瞠目しながらも、定々は
この事態の起こりに得心した





真選組と見廻組の仲立ち


全警察組織の招集と巨大兵器を含めた
外国軍隊の介入と参戦


それを行える人物は己を除いて…


この世で たった一人しかいない





「茂々 お前の仕業か」





隊士の手にした無線機から、定々の確保を
行いたいと伝えるカズの台詞へ





「私に任せてくれ」





そう返して茂々は もはや棒立ちとなった
幕府軍へ厳かに告げる





武器をおさめよ
くだらん争いはこれまでだ」






自分達が、国を護る大切な兵であり


故に命をみだりに散らしてはならない
語りかけられ 彼らは戸惑う





「し…しかし将軍様、こっ…これは
定々様のご命…「聞こえなかったか」


だが茂々は、もう一度命ずる





「武器を捨てよと申しておるのだ」





鶴の一声に…幕府軍は各々顔を見合わせ


一斉に手にした武器を床へ放ると

その場で馬上の将軍へ向け平伏する





その様を眺めてから、茂々は馬上を降り


舞蔵を背負う新八の元へと歩き出す





「いっいけませぬ!!


その者らは国に仇なした逆賊!!
それ以上近づいては危険にござ…」







立ち止まった彼は、新八達へ


頭を下げて…礼を言った











第九訓 六道最下の案内人











「汚名を着てまで…よくぞ余の忠臣を
護り抜いてくれたな」





苦しげな息を吐きながらも、舞蔵が
重たいまぶたを開けば


黒い人垣の向こうから駆けてくる
そよ姫の姿が目に入り





「そなた達がいなければ私は…私達は
大切な育ての親を 見殺しにする所であった」


「じいやぁぁぁぁ」





"大切な育ての親"へ、姫は涙ながらに
しっかりと抱きついた





「爺(じいや) すまなかったな…

こんなに近くにいたのに
お前の苦しみに、気づいてやれなくて






人生をかけ将軍家のために尽くしてくれた
舞蔵を、苦しめる事しか出来なかった





そう謝った彼は降ろされた舞蔵の側へ
そよ姫とともに屈みこみ


目を合わせて、問いかける





「爺(じいや) 今からでも間に合うか
約束の刻(とき)に…」



「茂々…様」


弱々しくもしかと返事をした忠臣の目端に


熱いものが吹き零れていた







そよ姫へ舞蔵を頼み





「道を開けよ」





新八達五人と真選組の全員に護られた
茂々に命じられ


伏していた軍勢は立ち上がり、従った





「伯父上に、話がある」









…一部始終を見聞きしていた定々は





理解できない、と言いたげに尋ねる





「…育ての親?朧…
あの男は一体何を言っているんだね」





早くに父を亡くした彼を
将軍へ据えその執政を支え続け


"売国奴"と蔑まれながらも国を護った
己よりも、自らの臣下を取った事に





「この徳川 定々こそが
国家の父であるぞ!!」



怒りを隠しきれず定々は怒声を上げた





"国家を護らんがための覇道"


…その恩恵を受けながら


「貴様は、貴様らはまたしても…
この父を裏切るかぁぁぁ!!






自らを裏切る者に激する主君へ


朧は静かに口を開く





「傀儡(にんぎょう)も年月を経れば
心を得るといいますが どうやら少々
厄介な魂を宿されたようで」





保身に走ってきていた定々に





「この際です、ご自身の御心に
ご正直になられた方がよろしいかと」


国に居続ければ地位だけでなくさえ
危ないと忠告を続ける





「どうか天導衆の元へご助勢を求め…」


「半生かけて積みあげたものを
全て捨てよと申すか」


歯を食いしばる定々から、怒りは消えない


「裏切り者を捨ておいたまま
天導衆の元へ泣きつけと申すか」



「…天導衆の意向を汲み執政をとってきた
殿のこれまでの働きを思えば
これしきは些末な事です」





対して朧は淡々と 将軍などは
"幾らでも替えのきく飾りだ"とうそぶく





「しかし有能な執政者を失うは
天導衆(あのかたら)外国の者にとっても痛手

必ずや その復権にお力添えを頂けましょう」







…だが、怒りに身を震わせながらも





「利益のみで動く連中がどこまで信用できるか
天導衆(やつら)にしても同じよ





天導衆にとっては 茂々も自分も


この星そのものさえもが


利用価値がなくなれば捨てられる
道具にすぎない事に老将は気づいていた






「そうだろう
天導衆(てん)の遣い 八咫烏よ」






朧は 何も答えない





"奈落"と天導衆が開国より
自分の権力維持に手を貸した"目論見"


朧をよこした理由が


一橋派台頭で、もはや死に体の己を

暗部を背負わせ切り捨てる為と定々は続け





「私が保身のため国を売った売国奴ならば

奈落、貴様らは国の死肉を食らい生きる
卑しいカラスだ」





そうして、呼んでいた"救援の船"を
鼻で笑って拒みだす


「私を一体どこへ連れていくつもりだ」







疑心を募らせた定々へ
朧は、さして動じずに返した





「お望みとあらばどこへなりとも」





あくまでも自分が、天導衆から命ぜられ

"定々を主君として仕える私兵"だと
口にする配下の背へ





ほう…どこへでもいくと」


じっとりとした視線を投げつけて





定々は 行き先を指定した





「吉原へ参れ」







―――――――――――――――――――――





闇夜に、まさに唐突に形を現した
船に驚く下の喧騒を見下ろして





「…来たわね」


「行くか」





短く言葉を交わし と信女は
瓦を蹴り上げ 屋根から船へと跳ぶ







…五人はあの後 それぞれ役目を話し合い


準備を済ませて分かれた





そして、彼女ら二人は役割通り


屋根で身を潜め…船が現れ
接近した頃合いを狙って侵入を行った





それなりに距離はあったものの


甲板へ飛び移れたと信女へ
群れ集う法衣の集団が出迎え


「なっ…貴様ら!?





虚を突かれた瞬間を


槍の刃と、抜き打った刀が逃さず貫く





「ぐわっ!」


「ぎゃあっ」





数人を切り払い 騒ぎを起こしながら


目で合図をして、は彼らを
船室へと入ってゆく信女から遠ざける







槍を変幻自在に扱い


足の痛みや、受ける攻撃などものともしない
無表情で暴れ続ける彼女に翻弄され





乱れた"奈落"一味の集団へ





追い打ちでクナイと刀の一撃が襲った





「がっ!!」





少女の緑眼が…笠の下にある

左頬の古傷血のように赤い瞳を認め





「遅くなったな」


「ここは任せい」





短いその一言に頷くと


もまた信女を追って船内へと走る





逃がすまいと続く数名を切り捨てて


船内に残る"奈落"の手の者を倒しながら
敵側の混乱をあおっていたが





「…信女殿!」





動力源へ向かっていた信女が


黒法師がまばらに倒れる廊下の途中で
立ち往生しているのを目にして


「何をしてお…」





言いつつ駆け寄って彼女は

その理由を、一目で察した





「とんだ邪魔が入ったわ」





ため息交じりの、その足元には黒い残骸や


縦一文字に断ち割られ 白い血を吹き出させた
兵士らしき死体が転がり





表を向ける二人の行く手を塞ぐようにして


黒い球体に手が三本生えたような
"奇妙な機械"数体と


と自分が城で戦っていたような

"人ならざる兵士"二体がたむろしている





「いらぬ横槍を…骨が折れる」


折れても平気でしょ?治せるんだから」


「断たれなければな」





そこで言葉を打ち切って


腰を落としたが…懐へ飛び込みざま
邪魔をする一軍へ





正眼に構えた槍の乱舞をお見舞いする





「なんだこりゃ!?」


「まるで槍の弾幕だ!!」





視界と動きを封じた一瞬を縫って

信女が 目の前の包囲を突破したのを


彼女は黙って見届けていた





―――――――――――――――――――――







屋根が開き…すぐ側までよった船から
伸びてくる階段を待ちながら


疑心に凝り固まった定々は


朧へ、忠臣を示せと口にする





「如何ように」


「鈴蘭を殺せ」







自らの覇道が始まり…そして裏切りを
受けた地とその元凶を強く憎み





「あの時裏切りに逢い 果たせなかった命
そなた達が代わりに果たせ」





"全ての裏切り"を生んだ舞蔵と鈴蘭を


「お前達の約束を完膚なきまでに砕き
この因縁に終止符を打ってやろう」






それによって裏切っていった全ての者
思い知らせん、と


かつての将軍は 血走った目で恨み言を吐く







「…今はその御身の安全が第一に思いますが
それで気が済むのであれば」


それだけを答えて


墨染めの衣をまとう二人の部下へ

定々を船に案内するよう、朧は言う





「私も後からゆく 舵は吉原だ





連れられ、階段を上がる主君を見届ける中





かすかな物音が耳に入り


何の気なしにそちらへ目をやって







…船のパイプの一つへ、結び付けられた
クナイつきのロープが飛び込んだ瞬間


朧の視線が凍りつく





同時に走った雷に反応し


引き揚げられた階段から、足を滑らせ
黒衣の者が一人落ち


船へと足を踏み入れた定々もまた


その場の光景に釘づけにされた







吉原?それは残念」





血を流し…無残に倒れた甲板の
"奈落"一同へ 側にいた一人も加わる





搭乗口で控えていた、ただ一人と


船内に残る三人…そして





「当船のゆき先は極楽ではなく」





朧の背後にて息を潜めていた銀時が


一斉に笠を跳ね上げ顔をさらした


「地獄行きだコノヤロー」







振り返り攻撃に転じようとしたが


一瞬遅く、木刀の一撃を顔面に受けて
朧の体が大きく吹き飛び


屋根の格納部分にあるタンクへぶち当たる





間を置かず、月詠がクナイを投げつけ


逃げようとした定々を側の壁へ貼りつけ
その股間へ錫杖の柄頭を突き刺す





そして残る"奈落"衆をすべて斬り捨て


動力室へたどり着いた信女は…
打ち払った一刀で動力源を叩き斬る







爆発の炎と煙を背負う銀時と


瓦礫に埋もれるようにして対峙する朧は





「きっ…貴様ぁぁぁ!!





"立場が逆転"したその構図
隠しようのない怒りを露わにしていた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:さて、船でのやり取りはこれで
終わりましたが…ウチの子の出番あるかなぁ


新八:無かったら夢小説としての前提が
丸ごと崩壊しちゃうんですけど


神楽:いっそ名前が一回も出ない夢小説も
斬新でウケるアルかもな


銀時:どこの層に?てか似たようなこと
前にも言わなかったっけか?


月詠:…言うてやるな、管理人の容量は
巷のイラストより少ないんじゃ


スネーク:kbにすれば10いくかどうか
それすらも怪しい所だからな


狐狗狸:……最後の二人の台詞が
余計だな 特に二軍落ちした蛇(死)




爆炎背負い 烏と夜叉が夜を穿つ!


様 読んでいただきありがとうございました!