天を取り戻した街に歪な蜘蛛が舞い戻る


罠だらけの巣に月騒ぎ
赤き火花がちりりと上がる





這い出てくるは鬼か蛇か

それとも死を狩る亡霊か







曇る日月を晴らしてみしょう


魂に焔宿し いざ英雄駆けん





―噺の顛末を知るは、闇のみ











第一訓 迷信じゃ夜の蜘蛛は親でも殺すとか











遥か高い虚空に浮かぶ見事な満月を仰ぎ





「収穫なしか…やはり月詠が言う通り
一筋縄ではいかないようだな」





軽いため息をつき、人も疎らな色町を
歩いているのは一人の若者


彼は かつて闇に閉ざされていた吉原に
二つ目の"太陽"をもたらした者の一人だ







「麻薬取引の元締めを捕まえて
もらいたいんだけど…頼めるかぃ?」


先日、そう頼んだのはこの吉原では
"太陽"と名高い花魁の日輪太夫





お安いご用さ、俺達の仕事は世界を
平和に導くことだ…麻薬犯など軽いもんさ」





ニコリと笑い、立ち上がる彼へ





「待ちなんし」


声をかけるのは…壁に寄りかかり
キセルを咥えたままの月詠





「奴を甘く見てはいかん 少なくとも
ぬしが考えている以上に厄介な男じゃ」


「忠告はありがたく受け取っておくが
俺とてそう簡単にドジは踏まんさ」


「頼もしいわね…頼んだわよ、英雄さん?







その一声を背に調査を始めてみたものの





相手の行方や素性を突き止める事が
思ったよりも、難航していた





「まぁ今日はここで引き上げるとするか…」





もう一度ため息をつき、月詠と合流すべく
彼は一歩足を踏み出して







背後から強い衝撃を受けた







肩越しに振り返れば…蒼い瞳に
先程までいなかった男の姿が移る





「な…っ、いつの間に…!





抵抗するべく態勢を整えるより早く


容赦ない男の追撃が、彼の金髪に
赤い飛沫を張り付かせる






「兄ちゃん、麻薬嗅ぐ時は後ろに注意しないと
いけないよ…蜘蛛に襲われるかもしれないからな





低い声でにやりと笑った男の首に

蜘蛛の形のアザを目にして






「お…お前、は…!」





気を失い彼は 血溜まりへと沈んでいった









がやがやと活気付いていく地下の色町で





「ツッキー達に会いに行くのも久々アルな」


「ったく、アホジジィの戦争ごっこ片付けて
映画公開控えた矢先に何だってんだ」


「いやあの銀さん その辺オフレコ
お願いしますよ内輪関係だし」





軽口を叩きあいながら路地を行く
万事屋トリオに、すっと一人の少女が歩み寄る





「しかし日輪殿は話があると申していたが
…一体どのような用向きであろうな」


「あ、さん来てたんです、か…」


親しげに口を開く新八の表情が固まる





「どうしたアルかその服」


遠慮なく神楽が指差し言及するのは
彼女が着用している作務衣について





黒一色の中 袖に浮かぶ白色の雷神二体と


背に綴られた同色の"雷神"二文字が
くっきりと目立っているソレ





たまに寄越される道行く人の物珍しい視線
ものともせず、無表情で答えが返る





「新しく降ろした」


「ダサッ…うっわ恥ずかしい離れて歩けよ
何その作務衣、お前のセンス疑うわー」


「失礼な 余所行きにと選んだのだぞ」


「ちょ、それおめかし!?精一杯の
おめかしがダサTならぬダ作務衣!?」






ありえねぇ、と言いたげな引きつり顔に


背を叩いた神楽が小バカにした笑みと
共にゆるく首を横へと振る





「銀ちゃん コイツに女らしさを
期待する方が間違ってるネ」


「テメェだって似たようなモンじゃねぇか」


微妙に血管浮かせる銀時に構わず


新八は彼女へ顔を向けて訊ねる





「あの…それ、ご自分で買ったんですか?」





センスはともあれ、目の前の相手が自らを
着飾る行為に執着がないのは承知していたため


敢えてその手の行動を起こさせた
動機が少しだけ、気になったのだろう





「最近少し仕事が立て込んでいたゆえ
己が気を引き締めるついでに、な」







答える表情は変わらず硬く何の感情も
読み取れはしないが





発される声音には僅かに柔らかさが滲み


己の元気な姿を見せ相手を安心させようと
考える、本人なりの気遣いが感じられて





「…ああそう」





聞いていないようで聞いていたらしい
銀時が呟き 微かに口の端を吊り上げる







ほどなく知った店先で車椅子の日輪と
晴太が、満面の笑みで四人を出迎える





「待ってたよ 吉原の救世主様方?」


「銀さん!みんな久しぶり!」





久しいながらも溌剌としている顔ぶれに
一様に安心しながらも


一人足りないことに気付き、彼女は問う





「ん?月詠殿は?」


「そろそろ来ると思うんだけどね…
って、姉のその服ダサくない?」


「こら晴太」


「やっぱそう思うよな〜大体背中に漢字の
バックプリントって何処の外人だよ」


「ちょ、今更その辺蒸し返さなくたって
いいでしょうに本人の趣味なんだし!」


アレを選ぶセンスは逆に心配アル」





微妙に茶化されてる空気は伝わったらしく


話題にされている当人は眉一つ動かさぬまま
片袖を摘み、首を傾げる





「むぅ…意外といいと思うたのだが
私には似合わぬ真似だったか」


「そうでもない、案外似合うておるぞ





肯定するのは ひょいと現れた月詠





「おおそうか…久方振りだな」


「あ、こんにちは月詠さん」


「元気だったアルか!」





好意的な第一声を受け取り頷く彼女の目が
最後に銀時へと止まる





同時にひどく淡々とした再会の挨拶が
相手の口から放たれる





「…なんだ相変わらず変わり映えのしねぇ
殺風景な奴だな」


「相変わらず変わり映えのしない
焼け野原みたいな奴じゃな」


「オイどーいう意味だソレ まさか
オレの頭のこと言ってんじゃねーだろーな」



「ちょっと久し振りに会ったんだから
ケンカやめてくださいよ」


「まぁいいではないか…それより
月詠殿も変わらず元気そうで何よりだ」


「…そう言うぬしも、相変わらず兄とは
仲が良いようで何よりじゃな」





表情を変えぬまま言葉を交わす両者を見つめ





ふい、と思ったことが口から出る晴太


「月詠姉と姉ってさ、似てるよね?」


「「そうか?」」


「晴太よぉ…一緒にしたら失礼だろ月詠に」


えぇっ!?てか頷いてるけど
いいのかアンタそれで!?」


「確かに、言われて見ればあんた達
雰囲気とかそこはかとなく似てるかもね」





微笑む日輪の言に、すかさず月詠が反論する





「いや…わっちよりの方が
女子らしいのではないのか?」


そんな事はない!月詠殿の方が
私なぞより美しい、兄上には劣るが」


「…確かに銀ちゃんの言う通りアル」


「だろ、月詠のが空気読めっし
胸デケェしピーマン兄バカジャバラァァァ!


「兄上を侮辱すると許さぬぞ」


「空気と胸はいいの!?」





瞬間的な槍底攻撃がヒットし悶える銀時へ
放たれた一言へ、新八はツッコんだ





「ハハ、じゃあ皆揃った所で楽しく…」


「ちょっと悪いけど晴太 席を外して
もらえないか」





母親の一言に、たちまち子供らしいその顔へ
不満がありありと浮かんでくる





「ちょっと待ってオイラまだ二言三言しか
セリフしゃべってないよ コレで退場!?


「元気な姿見せれただけでも良かったアル」


「そんなァ〜!」





無念そうに渋る晴太は月詠によって
一時的に部屋の奥へと移動させられていった







「オイオイ勘弁してくれよ、オレ今日は
完全にオフモードで来てるんだけど」





面倒事の予感に思わず溜息をつく銀時へ

苦笑交じりに手を合わせ 日輪は言う





「お願い 吉原の救世主様」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:書く書く詐欺とか思われがちですが
時期がズレただけです、はい紅蜘蛛篇スタート


新八:どんな始まり方ぁぁぁ!?


銀時:遅くね?もう紅蜘蛛…つーか月詠篇の
収録DVDが発売するんだけど


狐狗狸:するから本日掲載したんですよ


神楽:で、なんで初っ端からMGSのアイツが
出てくるね むしろ前半で目立ちすぎアル


銀時:だよなぁー散々本編白鴉で出張っといて


新八:しょーがないでしょ!吉原炎上は
あの人が先に書いちゃってるんだしそこは!




次回、久々に彼女の仕事モード発動?


様 読んでいただきありがとうございました!