長谷川の案内により、あれから黒服の男達と
鉢合わせる事無く
五人は目的の酒屋へと辿り着いたのだが…
「普通の…お店ですよね」
「どっからどう見てもな」
「本当にここで合ってんのか長谷川さんよぉ」
「失礼な!ここで間違いねぇよ!!」
やや憤慨したように長谷川が目を吊り上げる
六人のいる路地から二軒ほど離れた場所に
目当ての酒屋は存在している
看板に書かれていた文字は確かに真新しく
名前も聞き覚えのない屋号なのだが
それ以外は、至って昔懐かしい
何処にでもありそうなやや大きい酒屋の姿
その場所と意識していなければ
うっかり通り過ぎてしまいそうな小売店だ
表と横の倉庫で作業をしているのも
ごく普通の従業員らしき人々
抱えたケースの中身にも怪しげなモノは
特に見当たらないように思える
「僕にはここ、どうしても無関係な
酒屋さんにしか見えないんですけど…」
「やっぱりマダオの勘違いとしか思えないネ」
長谷川が文句を言うよりも早く
「…いや、マダオ殿は正しいようだ」
疑わしげな二人へ が異を唱えた
第四訓 ガキの遣いが上手い奴は要領が悪い
「お前ぇ何でそう言い切れんだよ」
「簡単なことだ 店から漂う酒のニオイ
…昨日兄上から嗅ぎ取ったものと同じ故」
「ついに人間捨てたのかよ!」
「気のせいアル、酒なんてみんな同じニオイね
大方兄ちゃんのゲロのニオイと間違えてるネ」
「むぅ…確かに昨夜厠で少し吐いておられたが」
「そっちのがねぇぇよ!二人とも女の子なんだから
真剣に汚い話とかしないでくんない!?」
新八のツッコミへ共感するように頷いて
咳払いをしつつ、もまたこう言った
「…まぁニオイ云々はともかくとして、俺も
長谷川さんが正しいと思う」
「信じてくれて嬉しいぜぇぇぇぇぇ!」
涙目の長谷川を横目に 銀時は憮然として言う
「このバカはともかく、テメェまで
そう信じる根拠は何なんだよ」
「俺は少なくともこんな店は初めて見た
それにここの従業員…おかしくないか?」
「どこがですか?別に普通の酒屋さんじゃ…」
「町中で酒の飲める奴が子供に代わってるのに
何で ここの従業員は普通に仕事をしてる?」
彼のその一言は、正鵠を射ていた
警察組織の真撰組でさえ何人かが子供に変わり
流通が止まるまでは行かぬものの
大々的に混乱は広まりつつあるこのかぶき町で
目の前の酒屋で働く従業員達は
何一つ慌てた空気を醸さず黙々と仕事をしている
「なるほどな…普通なら従業員や客がか何人か
ガキになって仕事どころじゃ無くなるよな」
「流石は殿、目の付け所が違う」
「お前がピーマン過ぎるだけアル」
ともあれ長谷川の汚名は返上されたようだ
「そう考えてみりゃ…あの働きぶりが
返って怪しく見えてきたなぁ」
「よし、取り合えず行くかオメーら」
動き始めようとする銀時達に
慌てて待ったをかける新八
「ちょちょちょっと待って下さいよ!
どうやって情報を引き出すんですか?」
「何言ってるネ、普通に聞けばいいヨロシ」
「いや神楽 子供や未成年が酒の仕入先を
聞くってのは流石に怪しまれるだろ…」
「そう言うこった ここは上手くやる必要がある
で、オレに一つ作戦があんだよ」
ニヤリと笑って 銀時が頭を突き出し
小声で五人へと"作戦"を語り始める
「まず新八と神楽は酒を買いに来たガキを演じる」
「ふむふむ…それで?」
「こいつらに気をとられてる隙にが
店の奴を気絶させて、とオレで店内物色」
「「「却下ァァァァァァァ!!」」」
今回は長谷川も加わりトリプルツッコミとなった
「んだよ、中々悪くねぇ案だろーが」
「あのな銀さん 仮にも妙な組織と関わる
可能性のある店が目に付く場所に証拠を残すか?」
「逆に考えてみろよ、そういう如何わしい店なら
店内に妙な仕掛けの一つや二つあんだろ?
そこを逆手にとって証拠を抑えんだよ」
「いやそれ下手すると最悪あの黒服の奴等が
大挙してここに呼ばれるよね!?」
そこにがすっと片手を上げて言う
「銀時、しからば当初の作戦を
少し変えるのはどうか」
「お、汚名返上する気アルか」
コクリと頷き 彼女は店へと眼をやる
「二人で気を引いた隙に私達が屋根から
天井へ潜り店の中を調べまわ」
「ほとんど変わんないわぁぁぁ!店の人に
見つかったら結果は同じですよね!!」
「全く、アンタらはもう少し頭を使えよ」
ため息混じりにが指したのは
横の倉庫と、働いている従業員
「倉庫の従業員を一人、奥の路地に連れ出して
うつ伏せに倒して 自白剤をぶち込めば」
「もっと難易度高ぇじゃねぇかぁぁぁぁ!
大体それもう組織の潜入捜査とかのレベルだろ!」
「いやでも管理人ならこの店の地下に
隠し基地とかやらかしそうかと思って」
「そうそう同じ手はやらねぇから幾らなんでも!」
情報を引き出すための一手に考えあぐねている
五人へ呆れたようにため息をつき
「しょうがねぇ奴等だなぁ、ここはいっちょ
オレに任せてくれよ!」
自信ありげに言うや否や 長谷川はそのまま
スタスタと酒屋の倉庫へと歩き出す
「え…大丈夫なのかな、長谷川さん」
「マダオじゃ逆に怪しくてすぐ叩きだされるヨ」
「しかしあの自信に満ちた表情…きっと
何かよき案があるに違いない」
そして従業員の側に寄った長谷川は
ためらう事無く、隣にあったケースを
ひょいと持ち上げて言った
「これ、こっちに運ぶんだよね?」
「おーそうそう助かるわ お前どこの坊主?」
「「溶け込んでるぅぅ!長谷川さん違和感無く
作業してる人と混じってるぅぅぅ!!」」
「オイィィィ!どんだけ順応早ぇんだよ
元はフリーターすらままならねぇだろアイツ!」
「知らねぇよ!てーか何でここの奴等は
ショボイ変装とかフツーにまかり通んだよ!!」
「さんまでメタ発言は止めてください!」
路地にいる彼らの驚きようとは逆に
長谷川はごくごく普通に倉庫の作業員と馴染み
まるで親戚の子供が手伝うかのように
ナチュラルな働き振りを見せながら
様々な会話を弾ませているようだった
…そして作業が一区切りついたらしく
「いやー助かったわ、ほれこれお駄賃」
「え、こんなにくれんの!?」
倉庫の入り口で渡された小遣いを握り締め
ホクホクした顔で長谷川は五人の所へ戻り
「みんなぁぁ〜!予想に反してこんなに
もらっちまったぜ これなら駄菓子屋で豪遊」
「「「目的すりかわってんじゃねぇかぁぁ!」」」
言葉半ばで銀時と新八との三人に
ツッコミとストンピングの嵐を食らった
「マダオがそんだけもらえるなら私も働くネ!
働いて酢昆布しこたま買い込むアル!!」
「だから稼ぐの目的じゃないってーの
神楽ちゃんんん!」
目を輝かせる神楽をどうにか引き止める傍ら
「スゴイなマダオ殿は 皆全くといって
警戒しておらなんだぞ」
「ヘヘッ、ガキの頃はよく近所の店で
丁稚みてーなことやってたからよ
これくらいはお手のモンさ」
妙な所に感心した彼女の一言による
これまた論点のずれた会話が交わされていた
「オィそこのガキ大将とKY娘 テメェら
いい加減にしねぇとカンチョーの刑に処すぞ」
「銀ちゃん、やるならマダオだけにするね!
にまでやったらマジセクハラアル!」
「いやいやいや、オレ最近出が緩いから
止めて欲しいんだけどホント」
「そう言う問題じゃねぇだろお前ら!
てーか銀さんも脳ミソ子供化進んでません!?」
「話を元に戻して…長谷川さん
肝心の情報は聞き出せたのか?」
本題へと仕切り直したへ、ああと
軽く頷いて長谷川が店を指差す
「なんか商品は本部からのトラックで行き来して
ここはそれらの管理末端なんだってよ」
「トラックって…そんなもの
どこにも止まってないですよ?」
「それが働いて分かったんだけどよ」
自慢げに言って彼は倉庫へと指をずらし
「あの倉庫、裏っかわがちょーど搬入口に
なってるらしくてそっから」
「「「早く言えよぉぉぉ!!」」」
今度は三人のトリプルパンチを顔面に受け
鼻から思い切り血を吹き出させた
急いで路地を走り抜けて六人が
店の倉庫の裏手へと回ると
件のトラックが走り去っていくのが見えた
「まずい!もう発進した所ですよ!!」
「銀時、殿、マダオ殿、急ぐのだ!!」
「てゆうか子供の歩幅じゃ
コレが精一杯なんだよ無茶言うな!!」
「もうちょっとキリキリ走るねダメガキどもが!」
「ちょ、待ってよ…オレ息ぐるし…!」
「鼻の穴塞がってりゃ当然だろーがぁ!
何この土壇場で盛ってんだアンタ!」
「鼻血は銀さん達のせいだろぉぉぉぉ!!」
必死で走るも徐々に上がり始める車の速度に
追いつく所か 差は広まる一方
少し先の角へトラックが入って
「しまった、見失っちま…」
悔しげに銀時が叫びかけた瞬間
その先から 派手な爆発音が鳴り響いた
「な、何だよ今の音は!?」
「分からんがとにかく行くぞみんな!」
「…何処と無く嫌な予感がするんだけど
これってオレの気のせいだよね?」
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:私サイドでは長谷川さんの絡んだ長編
書いてなかったんで、ちょっと活躍させてみました
銀時:活躍ってか 単に丁稚小僧のフリして
働いてただけじゃねーかよ
新八:しかしよく怪しまれず潜りこめましたね
狐狗狸:作中で本人が語った通りの経緯と
親戚の子供とかが作業を手伝うアレ的な感じで
上手く誤魔化せたって事で一つ
長谷川:何その適当さ!オレ意外と今回
いい仕事してただろ!?
神楽:黙れマダオ、お前だけお駄賃もらって
生意気アル それで私に酢昆布おごれヨ
新八:神楽ちゃんそれほぼ恐喝ぅぅぅ!
次回 爆発の正体は…やっぱりアイツ!?
様 読んでいただきありがとうございました!