その日、吉原を包み込んだ大火災


自警団百華と新八に神楽 それと
一人の英雄のお陰でどうにか事無きを得た





息を引き取った地雷亜も丁重に弔われ





同時に、蜘蛛の刺青の一団も壊滅


一団が率いていた麻薬の流通は

ぴたりとそれから成りを潜めた







…数日後、金槌を振るう職人や女郎が
忙しなく動く吉原桃源郷にて





「これなら元の街に戻る日も遠くない
…兄上も、安心して働けるな」


面に合わぬ明るい声音で言いながら

それなりに人でごった返す路地を歩く


黒無地の作務衣 その両袖と背に
白い"雷神"を背負った少女へ





音もなく端から歩み寄る男が、一人





おい…テメェ怪我はどうした?」


「全蔵殿か、こんにちは」


「いや挨拶も大事だが質問答えろとりあえず」


並べ立てられたツッコミに内心で
"それもそうか"なぞと頷きながら少女は


足を止めない相手と並びつ答える











第十一訓 シリアスより日常のがある意味
奇想天外でスリリングなのかも












「大した傷でもなし、銀時達も月詠殿の様子を
見に行くと聞いた故来たまで…お主は?」


もらったVIP券使うだけですが何か?
つかお前さぁ気にいってんの?そのダ作務衣」


「無論だ、余所行きに選んだ故」





平素の無表情を変えぬに、全蔵は
頭を掻いたまま溜息を一つ





「…闇の住人がそんな目立つモン着んなよ
つーか恥ずいから隣に来んなマジで」


「お主も銀時と同じ事を言うのだな」


「ちょ、ジャンプ侍と一緒にすんなよ!
アレと同列ってスッゲー迷惑なんですけど!?」






そこまで嫌悪する程のモノかと思いながらも


面倒なので、彼女は敢えてそこでは
言葉を胸の裡にしまい込む





「…聞いた話じゃ、ここの復興と治安維持に
ライバル兵士も駆け回ってるらしいぜ?」





どこまでいいカッコしぃなんだ、と
呆れ交じりの呟きを横に 答えが返る


「そうか…あの者には色々と苦労をかけるな」


「あーそうだ、今更だけど言っとくわ」





見上げる緑眼に向けて

やや諦観(あきらめ)交じりの一声が降りる





「死ぬのはいいけど オレの目の届くトコで
くたばんのは勘弁してくんない?」


「善処する…私とて死ぬのは避けたい」


「何だよ お前でもソレはやっぱ怖ぇの?」


単に嫌なだけだ、誰かを失う事に
比べればマシだが」





ああそう、と素っ気無い返答をする相手を眺め


はふっと一つの事を思い立つ





「そうだ…すっかり言いそびれておった」


「あん?」


立ち止まり、顔を半分隠す前髪越しからの
いぶかしげな視線を寄越す全蔵に向けられた





「助けてくれて、ありがとう」





主語の無い ごく単純な一言についたのは


とても大きな感謝の意と


誰が見ても"笑顔"だと言えそうな表情








口を半開きにして固まっていた数瞬の後





乗せた手で黒い頭をひとつ乱暴に掻き撫でると





「…ホント人の調子狂わす天才だわお前」





ぼそり小さく呟き、彼はあっという間

人込みに紛れて消えていく







去り際の言葉に首を傾げるの背を





張り倒さんばかりの勢いで誰かがどつく





「ぬぉあっ!?」





とっさに受身を取って、立ち上がり様に
振り返れば そこにいたのは神楽だった


「あ、やっぱりアル!」


「ちょっと神楽ちゃん危ないでしょ!
もし人違いだったら大事だよ!?」


「大丈夫だって新八ぃ、こんなダ作務衣
ピーマン娘しか着ねェから」





後方からほどなく、新八と銀時も近づいてくる





おお ちょうどよい所で合流出来たな」


「この人込みん中でも見つけられるって
案外便利だな そのダ作務衣」


「割と遠くからでも目立ってたネ」


「役に立つなら何よりだ」


「いやさん、褒めてませんからソレ」





他愛の無い会話とツッコミを合間に挟み

彼らは、馴染みの茶屋へと向かう









「みんなの協力のおかげだよ

被害を最小限に食い止められたのも
奇跡的に死者を一人も出さなかったのも」






店先に座る四人と晴太にそう語りかける
車椅子姿の日輪は普段と変わりなく


…むしろ、心持ち明るく振舞っている





「晴太、アイツはどうしたアルか?」


「兄貴だったら 仕事がひと段落ついたら
こっちに顔出しに来るってさ」


「ったくアイツ名前出ねぇクセに、本当
どこまでいいカッコがしてェんだか」


「…それ、全蔵殿も言っておったぞ
思考が似ておるのか?」


「は?あんなヘタレ痔忍者とオレとを
同一扱いすんじゃねーよKY娘が」






苦々しい嫌悪っぷりは、先程彼女が
目にしたものとぶっちゃけ全く同じだった





「ああ、あの忍者さんにもお礼を
言わなきゃね また来るかしら」


「そこらへんのブス専キャバクラで
飲んでんじゃね?」



「おお!やはりお主ら思考が似て…痛っ


ケッ、やっぱ男ってのはコレだから」


「まぁまぁ…それにしても月詠さんの様子は
どうなんですか、あれから」





向き直り訊ねる新八へ、苦笑交じりに
返す日輪によれば





当人の身体の傷は 既に癒えたようだが


心に負った傷は…それよりも重く

あれ以来ずっと部屋で塞ぎこんでいるらしい





特に事件の発端に自らの存在
深く関わっていたせいか その事にいまだ
責任を感じているとのこと







「ツッキーのせいじゃないのに…
ちょっといってなぐさめてくるアルか」


ほっとけほっとけ、今迄働きづめだったんだ
たまにゃサボりてんだろ」


「…本当に、それでいいのだろうか」





やる気なく答えた銀時の台詞に反応してか


それとも余計不安げな神楽や
見かねてかは定かではないが





一つの案を思いつき 新八が"そうだ"と掌を打つ





「せっかく休みなんだし、月詠さん外に遊びに
連れ出してあげましょうよ!」


いい気分転換になる、と繋げる彼の言葉に

周囲の表情も釣られて明るくなる





「何メンドくさい事提案してんのお前
嫌だよ オレこれからパチンコいくんだから」


ただ一人、銀時だけは気だるげに否定するが
そうは問屋が卸さない





いい案ね お願いあの娘働きづめでロクに
地上に出た事もないの スカッとする所に
案内してあげて」


ねぇ日輪さん人の話きいてる?
アンタさぁさり気に人使い荒いよね
結構グイグイ頼み事してくるよね?」


「生憎私は場所に疎いが、月詠殿の気分を
晴らす為にぜひ全力を尽くさせてもらおう」


「オメーはいい加減空気を読めぇ!オレが
どんだけ渋ってんのか分かんないかな!?」



「銀さん 頼むから協力しておくれよ〜
今度オイラの店の商品割引するから」


「いるかあんなモザイクだらけのシロモン!
置き場所に困るだろうがァァァ!!」






日輪の台詞を皮切りにドンドン会話は進行し





「グダグダ言ってないで協力するヨロシ
このヘタレ甲斐性ナシダメ天パが


業を煮やした神楽が半ば無理矢理
銀時の襟首掴んで引っ立てる形で


四人が月詠をお誘いする段取りへと落ち着いた







「月詠ちゃ〜〜ん あ〜そ〜ぼ!!」


「オイ起きろコラ、パチンコいくぞ

オメ結構タメこんでんだろ全部パーと
使ってやっからよォ」






…が、部屋の襖にいくら声をかけてみても

返事どころか物音一つない





「アレ…いないのかな」


「ツッキー部屋で寝てるって言ってたアル」


「しかし、気配が無さ過ぎる気もするのだが」


「もういいだろ ほっとけ





不思議そうに首を傾げる三人へ早々に背を向け


パチンコのハンドルを捻る手つき
空を掻きつつ、楽しげに目を閉じ銀時は言う





「オレァもう行くぜ 今日はなんか
出そうな気がすんだよね」







そんなダメ人間の様子を冷めた目で一瞥し
視線を逸らす二人の横で





「あ、待て銀と」


いち早く廊下から歩いてくる相手に
気付いたが声を上げるが…遅かった





空を掻いてた銀時の右手がある擬音
聞こえるほど、思い切りあるものを鷲掴みする





……湯上りで戻ったらしき 月詠の胸を







目の前で起きた現象に当事者二人と周囲が
しばし硬直し―







「何さらしとんじゃぁぁぁ!!」


怒号ともんのすんごい打撃音が廊下中に響き渡る





「…月詠殿に忠告すべきだったか」


「いや、今のは百パー銀ちゃんの過失
が気に病むこと無いアルよ」


「あの月詠さん、もうその辺で勘弁して
あげてください 多分悪気は無いと思うんで」





仲介に入った新八によって銀時に振るわれる
拳と足蹴りの嵐はようやく止まった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:予想より長くなった後日談…つーか
まとめが始まりまーす


銀時:長くなったのは本来出番じゃねぇ奴ら
出張ってるからじゃねーかよ!


狐狗狸:まぁあの人は展開に絡むからアレとして
服部さんはこっからもう出ないから許してちょ


全蔵:え゛!?(それなりにショック顔)


神楽:痔忍者はどーでもいいアル、アイツ
削ってでも私の出番増やせよ


新八:ちょちょちょっと神楽ちゃん!
二人とも活躍してくれたんだしソレは言いすぎ…


銀時:つーかかなり遅れた意見だけどよ
せめて三途行きを日課から週一くらいに
少し減らしてやれば?マジいつか死ぬぞアレ


狐狗狸:歩く死亡フラグだからソレは無理♪


新八:鬼だなアンタ!




…キャラいじりは私なりの愛です
ファンの方々、毎度毎度ほんとスイマセン


彼女の憂いを晴らす為 講じられた策とは?


様 読んでいただきありがとうございました!