…翌日 日輪の茶屋にて
"定々暗殺"の知らせと、公に病死とされた
扱いを沖田から耳にした銀時とは
揃って不満げな視線をよこした
「納得いかねぇのもわかりますが
上からの御達しなんでね」
「下手人は?」
「さて、捜すつもりがあんだかねーんだか
さっぱり進展せずですよ…ねっ旦那方」
「「鋭意捜索中だ」」
内部の犯行、もしくは天導衆の口封じを
月詠は疑っていたが
「あんだけの人員動かして定々を
奪還しようとした連中がそんな事しますかねぇ」
「恐らく天導衆はあの期に及んでも
定々を取り戻す機会を狙っていたハズ」
沖田とビッグボスが口々に否定をして
今回の一件が 一橋から天導衆への
"宣戦布告"であると結論付けた
その証拠に天子から下った勅命にて
「将軍様の辞意がとり消された!?」
「えぇ、引き続き執政を取り 事後処理を
全うせよと 伯父上亡き後の幕府を支えるが
将軍の役目であるとお達しが…」
その言葉を、そよ姫から直に聞き
「よかったじゃないですか」
「私達のせいで将ちゃん辞めちゃうかと
思って心配したアル」
江戸城門前へと様子伺いに来た新八と
神楽、そしてはホッとしていた
…しかし三人と姫は
それが一橋の政権奪取を阻止する為
天導衆によって仕組まれたとは知らない
第十二訓 消えぬ想い
水面下による一橋と天導衆の
権力争いは 現状いまだに続いており
それは幕府や…城中にも影響を及ぼしていた
「舞蔵殿の様態は、いかがでしょうか」
「みなさんのおかげで一命は取りとめました
でも…いまだ床に伏せったままです」
重症の身であり、城内での騒動と
定々暗殺の一件もあって
将軍にまで見張りがついた厳戒態勢下で
江戸城は今 一切の出入りを禁じられている
「そんな…!」
「先っちょだけでもG嫌出らんないアルか?
どうにもならないアルか!?」
「ごめんね神楽ちゃん、私も何とか
してあげたいんだけど「姫様」
言いかけるそよ姫の言葉は遮られた
「そろそろお戻りください」
「のぶめさん」
「信女殿」
何か言いたげな四人へ、しかし彼女は
きっぱりと答える
「…そんな顔をしてもダメ」
門の奥へと去る、そよ姫と信女の後姿を
三人は…ただただ寂しげに
見つめるしかできなかった
―――――――――――――――――――――
煌々と満月が輝き始めた頃になって
様態の安定した鈴蘭を診た医者からの
言葉を、日輪は告げた
「もって今夜いっぱいだろうってさ」
これが鈴蘭太夫の待つ、最後の
約束の月になるかもしれない事実に
気落ちした顔を見せる月詠や
枕元で様子を見ているメリルとジョニーへ
「そんな顔しないの よく…頑張ったよ
鈴蘭さんも…アンタ達も」
励ますように日輪は言った
「私がアンタ達が裏でコソコソやってる事に
気づかないとでも思って」
「バレて…たんですね」
「まったく無茶やらかしたもんだよ」
銀さんに似てきた、と月詠をからかう彼女は
「口すべらせないように気をつけてたんだけど
どうやらムダだったみたいだね」
ついで、意味ありげな事を口にして
三人の目を丸くさせた
「ひっ…日輪さんまさか」
「最初から鈴蘭の待つ男を知って…」
「さぁね」
断言の代わりに日輪は、これだけの長い間
迎えに来るのを待っていた男は
素敵な男(ひと)だったのだろうと答える
「ねぇ、鈴蘭さん」
振り返って、訊ねられた鈴蘭は
「日輪ちゃん、そろそろ
化粧…お願いできるかい」
床に就いたまま安らかな顔で…日輪へ化粧を頼む
「そろそろあの人との 約束の時間だ」
―――――――――――――――――――――
布団を抜け出し、重い体を引きずって
「こんな夜更けにどちらへ?」
廊下を進む舞蔵を…異三郎が呼び止める
「その身体で 吉原へ夜遊びですか
死にますよ」
出入り禁止の報は伝わっていても
なお起き上がった家老へ
これ以上騒ぎを起こされては困る、と
告げて彼は 自重し部屋へ戻るよう勧めるが
「…命令違反は百も承知
どうぞ斬るなら斬ってくだされ」
彼は、踵を返そうとしない
既に刃をうける腕(かいな)はないが
足を、首を取られようとも
「あの日交わした約束
皆がもう一度つないでくれた」
魂に繋がれた約束(いと)だけは
「いかなる刃をもっても断つ事はできませぬ」
強い意志を宿した瞳で、言い切った
舞蔵をしばし眺めるも
異三郎は あくまで態度を変えずに問いかける
「この厳戒態勢を抜けられると」
普段ならばさておき
この緊迫した政治状況下においては
たとえ些細であろうと
政敵につけ入る隙を、作るわけにはいかない
その重みを以って…彼は警告を繰り返す
「もう一度だけいいます
部屋にお戻りください」
―――――――――――――――――――――
着物を前に、惑う月詠の心中を
メリルは察していたが
握りしめた手の平の約束に気づいて
「月詠ちゃん その心中立ては
…いい男(ひと)とのものかい」
そう訊ねたのは…鈴蘭だった
事情は知らなくても、伝説の花魁は
約束の真意を察していた
「だったら 最後まで信じておあげなさいな」
だからこそ…彼女へと優しく語りかける
「いい男ってのは、必ず約束を
護るもんだ…そうだろ?」
―――――――――――――――――――――
自らの背後の畳に、一つの缶が投げ込まれ
振り返った異三郎は
…いつの間にか座敷に上がっていた
銀時達五人の姿を目にして驚く
「あ…あなた達は一体どこから!!」
だが彼の問いを無視して
缶を踏んだまま、人差し指を高々と立てて
銀時は声を張り上げる
「缶蹴りする人 この指と〜ま〜れ」
両サイドの襖を開けて、真選組と外国軍
そして将軍とそよ姫が
『はーい!!』
威勢のいい返事を返しながら
座敷へ我先にとなだれ込んできた
あまりと言えばあまりの光景に、さしもの
異三郎とて平坦な口調を保てなかった
「なっ…何をやっているんですか
アナタ達 将軍様まで」
「まーまー警備の邪魔はしませんから」
取り成そうと愛想笑う新八に続いて
「メル友や共同戦線を張った仲なら
もう少し、融通を利かせるもんだろう?」
「どんな軍隊にも遊び心や息抜きってのは
時には必要だろ?固いコト言うなよサブちゃん」
「勤務中に馴れ馴れしく呼ばないでください」
皮肉気に言うスネークとカズへ返す合間にも
缶蹴りは着実に進行していく
「この人数でジャンケンすんのもアレなんで
鬼は土方さんって事で」
「ふざけんなこの人数だぞ
100パーイジメみたいになんだろが!!」
「まあまあ土方さん、どうだ?
ここは一つ折中案でカズを鬼にすれば」
「ボスぅぅ何処が折中案んんん!!?」
「ふむ…しからばマヨ殿とカズ殿で
鬼をやれば万事解決だな」
「何一つ解決してねぇよ!」
そして揉める沖田らを見かねた将軍が
将軍の特権によって、鬼を決めた
「爺(じいや) 頼む」
外部の人間の侵入を許した上、職務放棄と
なる行動を 異三郎が許すわけもなく
「これは責任問題…」
なおも言い募った申し立ては
彼の部下である、信女が勢いよく
缶を蹴りあげた際の轟音にぶち切られた
「さっさと缶拾ってきて
多分吉原位までいってると思うけど」
硬直している彼へ言い放った一言を合図に
集まっていた者達は、それぞれ散り始め
「病み上がりには辛かろう…エリート殿は
精々動かず安静にしているがいい」
すり抜け様、敢えて言い放ったの
その発言によって
ようやく異三郎は…ため息をつく
「アナタが言わないでくださいさん」
城の敷地内を動き回る人影に紛れて
一人の老人が…まず初めに、城を飛び出す
後を追うようにして出てゆく数人の内
金に近い銀髪の青年は、側にいた少女へ
"何も護れなかった"と自らの至らなさを告白する
「まっとうな人間じゃないクセして…オレは
強さも、心も半端なままだ」
「お主は、まだ自らを卑下するか」
悔いる面持ちを、真っ直ぐな緑眼で映し取り
「例え人の身を失おうと、殿は
武士(もののふ)の魂を持つ仲間だ」
は表情を変えずにハッキリと応じた
「案ずるな、もし道を違えたなら
―お主の因果は私が終わらせてやる」
微かに頷いたは…ほんの少しだけ
満足そうに笑っていた
―――――――――――――――――――――
満月の下 もつれそうになる二つの足を
必死に動かして舞蔵は走る
華美な装飾に彩られた色町の路地を
いつか交わした約束を…抱き続けた
誓いを果たすために
かつて一本桜のあったであろう、その場所は
今や立ち並ぶ建物の隙間に追いやられ
素っ気ない電信柱が据えられた空地だったが
誓った相手は…鈴蘭は そこにいた
うな垂れる彼女を見て、肩で息をしていた
舞蔵はその場で膝をつく
…悔恨の念に満たされていた男へ
「やっと…会えましたね…」
女は、ゆっくりと小指に結ばれていた
"約束"を差し出した
「最後の月が、あなたを…ようやく…
連れてきてくれた…」
待つ内に、桜と自分が枯れた事を
詫びる鈴蘭だったが
当の舞蔵は…そうは思わなかった
「何を…おっしゃいますか
枯れてなど おりません」
昔と何一つ変わらない美しい夜桜と
在りし日の、若き互いの姿を共有し
鈴蘭は儚げに訊ねる
「…舞蔵様 これは夢?
また月と共に消えてしまう、一夜の夢?」
「いいえ…
今宵の月は 決して沈みませぬ」
寄り添った舞蔵の言葉へ
示し合わせたかの如く、様子を
見守っていた銀時達六人も
途中で飛び出してしまったメリルとジョニーも
城にいる真選組や将軍達も…高杉も
一様に、満月を仰いだ
「この夢は、もう…覚めませぬ」
震える声で…抱きしめた鈴蘭(おんな)へ
ずっと一緒だと舞蔵(おとこ)は告げる
目を閉じた彼女の手が、地へと落ちる
その手を彼が固く握りしめ 彼女は…
「やっ…約束に…ござる
約束にござる」
桜の舞う中、月と愛した男に看取られ 旅立った
――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:共演&同時進行した[A面]、これにて
無事に完結いたしました!
全員:ありがとうございました〜!!
銀時:最後、ものの見事にジジイとババアに
かっさらわれてったな
新八:原作重視なら仕方ありませんって
日輪:二人の逢瀬に、野暮は言いっこなしだよ
土方:槍ムスメの野郎…相手に言うじゃねぇか
異三郎:全くです、あんな顔をして
怖いもの知らずとは末恐ろしい少女です
のぶめ:挑発に乗せられたのが悔しかったの?
異三郎:いや別にエリートですから敢えて
凡人の稚拙な挑発に乗ったフリを
ビッグボス:否定しきれておらんぞ
(全員 無言で頷く)
次回長編では…あの人が意外な転身を!?
書き始めは一応、四月を予定
様 読んでいただきありがとうございました!