警備の隙間を縫って島の用水路へたどり着き
マップを持つヴィナスを先頭に、七人は
薄暗い通路を慎重に進んでいく
「じめじめしてクッサイアル」
「仕方ないでしょ 用水路なんだし」
「あの程度の崖ならば突き進めば
よかったと思うぞ」
「目ん玉までピーマンですかテメーは
明らか即死トラップ満載だったろがあの崖」
「はぁー早いトコちゃっちゃと終わらせて
元の身体に戻りてぇなぁ…」
流れる水音と固い床の反響音の合間に
彼らの言葉が入り混じる
「お主らはしゃぎ過ぎだ、引率の先生の
後ろを歩くつもりで静かに行動せんか」
「どんなマニアックな社会科見学?」
「なぁ…さっき施設の残り半分は
管理が厳しいって言っていたな」
渋い顔で呟いた彼に ヴィナスは歩みを止める
「ええ それがどうかした?」
「もしやとは思うが…基地内でこっそり
メタルギアが開発されてないだろうな?」
「お前心配しすぎだっつの、確かに
そっちのバカが絡んでるとは言ったよ?
共演だからホイホイ仲間も出てきてるよ?
でもこんなチンケな島まであんなデカブツが
置かれてるなんてベタはやんねーだろアイツも」
「そうだよ 前向きに行こうぜ君」
苦笑いを浮かべる元オッサン達の希望は
見下ろす彼女にあっさりと打ち切られた
「あら、子供に戻っても
勘は昔のままなのねジャック」
『え…マジでかぁぁぁ!?』
第十三訓 願わくばこの話が
二十くらいで終わりますように
「ちょっとヴィナスさん、どうして
そんな事まで知ってるんですか!?」
「アナタはオタクでメガネのクセに
頭の回転がすこぶる鈍いわね」
「万年新八だからしょうがないアル」
「打ち合わせでもしたの!?
何その僕に対する悪口の連携プレイ!!」
憤る新八をなだめ 桂が口を開く
「また、件の情報提供者というヤツか」
「あージイさんに耳栓頼んだって人?」
お子様二人の発言に彼女は頷く
「先に捜査してる仲間は 元々江戸の近辺で
不穏な動きがあると察知して調査してたの
で、調べて行く内にメタルギアの開発疑惑と
ジーンの存在…そして烏魔に行き着いたワケ」
「手際がいいっつーかご都合主義っつーか」
「それだけあちらの手腕が優れているのだ
あまり管理人をいじめてやるな銀時」
子供の姿でもなおふてぶてしさの変わらない
銀時をチラリと見やってから
「この先RAYや月光クラスと鉢合わせる
可能性を考慮して提案があるんだが…」
言いかけたの言葉を遮り
挙手した桂が発言する
「一塊で進むには些か危険が大きいから
途中で二手に分かれるのはどうだ?」
「…考えることは一緒か」
「そうね、このまま直進した先で
地上に上がり 均等に二小隊に分かれて行動」
「よし それで行くか…今の内に
地図の控えを渡してくれ」
テキパキとやり取りが決められる中
「…ヴィナス殿、あちらの通路は使えぬのか?」
「一応出口はあるけど 外壁側に出るの
正直そこからの潜入はオススメしないわ」
右手側の少し手前に曲がる形の通路を指す
に対する返答は素っ気無かった
「さ、あとはこの先を行けば出口よ」
言って彼女が指差した10m程先には
地上に繋がる梯子がハッキリと見える、が
「いや…足場ないんですけど」
「コレくらい助走つければ十分越せるわ」
「いや…向こうの段差50cmくらい
あるんですけど」
「それに、落下したらただでは済まぬだろう」
2m下を流れる下水は基地が近いだけあって
急流並みのスピードを要している
恐らく落ちたら そのまま海までまっしぐら
「大したこと無いから飛びなさいよ
こんなのお子様のお遊びレベルじゃない」
「オレらの背丈見て言えやこのアマぁぁ!」
「今のオレらには飛んだって絶対
乗り越えられないからね、こんな場所!」
次々上がる非難の声に焦れたのか
「面倒くさいお子様どもね…
なら飛ばなきゃいいのよ、任せといて」
言うが早いか側にいた長谷川を持ち上げて
「あれ?何コレなんかデジャブゥゥゥゥ!」
カタパルトの要領で迷い無く
勢いよく向かいの段差へとぶん投げた
尾を引いた悲鳴が 対岸の床に到達する
「…よし、狙い通り着地」
「悪魔かオノレはぁぁぁぁぁ!!」
勢いの乗った新八のツッコミ
(&かかと落とし)がヴィナスの頭に直撃した
「よりによってここでも人間カタパルトって
どんだけ荒ごと好きなんだアンタぁぁぁ!!」
「うるさいわね早いし正確だからいいでしょ
どんどん投げなさい、後がつかえるわ」
「…了解したヴィナス殿」
「ちょっ、後生だから止めてくれぇぇぇ」
桂が潰れた蛙のような悲鳴を漏らす
当然の如く 後には神楽が続いた
「よーし、行ってくるネ 銀ちゃん!」
「ダメェェェ神楽ちゃんそれだけは!!」
「待て待て待てぇぇお前の力じゃ死ぬから!
やるならせめて大人の身体で!!」
「それまでモタモタしてられないアル
ここは一発人間カタパルトで」
「わかった!俺達は別ルートで行こう!
ここで二手に分かれよう、なっ!?」
寸での説得が功を奏したのか、担がれた
身体はやや乱暴に下ろされた
「ちょっとアナタ達、まさかそっちの
ルートから進んでいくつもり?無茶よ」
「残念だがねぇちゃん こっからは
オレらのやり方でやらせてもらうぜ!」
「素人の、しかも子供が攻略できるほど
たやすい場所だと思ってるわけ?」
なおも言い募る彼女の視線を受けるも
「…まぁ、こんな所でくたばるほど
俺やこの人達はヤワじゃないさ」
彼はあくまでも落ち着いていた
「手間のかかる奴らね…
なら私は二人連れて先に行くわ」
「ああ…何かあったら連絡をくれ
内部で合流しよう」
その会話を最後に軽く助走をつけて
ヴィナスは軽やかに向こう岸へ飛び移り
「ほら、行くわよ」
よろよろ立ち上がっていた二人と共に先へ進む
「…んじゃオレらもこの穴倉から
さっさと這い上がりますか」
うっそうとした木々と茂みに囲まれた基地の
監獄のように鉄線の張られた外壁の隅
ぽつりと置かれたマンホールのふたが
二三度、微かな音を立てて揺れ
ガパン!と勢いよく跳ね上げられた
顔を出した新八が辺りを見回し
「…誰もいないみたいですよ」
言って這い上がり、そこから順に
他の四人が穴から飛び出して
地図を頼りに茂みから外壁に沿って移動する
「どうやらあの辺りにある隙間から
敷地内に進入が可能のようだな」
「でもあの黒服の人が問題ですね…」
両者の視線の先には、目的のポイント周辺を
行き来する 黒服の姿が伺える
「恐らくは銃と無線を携帯している筈だ
下手に見つかって増援を呼ばれたら厄介だな」
「二人とも、大変だ」
「「どうした(んですか)(さん)」」
「神楽と銀時がおらぬ」
無表情に語られた一言で二人が
目を剥いて固まった次の瞬間
新八の頭目掛けてやや太めの枝が飛んできた
「痛っ!?」
「誰かいるのか!!」
声に反応し、駆けてきた黒服が
三人の姿を捕らえた瞬間
「貴様ら、そこで何おぶあぁぁぁぁぁ!?」
銃を構えかけた言葉半ばで 相手は
苦痛に満ちた表情で前のめりに倒れる
その尻から一本の木刀が生えており
悶え苦しむ合間、頭に拳大の石が激突し
黒服はぐたりと気絶した
「っし一丁あがり 行くぞオメーら」
言って横から出てきた銀時が
横たわっている相手の木刀を引き抜いた
「ちょ銀さんんん!何やってんですか!」
「見てわかんねーか、神楽とオレの
見事な連携プレーだバカヤロー」
「どこがだぁぁぁ!無理やりボコって
気絶させただけでしょーがぁぁぁ!!」
「つかせめてやるなら一言相談しろよ!
アレか?七話のアレまだ引きずってんのか!?」
「うるさいね囮どもが、とっとと中に
入って食いモン根こそぎいただくアルよ」
騒いでいる内に神楽が隙間から
内部へと入っていく
「って神楽ぁ!おま勝手に進むな!!」
慌てて追うような形で四人も続き
とりあえず側にあった建物の内部で
彼らは神楽に追いついた
「…どうやらここ、武器庫みたいですね」
「食いモンがないなんてしけてるアル」
「のんきなものだなお主は 私は兄上が
どうなっているかと思うと…」
「どーもなってねぇっつのブラコン」
脛を蹴る銀時を無視しつつ
地図と外の様子を交互に見比べ、彼は言う
「参ったな…さっきより警備の数が多い
今の守備であの先に行くには確かに手間だ」
「したらアレだよ、ダンボールで
送られてきた荷物のフリをしてだな」
「アレに五人は入りきらんわ!」
「静かに、誰か来るようだ」
声を抑えたの言葉に四人は口を閉ざす
全員が潜む武器庫へ、確かに三人の黒服が
着実に歩を進めていた…
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:他力本願なサブタイはさておき
ここからサクサク潜入&終わりに向かいます
銀時:え…オレの今回の活躍アレだけ?
野郎のケツに木刀カンチョーしただけぇぇ!?
狐狗狸:流石にボス戦辺りまでいけば
いいシーン増えるから、我慢我慢
神楽:ちっ…カタパルトやりたかったアル
狐狗狸:それは退助さんの長編でかましなさい
新八:ちょ、何あっちの話のネタバレ
ここでやらかしてんのぉぉぉ!?
狐狗狸:大丈夫だって 展開的にはまだまだ
大分先の方だしアレ!
五人は窮地を乗り切れるか…次回必見!?
様 読んでいただきありがとうございました!