許さない…奴等だけは許さない





「そんな、ワシは…ワシは何てことを!」





身体を苛む深い痛みの中、霞む視界が


外へ投げ出された夫と路上の男達を見た






「た…たすけ…」





どうにか搾り出した言葉で助けを求めるけれど







取り出した携帯の救急コードを、奴が止めた






待て そのまま通報したらオレ達が捕まる
ましてアンタは酔っ払い…罪は重くなるぜ』


「ああマズイ…このままでは最悪
ワシの会社が倒産してしまう…!」





青い顔をするあの男へ、奴は年に似合わぬ
冷淡な笑みを浮かべ悪魔のようにささやいた






『取引と行こうか社長?オレをいなかった事に
してくれれば、オヤジに頼んでアンタの罪を
チャラにしてやるよ…どうする?







ただただ助けを請う私をあの目で見下ろし





「…ワシは悪くない、悪いのは息子を
誑かしたこの女なんだ」






奴に従ったあの男の声を最後に、私は





"不注意運転の加害者"として裁きを受けた












第十五訓 伏線の消化時にはご注意を











部屋に忍び込んだ五人に半円状に取り囲まれ
女の顔は 驚愕に満ちていく





「あんた達…何でこんな所に!?」


「ちょっくら道に迷っちまってよぉ
したらカワイイ声が聞こえたんでねぇ」


「で 何でここにいるのかしら?まさか
この男を助けに来たとか言わないわよね?」


そんな者はどうだっていい
私は兄上を助けられれば十分だ」





無表情で言い切られ、完全に虚を突かれた所に







「助けてくれ!ワシは被害者だ!!」





身を起こした少年が力を振り絞り
鉄柵へとしがみついて訴え始める





「貴様ら…金は払う、幾らでも払う
だからワシをここから出せ!


「落ち着くね子供店長 まずは
酢昆布七年分を用意するヨロシ」


冷静に要求すんな!
あなたも落ち着いてください!」





諌める新八の言葉は届かず 相手は
半狂乱のまま叫び続ける





この女も烏魔もイカレているんだ!
とっととぶち殺してワシを助けろ!!


このままではワシは殺される!
狂人どもに殺される、助けてく」


「「うるさい」」







ゲージ越しに放たれた槍と木刀の底が
彼の意識を吹っ飛ばす





「あの…いくらなんでもやり過ぎじゃ?」


「だって黙らせねぇとこっちの話進まねーし」


「また身もフタも無いことを…」


「そうよ、むしろ物足りないくらいだわ
この男は被害者なんかじゃないんだもの」







白衣の女はそう言うと、少しだけ
落ち着きを取り戻した表情で言った





「この男は勘当した自分の息子を
事もあろうに自分の不注意で死なせた」





ケージ内で気を失った"社長"
侮蔑の視線を送り 彼女は続ける







「それを認めず 保身のために罪を
あろう事か烏魔主任に擦り付けたのよ」


「それじゃあ烏魔 梗子は、無実…?」


「ええ 本当に罪を償うべきはこの男と
車に乗っていたはずのもう一人





寝耳に水の一言に、の眉が跳ね上がった





「もう一人?誰のことだ」


「こいつはしらばっくれているけれども
恐らく相当の権力者よ…主任の家族も
奴らのせいで奪われた」







静かに歩く女の眼が 悲しげな色を
帯びて伏せられる





「ここにいるのは…身内や兄弟、そして
子供を不当な理由で無くした人間ばかり


私もそんな一人だった 二人に会うまでは」


「それと銀ちゃん達を子供にしたのに
なんの関係があるアルか」







やや訝しげに放たれた言葉に


しかし女は、待ってましたと言わんばかりの
笑みを浮かべて口上を並べる





「烏魔主任が計画の指揮を持ちかけ
あの方が それを後押ししてくださったのよ


もうすぐあの巨大機械兵器が主任の薬と
私達の思いを乗せて、世界中に放たれる…








うっとりとしたその言葉の意図に気付き
彼は声を荒げた





「まさか烏魔は、ガンターを使って
あの薬をバラ撒くつもりか…!」


「そんな事したら、世界中が
大変なことになりますよ!?」







の推測に気を奪われていた新八は





彼女が思いの他 近くにいたこと
気付いていなかった







「うわあぁぁっ!?」





飛びつかれた彼の頭に
ごり、と固い感触が押し付けられ





「新八!!」


動かないで!私だって護身用に
銃の一丁くらいは持ってるのよ?」





新八を人質に取った状態で 女は
四人と相対しながら壁際に移動する







「非常用のブザーを押せば警備兵も来るわ
下手に暴れたらこの子が傷つくわよ?」





銃を強調した動きの合間で


三人は 瞬時に目配せをする







「どうやって意識を保ってるかは
後でじっくり聞き出してあげるわ

さあ坊や達 とっとと地べたに伏せ…」


「させるかクソアマあぁぁぁぁぁぁ!」





言葉を待たずに神楽が真正面を突っ切る





「ちょっちょっと神楽ちゃぁぁぁん!


「くっ…!」







銃を彼女へ向ける僅かな逡巡の合間に

距離を詰めたの槍が銃身を斬り飛ばす





「なっ…!なぁぁぁぁぁ





身を捩じらせ素早くボタンへと伸びた指が
触れるよりも数瞬早く


額に打ち込まれた麻酔銃が女を昏倒させた







「アンタら僕を殺す気ですか!?」





青筋を立てる新八へ慌ててが弁解する





「いや俺はEZGUNで眠らせる為に
隙を作ってもらおうとアイコンタクトを…」


マジでか?とりあえず二人一緒に
ぶちのめせばいいと思ってたネ」


「一撃目で銃を壊し、ニ撃目に
死留めろという意味ではなかったのか」


「「チームワークバラバラじゃねぇかぁぁ!」」





定着したWツッコミ二人組が、次に目にしたのは







いつの間にか隅っこでうずくまるいじけた銀時





「てーか銀さん何やってんだアンタ?!」


「オレさー…もう帰っていいかな?
何かいてもいなくても解決しそうじゃね?」


「いやいやいや!主人公がここで帰っちゃ
長編の意味無いから!!」



「それに銀ちゃんに卑屈は似合わないネ
拗ねて同情引いても点は稼げないアルよ」





フォローしてないだろソレ、と入りかけた
ツッコミは無線のコール音で消された





「こちら……何だって!?







緊張を孕んだ声に 四人は表情を引き締める





深刻な顔つきで話を聞き、頷いている彼は


やがて"分かった"と呟き 通信を終わらせ
静かに彼らへこう言った





「どうやら、この女が言っていたことは
まるっきりのデタラメじゃないらしい」







烏魔の起こした事故とその後の判決に
不信を抱いたパラメディックの調べで





被害者と彼女の夫が親子であった事


普段から被害者に飲酒癖があり
事件当時もアルコールを摂取していた疑い





更には裏から司法の人間等に手を回し
事件を捻じ曲げた可能性が明らかとなった







なんて悪質な奴アルか!
こいつボッコボコにしちゃるネ!」


「やめとけよ、こんなオッサン
後で警察にでもつき出しゃいい」







ケージで鼻血を出して伏せる少年を見やり





「…仮に先程の話が真実ならば
もう一人とやらは、どこへ消えたのだ?」





にしては 珍しく正論を口にした







「それは俺も気になる、人一人を完璧に
隠蔽できる偽装が出来るものか疑問だ

…が今はソレについて論じてる場合じゃない」


「何かあったんですか?」





一つ頷き、重々しく言葉が紡がれる





「潜入成功の連絡を受けてから…
ヴィナスとずっと連絡がつかないそうだ





最後にあちらの通信が途切れたのは


彼らが進む予定だった区画の、少し先らしい







別れた彼ら三人組に異常事態が起こった事を
感じ取り 四人は顔を見合わせる





「とにかく急ぎましょう!!」









奥まった一室から二階上へ戻り、そこから
五人は急ぎ足で通路の奥の

彼が目星をつけた"監禁場所"へと辿り着く







踏み込んだ区画はサッカーコートを二つ三つ
くっつけた広さを持っていた


但し 倉庫のような殺風景さは微塵もない





教室程度の広さに区切った、鉄製の
デッキ部分に設けられた低い柵の外側と

配線コードをあちこちに走らせた壁の間が


底の見えない闇と地続きの空間として
見事に切り取られていた







宙に浮く形の不安定な足場の奥半分に
ぼんやりと、何人かの子供が佇んでいる





「間違いない…きっとあの人達
連れてこられたかぶき町の人ですよ!」


「あの中に兄上が!兄上っ!


「だあぁぁっちょっ、待たんかブラコン!







止める間もなくが床を蹴って
子供達の群れへと迫ってゆく





すると 一斉に子供の群れが動き始めた





「ぬ、何だお主ら邪魔を…ぬあっ!?


(さん)!?』





飛びかかられ引き倒される彼女に驚き
思わず駆け寄ろうとした四人は





ほぼ同時に向けられた眼光に怯み


次の行動を起こす前に、同じようにして
子供達に飛びつかれた





「ぐっ…やめて下さい!」


「痛っ、何するアルかお前ら!!







必死に抵抗し突き飛ばされても
彼らは四人の拘束を諦めようとしない





その移動速度と腕力は十歳前後の
姿形にそぐわず


執拗に五人の耳元へと手を這わせる様は
獰猛な肉食獣の捕食さえ髣髴とさせる





何より表情の固さはよりもひどく


人間味がゴッソリ削ぎ落とされている







「こいつら様子がおかしいぞ!」


「ああ…明らかに耳栓を狙っている…
それにこの目はまるで…操り人形だ!


「ご名答、その子達は私がこのスピーカーで
発する命令にしか従わない…」







第三者の声と共に 子供達の奇襲が止まった







奥の通路からヒールを鳴らして現れたのは


白衣姿で黒いメガホンの機械を手にした





「烏魔…梗子…!」


「ええ、こうして会うのは初めてね?
…いえビッグ・ボス?





ニコリと笑うその顔には


先程対峙していた女よりも深い狂気
渦巻いているように見える





「あの人から聞いて、待ってたのよ
お仲間は既にここにいるわ…来なさい!







スピーカーの命に従い 梗子の背後から





表情を無くした数人の子供に
知った顔が引きずられて歩いてくる





「ヴィナス!」


桂さんに長谷川さん!二人とも耳栓を
しているハズなのにどうして…!!」





新八の声に、しかし二人は何も答えない








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:事故での意外?な事実と名前だけだった
梗子さんがようやく登場〜っす


銀時:もーオレいなくていーじゃん、
だけで行って帰って来いよ


神楽:ほら拗ねないのキャラメルやるアルから


新八:いい加減子ども扱いやめたげて

…それと僕らがいる区画のデッキって
どーいう場所なんですか?文だとぴんと来なくて


狐狗狸:正確にはペデストリアンデッキっつって
よく大きな駅とかの駅前にある歩道橋っぽい感じ


神楽:じゃあそう書けばよかったネ


狐狗狸:いやまぁ…その辺書いたら緊迫感に
欠けるというか、後で気付いたというか(汗)


銀時:オレが主人公ってこともか?(背に乗り)


狐狗狸:うわぁ妖怪おんぶお化け!!




彼女の手中に落ちた三人、そして…


様 読んでいただきありがとうございました!