奈落の者どものほとんどを制圧した辺りで


…遥か上で響く"爆音"と、城を震わす
大きな振動に見廻組の者達も気づく





すわ何が起きたかと天を仰ぐ部下と


同じように顔を虚空へ向けながらも





「やれやれ…凡人の割には
随分と派手にやるものですね」





異三郎の面持ちや立ち振る舞いには
一部の隙も見当たらない







…だが爆音と振動の原因


"定々を乗せるための脱出艇"


突如として爆発し、天守閣の頂上で
破片を跳ね散らすのを目の当たりにして





城へと馳せ参じていた茂々を始め





「まっ…まさか、アイツ…!!


真選組や米国の軍勢、そして何より


新八と神楽は心中穏やかではいられなかった





、ツッキー…!」


「ぎっ 銀さぁぁぁぁん!!











第十訓 彼らの約束











頭からの流血跡が生々しく残る彼を





「…死に損ないめが」





唾棄して、口元の血を拭おうともせず
朧が瓦礫から身を起こす





「まだ抗うか、まだ吠えるか
その目を閉じれば もう失わずにすむものを」


言葉と、視線の矛先を向けられても





「それでもお前は
戦場(ここ)に立つか 白夜叉」






微動だにせず銀時は敵を見据える







…黒煙を上げ宙に留まる船をめざし





「最早何もかも遅い、どれだけ足掻こうと
お前の 侍達(おまえたち)の元へは何も戻らぬ





いくつもの戦艦が集っている事に

月詠と、そして定々は気づいた


その船が 天導衆のモノである事も





「お…終わりだ…
きっ貴様らは もう終わりだぁぁぁぁ!!


狂気に彩られた高笑いが、磔にされた
老将からほとばしる







「失いしものを求め戦場をさまよう幽鬼めが
お前のあるべき所はここではない





互いに間合いを計り





「己(おの)が復讐の業火に焼かれ…
地獄へ還るがいい!!」



先に動いたのは、朧だった





「白夜叉(おに)めがぁぁぁ!!」





駆けざまに放たれた無数の針を


銀時は微動だにせず、背にしていた船の
噴射口を横殴りに切り割って


引き起こした爆発により跳ね返す





起こされた爆発に、他の部位までが
立て続けて誘爆を起こし


朧の周囲は黒煙と熱風に染まった







視界を塞がれながらも気配を伺い


己が顔面へ飛び込む針を、首をひねって
かわした朧だったが


続けざまの針が煙を縫って右膝の上に


そして左脚、右肩へ続いて刺さり


狙い過たず経穴を突かれて朧の動きが鈍る





地獄へ還れ?
寝ぼけた事ぬかしてんじゃねーぞ」





鬼に自らの技を返されても、化物は
内心の動揺を抑えて機を狙い





「ここが鬼(おれ)と化物(おまえ)の
地獄(デートばしょ)だろーがよ」






声と共に迫り来た背後の気配へ
回し蹴りを見舞い





「オレの技がオレに通ずるとでも」


吹き飛んだ人影へ針を投げつけた





自在に剄を操れるからこそ、活醒により
自力で自由を取り戻した朧は


身に刺さる針を引き抜きながら


人影へと距離を詰めてゆく





…だが、煙が晴れた先に倒れていたのは







「…お おぼろ


針打たれて瓦礫に半身を鎮める主君だった







「そのへんにしておけよ」





固まるその背へ呼びかける銀時へ
煙の中から、も習う





「確かに地獄じゃ足りない奴だが」


「てめぇで作った法で裁かれるが
そいつにゃ似合いだ」



「きさっ…」


向けた顔が不敵な笑みを確認するより早く





突きを食らい、瓦を砕きながら屋根を
滑り落ちる朧の身体を銀時が追った





しかし伸びあがった掌底に右肩を打たれ


再び銀時の右腕は 動きを止める





「経穴を突くは毒針だけではないわ!!」





二撃目を足の裏へ放たれ、左脚から
噴水のごとく血が噴き出る


が、銀時は手放した木刀を左手で受け取り


間髪入れず朧の左肩へと突き立てる







天守閣の屋根を転げ落ちながら
死闘を続ける二人を


もはや身動きもままならぬ定々を
見張りながら固唾を飲んで見守る月詠と





そこへ、船から脱した信女とが駆けて来る





殿!銀時は…!?」


「あそこだ」





屋根の端が木刀によって砕け散り


そこからなお落下を続ける銀時の四肢へ
針が穿たれ 木刀の柄が手を離れた





「まずい」


「「銀時!」」





好機と見てとり、朧は抜刀し壁を蹴る





「終わりだぁぁぁぁ!!

白夜叉あああ!!






迫りくる敵と…自由を失った
自身の身体を前にして


それでも、銀時は抗い続けた









―遠い日 "奈落"の者達へ連れていかれた
松陽の背を見つめるしかできず





『銀時 あとの事を頼みましたよ』





励ますように"スグに戻る"と言って





『仲間を、みんなを
護ってあげてくださいね』



満月(つき)の光を受けて一度だけ

振り返った師の微笑を


自分と同じように縄打たれた腕から
ちらりとのばされた小指を





『約束…ですよ』





手を伸ばしたくても、伸ばす事さえ
ままならなかった自分自身の苛立ちを


忘れる事など―出来はしなかったから









「あぁ 約束だぜ





震える左腕を必死に持ち上げ


いくつもの"約束"が結ばれた手の小指
持ち上げて銀時は答える





闘いを見守っていた四人と


そして何よりも…刀を振り上げ
とどめを刺さんと身構えた朧自身が


彼の行動に、驚かざるを得なかった





「先生ぇぇぇぇえええ!!」


左腕に握られた木刀と 打ち下ろされた
刀身がぶつかり合って





…両方ともが根元から


刃を折り飛ばされる形で砕けた







落ちゆく木刀の刃を掴み取った銀時の左腕へ


右足へ挟み込んだ朧の刃先が 突き通される





「地獄へ帰るがいい 白夜叉ぁぁぁ!!





渾身の掌底が胴へ叩き込まれた直後





「銀時っ!」


すかさずクナイを取り出しかける
月詠を、が制した





「月詠殿 手出しはまだ早い」


「ああ…
それに銀さんは、まだ諦めちゃいない







彼らの言葉が指示す通り





血を吐きながらも銀時は叩き込まれた
右腕を掴み取り


逃さぬよう左腕へ全力をこめて挟む





「悪ぃな、先約を思い出した





二人が落ちゆくその下には





「予約はもうとっておいたから
先に地獄(そっち)で待っといてくれ」






攻撃を受けた際、銀時が振り落して

屋根へ突き立てた木刀の切っ先があった






その事へ気づいても


切っ先からも、銀時の腕からも
逃れる事が叶わずに


朧が怒りを露わに叫んだ





「きっ貴様ああああああ!!


「先生に よろしくな」







二段目の屋根へ身体を叩きつけられ


爆発同様の衝撃に、瓦や屋根の破片と
一緒くたに吹き飛ばされて


銀時の身体は落下地点から少し離れた場所に
めり込んでようやく止まる









…衝撃と、土煙が収まって





落下地点を見下ろした四人は


胴から木刀を生やして仰向けに倒れる
朧の姿をも認めていた





「…どうやら、決着がついたようね」


ああ、そうじゃな」





ふぅと息をついた彼らをすり抜け


槍を構え、が一歩屋根へ向かって踏み出す





ここは任せた、私は銀時の様子を見に行く」


「ああ…行って来い


「無事を確かめたら助太刀に参るゆえ」


無表情にそう告げて、床を蹴って
三つ編みを揺らした黒法師が屋根を下る





その道中で城へ向けられた緑眼が





船へと近づいていく、天導衆の戦艦





天守閣へと駆けあがる 将軍を先頭にした


真選組(しろ)と見廻組(くろ)と
外国軍の混成軍





…そして、銀時を目指してこちらへ向かう


新八と神楽を垣間見た





「二人とも、こっちだ!





叫んだに 二人もまた気づく


さん!?そのカッコは」


「変装だ それより今活路を開けるゆえ」





駆けつける二人のために
壁を切り開こうと、槍を正眼に構え





「少しばかり下がってい」
「んな悠長な事してるヒマないネ!」


今まさに斬撃を放とうとしてた


窓から新八ひっつかんで飛び出した
神楽が思い切り踏んづけた






…二段目の屋根に、また一人めり込み





、お前の犠牲無駄にしないアル」


「踏み台にする必要あった!?」





代わりに見事着地を果たした神楽へ

新八が青筋立ててツッコミを入れていた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:こーいうバトル展開での建物や城は
例外なく倒壊しますね(半壊か全壊かは別として)


茂々:致し方ないとはいえ、自らの住処が
壊されるのを見るのは切ないな


狐狗狸:ひどい例だと城ごと一刀両断されるしね


新八:それどこの話ぃぃ!?やめたげて!
将軍様涙目になってるからやめたげて!!


神楽:江戸城は犠牲になったアル


銀時:城ぇ…


狐狗狸:主人公が暴れて、生き延びた城なし


新八:傷口にからしとワサビ混ぜ込んで
大量投入すんなぁぁぁぁ!!





約束を果たし 今こそ見せる侍の意地


様 読んでいただきありがとうございました!