返してよ、返してよ 幸せな日々を返してよ





「以上により 被告に有罪を言い渡す」





返してよ、返してよ 私の夫を返してよ





「ワシの息子は、貴様に殺されたんだ
二度と顔を見せるな!」






返してよ…返してよ





「残念ながら もうお子さんを望むことは
…出来ないでしょう」






私の子供を返してよ







「ジーン!」


部屋に駆け込んだ彼は、強い既成感に囚われた





「ふん、やはり来たかジャック」





動力室に置かれた発射用の機械類の傍ら


足元に白衣や工作員の死体を転がしたまま
静かにこちらを見やるジーン…





「これは…メタルギアの技術者や
研究員達を殺したのか!」


いや、自殺だよ
自分達の過ちに絶望して 皆死んだ」


「テメェ 一体何やった…?」


「うろたえるこやつ等に私の計画の真相を
言い聞かせただけだ」





銀時の鋭い眼光に たじろぐ事無く答えるジーン





「烏魔 梗子を始末するよう
兵を差し向けたのは何故だ!」


「あぁ…私なりの計らいだよ 愚かな女が
己が過ちに気付かず眠れるようにな」


「どういう事か説明しろ!」


「簡単な話だ…もう一人の男など始めからいない


報道は真実だったのだよ…下らぬ隠蔽と
それに埋もれた"ある一部分"を除いてはな」





ジーンが続きを口にするより早く 彼は
そのセリフが意図するところに気付いた





「なるほど、そーいうことかぃ」


「銀さん、何か分かったのか?」


「予想が着きそうなこった 里帰りで
妊娠中の嫁にハンドル握らす旦那がいるか?」


「…まさか、あの事故は!


「その通り "夫の"不注意だったのだよ」











第十八訓 奴ら惚けた面でフン爆弾
くらわせてくっから気をつけろ












身一つで様々な苦労を乗り越え
会社の長として踏ん張ってきた彼も





諍いの末、縁を切ったとは言えど


息子の幸せを願う一人の父親だった







けれど家庭を持った彼から、復縁の電話を
受けて待ち合わせ場所へ行く際


久方ぶりの再会とかける言葉の見当たらない
気恥ずかしさが ごまかしの酒をあおらせた





己が運転するなど久々と知っていたから
多少スピードは落としていた





危なっかしく反対車線をはみ出しかけても


人通りの少ない道を走っていた油断が
酔いの回り始めた頭に満ちていて





再びずれた車線を直しかけていた そんな折





T字路を曲がってきた車とぶつかった







「事故直後、車から降りたあの男は
そこで始めて衝突した相手に気付いたそうだ」







その後の行動は、説明されずとも予想は着いた





自分の息子を死に追いやった負い目と
社会的地位を失う恐ろしさに負け








「嫁を見捨て、飲酒運転と息子との繋がりを
全て隠し通したってか」


「そう、そしてあの女は事故のショックで
記憶が混乱し…真実を奥底に封じ責任をあの男と
存在しない"権力者の子"へと転嫁した」


「それを促したのはお前だろう…!」





今にも飛び掛りそうなとは裏腹に
銀時の声は ただただ低い





「で、傷心の女に取り入ってここまで
やらかしといて何が狙いだ?オッサン

世界中をガキだらけに、とか言うなよ」


「その通り…そんなものに興味は無い


私はこの基地の環境と兵を集める隠れ蓑
そして洗脳効果を高める薬の製法技術を
利用させてもらっただけだ、本来の計画の為に


「本来の計画…まさかお前はあの一件を!





にたり、と不敵に口の端が歪んだ





「気がついたかジャック、その通りだよ
ガンターの目標は…合衆国ヴァージニア州だ」


「お偉いさんの本部を核で消すっつーアレか」


「CIA本部(ラングレー)と国防省だ…
いずれにせよアメリカを核攻撃されたら」





先を引き継ぐように、ジーンは言う





未曾有の大混乱が起きるだろうな


最悪、アメリカという国家そのものが解体され
世界の秩序は崩壊する…勿論江戸も只では済むまい


核弾頭は"江戸"から発射されるのだ
天人だけでなく、世界中から敵と認識される」







ギリ、とは歯噛みした





「貴様もまた…アーミーズ・ヘブン実現
目論んでいるのか!」







以前、ジーンのクローンと対峙した際


彼は 賢者達の支配から世界を解き放ち

新たなパワーバランスを創出して
世界を一つにするべく


優れた傭兵を掻き集め、地下深くに潜伏し


世界中のあらゆる紛争に介入する事で
歴史の流れを操る闇の組織…





兵士達の天国(アーミーズ・ヘブン)創立
目指しているのだと語った







「優れた兵力は、より優れた意志を実現させるべく
使われねばならん…それがビッグ・ママからの
相続者である私の使命だ」


お前もまた同じ独裁を目論んでいるだけだ!
言葉で味方を欺き、己を仰ぐ者を利用し使い捨て…


そんなものが兵士達の天国であるはずがない!!
それはお前達の考える外側にある!」





否定の言葉を叩きつけるも 待っていたのは
やはりあの時と同じ言葉だった







目を開けジャック、使命だ 全ては使命なのだ
兵士一人一人の意志など、その前には何の価値もない


使命を持たぬ者は持つ者から与えてもらえばいい
大いなる意志を持つ者に教えを乞えばいい」


「それがテメーだってか?随分とまぁ
えらそうな口上述べてくれるハゲだねぇ」





興味なさげに耳をほじる銀時を一瞥し
ジーンはあくまで淡々と続ける





「…時代に残された侍には分からんだろうが
それが私の使命だ。私は与えねばならない


無数の意志無き人間は死をもってでも
尊い使命に尽くせ つまらん己を捨てろ
些細な生を…その下らん充足を捨てろ


持ち得る全ての力を使命に捧げ、か弱きその命を
注ぎ込むのだ!ビッグ・ママがそうしたように!



「知ったような口を聞くな!!
お前達にママを語る資格はない!!」






当時の繰り返しのような会話の応酬に苛立つ彼へ







ジーンは、新たなセリフを切り出した





「そうか…お前は知らないのだな。」


「何の事だ?」


「数年前のヴァーチャスミッション、お前が
FOXでの初めての任務の時だ」







語られたのは当時起きた、ある設計局へ向け
アメリカ製の核ミサイルが撃たれた一件





犯人はヴォルギンというソ連の大佐だったが


結局ソレは公に伝わらず…当時のアメリカ政府は
潔白を証明すべく スパイとして送り込んだ
ビッグ・ママを身代わりとして抹殺するよう


弟子であるへ命じたのだ







黙ったままの相手へ ジーンは冷淡に言い放つ







「あのヴォルギンの凶行が奴自身の意志に
よるものだと 本当に思っているのか?」


「…何だと!?」


全ては最初から仕組まれていたのだ
奴が核を撃つ事も、ビッグ・ママが死ぬ事も

…ジャック、お前があの地で何をするかも!」


「あれが…全て仕組まれたことだと!?
一体誰に!答えろ!!誰が仕組んだ!!」



「答えを知る必要はない…
ジャック、お前に必要なのは使命なのだ」







一旦言葉が切られ 冷徹な眼光が
辺りの空気と、銀時を滑っていく





「お前を救うのは国ではない…かつての師
ビッグ・ママでも、仲間でもない」







そして、最後にその目が彼を補足する







「私に付けジャック、お前の使命は私が与える」









力を込めたその声音に揺さぶられるも







強い意志を秘めた蒼い瞳は 動かなかった





「…自分の使命は自分で見つける!
お前のまやかしの理想に付き合う気はない!!」



やはりお前は兵士…相容れぬか
仕方ない、ならば議論は終わりだ」


「待て!!」





核発射のボタンに指をかけられ
二人が慌てて駆け寄るも、動きは鈍く





「もう遅い、ガンダーの発射準備は全て整った」





ジーンは指先に力を込めてボタンを







―押しかけて 刹那大きく飛びのいた





二人の男の間を風と共にすり抜け


先程まで彼のいた空間と発射装置を
切り捨てるように一本の槍が閃く





息つく間もない次の一撃が機械を粉砕し


退避したジーンへその切っ先を突きつけたのは





どうして…」





駆けつけた彼女の横顔は こんな時でも固かった





心強い援軍が現れたので、駆けつけたまで」







腹に響くような爆破の音を通路に轟かせ


僅かに残るコドクの数を着実に減らしていくのは
両手に爆弾を抱えた 長髪の子供





『不思議な連中だな…あの女といい
お前といい、どこにそんな強さがある?』


「姿こそ子供だが"狂乱の貴公子"と言われた
このオレを見くびってもらっては困る」





ヌルの呟きに、桂は不敵な笑みを持って応じた









「狙いは知らぬが、梗子殿を謀り兄上や皆を
苦しめるお主の計略…見過ごすわけに参らぬ!」


「邪魔立てするか小娘が!」


素早い動作で放たれたナイフは
槍の柄によって弾かれ飛ぶ





「無駄だ!」





声と共に床を蹴り、襲い来る縦横無尽の突きを
紙一重の所でかわしつづけるジーン







「これは、有守流の槍術か…だが無駄だ
たとえ近接戦に特化されているとしても」





力を込めた突進を受け止めた、その一瞬


死角となった下方から 彼女の腹に
ナイフが深々と突き立てられた






「がぁっ…!?」


テッメェ…!」


「ここは…もうダメか」


「待て、ジーン!!」







出て行くその後姿を悔しげに見送ってから
彼は手早く傷口の処置を施した







「これで当面は大丈夫だ…しばらくここで
じっとしててくれ」


「了解した……待っているぞ二人とも」





今にも床の死体達と同化しそうな
気配を漂わす彼女の頭を、くしゃりと撫で





「ほんじゃー行って来るわ」


二人はジーンを追うべく部屋を出た









「オィ、あのハゲが次にどうでるか分かるか?」


「…あの時と同じ状況ならば 恐らく隣にある
予備の制御装置で発射するはずだ!」







果たして―奴は同じ展開を辿っていた





「もう遅い、ガンダーは発射態勢に入った
もう誰にも止められない 例えこの私を倒しても

…お前達は早く脱出しろ」


いや…俺達にはまだやる事がある」


「そーとも、テメェに巻き込まれた借り
キッチリ返させてもらうぜ」





銀時は木刀を、はパトリオットを
真っ直ぐにジーンへと向けた





「貴様ら…まだ戦おうというのか!
まだ国に義理立てするつもりか!

お前達が戦う理由は 一体何だ!!


「うっせーよハゲ これはオレ達と
テメェらのケンカだ、他のモンは関係ねぇ」


「俺は俺自身の忠を尽くす
ママとは違う生き方で…それだけだ」







対決は避けられないと悟り、彼はフッと
声を出さずに笑い ナイフを構える





「ならば私を倒してみせろ!
貴様らの忠誠を見せてみろ!」






二人もまた 顔を見合わせて笑った





「分からず屋のハゲに教えてやろうぜ
護るモンを持った男の強さって奴をよぉ!」


「ああ、メタルギアを撃たせはしない
覚悟しろジーン!








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:えーと…そろそろこの長編も最終回が
近づいたので、ここらで一気に補足をしてきます


銀時:補足じゃなくて蛇足の間違いだろーが


狐狗狸:(無視)まず事故の後、社長は梗子を
運転席へ移し 裏で手を回して夫の身元を伏せたり
飲酒を誤魔化したりして罪を押し付けました


新八:ちょっとその展開は無茶苦茶なんじゃ…


狐狗狸:(スルー)薬と洗脳機の試作品を作って
社長を誘拐したのは彼女自身です


神楽:って 何勝手にスルースキル発揮してるネ


狐狗狸:…ジーンと出会った際に提供された
あの島、実は梗子が祖父から譲り受けた設定が


長谷川:ええっ、ちょ初耳だよそんな話!?


狐狗狸:…それで研究者や設備を与えてる過程で
ジーンの情報をヌルがキャッチし、そこから調査が


桂:無計画かついい加減な補足だな


狐狗狸:ああもう!説明が滞るから
黙ってなさい君r(ナイフ刺さり)


ジーン:未熟者めが




ついにジーンと直接対決!果たして彼らは
核の発射を止められるのか…!?


様 読んでいただきありがとうございました!