そして、作務衣に包まれたその身体が


黒い闇へと放り投げられた





「「(さん)!!」」


「くっ…!」





宙へと放られたその瞬間 彼女は
咄嗟に片手を伸ばし





辛うじて柵の一つを掴み、落下を留める





無駄な抵抗を…そんなもの手を
柵から放させればいいことよ!」





振り来る梗子の声音に従い 兵達が柵へ群がる





抵抗を見せるも、落下は最早時間の問題かと
思われたその時







突如デッキから勢いよく煙が発生した





きゃあぁっ!?な、何!!?」





白く濁るその場所から幾つかの喧騒が響き


同時に、柵を掴んでいた指が引き剥がされて





もがくように手を伸ばしたまま 彼女の身体は
闇へと飲み込まれるように落ちていく







…ハズが空中で固定されたように留まった







見上げた緑眼に移るのは、煙幕を突き抜け
伸ばした手を掴む二本の力強い手





「っと、目ぇ離すとすーぐ死にかけやがって
だから言ったろ 辺りに気ぃつけろって」


「銀さんの言う通りだ 空気読めないし
実際側にいると、寿命縮みっ放しだけど

…お前は間違ってないさ、





聞き覚えのある二人の声音と煙を透かし
うっすら見覚えのある影が


彼女を奈落の縁から引きずり上げる







そして、途切れた煙の隙間を縫って





「「よぉお前ら 待たせたな」」





元の姿へ戻った二人の 不敵な笑みが現れた











第十七訓 基地の造形に関するツッコミはNG











「ぎっ…銀さぁぁぁぁん!!


ようやく元にもどったアルか!!」


「お陰さまでな」


「危ない所助かった、ありがとう二人と…」


言いかけた彼女の言葉が止まり





無表情のまま、ぷいとそっぽを向いた





「ん?どうかしたのか」


「さあ、観念してもらおうか貧乳ネーちゃん」





向き直った銀時に、梗子は顔を引きつらせ―







「いやあぁぁぁぁ変態!こっち来ないで!!」







予想外のセリフを絶叫する







程なく煙が完全に晴れ 露になった原因に
開口一番に新八のツッコミが飛んだ





「銀さんんん!アンタ何てカッコしてんだぁ!」





無理やり詰めて着ていたせいか、生地が
余り気味であった彼の衣装は


急激に本来の姿を取り戻した瞬間


アンバランスにずれ込み 変な具合に
身体のあちこちを露出させていた





「それは変態呼ばわりされても仕方ないアル」


「ズボン上げなさいよだらしの無い
…あ、パンツから小さいのが零れたわ」


無表情で口に出すなぁぁぁ!何コレ
新手の羞恥プレイかっつーの!!」


「いいから着替えろ!てゆうか女子組は
マジマジ見るな、特に…ってアレ?」





隣へ顔を向ければ は先程から
ずっと彼から顔を背けたまま





「そういえばずっと横を向いたままだが
どうしてなんだ…助かるけど」







微動だにせぬまま彼女はボソリ、答える





殿、尻が…丸見えだ」







硬直し 恐る恐る確認してみれば


彼の着ていたスーツもまた持ち主の
急激な変化に耐え切れず横に裂けていた





「何?ジャックもそっちに目覚めてたの?」


ケツ丸出しの英雄なんてカッチョ悪いネ!」


誤解だ!少なくとも俺はノーマルだ!!」


「ケツはみ出させて言っても説得力ねーんだよ!」


「色々露出してるアンタが言うなぁぁぁぁ!」







折角の格好いいシーンが台無しになった辺りで
ハッと我に返った梗子がメガホンを構えた





「坊や達!その変態は絶対通さないで!!」





命令を下すと 彼女は白衣を翻し奥へと逃げる





あっ逃げた!早く追っかけなくちゃ!!」


「だぁちょっ待…痛だだだだ!
チャックに挟まった!!」


「今から予備のスーツに着用し直すから
少し時間をくれ!頼むぅぅぅ!!」







…二人がどうにか服装を元に戻した頃には





"兵達"による頑強そうな壁が立ちはだかっていた







「ちっ面倒くせぇ、こんなの一々相手してたら
あの女に逃げられちまうぜ」


「どうするアルか!」


「任せろ、みんな目をつぶっててくれ!!





すかさずが手榴弾のようなモノを
固まったまま微動だにしない群集へと投げる





瞬間、眩いばかりの閃光と刺すような耳鳴り
デッキを押し包み







治まれば…兵達は残らず気絶していた





兄上!?お主兄上に何を」


「スタングレネードで気絶させただけだって
とりあえず 烏魔をどうにかするのが先!」









追って入った奥の部屋には、銃を握った
黒服達を背に梗子が待ち伏せていた





「残念だけどここでアンタ達は終わりよ
さぁアナタ達!侵入者どもを排除し





言葉半ばで黒服は構えた銃を彼女へ向け





その肩に、一発の弾丸が被弾した








「あ、アナタ達…どうして!?」





血を滴らせた肩を押さえ よろめく梗子に
待っていたのは…歪んだ笑み





「悪いが主任、オレ達の雇い主は
あの人ただ一人なんだよ」


「もう準備は整った…アンタはお払い箱だ」


「お疲れ様、安らかに旦那とガキの元へ
送ってあげますよ 主任?





呆然とする彼女へ向け、無数の弾丸が奔る







…が着弾する寸前 割って入った
の槍がそれらを全て叩き落した


驚愕する黒服達を瞬く間に撃退すると
六人は崩れ落ちる梗子へと駆け寄る





「大丈夫ですか梗子さん!」


「マズいわ…弾丸が途中で止まってる」





早速ヴィナスが応急処置に取りかかる





「どうして…私は…私はただ真白の仇を」


「しゃべんじゃねぇ、傷が開いちまうぞ!」







息を荒げる彼女に全員の視線が集中する中


身を起こした黒服の一人が銃口を向け





察知した彼に、腕を捻り上げられた





「…言え ガンターの場所はどこだ?





瞬間的に発動された蛇眼に凄まれ
黒服の顔から血の気が引いた





ひっ、この先から降りた通路の分かれ目…
右に音波をコントロールする制御装置が…」


「左は!?」


「左へ進めば…核弾頭が設置された
ミサイルサイロと動力室がある…!


あの機械は、この奥の核弾頭に…」





白状した黒服がCQCで再び沈黙したと
同時に、苦しげな呻きを彼女がもらした





「梗子殿!」


「大丈夫アルか!」


「気絶したみたいね 彼女は私に任せて
アナタ達は先へ急ぎなさい」


「ああ…分かった」









ヴィナスにその場を任せ、五人が
奥のエレベーターで降りた先に見たのは





複雑な造りの鉄骨に支えられた
どこかターミナル搬入口を思わせるフロア







途中で二つに分かれた通路の先にあるのは
暗い穴にも似た通用口と


そこを塞ぐように佇む
足の生えた幾つかのドラム缶のような物体







「んだあのドラム缶…って変形したぁぁぁぁ!


「あんな奴が出てくるなんて聞いてませんよ!」


「俺だってあんな機械は知らない!
一体何なんだアレは!?」


『小型量産型のメタルギア…"コドク"だ』





彼の問いに答えたのは、通路の闇から
滲むようにして現れた一人の人物





『月光より火力は高いが人工知能が低い
狙うなら足の付け根か同士討ちだ』







異形としか言いようの無い姿が警戒を招き
槍の刃先と傘の銃口とが突きつけられる





「お主…何奴!」


『勘違いするな、オレはお前達の敵じゃない』


「ウソこけよ その格好どっからみても
しょぼいヒーローショウの怪人役ネ」


「確かにソレっぽい姿だけど失礼でしょ!
あの…アナタがもしや情報提供者の…」


『そうだ オレの名はグレイ・フォックス


「フォックス…やはりFOX隊のメンバーか
しかしお前がどうしてここに?」


『ジーンを追っていたのはオレだからな
加勢に来たまでだ これを持って行け





手にしていたモノを寄越され
彼は ハッと顔色を変えた





「っとこれは、高周波ブレード…!
何故 俺にこれを?」





無機質なレンズの眼がその顔を捉える





『武器が不足してるだろうからな、餞別だ


忘れるな…お前を殺すか オレを殺すまでは
勝手に死なれたら困るんだよ








聞き覚えのあるフレーズと、ブレードの
独特の構えが脳裏で重なり







彼の中で一人の人物を連想させた





「お前…まさかヌルか!?」


「オィ このアイロボもどきと
いつの間に面識が出来てやがったんだよ」


「違うから銀さん!あの島で会ったろ!」


「あっ、もしかしてあの時の…!」


「牢屋で会った黒づくめアルか!!」





フッ、と 仮面の奥から小さな笑みが零れた





『…流石はジャックだな』


「へぇーあのガキンチョが
こんなサイボーグに変わるたぁ驚ぇたな」


『已むを得ずそうなっただけだ』


「やはりあの頃の実験が祟って
強化骨格の手術を…?」







済まなそうな呟きに 彼はただ淡々と答える





『悪いが、オレはお前を殺せるなら
人間をやめてもいい……そこの娘は新顔だな』







黙ってヌルを見つめていた彼女が、口を開く





「申し遅れた 私はと申す


…過去の因縁はともあれ、お主は
こちらの味方と判断してもよいのか?」


『…出ている命令は奴らの計画の阻止だけだ』


「そうか……理解した」







コドクが彼らの姿に気付き、機関銃が
通路を走り始めた刹那







顔を見合わせ、予備のブレードと槍を手に





二人は床を蹴り ほぼ同時に別々の
メタルギアへと斬り込んだ






「二人とも!何してるんですか!?」





叫ぶ新八へ、攻防の手を休めず彼らは答える





「私はこの者と共に機械どもを食い止める
新八と神楽はその隙に制御室へ!」


『お前達二人はジーンの所へ行け!!』


「で、でも…」





機械の一台が倒れ、早々と制御室への道が開く





「問答している時は無い、急げ二人とも!







彼女の一言が 迷いを断ち切った





「それじゃ私達は先に行ってるアル!」


「皆さん 気をつけて!」





先陣を切って新八と神楽が機械達の合間を
すり抜け、右の通用口へと消える







ブレードの刃が閃き左の道も開けた





『こちらも開いたぞ、決着をつけて来い!』


「じゃーちっとハゲ退治にいってくらぁ
死ぬんじゃねぇぞ、テメェら!」


「頼むぞ…銀時 殿!」


「ああ、任せておけ!」









去っていく二人の背を見送って


ヌルが小さく 隣に佇む相手へこぼす





『言っておくがオレに助けを期待するな
…足手まといはその場で見捨てる』


「元より心得ている…お主の手並み
得と拝見させてもらおうか」





佇む両者を押し包むようにコドクが迫り





複数の金属音と銃声が 狼煙となって立ち上がる








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:要領と文章が多くなりつつもラストに向け
こっからはかなり駆け足ターンです


新八:いや…どんだけ飛ぶんですか、せめて
ヌルさんサイボーグ化の経緯くらい語りましょうよ


狐狗狸:そこは作中通りの事情によりパラ子さんから
強化骨格の改造手術を受けたらしいっす(カンペ)


銀時:どっから出したそれ!つーかあのガキが
持ってた刀、ビームサーベルかと思ったわ


狐狗狸:いやアレは彼の主武器『高周波ブレード』

高周波で振動させることで切れ味が上昇する
使い勝手のいい日本刀です(カンペ)


神楽:マジでか じゃあ大根も凍ったブリも
スッパスパアルか!?


狐狗狸:もち、敢えて振動させずみねうちもOK!
今ならお手頃のこの価格でもう一本サービス


銀時・新八:何処の深夜通販んん!?(Wキック)




次回…ジーンの真の目論見が、明かされる


様 読んでいただきありがとうございました!