城中へ侵入した賊により、将軍の身が狙われ


すんでの所で定々が気づいたお陰で将軍に
大事はなかったものの


殿中守護を預かっていた佐々木 異三郎が凶刃に倒れ





連絡がつかず辺りを捜索していた見廻組隊員が





「…局長!


倒れたままの彼を発見した





だが病院へと搬送された異三郎は重体のまま
昏睡状態に陥っており


それを理由に

殿中守護を解任された見廻組に代わって







「しょ…将軍暗殺ぅ!?





真選組が守護の任へついたのだが


これまでの経緯を語りながらも、土方は訝しむ





「…どうにも臭ぇ」


「えっ!!臭い!?何が!?」





連続暗殺の下手人といえど、城中への侵入は
中からの手引き無しには不可能





「内通者の存在は明らか

なのに上は、ロクな取り調べもナシに明朝
下手人を処刑するとのたまってる」





"何かを揉み潰そうとしている"
考える彼をよそに


近藤は自らの尻の後ろを、手で仰いで返す





「そっそーか どーも藪蛇臭ェが

洗ってみるか…その下手人」





二人が巨大な門を潜り、開かれた牢屋の入り口から
真正面にある頑丈な牢獄の中へ目を通せば





「あっ 近藤くん!!土方くん!!

こんな所で会えるなんて奇遇だね!!
丁度いい所に来てくれた ちょっと話があるんだけど」






白昼堂々殿中に押し入って幕府(よのなか)
ひっくり返そうとしたバカ
に笑顔で挨拶されたので


しばし固まった後…


彼の台詞を無視して戸を閉める





「殺すぞ腐れポリ公ォォォ!!」











第四訓 お泊り会では寝相の悪さも露見する











捕らえられ、間を置かず同じ牢に放り込まれた
銀時達六人と新八達四人は





「全てがあの男の手の内とはな」


「それじゃ佐々木さんの件も、今までの要人殺害の罪も
僕らに着せられたって事ですか!?」



「どころか将軍暗殺の容疑もかけられている
可能性が高いわね…確実に私達を処刑するために。」





お互いが別れた後の状況を説明し


、お前今こそあの微妙な設定の出番だろ
肩外して窓から檻出て鍵盗んでこい鍵!


「槍もなく警備を抜けるのは無理だ」


「よしんば首尾よく鍵を手に入れたとしても
オレ達の立場は変わらん、慌てて抜け出しても
捕まってその場で処刑されるのがオチだ」





九人が黙りこむ中、銀時だけが無実を訴えて騒ぎ


一度ばかり兵に怒鳴られても なお諦めずに
現状を打破しようと門を睨んでいた







そこへ見知った相手が出てきたので


チャンスかと思った矢先の ガン無視である





「だめだありゃ とんでもねぇガンコ汚れだ
とても洗えねぇ」


「関わらん方が身のためだな」





外の会話が聞こえてか、密告してやろうか!
牢の中からの叫びが続く





「皆さーんきいてください!!そのゴリラ
さっきスカした時ちょっと出てます」



「なんでしってんだテメェェ!!」


「ムダですよ旦那」







横からパイプ椅子持参でやって来た沖田が
檻の側へ陣取ると、"相手が悪かった"と告げる





「誰も旦那方の戯言なんざ耳を貸しませんよ
将軍とモメんのはみんなゴメンですからねぃ」


「だったらてめーの耳ちぎってよこせやァァ!!」


「悪ィオレの耳先約がいるんでい」





牢から伸びた神楽の手をかわし、イヤホンを
つけて曲を聞こうと機械をいじくる彼は





「何故に総悟殿達がここへ?」


佐々木の旦那やられたろ?その後釜でぃ」





微動だにしないへ答えてから


同じく身動きせずヒザを抱えていた信女へ問う





おっかしーな なんで将軍襲った賊に
エリート様がいらっしゃるんだろう」





どこからともなく取り出したドーナツを頬張り


将軍に密告したらどうなるだろう、などと
至極楽しげに沖田は口走る





「あっ そっかゴメン、んな事しなくても
もう潰れたんだっけ見廻組(おまえら)
勝手に自滅(ヘマ)して」 「沖田君!それは」


あまりの言い草にが諌めようとする最中


立ち上がり様、信女が檻越しに沖田の頭を
ワシづかみにして叫んだ






「ポンデリングよこせェェェェエエ!!」


「「そっちィィィィ!?」」





すかさず彼女は神楽と二人がかりで牢の中から
両足を掴んで引っ張り込んで


彼が気絶した合間にドーナツが強奪されるのを
眺めながら、新八がため息の後に呟いた





「やっぱり…相手が悪過ぎですよね」







唯一事情を知り、定々へ目を付けていた者は
自らの部下達共々城中から追い払われ


取調べもなく、明朝処刑される事を憂いて





「今度ばかりは本当に とんでもない人を
敵に回してしまった」






新八とジョニーによるため息二重奏の後


大人しくなって地べたへ腰掛けた銀時が
忌々しげに舌打ちをする





「こうなると入城した時に得物を
没収されたのも罠かと勘ぐりたくなるぜ」


「ああ、武器さえ十分にあればこんな事には…」


「じゃあ没収されて正解」





ドーナツを咀嚼しつつ、下手に抵抗していたら
死んでいたと続ける信女は


"八咫烏の刺青"を刻んだ御徒衆の正体を語る





天照院「奈落」 古くから時の権力に利用され
影より国の采配に関わってきた暗殺組織」


「聞き覚えがある…あまりの冷酷無比な仕業から
泰平の世に中央から除かれた禁忌の存在、と」





口を挟むに構わず、彼女は幕臣暗殺が


定々の主導のもと奈落に行われたと断言した





「あとは古狸をひきずりおろすだけ」


「…こんな状態でどうやって 大体見廻組はもう」





檻の外を見つめて、信女は新八の言葉を否定する





「異三郎は 生きてる」







周囲の沈黙へ滑りこむように





「ぬしの言う通りじゃったな銀時 どうやら
夢に惚けていたのはわっちらのようでありんす」





静かに耳を傾けていた月詠が、淡々と言葉を紡ぐ


「鈴蘭の待つ男など…どこにもおらんかった」







定々を拒めぬ事、秘密を知る己が吉原から出られぬ事


…約束が己を吉原に縛る為の鎖である事





全てを知っていた鈴蘭には





「ただ夢の中にしか 居場所がなかったんじゃ」





どこか哀しげなその一言に牢獄の空気が重さを増し


小指に巻きついた髪を見下ろして、銀時はただ
無言のまま外に照る満月を見つめた











一方 意識を取り戻した茂々へ





「茂々様ァァアア!!
どうか どうかお考え直しを!!」



平身低頭、舞蔵が必死の体で


銀時達がそよ姫の友人であり
暗殺を企てる者達ではない、と訴える





「それでも彼らを処罰するというのであれば…
この六転舞蔵のケツをお斬りくだされェェ!!





あまつ彼らを城へ招いた責を負おうとする彼へ


うろたえながらも茂々は言葉をかける





「おっ…おちつけじいや そう言われても
余は何も存じていないのだ」





事の一切を見ていた定々を止められるのは
茂々だけだと尚も懇願する舞蔵だが







たいした忠臣ぶりだな舞蔵
切腹覚悟で異議申立てとは…」





銀時らを下手人と断じ、背後に佇んだまま


定々は頭を下げる家臣へ尋ねる





「それとも舞蔵、お前は私が偽りを
申しているとでも 彼らの他に誰か…

城中に賊が潜んでいるとでもいうのかね


「…め…滅相も…ございません」





弱々しく答える舞蔵の様子に疑問を感じ





訊ねかける茂々へ間を与えぬよう
定々が、微笑んで言う





「今日は色々と面倒が続き疲れた事でしょう
事後処理は私に任せてもう休みなさい」


「しかし伯父上、こんな時に…」


「茂々さん 王が崩れれば国もまた崩れる
己が身を案ずるも王の務めだよ」






肩に手を置き、甥の身を案じながらも





「あとはぜーんぶ この老いぼれめが
うまくやっておくさ」


薄く舞蔵を見下ろす眼差しには

油断のならぬ狡猾さが宿っていた









沖田により、"かつての定々の所業"が伝えられ


戸惑いを隠せぬ近藤へ
土方が、紫煙と共に言葉を吐く





「上の連中がくだらねェ争いしてたのは
しれた事だろう 俺達の仕事は江戸を護る事だ





それでも近藤には見て見ぬ振りなど納得できず


見廻組の二の舞いになる、と忠告されても
頑として首を縦に振らず問い続ける





「ここで目ェつぶったら
オレ達もその豚どもと同じだ」


「近藤さん オレ達田舎侍がその「侍」って
奴でいられんのは、その豚共が
いるからって事を忘れちゃいけねぇ」


「士道も通せねぇってんなら、そんな形だけの
侍いらねぇ 攘夷志士の方がまだマシだぜ」






木陰に隠れた人間の気配を、誰もが気にも
止めなくなるぐらいに弁舌をぶつけ合い





「こんのわからず屋が!!
てめーの組織論にはもうウンザリだ」



「てめーこそキレー事ばっかり並べやがって
大体元将軍(しょうぐん)なんて
逮捕できるワケねーだろ!!」



やがてつかみ合いのケンカを始めた二人を


山崎を筆頭に隊士達が止めようと集まってくる





しかし騒ぎは余計に大きくなるばかりで







うるせェェェェェ
眠れねーだろクズどもォォ!!」






しまいには牢獄で眠っていた銀時が
耐え切れずに怒鳴った…その時だった







そっと開いた門の隙間から、そよ姫が顔を出した







「そっ…そよちゃ


神楽の口をとっさに塞ぎ 真選組のケンカに
乗じて自分達を救いに来たと


抱いた銀時らの淡い期待は





「あのっ一人じゃさびしく眠れなくて
一緒に寝てもいいですか





寝具と笑顔を携えての台詞に、脆くも崩れ去る





檻の前へ敷いた布団へ潜り込んだそよ姫は
安心したように中にいる彼らへ言う





「なんだか恐くて眠れなくて」


「いや恐くて眠れないの僕らなんですけど」


「なんだかお泊まり会みたいでドキドキするね」


「いやドキドキしてんも僕らなんですけど
明日処刑されるんですけど





ツッコミつつ不安そうな新八へ


銀時達の無実を舞蔵が証明すると、心から
信じて口にして そよ姫が続ける





「それでも眠れないなら…あっそうだ
私が小さい頃G嫌(じーや)にきかされた
寝物語をきかせてあげます」





つまんないからスグ眠れる、と前置きをして





「あのね むか〜しむかし」


語り始めた途端に、信女と神楽が床へ
倒れこんでイビキをかき始める






「「どんだけつまんねーんだてめーら!!
失礼だろォォ!!ちゃんときけっっ!!」」



「そよ姫殿、私は聞いていますぞ」


「あらさん起きてたんですね
まだ寝ててもいいですよ」





壁に持たれたまま片目を開けた少女へ
笑顔でさらりと返し、彼女は話を再開する







「この殿様の奥方は国一番の美しい姫で
とっても殿様を大切にしていました」


寝物語の体をとっていても


銀時や月詠達には…話に出てくる"殿様"
"姫様"、そして"家来"が誰かすぐに気がついた





辛い役目を強いられた姫様の…鈴蘭の涙を


「そんな姫様が哀れで、家来はいつも
姫様の涙をふいてあげていたのです」






抱いた思いを、身分の差故に叶わぬと
知っていて家来は…舞蔵は胸にしまっていた





『近頃、下の奴らが騒いでいるらしいな
そろそろ頃合いか 鈴蘭を始末しろ





だが殿様―定々による命令が下り





逆らえば命がないと知っていながらも、彼には
愛する人を殺めることが出来ずに


代わりに満月の晩に鈴蘭と 一つの約束をした







…家臣の裏切りも、小指に結んだ約束も


全てを知っていた"将軍"は 彼の左腕を切り落とし





『…鈴蘭は、一体いつまでお前を待っているだろうな
約束など とうの昔に捨てた男を


痛みに震える舞蔵へ、"会えば彼女を殺す"
言い含めてわざと両者を生かしたのだと





「だから彼は決めたのです」


例え何度月が通り過ぎ、老いさらばえ醜い姿に
なろうと…鈴蘭が彼を忘れようとも





「彼女と会える日まで 生き続けようと」





外も中も静寂に包まれた牢屋に


姫の声だけが、朗々と響き渡る





「そうして家来(かれ)は今も
三本の足で はいつくばりながら生きているのです







…将軍が部屋へと退室し、両足と右手をついて
頭を垂れ続ける舞蔵へ


定々は 鈴蘭がまだ吉原で生きている事を教えた





「たまげたものだろう 来るハズのない男を
本当に死ぬまで待ち続けていたというのだから」





障子を開けて 満月を仰ぎ見て


今日までの働きを労い

最後に一目鈴蘭に会いたいか、と
もっともらしく問いかけ





家紋の入った短刀を舞蔵の前へ投げてよこして





「腹を切れ 鈴蘭が地獄で待っていよう」





振り返る定々は、優しげな笑みを貼りつけ


"城中に賊を招き入れた"責任を取るよう迫る









「そして、姫様と家来は…」


語り続けていたそよ姫の言葉を、月詠が
手を上げながら遮った


「もう結構です姫様」





眠れなかったのかと半身を起こし苦笑する彼女へ


首を振ったを始め、銀時や新八達が
石畳からゆっくり身を起こして返す





「そっから続きは もう知ってんのさ」


「他国といえど犯罪者は捨て置けんな」


「…舞蔵殿の左腕(ウデ)の無念も
晴らさねばな」


「そろそろ時間です
そこを開けていただけますか姫様





どうやってと問うそよ姫へ、神楽が床に転がる
牢屋の鍵を指摘する





「そよちゃんが入ってくる時 放り込まれてきたネ」





瞠目する姫の背後で門が開き


居並ぶ隊士達の先頭にいる近藤が
真剣な顔でこう言った





「…何モタモタやってんだ
出てこい 処刑の時間だ


え!?ちょっと待ってください
まだ夜は明けてな…」


合間に挟まれうろたえる姫に構わず





彼ら十人の荷物を投げ込み


背を向けて彼は続ける


「さっさと白装束に着がえやがれ」







牢の鍵を開けた彼女へ、出てきた神楽が言う


行ってくるから、そよちゃんはそこで待っててネ」





身を起こした信女へ着替えと刀を渡して





「信女殿 そよ姫殿を頼む


常となった無表情でが言う





「メリルとジョニー、それとスネーク
少し頼まれてくれないか?」



が三人へ言伝を頼み、三人は素早く了承する







真っ先に出てきた銀時へ





旦那 処刑台は予約入れときやしたぜ
ちゃんと首つけたまま戻ってきてくだせーよ」


もそこの槍ムスメも
せいぜい処刑にふさわしい罪稼いでくるこった」



入り口の両脇に控えた沖田と土方が呼びかける





「ちなみに罪状は何だ」


ついでのように、罪状を問われて





「殿様の 下のマゲもぎとった罪(ざい)」





背後の九人と同様 城へ焦点を定めた彼は


迷う事も淀みもなく答えた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:門前でのケンカとラストの近藤さん
動乱篇以来のカッコよさだと思うんですが


近藤:そーなんだよ!ようやくこのサイトで
まともにカッコイイ描写してもらえた…(感涙)


沖田:全くでさ、とてもスカして身が出た
ゴリラとは思えやせんよ


近藤:ソレは言わないで総悟ぉぉぉ!!


沖田:つかのヤロウ、あのドーナツ女か
チャイナ止めろよな


土方:自業自得だろ むしろ猛獣に手を出すと
危ねーから槍ムスメのが正しいわ


月詠:…用あって城に訪れていたなら
アヤツとじいやは顔見知りだったのでは?


そよ姫:ええ、度々G嫌に叱られてましたけど
左腕が無いのは知ってたと思いますよ?


狐狗狸:…"理由"は今回知りましたよね?姫様




老獪な狸を相手に、いざ国盗り合戦へ!


様 読んでいただきありがとうございました!