカは打ち解け下手











ヤーメロやぁのピーマン頭
それ以上スッカラカンにする気アルか!」





もはや日常的な暴力シーンを
敢えてスルーし、新八は月詠へ問いかける





「あのォ…部屋から出てこない位
落ち込こんでるって聞いてたんですけど」


「…うむ、少々傷を負っていたのでな
これで働くといえば日輪がうるさい」


言いつつ彼女は目下の畳の淵へ手をかけると





「芝居をうって 部屋で寝ている振りをして
抜け穴から外に出ていたのだ」


一気に引き上げ 大きな"抜け穴"を晒す





えっ!?あんな事があった後も
働いてたんですか!?あんな身体で!?」


当たり前じゃ 吉原がこれだけ打撃を
受けたというのにケガ位で休んでいられるか」





あの一件を経て、麻薬は影を潜めたといえ


治安はいまだいいと言えないのが吉原の現状


故に守護者である月詠は立ち止まる事を
敢えてせずに仕事へと繰り出していると言う







「まァそのせいで日輪達にはいらぬ心配を
かけてしまったようじゃ…」





傷を完治させた健常な自分を外や周囲へ
示して安心させよう、と立ち上がりかけ







不安げなの声が待ったをかけた





「お主のその勤勉さには頭が下がるが…
少しばかり身を休めてはどうだろうか?」


「そうアル、この際アイツにその辺任して
たまにはゴロゴロしてもバチは当たんないネ」





続く神楽の発言に しかし彼女は
ゆるりと首を横に振る





いや ぬしらには色々迷惑をかけている
…これ以上甘えるわけにはいかん


特にあの男には吉原の復興も手伝うて
もらっておるから、余計な負担はかけられん」





かける言葉を失った四人へ立ち上がり様


彼らの気遣いに対する労いと、自らに
休暇は必要ないとの意思を告げ






「わっちはもう大丈夫じゃ
色々…ありがとうな」



優しげな笑みを薄く浮かべて





「忙しくて今は無理じゃが ぬしらには
いずれ改めて礼をさせてもらう」





それきり振り返らぬまま部屋の襖を空け

月詠は外へと出て行った







三人は心配げでありながら、腑に落ちない
言いたげな表情を各々浮かべる





…銀時だけは相変わらずやる気無く
右手の小指で鼻をほじくっているようだが







「…月詠さん……なんにも変わりませんね」


無念さを交えた新八の一言へ答えるように





晴太に押され、車椅子に座した日輪が
襖の陰から現れる





「相変わらず弱味をなかなか人に
見せない奴だよ…つくづく不器用な娘だね





溜息さえ聞こえそうな呟きに触発され





「あんな事があったから 少しは
変わると思ったのに…

人間そうそう変わらないものアルな」


「…神楽、何故私を見るのだ?」





腕を組んだ神楽が言い、最後の言葉の辺りで
ちらりと隣の無表情を見やる







そこでようやく銀時が閉ざしていた口を開く





本当に苦しい時は言ってくれるさ 奴ァ
人よりそれをギリギリまでしない奴なんだよ」


「んなこと言ったって銀さん
要するにそれってムリしてるって事でしょ」


「ほっとけ、オレ達に出来る事はもう何もねーよ」





素っ気無く言い放ち 彼は腰を上げた





「銀時 どこへ行くのだ?」


「だぁーから言ったろ、オレぁパチンコ
行きてぇんだっつの…じゃな」





片手を上げ、日輪の横を擦り抜けて







店から出てきた辺りで銀時は

見慣れた金髪の青年と顔を合わせた





よぉ銀さん どうした浮かない面して」


「あんだよ、今頃来たのかテメェ」


「あのな俺だって色々忙しかったんだよ

…そう言えばさっき月詠と擦れ違ったんだが
アイツ、もう大丈夫なのか?」





どうやらここへ来る途中、出てきた月詠と
入れ替わりになっていたらしい





訝しげに眉根を寄せる彼へ返って来たのは


言葉でなく、やや力のこもったラリアット


「イダダダダダ!ちょっ何すんだよ!」


「いーからちっとパチンコ付き合え
どーせこの後ヒマだろテメェ」


イヤだよ!てゆうか俺まだやる事あんだって!
日輪さんに挨拶だけしに来たんだってば!」





抗議をするが 全くといって腕の力は緩まない





「これ以上働き過ぎたら身体に毒だろ?
オメーもたまにゃ休むべきなんだよ」


「いやまぁ、だとしても時と場合ってもんが…」


「つーワケでパチンコの資金サポート
よろしく英雄さんよ」


「って財布扱いじゃねぇか!
どこのチンピラだアンタぁぁぁぁぁ!!」






強制連行される彼の絶叫が、吉原の空に響いた











…パチンコ屋にてお供(と言う名目の財布)を
引きつれ意気揚々と挑んだ銀時であったが





まさかの呼び出しがかかり、これ幸い
抜け出した彼の離脱と同時に


割合好調だった出球も泣かず飛ばずとなり





敢え無く普段通り素寒貧となったのだった







そんな失意の底にいた彼へ折り良く

吉原から"タダでお酒を振舞う"とのお誘いが





無論、一も二も無く銀時は承知し







「ちょっと待て栗拾いはマズイだろォォォ!!

モンブランとか作っちゃうよオレ!!
栗ごはんとかも炊いちゃうよオレいいの!?」



構いませんよ 存分に楽しんでいってください」


「すいません何か困った事があったらまた
いつでも呼んで いつでも飛んでくるからオレ
いつでも栗ごはん炊くから







大勢の遊女達に、下にも置かぬ扱いでもてなされ





ある遊郭の 座敷の一室へと通された







「い…いらっしゃいませェ」


既にその部屋には、畳に三つ指ついて
待ち構えている遊女がいて





「あっどうもどうも」


言いながら彼女の前まで進み出て…





銀時の表情が強張った







死神太夫 月詠でありんす
どうぞよしなっ…」





伏せていた顔を上げ、遊女―月詠も同じく
そのままの状態で硬直する







何ともいえない気まずい沈黙が流れ…





「チェーンジぃぃぃぃぃぃ!!

チェンジお願いします
もっと愛想がいい娘にィィ!!」






死んだ魚の目をこれ以上無い位かっ開き


腹の底…否、魂の底からの叫び
銀時の口腔から響き渡った





「…オイ コレはどういう事じゃ
なんでぬしがこんな所におる!」


「そりゃこっちのセリフだ!」







浮かんでいた血管を収めて語る月詠によれば





"大層な上客が来る大事な仕事だから"


復旧作業で手の回らない遊女達の変わりに
酌だけでも務めて欲しい、と


日輪に頼まれたのだとか







一通りの事情を聞き、銀時は右手で思わず
顔を隠すようにして頭を抱える


「ア…アイツら…ハメやがったな」





自分へのサービスではなく、月詠の
リフレッシュの為に担ぎ出されたと気付き


彼が背後の襖へ鋭い一瞥を投げて寄越すと


ガタリ…と僅かに開いた襖が揺れた





そこには襖に張り付くようにして


新八と神楽、に日輪と晴太の五人が
揃って内部の様子を覗いていたのだった






「ぬ、気付かれた…?」


「銀さん勘づいちゃったみたいですよ
ごめんなさい銀さん」







月詠が休めと言われて休む娘ではないと

理解しているからこそ せめて"仕事"という
名目をつけてでもハメを外させよう





…日輪を筆頭にそう考えた五人は


どうにか二人がこういう状況に身を置くよう

それぞれ工夫して取り計らったらしい







「え…は…なっ何だってぇぇぇぇ…!?





と、信頼を込めて見やっていた面々の後ろから
出し抜けに妙な声が上がった





「晴太…今のはひょっとして」


「あ、気付いた姉?向かいの座敷にいんの
兄貴と彼女のあの人だよ!」


「ってあの人達もいるんですか!?」


この所仕事で疲れてる英雄さんを元気付けたい
って、あの娘にも頼まれちゃってね」


「堂々と遊女プレイってどんだけバカップルね」


「遊女プレイとは一体「聞かないで下さい!」





とはいえそちらは恋人同士なのでさして懸念されず


目下の所、五人の関心は月詠のリフレッシュ
向いてゆく事になるのだった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:はい、お膳立てが整いました!
次回は月詠さん乱心モードでお送りしまーす


銀時:全然上手くねーんだよ!毎回下らねぇトコ
引き伸ばしてグダグダで終わらせてんだろが!
毎度整ってねーだろがぁぁ!!


狐狗狸:うっさい!私も数秒ですっきりオチが
整えられたら苦労しねーっつの!!


新八:何の話してんだアンタらァァァァァ!!


神楽:それとツッキーの暴れ振りは
乱心どころじゃないネ、ぶっちゃけ乱/神


新八:別のジャンルから持ってくるなァァァ!
下手に検索引っかかったらどーすんの!?


銀時:つーか神楽ちゅわぁん?遊女プレイなんて
やらしい言葉いつ覚えたコラァ


神楽:聞き流すヨロシ、そして忘れたネ


狐狗狸:それあの人のセリフじゃん!




次回 宴と共に、吉原の話は幕を閉じる…


様 読んでいただきありがとうございました!