二人がどうにか一段下のデッキに着地した直後


弾頭底部のバーニアから放たれた高熱が
天を突く炎となって弾頭を揺らす





「間に…合わなかったのか…?」





成す術を断たれ三人に見つめられながら


絶望の象徴が僅かに浮き上がり







…しかし、噴き上げかけた炎が唐突に爆ぜ消え


弾頭はそれ以上昇る事無くその場に留まる





同時にサイロ内部を低く揺らしていた
機械音のトーンが急速に下がっていった





『…やったわジャック!回路が遮断されて
緊急停止装置が作動したわ!核攻撃を防げた!







歓喜に満ちたサニーの声が無線から漏れて





「良かった………間に合ったんだ!
俺達は核攻撃を防げたんだ!!





感極まったの叫びを耳に


銀時がふぅと息をつき その場でへたり込む





「ったくヒヤヒヤさせやがって…あー痛ぇ
気ぃ抜けたら痛みがぶり返してきやがった」


「何だだらしが無いぞ銀時、この程度で」


言葉半ばで腹部から水芸よろしく
いつもより大目に血が噴出して


ほどなくがうつぶせに倒れる





「ちょっ、このタイミングで三途行きとか
対処しきれねぇぞ空気読めぇぇぇぇ!」



「やれやれ何やってんだよアイツら…ん?」





デッキで騒ぐ二人の下へ急ごうとした彼は
別回線からの無線に気付いた











第二十訓 返すものが恩か不吉かはカラス次第











救護部隊や先に戻っていた四人組と合流した後





ただ一人、別の場所へ離れたヌルが
手にした無線へ語りかける





『またしても核を止め、アメリカの危機
…いや世界の危機を回避するとはな』


『俺だけじゃない 銀さん達やみんなの
協力があればこその結果だ…
無論、お前のお陰でもある』





バイザーの内部で小さく笑んでから


彼は無線の相手へと問う





『ジャック、お前はこれからどうするんだ?』







途端 生まれる沈黙の意味に感づいてなお
答えを求めて言葉を続けるヌル





『自分の親を殺した張本人が、国にいるのだぞ…
それでもまだ…?』


『ああ…だが俺は戦いの中でしか生きられない
だからこそ、戦う理由は俺が決める


たとえ賢者達に支配されてしまったとしても
俺が受け継いだものを伝えるために…』





静かなその口調に秘められた確固たる意志


出会ってからずっと変わらぬままの
の在り様を示していて





求めていた答えに 彼は内心安堵する







『そうか…では、また会おう!





その一言を最後に通信を終えて ヌルは一人
基地と島とを後にした


彼にもまた…やるべき事が残っていたから









どうにか応急処置も済み、銀時達は
ゆっくりながら基地の外を目指していた





「もう少し急がぬか、兄上達が待っている」


「何しれっと言ってんのこの死亡フラグが
頼むから一度死んでくんない?」


「銀さんそれは言いすぎ…ってアレ?無線が…」





けたたましく鳴る三度目の無線から
それに負けない慌しい声が響いてきた





『ジャック、緊急事態よ!』


『お前ら三人でしっぽりしてる場合じゃないネ!』


してねーよ!つか出来るかこんな時に!!」


「一体何があったと言うのだ」


『梗子さんが拳銃持って
基地の内部へ逃げ込んだんです!』



「「「…何だと!?」」」







聞けば弾頭発射のゴタゴタの際、彼女は意識を
取り戻したらしいが





怪我の具合と相まって情緒不安定に陥っていたため


念のため監視をつけ 別室で保護していたが
…目を放した隙を突かれたらしい





『私達も急いでそちらに向かうけど
出来るだけ先に彼女を見つけて取り押さえて!』


「…分かった!」







片付ける仕事が一つ増え、彼らは基地内を走り回る





「瀕死の人間どんだけコキ使う気だっつの…!」


二人とも!あの角の向こうに
梗子殿が消えていったのが見えたぞ!!」





白衣の影は 次々と通路をすり抜け





やがて一つの部屋へと消え







三人が同時のその部屋へと駆け込めば





怯えた目の梗子が、こめかみに銃を押し当てていた





「何やってんだ梗子さん!」


こないで!全部私のせいなの…私は、私は!」


彼女のその顔は、データで見た最後の一枚から
抜け出たかのように真っ青だ





「思い出したの…あの時あの人が陣痛で
苦しむ私を案じた一瞬 周囲確認が遅れて…!





震える指が引き金を絞りかけ、瞠目する





「よせっ、戦いはもう終わった!
今更アンタが死んで何になるって言うんだ!!」


「私にはもう何も残ってないのよ!
お願いだから旦那と真白の元に行かせてよぉぉ!!」



「行って侘びでも入れるつもりかよ!」





殊更に強い一喝が 時を止めた







「旦那無くして悲しいなら、そいつに負けねぇ位
いい男捕まえて幸せになりゃいい


ガキが出来ねぇなら孤児でも引き取って
天国のあんたの子に負けねぇ位愛してやりゃいい」





見返す瞳にかがり火のような光を灯して


銀時が、諭すように言葉を紡ぐ





「どんだけ醜くてもテメェが幸せに生きた方が
旦那もガキも笑うんじゃねぇのか!」








真に迫る一言を正面から叩きつけられ


思わず 銃を握る腕が下ろされる







「でも…でも 私はこんなヒドい罪を」





彼女の表情と声音にはいまだ不安が満ちていたが





「罪なんざ誰だって背負うんだよ、大事なのは
そっから逃げねぇ事だ」


「そうさ…あんたが本当に母親だったのなら
二人の分まで、強く生きてみせろ…!


注がれる彼らの眼差しはただ優しく





「梗子殿…私も罪人だが、こうして生きている
お主とて同じように生きられるハズだ」





薄く微笑んだの一言が止めとなって







呆然とへたり込んだ梗子の眼から
一粒、二粒と涙が溢れ出し





「う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」





天を仰ぎ 黒き烏の慟哭があがる





己の罪を嘆くように…穢れた羽を清めるように








ようやく駆けつけた者達に囲まれても
ただただ彼女は涙を流し続けていた…











―江戸で起きた成人子供化事件は


国によって普及された解毒剤により決着を得た





…表向きは"自国から"だが 実は"アメリカ"
"匿名人物一名"による協力があった事は


ごく一部の人間のみに伝えられているようだ







何はともあれ江戸を騒がせたこの事件は
飾られてから徐々に紙面での扱いも下火になり


忘れ去られる頃にはその片隅に小さく、大手社長が
衝突事故の隠蔽を自白した記事も載っていた







「しかしまぁ、小さいアンタも可愛かったねぇ」


「記念ニ写真デモトットケバヨカッタデスネ
ネェ〜オ登勢サン」





新聞から目を離し くすり笑う女傑二人を
眉をしかめて見返す銀時





「人事だと思ってよぉ、このババアどもが」


「ちっちゃい時はあんなに可愛かったのに
どこでこんなネジくれたアルかねぇ〜」


テメーに言われたかねぇよ!
てか頭撫でんなクソガキ!」





伸ばされた神楽の手を払った所で
スナックにが駆け込んできた





皆の者!梗子殿から手紙が来ていたぞ!」


「知ってますよ、ウチにも来てましたから」





言って新八が見せた白い封筒は
彼女の持っているそれと 全く同じだ







"万事屋の皆さん さん さん
皆さんお元気でいらっしゃいますか?


私はあれから紹介していただいた孤児院で
子供達の世話に明け暮れています"





「梗子さん、あそこで元気にやってるようだな…」


「ええ 本当によかったわ」





自宅にても、女子二人を隣に手紙を眺めていた





彼の口沿いもあってか 彼女は重い罪とならず


償いを済ませた後に江戸を離れ
孤児院で働き始めたのだと、風の噂で聞いた





"あのジーンという男の目的も、彼から与えられた
兵達や兵器等のルートも最後まで
分からずじまいでした…


けれど何か大きな力が背後にあったのは
恐らく、間違いないでしょう"





「しかし ガンターの開発実現といい
秘密裏に建設されていた基地やあの無人機といい
俺が知らなかった情報ばかりだった


…何だか、嫌な予感がするな」





苦い顔をする彼の手に 暖かな手が二つ重なる





「何があっても、あなたなら大丈夫よ」


「私も…ジャックなら
何とかしてくれるって信じてるから」


「……そうだな、ありがとう二人とも」







"あなた方に行った数々の非道を悔い改め
今度こそ…幸せに生きようと思います


罪を償い、天国にいるあの人と真白が
安心して笑ってくれるように






本当に ありがとうございました


それではお元気で…梗子"







最後に綴られた文字と、同封された写真に
お登勢の口の端が持ち上がる





いい顔してんじゃないかぃ この娘っ子
これならこの先きっと大丈夫そうだねぇ」


「うぬ…私もこんな風に兄上との子に囲まれて
幸せに笑って暮らしたいものだ」


「いや、それ法律が許しませんからね?」


「子供ハ野球チームガ作レルクライ〜トカ
ドンダケ見果テヌ夢見テンダヨ能面ガ」


「お前の結婚と同じくらい非現実的アルな」





この会話をきっかけにカウンターは
喧しいほどの喧騒に包まれ始め





「ったくうるさいねアンタらは!」


「ただいま戻りましたお登勢様」


「ああ、おかえりたま」







普段の様子へと戻っていく周囲をぼんやりと
見つめていた銀時が、写真に再び目を落とし





「本当…母は強しってか」





子に囲まれ幸せそうに微笑む一人の"母親"


微かに笑い返した








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:思いつきと行き当たりバッタリで
進んだ共演長編 これにて終わりと相成ります


全員:ありがとうございました〜!!


神楽:てかアイツ側の奴らに侵食されすぎアル
共演という名の洗脳ネこれ


狐狗狸:ソレ言わないでくれる?結構その辺
気を使いながら話書いてたんだから…


銀時:うっせーよ、大体この長編の動機も
首謀者のキャラ名も某怪奇小説のパクり


狐狗狸:<●> タ タ ラ レ ロ ! <●>


銀時:すんまっせんしたぁぁぁ!(怯)


新八:怖っ!なにそこ逆鱗だったの!?


ヌル:…所でオレが渡したブレードは
あの後、どうなったんだ…?


狐狗狸:回収はされてますが、ジーン戦の
激しさにより金属疲労したため修理直行です




ご都合主義の入り混じった長編に
お付き合いいただき ありがとうございました!


次回作は…4月下旬を予定中?


様 読んでいただきありがとうございました!