携えていた一刀を抜き放っての剣閃が
次々と空を切り裂き、銀時の接近を阻む


その一つが頭へ飛来した瞬間を狙い


深編笠に刺さったままとなっていた愛刀へ
手を伸ばした銀時は、力任せに引き抜く





勢いで距離が空いたのを見て取り


朧が取り出した針を足元へと投げつけ
相手を背後へ下がらせ階段から突き落とす





転げ落ちながらも彼は己の頭上めがけ


階下より "奈落"の一味が三人飛来するのを
目の当たりにしてとっさに木刀を階段へ刺し


棒高跳びの要領で、宙へと舞った身体を
ひるがえしてかかと落としを食らわせ


奪った錫杖で残る二名も昏倒させる







と床を蹴り距離を詰めていた朧に気づき


そちらに向け銀時が 昏倒させた二人を投げる





構わず切り捨てた朧だが…眼下には
先程まで佇んでいた銀髪の侍の姿がなく


血飛沫を上げ後方へ落ちゆく配下を通して


斜めの欄干を駆けて間近に肉薄した彼を目にするが





対応が間に合わず、袈裟懸けに降ろされた
木刀の一撃を受けて


朧の身体に巻き込まれ階段の一部が吹き飛び


同時に下でも複数の爆発音が響いた





だが、土煙が止まぬ内から相手を追って


階段から飛び降りた銀時の右肩と左膝に
それぞれ一本ずつが刺さり





突如として現れた右腕の"異物感"に襲われ


木刀を取り落とした彼の顔面へ、体勢を
立て直した朧の掌底が炸裂する











第七訓 対極











元来た方へ吹き飛ばされた銀時が
身を起こそうとするも


右腕だけでなく足までも"異物感"に似た
感覚に支配されて動けず


四方から迫る"奈落"衆の刃風が彼の身を







刺し貫く前に、護るように間へ入った
月詠と信女が クナイと居合で敵を返り討つ





何をしている銀時!!しっかりしろ」


「死にたいなら斬ろうか」





それでも際限なく群がっていく黒法師を


が散らして、狙いを銀時から
そらそうと奮闘する





しかし未だに身動きの取れぬ銀時を見て


身体に刺さる針に気づいたようで
針を引き抜き、信女が言った





「経穴を突かれてる しかも毒針で」


「ヤベーのか?」


「身動きが取れない所か 毒をぬかなきゃ死ぬ







近づこうとする者達へクナイで応戦し


囲いの左右からも、刀と槍を振り仰ぎ
距離を開けていた月詠達だったが





「ぐっ」


「毒にこの数か…厄介な





絶え間なく現れる"奈落"の者達の手数に押され


五人はたちまちの内に囲まれてしまった





フッ 随分と手こずらされたものだな」


段上の高みから見下ろし、定々が言葉を放つ





「卿を前にして、これ程長く生きた者も
稀であろう…





向かい合い 深編笠を脱いだ朧の顔が


銀時の記憶を呼び覚ます







攘夷戦争の最中…死屍累々と連なる侍達の
骸で埋め尽くされた地平に


天照(てん)の印を胴に抱いた
白髪で 斜めに顔へ走る刀痕を持つ男の眼前に


抗うべくして立った修羅(おに)






…その時と変わる事のない瞳をたたえた
銀時へ、淡々と朧は告げる





「変わらんな

お前のその目は…白夜叉



「てっ…てめぇは…」


「銀時?」







睨み合う両者が醸し出す、ただならぬ様子に
月詠やが戸惑いを浮かべる





「おや、知り合いか 朧」


「…殿 寛政の大獄の遺児にございます」


「寛政の…大獄?」


「そなた吉原の者か
ならばしらぬのも無理もない」


一呼吸おき 定々は静かに語りだす





「攘夷戦争…開国の折
政事もしらぬ侍共は、幕府を売国奴と蔑み
世の気運は攘夷一色となった」





降伏した幕府は天人を受け入れていたため
天人達との関係悪化を懸念し


攘夷浪士の弾圧へと動き出したせいで





長い間 国内は内戦が続いていた





「戦いが長期化するにつれ天人達は反乱鎮圧
協力の名の元、内政にも干渉しだした」





皮肉にも"天人を排する"為の攘夷運動が


天人の台頭となる"天導衆"を生み出し





「そして天導衆指揮の元 幕府がとり行ったが
世紀の大粛清といわれる」


「寛政の大獄」


遮るように答えたが、苦々しげに
定々の言葉を引き継ぐ





「…各地に散らばる攘夷を扇動した活動家や
不穏分子を、大名公家にいたるまで容赦なく
粛清の対象としてお前達は根こそぎ狩りとった」


「外国の者にしては詳しいな、流石は
"雷電"と呼ばれた伝説の傭兵と言うべきか」





冷笑へ、彼はただ侮蔑の視線を返すのみ





構わず定々は…そうする事で攘夷運動は
急激な衰退をたどった、と続け


その一言に 作務衣の少女の緑眼が
より暗く陰った事を知る者は


側にいる五人と、対峙している朧のみ





「そのために私の手足となって
働いていたのが朧卿らであったな」







先々代の時代より古武術・発勁の達人として
腕を磨き使えていた天導衆の首領は


侍達はあれで終わったワケではない、と答えた





「指導者を失い侍達が次々に剣を捨てていく中


大獄より ある者を奪還せん
決起した者達があったのです」





天に仇なした大罪人として寺子屋を燃やされ


捕らえられた師 吉田松陽を救い出すべく


銀時を始めとする弟子達は…

最後の攘夷浪士(もののふ)として戦い続けた







「銀さん…」


「ぬしも、師を…」





だが、俯いて押し黙っている銀時へ





「吉田、松陽…はて そんな者…いたかね


定々は踏み台になった芋虫の死骸など
一々覚えていないと口走った





ぐっ、と木刀や槍の柄を握る手に力がこもる





「大罪人ともなれば記憶にもあろうが
その男、一体何をしでかしたというのだ」


「はて…私も覚えておりませぬ」





片田舎で子供たちへ剣と知識を教えていただけの
無辜の者を


"無暗に徒党を組んでいる"謀反の種として


処理するように断じた主と、実際に処理を
行ったであろう部下





どちらの言葉も…後はほとんど
銀時の耳には届いていなかっただろう





成程 私の見立てに狂いはなかったようだ」







動けぬ半身を無理矢理に起こして





「吉田松陽…
かような不届き者を生んだが、その罪よ


「黙れ貴様…!」


「そなたとて似たようなものであろう?
有守流使いの娘よ」





ただ真っ直ぐに目の前の敵を屠らんと





「っ待て銀時ぃぃぃぃぃ!!





突進した銀時が木刀を振るう









…予期していてか、直撃の瞬間に
配下ともども朧はその場を飛び退き


舞い上がる土煙に紛れて銀時の背後を取る





「天にかみつき地に落ちた鬼が
何故まだこんな所をさまよっている



胴に叩きこまれた衝撃に、血を吐いて
押し戻されてゆく彼の身体を





「天に全てを奪われた鬼が 何故また
天に吼えている」



追って朧が蹴りを叩きこみ





「あの時お前は、お前達はしったはずだ





崩れた階段の破片へ倒れた銀時の頭を掴み







「幾ら喚こうと幾ら叫ぼうとお前達の声は
天には届かぬ…その 慟哭さえも






気力を籠めた一撃を打ちこんだ後





両腕と足の経穴へ針を穿ち 彼の動きを封じる







「そこで己の血が腐るまでみているがいい」





諭すように続いた言葉は


城外で舞蔵を担いだ新八を引き連れ
有象無象とひしめく幕府軍を退け続ける四人や


再び襲いかかってきた"奈落"の者達と
対峙する月詠達四人を示していた





「お前の護ろうとしたものが
あの時のように、全て壊れていく様を」






最後に"松陽も見ていよう"、と師の名を引き合いに出し





「己の命を賭して護った弟子(もの)が
何も護る事もできずに無様に壊れていく様を」






朧は振り返りもせず跳躍して定々の足下へ戻る







「…待ちやがれぇぇぇ!!


たまぎるような叫びを放ち、去ってゆく
二人の背へ言葉を叩きつける銀時だが





時を待たず視界が歪み…鼻と口から血を
溢れさせて咳き込みだした






「ぎっ、銀時ぃぃぃぃ!!


「月詠殿!後ろに!」





不意をついて迫った刺客は、の警告と
とっさのクナイによる迎撃で沈められるが


事切れる際に彼女の左脚へ手傷を負わせていた





畳みかけるように月詠へ集中する僧形を
背後より斬り捨てる信女も


最後の一撃に対処が遅れ 不覚を負う







「「貴様ら…そこを退けぇぇぇぇ!!」」





一方で銀時の元へ駆けつけんと刀を振り続け
距離を狭めていたさえも


!」





斬った者の投げ放った刀をかわしそこね
右肩を貫かれて短く呻く





間髪入れぬ挟撃へ割って入り


両足を大きく開き上半身を地面に
水平になるよう、伏せた体勢でかわして


一人の足を斬り落とした


身を起こすと共にもう一人を 討ち取った刹那





…足を落とされた男が腕で這い進み
彼女の右足を刀で抉っていた





歯を食いしばり男の首筋を断ち割る隙に


忍び寄った数名の刃風が少女の身へ
食い込むのを、が防ぐ





「くそっ、大丈夫か!」


「こちらの台詞だ…例え急しても
戦場(いくさば)で油断めされるな!











多勢に無勢の状況は城の外も同様で





「チッ」


そんな、こっちも弾切れ!?
もう時間がないのに…!」





弾丸の無くなった神楽と新八も包囲され


メリルとジョニー、スネークも銃を捨てて
接近での応戦に切り替えるが





膨大な人数を前にしては いずれ力尽きて
終りを迎えるのは火を見るより明らかだ







『死ねぇぇぇぇぇえええ!!』







数多の敵を打ち倒し、互いに護りながら


城の外と内で戦い続けている仲間達が


獲物を破壊され…警棒の突きをくらって転倒し

死地へと追いこまれてゆくのを





肌で感じながら銀時は


自らを叱咤して、動こうと足掻く





けれども意志に反して手足はまるで
別人のもののように毛一筋ほども動かない


どれほど必死に力をこめても


護るべき者の最期を、今度こそ止めるべく
心の底から懇願しようとも





敵の攻撃を遮る事など到底間に合わない










覚悟をした 外の五人と内の四人を







仕留めようと獲物を繰っていた者共は
思わぬ方向からの爆撃に吹き散らされた









呆然とする新八達が顔を上げた先に見たのは
少し前に別れた 黒い隊服の面々





「すいませ〜ん」


「夜遅くにこんな所で何やってるのかな」


「悪いけど免許証見せてもらえる」





そして月詠達と、いまだ残る"奈落"衆へ
睨みを効かせたのは





『こんばんわ』


白い隊服の部下を従え 拳銃を片手に
先頭に立った見廻組局長だった





『お廻りさんです』








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:三百九十二訓と三訓の分、一気に
書いたから久方振りの怒涛のシリアスですよ


異三郎:お疲れ様です よろしければこれ
差し入れのドーナツです


狐狗狸:え、あ、ありがとうございます…


異三郎:構いませんよ例え予定を大幅に
遅延して執筆していても、その分
納得の行くものを仕上げてくださるなら


狐狗狸:ええまあ全力を尽くしてはいますが
所詮原作にはかなわないってーか


異三郎:わざわざ労った私の好意を
踏みにじって 社会的に無事で済むとでも?


狐狗狸:しまったこのドーナツ自体が罠?!


定々:ほう…そなたも悪よのう


異三郎:いえアナタほどではありませんよ


狐狗狸:黒い!笑顔なのに空気ドス黒い!
どこぞの外○警察ばりに黒いよ!!




次回 真選組&見廻組からのターン!


様 読んでいただきありがとうございました!