「桂さんに長谷川さん!二人とも耳栓を
しているハズなのにどうして…!!」
新八の声に、しかし二人は何も答えない
「無駄よ、二人のつけていたおかしな耳栓は
ここにあるもの…ホーラ」
勝ち誇ったように差し出した梗子の手の平には
源外から貰った耳栓が 2セット転がっていた
「お前ぇ二人に何したネ!」
思わず身を起こした神楽だが、
すっと上げられた彼女の手の動きを
合図に周囲の子供達に羽交い絞めされる
「勘違いしないでちょうだい 私はスイッチを
押しただけ…耳栓には指一本触れてないわ」
洗脳された者達に引っ立てられたまま
は梗子を睨みすえる
「外部の人間と手を組んでまで、こんな事を
する理由はなんだ!?」
「決まってるでしょ?…復讐よ」
「旦那とガキのか?」
ボソリ呟いた銀時の一言に
少しだけ、彼女の顔色が変わった
「アナタもそこの長髪の子と同じ事言うのね」
「あん?ヅラがオレと同じ事を?」
何のこっちゃと首を傾げる彼らに答えるように
「ジャック…何でこんな男連れてきたの?」
普段の無表情にあからさまな嫌悪すら浮かべ
表情の消えた桂を目で刺し、彼女は毒づいた
「ヴィナス!無事か!?」
「一体何があったのか、説明してくれぬか」
「…全部 この男が悪いのよ」
恨みがましげに呟いた一言をきっかけに
ヴィナスがこれまでの経緯を語り始める
第十六訓 KYスキルはフラグスキル
用水路を順調(?)に進んだ三人は
ほぼ似たようなやり方で彼らより早く
地下の主要施設へたどり着いた
ある部屋で物音を感じ、そっと影から
中の様子を伺えば
「これで…この作業さえ終わればこの子達は
私の忠実な兵となる…もうすぐだからね…」
一枚の壁で区切られた一室のガラス越し
まさに町から拉致された人間達が
ぼんやりとした顔つきで並んでいる様を眺め
何かを呟きながら白衣の女が
機械の制御盤らしいものの上で滑る指を
あるボタンへと
「そこまでよ!」
背後からぶつかった言葉に彼女…
烏魔 梗子が振り返れば
油断無く銃を構えたヴィナスと
その横に並ぶ 子供二人が目に入った
「誰!?どうして子供がこんな場所に…
この基地にはあの音波が流れていたはず!」
「生憎オレ達にゃきかねーんだよ
残念だけど、大人しくしなよネェちゃん」
「言っとくけど妙な動きをしたら
肩と足を撃ち抜かせてもらうから」
向けられた銃口と警告に 彼女は
機械を背にしたまま悔しげに歯噛みする
「邪魔しないで、これは復讐なのよ!」
「…夫と子供の弔い合戦のつもりか?」
何故それを、と言いたげな表情に
答えぬまま彼は言葉を紡ぐ
「そんな哀しい事を、本当に二人は
望んでいたのか?」
「アナタに何が分かるのよ!」
「分かるさ オレも色々なものを
失って、ここまで生きてきた」
澱みなく語る桂の目は澄み切っていて
それが彼女の動揺を誘った
「何アナタ?
今更この私にお説教でもしようっての?」
「話を聞いて欲しいだけだ、オレは
敵ではない…証拠も見せよう」
言いながら両手が耳へと伸びて
小さな耳栓が、指に摘まれて取り外された
「ってヅラっち!それを外したら…」
「ちょっとアナタ!何を」
「いいんだ、彼女と話がしたい
ヴィナス殿も銃口を一時下ろしてくれ」
「そんな甘いこと言ってる場合!?
相手が重火器を携帯している可能性だって」
「頼む、この場だけでもオレを信じてくれ!」
強い熱意に負け ヴィナスが銃を下げると
桂は外した耳栓を長谷川へと手渡し
再び梗子へと向き直る
「なるほどね…その耳栓に仕掛けがあって
アナタ達は無事だったのね」
「ああ、源外殿に作ってもらった特別製だ」
以前に何かしらの交流があったのか
源外の名を聞いた瞬間
彼女はふっ、と懐かしそうに表情を緩めた
「そう…でも私がこのボタンさえ押せば
この場所にも音波が流れ出す
設定値は基地に流れるものなど比ではない
この場にいる子供達は否応なしに
私の兵隊となるのよ?」
「そんな事を私が許すと思って」
突き刺すようなヴィナスのセリフを
手だけで遮り、あくまで説得を続ける桂
「復讐に手を染めたとて 失った者達は
帰ってきたりはしない…
二人はお主がこんな事をしてまで
仇を討つことを望んでなどいないはずだ」
静かで優しい言葉が流れるうち
徐々に、梗子の怒りの炎が静まるのが
ヴィナスや長谷川にも見て取れた
「もう、終わりにしないか?梗子殿」
「でも…私には やることがあるの…」
弱々しく、それでも賢明に抵抗しようと
言葉を紡ぐ彼女へ首を振ると
真っ直ぐな眼差しで桂はハッキリこう言った
「いいやこんな趣味の悪いドッキリは
一刻も早く終わりにすべきだ!
さぁ!!ADさん看板持ってカモン!」
「「だからドッキリじゃねーっつーの!!」」
回想の話で 身動きを封じられているにも
関わらず脊椎反射のWツッコミが繰り出された
「本当、この男に場を許した私がバカだった…」
その一言には "兵"達に拘束されていなければ
桂を往復ビンタしかねない怒気がこもっていた
彼の"ドッキリ"発言は説得されかけていた
梗子を再び不信に陥らせるに十分で
ボタンを押され 流れた音波に
あっさり洗脳された桂が長谷川を引きずり込み
別室にいた町民達と一緒くたになって
逃げ出さんとしていたヴィナスを捕獲し
そして、この現状に至ったらしい
「あにやってんだ本当にテメェはよぉ!」
「ドッキリじゃないって散々言ったのに…」
落胆するお子様二人を 口を歪めて梗子が嘲笑う
「やっぱり男なんて信用できない…
あの男達と同じ、自分の身の安全しか
考えてないんだから」
「よくそんなセリフが吐けたものね…
得体の知れぬ男に頼っているくせに」
「お黙り!権力者に尻尾を振るメス犬が!!」
苛立ち、彼女が鳴らした指に反応し
そこそこ上背のある少年が 鈍器を
羽交い絞めされたヴィナスへ打ち下ろした
「貴様…ヴィナス殿に何をする!!」
「うるさい小娘ね、アンタ達ガキ三人は
後で洗脳してあげるから大人しくなさい」
達に見せたうっとおしそうな顔は
元・大人の二人を前に歪んだ笑みへと変わる
「まずはそのおかしな耳栓を取って
アナタ達から、兵に加えてあげる」
機械で下された命令を聞き入れ
"兵"と化した子供達は 拘束を緩めぬまま
抵抗する二人からあっさりと耳栓を外した
「「ぐあぁぁっ…!!」」
途端に二人は 頭を抱えてその場に膝を突く
「やめて下さい梗子さん!」
「子供店長に罪着せられたからってやり過ぎネ!」
「世界中を子供だけにして何がしたいのよ!」
抵抗を見せる四人を 楽しい見世物のように
眺めながら梗子はクスクスと笑う
「言ったでしょう…復讐よ
子供達を兵に私は この世界を壊すの」
「死した夫と子が…お主のそんな姿を
見たら何て言うと思っている!」
が口にした一言が、彼女の逆鱗に触れた
「アンタ達みたいなガキに分かるもんか!
棄てられた私達の気持ちが…
二度と子の出来ぬ体と遺骨と
押し付けられた罪を背負う女の気持ちが!」
響き渡る女の怒号に 辺りは一瞬静まり返った
ふいに遠い目を向けたまま、梗子は
誰にとも無く語り始める
「あの人は、もう一度話し合って
親子の縁を取り戻そうとしていた
私と…生まれるハズだった真白の為に」
「その矢先で 事故に…」
「そう、私達の幸せは滅茶苦茶にされたの
あの事故で…アイツらのせいで」
「アイツらって 子供店長と一緒だった
もう一人のことアルか?」
「そうよ…奴はひた隠しにしてるけれど
あの男の車にはもう一人乗ってたのよ、男が」
流れ込む音波に身を捩じらせながら 彼が問う
「事件に関する報告ではそんな男は
影も形も無かったはずだ…!」
「当然よ…そいつは未成年、しかも父親が
相当の権力者だったから揉み消されたの」
「まさか そのガキが隠蔽をそそのかした…
とかトンデモ展開言うつもりじゃねぇだろな」
すっと俯いた彼女の反応は、搾り出した
銀時の一言を肯定しているように見えた
「今でも忘れられない…もうろうとした
意識の中、助けを求めている私を
"厄介者"と見下していた アイツらの目…!」
両の眼に、言葉の端々に消し切れない
怒りの炎がチラついてゆく
「自分の下らない体裁を守る為だけに
あの男は 私達を捨てたのよ!」
「だから復讐をってか?
女の怨恨…って奴ぁ怖いねぇ…ぐっ」
憎まれ口を叩く銀時だが もう既に
身体は動かなくなっていた
に至っては意識すら危うい状態である
「あなたくらい頭のいい人なら、こんな事件を
起こさなくても冤罪くらい晴らせたんじゃ…!」
「…メガネの坊や 世の中はねぇ犯罪者の
レッテルを貼られた人間に冷たく出来てるの」
悲しげな目に思わず同情しかける新八と裏腹に
ヴィナスはあくまで冷徹に言い放つ
「アナタ、それでもあの男が許せずに
あの薬を作ったんじゃないの?」
「ええその通り…あの男はあの姿のまま
あの人やあの子の分まで永遠に苦しめばいい!」
両手を広げて呪詛を放つ様は 正に鴉
「あの男だけじゃない、あのガキも酒を飲む奴も
傲慢な男どもはみんな苦しめばいいのよ!
弱きものを痛めつけ 権力を貪り
世界をいいように動かすアイツらに
子を失った私の痛みを思い知らせてやる!!」
ただただ楽しげに、狂ったように空気を
震わせ哄笑を響かせる梗子を前に
誰もが 言葉を失っていた
「…勝手な事を申すな!」
濁った女の目が、ただ一人の例外へ注がれる
相対するの緑眼は鋭く
痛々しいぐらい一点の曇りもない
「私も 大切な者を奪い去られた一人だ
…ここにいる者達は皆、大切な相手を
失う悲しみを知っている
されど味わわされた悲しみを他者へ押し付け
人の幸せを奪いはせぬ、そんな道理も権利も無い故」
「黙れ…黙れ…!」
「お主の行為は あの男と同じ
卑劣極まりないものだ!恥を知れ!」
「黙れ黙れ黙れダマレェェェェ!!」
指が白くなるほど機械の取っ手を握り締め
鬼女と化した梗子が、意思無き
子供達へ命令を下す
「坊や達!
あの小娘を奈落の底へ突き落とせ!」
両腕を取られた彼女は、一直線に
切り取られた足場の端へと引きずられていく
「やめるねお前ら!銀ちゃん、!
ぼーっとしてないで止めるアル!」
「さぁぁぁぁん!!」
必死にもがく神楽と新八だが
二人は固まったまま一言も発せず
更に取り押さえる"兵士"達の力が強すぎて
身を起こす事すらままならない
そして、作務衣に包まれたその身体が
黒い闇へと放り投げられた
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:三人の行動も交えつつ、主人公ピンチと
定番の死亡フラグターイム!
ヴィナス:長いわよ!!(銃底で殴る)
狐狗狸:痛゛ぁ!って、銀さん達は?
長谷川:今窮地だから オレらに任せたってさー
桂:無責任な奴だ…しかし梗子殿は事故後から
あのドッキリを考えていたのだろうか?
狐狗狸:ドッキリ違う…でもまぁ流れとしては
事故→薬で社長誘拐→ジーンに会って計画始動
って感じだから あながち間違いではないかも
ヴィナス:なるほど…市場に薬を混入した酒を
出したのも、計画の一端と言うわけね
狐狗狸:そう、大量散布の試験段階も兼ねてね
桂:飲まなくともいずれ源外殿と同じ道…か
用意周到なことだな
鴉の鳴き声により 彼女は葬られてしまうのか…!
様 読んでいただきありがとうございました!