「おや、六転殿と客人殿ではありませんか
このような場所で一体何を?





唐突に呼び止められ、隠れようとしていた
じいやとジョニーが振り返りざまに固まる





佐々木殿っ!何故ここに」


「それはこちらの台詞です、のぶめさんと連絡が
つかないので出向いた所だったのですが」


「あ、あのそれは警護の人も僕らと一緒に
缶蹴りに参加しているからじゃないかと!」


場を取り繕おうとジョニーが口を滑らせたため





「それは楽しそうですね、では私も皆さんを
捕まえる鬼役として参加させていただきます」


予想外の事態へと発展し





「いやあの彼女だけで十分ですしアナタも忙し」


「早速見つけたので爺(じいや)撃〜った」


「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」





特に意味のない弾丸の嵐がじいやとジョニーを襲う







―――――――――――――――――――――





…ちょうどその頃 缶の直撃によって


現将軍の茂々が何故かブリーフ一丁
白目を剥いて倒れ


気が動転した銀時と月詠ととメリルが
部屋へと乗りこんだ直後


「貴様ら何してくれてるんだ!!」


スネーク!?どうしてここに!?」


秘密裏に依頼を受けたスネークと邂逅を果たし





「バラした方が早い」


「お前の早まりの方が早ェェェェ!!」


「証拠隠滅しなきゃ
「「「待てェェちょっと待てぇ!!」」」


後から現れた信女の暴走を止めていた辺りで





失礼します将軍様 先代将軍定々様が
お話があるといらっしゃっておられるんですが」





閉じられた襖から尋ねられ、銀時と信女は
とっさにツボや掛け軸の裏へ隠れようとして


無理だったので唖然としている三人を無視して
部屋から逃げるべく走りだすも





「オイ どこにゆく」


二人の間にある柱へクナイを投げ刺し

ドスの聞いた声で月詠が続ける





「戻れ ようやく掴んだチャンスを
捨てるつもりかえ」



「マ…マジっすか月詠姐さん」


大マジじゃ、のぶめとやら
ぬしも既に共犯じゃ 協力しなんし」


「ちょっ、待ってよ私達はどうしたら」


「どうした?何かあったかね」





彼ら六人の戸惑いを他所に





「茂々さんは私の甥 取次は必要ないでしょう

…入るよォ茂々さん」





襖を開いた定々は、室内に広がっていた
異様な光景に目を疑った











第三訓 乱心ではござらぬ











「姫様見〜っけ 爺(じいや)撃〜った


「GYHAAAAA!!」





縁の下にいたそよ姫以外を正座させ


仰向けになっているじいやの周囲へ発砲を終えて
異三郎は全員がいるかを確認する





「失礼ながら私がみんな見つけてしまいました
すいませんエリートで」





起き上がり謝るじいやへ彼は慇懃無礼に


"この厳戒体制で缶蹴りを行うのは自分達を
信用している証拠"
と返し


隠れる所には気をつけるように忠告する





「軒下に賊が潜んでいるのかと思い
あやうく撃つ所でした、エリートじゃなきゃ
大変な事になっていましたよ」


「あやうくって言うか思いっきり撃たれたんですけど
撃ち殺されそうになったんですけど」






姫を除く全員が、隠れた場所の特定と同時に
容赦無い威嚇射撃を食らっており


恐怖で震えっぱなしの新八とジョニーを横目に


は 緑眼を眇めて睨め上げる





「たかが子供の遊びに獲物を使うとは…
片メガネ殿の神経を疑うな」


「そのお言葉、アナタにそのままお返しします
ホウキで応戦を試みるなど前代未聞ですよ」





両者またしても無表情なのだが


間に流れる居心地の悪い空気は、万事屋の
二人にとって覚えのあるものだった





「あの…お二人の間で何かあったんですか?」


マヨ狂と話してる時と同じ雰囲気ネ
ひょっとしなくても嫌われてるアルか?お前」


「エリートですから、謂れのない妬みなどは
慣れっこで「大嫌いだな虫が好かぬ
瞳孔マヨ殿の方が幾分か信用が置ける」



セリフ丸無視にすっぱり一息で言い切られ


異三郎が、眉間へ僅かにシワを寄せる





「…当人を前に言い切る辺り清々しいですね」


「ええと…それで、どうしましょう?」


「そうですね、姫様を誤って射殺する事があっても
六転殿が責任を取られるなら2R目いきましょうか」

「しからば今度こそ返り討ちに「やめます
もうやめます すいまっせんしたァァ!!」



さらりと口にされたおぞましい提案を
じいやは全身全霊を持って断った





「賢明なご判断で、流石は先代将軍の頃より
側集として将軍家をお守りしてきた重鎮 六転舞蔵殿





はためく空の左袖が 身を挺し定々を護った末の結果
語る彼の言葉に反応し、新八が声を上げる





「爺(じいや)さん…アナタ 定々様に
お仕えしていたんですか」


「む…昔の話ですじゃ」





目を逸らすじいやに構わず異三郎は


幕閣内で粛清が続く嵐の時代に主を護り抜き


定々が将軍の任の勅命を賜われるよう
尽力した忠臣である事を淡々と告げてゆく





「なにせ、他の有力派閥のお歴々は定々様を
残してみーんな天国にいっちゃったんですから


「天国?」


「そう文字通りの天国 吉原で







不穏なものを感じながらも先を促す新八を遮り





「佐々木殿、この方達を外までお連れ願えますか」





これ以上ご迷惑かけられないから、と言い


じいやは姫を殿中へと連れてゆく





「ああ待ってじいや!!神楽ちゃーん!!


「そよちゃーん」


思わず追いかけようとする神楽だが、肩を捕まれ
あっさりと引き戻される





「さて、それではお帰り願いましょうか
門前まではお送りしますよ」


「悪いがそうもゆかぬ」





の一言をきっかけに、新八が訝しげな
面持ちの異三郎へと問いかけた





あの…定々様について少し聞きたい事が
あるんですけどいいですか?」







―――――――――――――――――――――





「はい将軍様 あ〜〜〜ん





とメリル、そしてスネークの三人は
部屋の隅や縁の下へ身を隠し





二人羽織りで銀時が将軍を動かして


"デリバリー吉原"として呼ばれた設定の
月詠と信女がフォローに回っている





最初は白い目を向けられはしたものの

取り敢えず誤魔化しは効いているようで





彼等へ背を向け、定々は庭を眺めながら





「しかしよく見廻組が人の出入りを許したもんだ

…やっぱり彼等は城中(ここ)を護りに
きたワケじゃなさそうだ」





件の幕府要人暗殺が、攘夷志士の犯行ではなく
幕閣内の派閥争いが原因と睨み


城中が"警備"の名目で見張られていると口にする





「え?ちょっアレを見なさいとか言ってっけど!!
こっからでいいかな?こっからジジイの生え際
見てればいいかな?」


「何をしとるんじゃ立て!!早く行け!!





背後でフラフラと立ち上がり、前のめりに倒れる
二人羽織将軍の奇行に気づかぬまま


幕府内が現在 現将軍・茂々派一橋派
分かれている、と続けられる





「件の暗殺の犠牲者は一橋派ばかりです

ゆえに見廻組(かれら)は私達に疑いの目を向けている
ワケだよ…勿論事実無根の言いがかりだがね」





どうにか定々の横まで来た銀時だが


剥がれた将軍をとっさにブリーフで支え

引き戻そうとしたら破けてあたふたしていた為


ロクに話など聞けるヒマはなかった





「足をすくわれぬよう、くれぐれも言動には
注意を払って…」





振り返った定々に焦ったあまり





「キ・・・キャ〜将軍様私のパンツかえして〜!!


「グハハハハハ悪いパンツはいねーがショーグン!!」


破けたブリーフを頭に装着した銀時が月詠の
フォローをもらい乱心した振りをしていた


…本物の将軍は信女によってツボにしまわれていた







「…フフフまったくアナタって人はこんな時に
たくましいんだか図太いんだか

でも遊興も、程々にしなければいけないよ」





バレバレ過ぎる変わり身を乗り切った彼等へ





「そう 「傾城」には…気をつけなさい」





背を向け諌める定々から、不意に零れた
その単語を耳にして


両手をつき 非礼を詫びた月詠が訊ねる





「その傾城を…
鈴蘭を 覚えてていらっしゃいますか





―――――――――――――――――――――







格子窓へ背を寄せた異三郎は


四人から事情を聞き、彼らが城へ来た目的を
理解して納得したようにこう返す





「それでその花魁と定々様の関係が知りたいと」


「何か知っているような口振りだったので」


「いいんですか?そんなに簡単に信じちゃって
きっと坂田さんやさんに怒られますよ」





"みんなを護る警察や、上に立つ将軍がいい人"


世の中がそう単純でない、と自虐と皮肉混じりに
付け加えられた台詞へが頷く





「この薄情な男には血も涙もなく、今とて
気を抜くと闇へと消されかねぬしな」


「彼女ぐらいの心構えでちょうどいいんです」





やや素っ気なく言って 彼は携帯を取り出す





「悪い事はいわない アナタ方三人も
このまま私にメアドを教えて帰りなさい」


「いや持ってねーよ」


「ぼっ僕のはちょうど修理中で…」


「メル友になって帰りなさい」


「「「他人のまま居続けるわ」」」


とのやり取りで"友になったら終わり"
理解しているため全員はきっぱりと断った







取り付く島もなさそうな相手を
真顔で見据えて 少女は問う





「一目の逢瀬さえ…叶わぬのか?」


「国さえも色香に溺れさせ傾けるが「傾城」
関われば その身を滅ぼす事になりますよ」


でも僕らは約束したんです!メリルだって…」





引き下がる気のない四人へ、一つため息をつき







「あなた達の言う通りです 鈴蘭太夫は
先代将軍定々様の若かりし頃の情婦でした」





語り出した異三郎は、その言葉のすぐ後に


"情欲に溺れたのが定々ではない"と答える





当時から吉原は高官達の接待会談の場として
使われており、訪れた者は皆

"傾城"鈴蘭の魅力に取り憑かれ





油断を誘われ…押し入った刺客に殺されていった





「定々様(かれ)は
鈴蘭(かのじょ)を利用したんです」








文字通り傾城を"国崩しの道具"として利用し


抵抗勢力を狩って将軍の座に昇りつめた定々は
傀儡となる将軍を擁し、権力を振るっている





未だに形骸化した幕府にしがみつき


愚かな狩りを続ける哀れな男、と異三郎は
定々をそう評す





「そんな…じゃ…じゃあ あの約束は


「そんな男が秘密を知る道具を
外に連れ出す、なんて約束すると思いますか」





それこそ詭弁…鈴蘭を永久に吉原に幽閉するための


「ただの呪縛(のろい)です」







言葉を失った四人へ


携帯をいじりつつ彼は、彼らがしようと
していた事の無意味さを冷淡に説く





「あの狸ジジイはあなた達の手に負えません
ここはエリートに任せて手を引きなさい」





吉原だけでなく城中も狩り場だ、と
異三郎が警告すると同時に


辺りからひしめく只ならぬ気配を感じ取って







「何をされるか分かったもんじゃ「片メガネ殿っ!」





叫ぶの声も虚しく、もたれた格子窓越しに


突き出された刀が異三郎の胴を貫く







…もしもの手に、入城する際に武器として
取り上げられた形見の槍があったなら


壁の向こうの下手人は凶刃を振るう間など
与えられはしなかっただろう





目を見開き呆然としている新八達とは対称的に


引き抜かれた刀にも、刺された傷にも





「ホラ…だから言ったでしょ
傾城に関わるとロクな事がないって」





顔色一つ変えずそう答えて…異三郎は倒れる





「さっ…佐々木さんんんんん!!


「い、今ならまだ間に合うかも!早く手当を





身を案じて新八やジョニーが屈みこんだ直後





「動くな!」


彼等をぐるりと、刀を携えた侍達が取り囲む





「幕府重臣殺害の下手人、及び見廻組局長
殺害の現行犯として貴様ら一味を連行する」



お前らぁぁぁ!何のつもりアルか!」


「よせ神楽!」





特殊な刺青を腕に彫りつけている
御徒衆の気配から 実力を察知し


徒手空拳の現状では不利だと理解した
が、神楽を押し留める


「謀られたか…卑怯者め!





顔も知らぬ定々を唾棄し、四人は逮捕に
大人しく従って連行されていく








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:こっちは新八達のやり取りが中心です
銀さん側がどーなったかは原作かB面


月詠:手を抜くな(クナイ投げ


銀時:やってらんねーわー、二人羽織りして
無茶ぶりされてパンツ被ってクナイ ケツに受けて
挙句あのジジイに濡れ衣着せられるなんてよー


スネーク:お陰でオレもとんだとばっちりだ


メリル:それにしても…鈴蘭さんも私達も
あの男に騙されてたなんて…!


のぶめ:…相手が一枚上手だったみたい
それより、お腹が空いてきた


狐狗狸:な、ナズェミデルンディス?!




策略により捕らわれた彼等は、牢獄で再会し…


様 読んでいただきありがとうございました!