基地内は今や、内側から崩壊しつつあった





「止まれガキども!くそっ、撃て撃て!!」


「ジャマね退くヨロシハンターどもぉぉぉ!」


銃で応戦する黒服達を、腕や足の一振りで
駆逐しつつ神楽が進撃し





みなさーん 僕の後に着いて来て下さーい!」


機械を通した新八の先導に従って
ぞろぞろと小さな町民達が導かれる





「新八ぃ、この辺りにはもう残ってる
大人ガキはいないみたいネ」


「うん にしても…長谷川さんの案がこれほど
上手く行くとは思わなかったよ」





苦笑し、新八は手にしたメガホンを見やった







同時刻…外へ梗子を連れ出したヴィナスが


同じように子供達を引率している
長谷川を見下ろし、静かに言う





「アナタがここまで上手く大勢を
先導出来るとは、思っても見なかったわ」


「オレだってガキだけど役に立つんだぜ!」


「そうね…認めてあげる」





照れ隠しに鼻の下を擦る長谷川を他所に
彼女は、基地へと深刻な表情を向けた





「…ジャックとあの銀時って男、大丈夫かしら」


「……思い出した…そうよ、思い出したわ」





弱々しい呟きに二人が顔を向ければ





「事故は…夫を死なせてしまったのは
皆、みんな私のせいなの…!


意識を取り戻した梗子が、血の気の失せた表情で
か細くそう呟いていたのだ











第十九訓 カラスが啼くと人騒ぐ











話題の二人は…正に窮地に追いやられていた





「ふははははどうしたジャック!白夜叉!
貴様らの力はそんなものか!!」






哄笑を響かせ 振るわれたジーンの手から
放射線の如くナイフの雨が押し寄せる





手にした獲物で過半数を弾くも


防ぎきれず向かう刃先から逃げるように
彼らは狭い室内を走り回る







なんなのあのハゲ!?ナイフ投げすぎだろ
どこぞの吸血鬼殺し神父だっつの!!」


「それ言うな!シャレにならんわ色々と!!」





際限の無いナイフの連撃は攻め入る隙を奪い





「ぬぅん!!」


オーラをまとった突進の瞬発力と衝撃が
二人の体力を削ってゆく







「くっ…オリジナルだけあって同じ攻撃でも
威力とスピードが桁違いだ…!」





苦渋交じりに引き絞られた弾丸は、しかし
防がれるまでも無く僅かな動作でかわされる





「計画のための足止めだった子供化が
思わぬ形で、私に味方してくれるとはなぁ…」







元の身体に戻って間の無い彼らの反応に
普段と若干のズレが生まれてしまい


ジーンが先手を取る形で場の流れを支配していた







「偉そうに抜かしてんじゃねぇハゲぇぇぇ!」





荒い息を吐ききって床を蹴った木刀が一閃
僅かに肩口を掠めるも





すれ違いざま投げられたナイフが身体に刺さり


銀時が、その場で膝を突く






「ぐあぁっ…!」


「銀さん!」


「戦場で油断は禁物とママに
教わらなかったのか?ジャック!!」





瞬間移動とも言える速さで背後に回った
相手への対処が一瞬遅れ


突進を喰らったは、壁へと叩きつけられた





「ごはっ!」







満身創痍となった二人を 静かな目が見下ろす





「正直ここまでやれたのはお前達が初めてだ
だが…もうその負傷では立ち上がれまい」


「勝手に、人の限界決めてんじゃねぇぞ…!」


「お前を倒すまで…俺は、負けるわけには
いかないんだ…!」







諦めの色を見せぬ相手にため息をつき





「昨日までの隣人が、戦友が、家族が、
お前に銃を向けるかもしれない。」






ジーンは自らの声音に 力を乗せる





「やめろ…ジーンっ!」


震える腕で賢明に照準を合わせるも


弾はただ残像を貫くのみ





「お前を恨んでいる人間はいないか!
お前を馬鹿にしている人間はいないか!

お前は、誰かに必要とされているのか!」






畳み掛けるような言葉の圧力が





確実に 両者の精神と肉体を蝕んでいく








「お前を殺そうとしている人間が
本当に、誰もいないのか!!」






脳髄にまで刺さるような重い響きに


ぐらり、との視界が揺れ―








「ゴミ収集所に集るカラスじゃあるめぇし
ガァガァ喚くんじゃねーよ クソハゲ」






低く力強いその一声が ピシリと全てを止めた







刺さったナイフの傷口から血を滲ませながら
歯を食いしばり、銀時がふらりと立ち上がる





「ほう…その傷で立つとは流石は白夜叉
だがこの一撃には耐え切れまい!


「マズイ!避けろ銀さん!!


搾り出された警告も空しく、瀕死の男目掛けて
ジーンがナイフを懐に構えて突進し





―心臓へ届く手前…刃先は木刀に阻まれた





「くっ…何故だ、瀕死の貴様に私の突進を
防げるだけの力など…!」


「よく聞けやハゲ 人間生きてらぁ
誰かしら恨まれたりバカにする奴が出てくんだ
それを一々気にしてたらラチがあかねーよ


テメーが必要とされてるかなんて知らねーし
知ったこっちゃねぇ…けどな」





両端を握った木刀を傾けナイフを下方に逸らし





「テメーが必要だと思う奴がいるだけで

テメーらバカをぶっ飛ばすのにゃ
十分なんだよ!」






反射的に身を引いたジーンへ







銀時が渾身の一撃をお見舞いした





「ぐおぁぁぁぁっ!!」


トドメはテメーに譲ってやらぁ!!」


「ああ…感謝するよ!」





身を起こし彼は、ブレードを手に距離を詰める







「くそぉぉぉぉぉ!!」


軌跡を描いて襲い来るナイフを弾き散らし





「終わりだ、ジーンっ!!」





勢いを乗せた刃が 奴の胴体を貫いた









観念したように機械を背に座り込む姿まで
分身と同じか、と胸の内で彼は呟いた





「まさか…創造者計画の完全体であるこの私を
2度も倒すとは……やはりお前がビッグ・ママが
選んだ真の後継者、ということか…」


答えろ!どうすればガンダーの発射を止められる!」


「無駄だ…発射態勢に入ったガンダーを
止める方法はない…これを持っていけジャック…」





投げ渡されたのは、見覚えのないデータフィルム





「私がアーミーズ・ヘブンを生み出すために…
密かに集めた装備、人材、資金、全てのデータが
その中に収められている」


「何故…こんなものを俺に?」


「私とお前は同じだからだ…お前も
いつかきっと…これを必要とする時が来るだろう」


「敵にテメーの秘密を渡すって…どんな遺言だよ」





訝しげな銀時へ苦々しい笑みが向けられる





戦って生き残った者が後を継ぐ それが
我々の宿命だ…だがしかし、最期に侍の力が
存外強いことを思い知らされた…」


「ジーン…」


「行け、ジャック 私が伝えるべき事は
もう全て伝えた…私の遺伝子は…お前が引き継ぐ


…お前が、真の相続者だ…自らに忠を尽くせ
お前自身の…使命を、果たせ……





ジーンの…正真正銘 最期の言葉を合図に


地鳴りにも似た響きが基地を揺らし始めた







沈黙の後、がパトリオットを片手に呟く





「銀さん…悪いが隣にいるを連れて
先に脱出しててくれ」


「オィ テメェ…」


「大丈夫だ、後から必ず戻ってくる
…サニーにEZGUNを返す約束があるしな」





口調とは裏腹の確固たる眼差しへ





「わーった 無茶すんなよ」


敢えて口を出さず、銀時は彼の肩を
軽く叩いて部屋を後にした









紙一重で見切られたレーザー砲の間隙を突いた
爆弾により動作の鈍った 次の瞬間


足の付け根をブレードで斬られ


コドクの最後の一機が崩れ落ちた





これで…コドクとやらは打ち止めだな」


小さく息を漏らす桂へ同調するかのように





『お前達の仲間が、町民達を救護部隊の
待つポイントまで移動してくれたお陰で
後始末が幾分か楽になった…感謝する』





仮面の奥からも幾分か和らいだ声が流れる





「さて…我らはここで一時退避するとしよう」


『ああ、不本意ながら同意見だ』







両者は二人の消えた通用口へ目をやって





「『後は任せたぞ…!』」





轟音渦巻く通路を駆け抜けていく







核弾頭の納められた区画を駆ける最中
無線越しに、サニーの叫びが聞こえた





ジャック!メタルギアガンダーの核弾頭の
発射カウントダウンが始まっているわ!』


「サニー!どうすればいい!」





戻ってきたのは、ある意味予想していた台詞





『コントロール回路がロックされている状態だと
本体を破壊するしかない!…でもそれを見越して
REX以上の装甲が施されているの!』


「やはりか…!」





その先は言わずとも理解していた


仮に発射態勢に入ったメタルギアを破壊しても

格発射装置が傷つけば、この基地が核爆発
起こす可能性がある…だとしても





「どんな荒っぽい手だとしても構わない
核攻撃だけ防げればいい!!」








しばしの逡巡の間を空け、彼女はおずおずと告げた





『レールガンと本体の接合部を破壊すれば
回路が遮断されて、発射を止められる可能性が…』


「…やはり確証はないのか?」


『う、うん…ごめんなさい』


「いいさ、今は世界を破滅させるわけにはいかない
…少しでも可能性があるならそれに賭ける!」







筒状になった内部に設置された、核弾頭の
土台部分へたどり着いた


道中調達したRPG−7を虚空へ構え





二つの"接合部"へ照準を合わせ続けて撃つ







…が、距離があるせいか上手く部位へ着弾せず
それぞれ破壊までには至らない







「くそ!この位置じゃダメか…」





壁面に這うデッキ部分へ駆け上る時間も


ロケット弾を打ち続ける余裕も…ない








絶望が脳裏を過ぎった 次の瞬間





「何かお困りですかぁ、そこのお兄さん」


「私でよければ助太刀いたすぞ」





弾道メタルギアを正眼に捉えられる位置へ
大小二つの影が 口と肩を揃えて現れた





「銀さん…!どうしてここに」


「テメェのこった、あの場で言っても
聞きゃしねーだろーと思ってよぉ!」


「約束したであろう…私が、皆を護ると!





あと数秒へと迫った発射のカウントを背に





「っし、このデケェ一物の繋がってるトコ折んぞ」


「機は一撃か…弱ったお主には荷が重そうだな」


「うるせぇ歩く死亡フラグ、そっちこそ
怪我のせいでドジ踏むんじゃねーぜ?」


「この程度、田足や鳳仙に比ぶれば無きが如し!」





両者はためらい無く足場を蹴って 宙へ舞い





「核だかなんだか知らねーが、オレの街で
勝手に撒き散らさせやしねぇぇぇ!!」



「時間が無い、頼むぞ二人とも!!


「「はああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」


槍と木刀の切っ先が耐久限界を超えた
レールガンの"接合部"をほぼ同時に貫いた









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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:烏っつーと何故か某SFCホラゲのCM
浮かびつつ、今回は冒頭キャラの補足です


銀時:ちょ!オレの活躍に対するコメはぁぁぁ!?


新八:どんだけ目立ちたいのアンタ!僕らだって
音波止めたり町の人の避難大変だったんですよ?


狐狗狸:しかし町民がパニックを起こさないように
洗脳メガホンを利用して避難誘導するとは…


神楽:マダオにしてはいい案だったアルな


長谷川:えーとコレ褒められてるの?
それとも遠まわしに貶されてるの?


ヌル:オレのセリフが説明臭い…つか核弾頭の
描写が今までで一番いいかげ(音声オフ)




果たして核は止まるか?目覚めた烏の行く末は…


様 読んでいただきありがとうございました!