煌々と輝く月を見て、遊女(おんな)は言う





「私はあの月が憎い」





夜とともに男を連れ 朝とともに男をさらう月が

消えぬよう願う遊女を抱き寄せ





「また夜と一緒に月はやってくるよ」





男は、誓いを口にする


「そしてきっと今度は朝と一緒に君を
吉原(ここ)からさらうだろう」






二人は自らの髪を抜き、それぞれの小指へと
絡ませて約束を交わして待つ


一本桜の前で、次の満月の晩を







…たとえどれほどの年月(とき)を越えても





―――――――――――――――――――――







暗く沈んだ面持ちで歩くメリルを見かけ





ん?あの女人は殿の…」





兄の迎えで吉原へ赴いていたは、すかさず
歩み寄りつつ声をかける





「もし、どうかされたかメリル殿」


「アナタ確か…どうしてここに?」


「兄上へのお迎えだ」


そう、と適当に流してから彼女はしばし
少女の顔を見つめたままで考えて





「ねぇ…ちょっとアナタに
お願いがあるんだけど、いいかしら?





思い切ったように そう口にする





「内容にもよるが手短に頼む、兄上をあまり
お待たせしたくはない」


「ブレないわね相変わらず…」





少しばかり普段の調子を取り戻しながらも

メリルは順を追って事情を語りだす











第一訓 仰天城地











"鈴蘭"という伝説の花魁が銀時を指名した事


監視役として月詠と見学者として
自分とジョニーも日輪に呼ばれた事





かつて吉原が地上にあった頃に日輪を凌ぐほど
名を馳せた伝説の遊女は


いまや点滴を杖代わりに生きる老婆である事





「…何やら近くで聞き覚えのある声がしたと
思ったら、なるほどお主らか」


「まあ大半はあの天パとジャックだけどね」





もはや介護が必要な程に老いてしまった鈴蘭が


何があっても、現役を退くことも吉原から
出て行くコトもしない理由







「じゃあ約束してくれますか
月が出たら また会いに来てくれるって





引き抜いた自らの髪を銀時の指へと結び





「私…待ってますから 月が出るのを…ずっと」


誰かの髪の毛を巻きつかせた小指を差し出し
誓いを口にする姿と





"愛を裏切らない"と誓い合う決め事を


交わした男との、遠い昔にした約束の話





「その男…もう当に世を去っているやもしれぬぞ」


「かもしれない、だとしても生きてるなら
どうしても一目会わせてあげたい





冷淡に告げられた事実を耳にしてもなお


その一言には 強い意志が滲んでいたので





「無理な相談だって分かってるけど
聞いてもらえる?」







少女は、返答に迷わなかった





無論だ お主らにも吉原(ここ)にも
借りがある、及ばずながら尽力いたそう」


「…ありがとう!」





翌日から、お互いに連絡を取りあいながら
人探しをする約束をかわして別れ





は兄にもその話を伝えて協力を請うた





「何十年も前の、顔も名前も身分も分かんない
遊郭の客探しねぇ…気が乗らないなぁ」


「…どうしてもご助力いただけませぬか?」


「まあ、僕もそこそこお客さんいる方だから
やるだけやってみるよ」





だからそんな顔しないで、という一言を
飲みこんで兄が答えたので


無表情のまま少女は 目を器用に輝かせたのだった









そうして一晩明け、メリルと三人の男による
チームと組んでの聞き込みを始めた





それほど経たぬ内に、同じ目的で街を歩く
新八と神楽とも出会った





「あ、さんも鈴蘭さんの顧客探しですか?」


「うぬ…とするとやはりお主らもか」


そういうコトよ 銀ちゃんもなんだかんだ
言っときながら結局首つっこむの好きアル」





顔を突き合わせついでに、手持ちの情報を
お互いに交換しあったりなどもしていたのだが





かなり古い話のせいか


万事屋側もらも月詠達も、情報収集が
捗らずに苦戦していて







鈴蘭?死んだエロジジイが言ってた気がしたな」


「あー一発しけこみたかったのう鈴○蘭々」


「でもオレはどっちかっつーと○ンちゃんより
ミ○ちゃんと一発派だったな」


「わしは○ンクレディと一発派じゃな」


「わしはお前さんと一発派じゃな」


「わしは…誰でもいいから最後に一発……」





当時を知っていそうな人々の話が、どんどんズレ





「俺は結野アナ派かな いや、そっちの
穴じゃなくてあっちn「「どうでもいい!!」」


往来でとんでもない発言をかました銀時の顔めがけ


月詠とメリルが蹴りを炸裂させていた





「オイ何しとるんじゃ貴様はこんな所で」


「お前らこそ何二人でコソコソ
一発したいアンケートとってんだ」


「勝手にスケベジジイ共がズレていっただけよ!」





だがめげること無く身を起こした銀時は


自らを棚に上げ、二人が鈴蘭の約束の相手
探していることについて言及し始める





「まさか男の方も約束覚えてるとか乙女チックな事
考えてんじゃねーだろうなオメーら」





笑いながらのその発言が図星だったのか

顔を真赤にして 月詠が否定し始める





「だっ誰が乙女チックじゃ!
百華の頭 死神太夫をなめるな!」






キセルを新調しに来て、道に迷って…


しどろもどろに弁解する月詠の元へ百華が駆けつけ


「頭!鈴蘭について有益な情報が!」


「黙りんす!」


「え、何?黙りんすって何?リンス買いに来たの?」


サラサラヘアーになりたいの?と益々嫌味に
笑いながら挑発混じりに言う銀時へ


彼女は更にムキになって部下へと命じる





違う!!ダマリンスは髪がザラッザラになる
リンスじゃ!早く買ってこんか!!」



「え、ダマリンス?」


「何それ!?」





困惑する百華らを見回し、今度はメリルが言う





「騒がしいわね全く、江戸の人間はどうしてこう
無駄に動く人間が多いのかしらねぇ」


「何じゃと貴様!」


つか自分は関係ない、みてーなツラして
お前も同じ穴のムジナじゃねぇのー?」


邪推もはなはだしいわね 何十年も前の
しかも名前も身分も何一つ分からない男
探すなんて徒労もいい所じゃないの」





ハン、と鼻で笑った辺りで 彼女の同僚と
ジョニーとがこちらへ駆け寄って来た





「隊長!」


メリル!捜し人見つかったよ!」


「ダマリンス!!」


「え、ダマリンス?


「一体何の事だ?メリル殿」


「結局ぬしも無駄に動いとるじゃろうが!」





この光景を見て、勝ち誇ったように銀時が
"これだから女はよぉ"とあざ笑う





「あんな約束ババアが騙されたに決まってんだろ?
オメーらもババアも女ってのは哀れだね」


「銀時…本気で言っているのか?


「お、おいおいマジになんなよ…ったく
KY能面まで巻き込むなよな乙女ちゃーん」


緑眼に乗った怒りに一旦ビビリながらも

月詠とメリルを小バカにしていた銀時







「お、いたいた!


を見つけて新八と神楽とが背後から駆けて





銀さーん!やりましたよ!」


「バーさんの客についていい情報が入ったアル!」


「お黙りんす!!」







思わず怒鳴った彼が我に返るも手遅れで


先程のお返し、と言わんばかりに


バカにされていた二人が嫌味ったらしくこう返す





「ほうそうか奇遇じゃな、ぬしも
ダマリンスを買いにきたのか?」


「それ以上ザラザラになって手入れとか
大変になるんじゃなぁーい?」


「ダマリンスじゃねーオダマリンスだ!
天然パーマが直るんだよ!」



「いや直んないでしょ〜手遅れだって、無駄無駄


「オダマリンスなら直るんだっつの!
つーかうっせ!オメーらもお黙リンス!



「貴様の方こそ黙りんす!!」





周囲をないがしろにして繰り広げられる
下らない言い合いへ





「お主ら、痴話喧嘩なら後でやれ」


「「「お黙りんすぅぅぅ!!」」」


口を挟んだが、逆にトリプルで
ツッコミ食らって沈黙させられた





しかしそれを契機に





「あーもういいですよ、三人とも素直じゃないな」


「銀ちゃんもツッキーもバーさんが死ぬ前に
一目約束の男と会わせてあげたかったんでしょ」


「素直じゃないなぁ隊長」





見かねた新八らが彼らをなだめだし


メリルはバツの悪そうな顔で口ごもるが





「「は?」」


「…え?違うんですか」





月詠はクナイを取り出しながら、真顔で


吉原の女の心を踏みにじった男の処断を口にする


「鈴蘭が死ぬ時 それは男が死ぬ時じゃ」





そして銀時は、左手に結ばれた髪を見つめ





「男に会わせたら
ためこんだ遺産全部くれるって」



真っ赤なウソで約束を勝手にねじ曲げた





「アンタら結局真っ黒な事しか
考えてないじゃないスか!!」



「月詠殿、会わせるまでクナイは我慢されよ」


「いやさんそこは止めて!」


「代わりに銀時を刺せばよかろう」


「「それ代替え案じゃなくタダの生贄!」」







そんな余計な騒ぎの隣で


「隊長は、何故こんな事を?」


問われたメリルが口にした言葉には


父が果たせなかった約束を"代行"したい
いう想いも込められていて





「勝手かもしれないけど、だからこそ私は
鈴蘭さんの願いを叶えてあげたい…それだけ」






を始めとするほとんどの人間が


二人と正反対な彼女の動機に、微笑んで
共感していたのだが…







「いい雰囲気のトコ悪いけど、その銀ちゃんと
ツッキー止まる気配全く無いアルよ」





ボソリと神楽が指摘する通り





青くせぇな、どうせ人間なんてどっかしら
汚れてんだよ?なぁツッキーよ」


何を言っておる一緒にするな、とにかく
男はわっちが始末する引っ込んどれ」


「させねーよ太夫の遺産はオレのものだ」


半ば皆に無視された恨みも込めてなのか


黒い思考を垂れ流しにしながら


ズンズンと先をゆく二人へ、新八と
慌てて待ったをかける





「そんなカンジじゃマズイです銀さん!!」


「いや そんなカンジじゃなくても
マズイんですよ頭!!」



「は?何がいいてーんだテメーら」







個々の情報網と、地道な聞き込みが功を奏して
鈴蘭の顧客情報へたどり着いた彼らは





"大名道具"と呼ばれるほど金のかかる太夫


それも押しも押されぬ人気花魁の鈴蘭に
高禄の旗本が、客として大勢いたと知ったが





ある"ウワサ"が流れて以来


その客足が途絶えた事も突き止めていた





「あの方……一体誰じゃ」





言い難そうに押し黙っていた新八だが





意を決し、ある場所を指して答えた





「江戸城(あそこ)に住んでる人です」







高々とそびえる立派な城を振り仰ぎ


辺りの沈黙を破り、銀時が訊ねる





「新八君 それはつまり」


「先代 将軍様です」





立ちはだかった巨大すぎる相手の名前に


全員は しばし硬直せずにはいられなかった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:こっちは原作重視で進めていきます
初っ端端折ってるので、展開ちょいズレました


銀時:で?何この[A面]って


新八:それサブタイんトコのヤツ!?どうやって
持って来たんですか!早く戻してきてくださいよ!


神楽:大丈夫ヨ、それただのコピーアル


新八:コピーできるもんなのそれ?!


月詠:…とりあえずあの三人は放っておいて
側と話は同じに見えるが?


狐狗狸:基本は同じ長編を同時進行していく
形なんですが、要所要所で行動や展開が違うので
両方読めばより楽しくなるかなー、と


銀時:だったら元ネタよろしく表・裏
いいじゃねーか、AとかBとかZでなくよぉ


神楽:世の中便乗してるヤツら多すぎヨ
映画然り犯罪然り、嘆かわしいアル


新八:お前らが言うなぁぁぁぁ!!




開始が大分遅くなりましたが、始めたなら
きちんと完走はさせますので…!


様 読んでいただきありがとうございました!