戸惑う彼へ長谷川が不安げに尋ねる
「どうしたんだよ君?」
「…サニーがまだ戻ってないんだ」
「あの童が?それは真か!」
コクリと頷いてから、彼はすぐさま告げる
「とにかく今から俺達が源外さんの
所へ向かうから、家で待機しててくれ」
『…わかったわ 気をつけて』
無線を切った後、彼らは街の路地を
突っ切って源外の住処へと向かう
「やはりおかしい…人の気配が少なすぎる」
「不安だ、兄上は無事だろうか…」
「兄貴よりも先にサニーのが心配ネ!」
「確かにサニー殿の安否も気にはなるが
私にとっては兄上は命より大事な」
「「優先順位考えろブラコンンンン!」」
もう共演定番となったWツッコミが
繰り出された時点で目的地に到着し
「ジジィ!無事か…」
戸口を開けた銀時の言葉が 止まった
第十訓 お酒やみりんは身体にかかると厄介
普段は機械の部品などが所々に置かれた
長屋の玄関らしき風景のそこここに
揉め事と銃弾の痕跡が残っている
「何だよこれ…ヒデェ…」
「くそっ、遅かったか」
「 今ならまだ三人とも無事かも知れん」
「源外さーん!たまさん!サニーちゃん!
いたら返事をしてくださーい!!」
室内へと足を踏み込んだ彼らに反応し
「その声は銀時様に皆様方 ご無事でしたか」
抑揚のない女性の声と共に、近くに転がる
機械の胴体部分が勢いよく開いた
「「「うぉわぁぁぁぁぁ!?」」」
近くにいた長谷川と桂、新八の叫びを無視して
開かれた胴体から出てきたのは
…ぐったりとしたサニーを抱えた卵
「たまさん、サニーちゃん!」
「無駄にビビらせんな!ったく…」
「サニーは大丈夫アルか!!」
「ご安心下さい 気を失っているだけです
命に別状はございません」
ほっ、と彼を中心に何人かが胸を撫で下ろした
「たま殿、一体ここで…
街で何が起こったのだ?」
の問いに彼女は淡々と言葉を紡ぐ
「あれはちょうど皆様と分かれ
三人でここへ戻った時です…」
源外達が戻って来た時には、既に
街の様子はおかしくなっていたようだ
「何だか人が 少なくなった気がする…」
「なんでぃ、あのカラスみてぇな機械は?」
「無人機…でしょうか?」
黒い無人機がいくつか
かぶき町の上空を飛び回りながら
霧状の何かと、あの音波を散布している事を
察知し 源外へと報告した矢先
「うわあぁっ!」
三人の前に血相を変えた町民が一人飛び出し
声を駆ける間もなく、背後から飛び出した
黒服の手にしていたノズルから
霧状の何かを噴射される
「まだここにも取り溢しがいたぞ!噴射だ!」
源外に気付いた黒服達は怯える町民に目もくれず
一斉にノズルを構えて突撃してくる
「たま!追っ払え!!」
「了解しました」
あっという間に長屋は戦場と化した
「ってじゃあコレほぼたまさんがやったの!?」
「数が多かったので、撃退する為に
少々手荒な手段を使わせていただきました」
「しかしもう少し加減してやれ スタッフさんも
大半はプロデューサーの命で現地に行くまで」
約三名からの無言の拳が桂を黙らせた
妙な改造をしこまれたモップ一本で
たちまちにこの惨状を生み出した卵に
黒服達は一人、また一人と倒れ
その内何人かは逃げていったのだが
「ぶわぁっ!?」
爆発を喰らった一人のボンベが宙を舞い
破裂した中身の液体が、半分ほど
源外へと降りかかってしまった
「ぐあっ酒クセェ!なんだこりゃ!!」
「大丈夫、おじいちゃ…!」
心配そうに訊ねたサニーの声が
喉の奥で凍りつく
目の前にいた源外の姿が
まるでフィルムの逆回しのように
背丈が縮み、若返っていき…
ほどなくして彼女の目の前に
だぶついた作業着を着た、それほど
年の変わらない男の子が現れた
「うげっ、オレも若返っちまったぞ!」
「ええええぇぇぇ!?」
道路を見やれば先程怯えていた町民も
同じように 子供と化していた
「ちょちょちょちょい待て!
目の前でジジィがガキになったって?!」
「どんなガキンチョになってたか
ちょっと見たかったアルな」
「問題そこじゃないから神楽ちゃん!」
「薬の事については後で考えるとして
たま、話の先を続けてくれ」
「…その後 街に流されていた音波に
洗脳され子供となられたお二人はどこかへ」
一旦言葉を切り、卵は腕の中のサニーを見やる
「サニー様は源外様を押し止めようとして
跳ね飛ばされ、気を失ったようです
それから複数の足音を聞きつけたので
サニー様と共にここへ隠れていました」
サングラスの奥の瞳をサニーへと向けて
長谷川は感慨深げに頷いた
「そっか…そっちも色々大変だったんだな」
「あの、その後どうなったか分かりますか?」
「物音だけしか分かりませんでしたが…
二度ほど人の出入りがあり、それから
しばらくして"あの音波"が止みました」
「どーやらあのカラスもどきが
街で飛び回って音を流してたらしーな」
「ああ、恐らく子供と化した人間は
一人残らず連れて行かれたに違いあるまい」
そこまで聞いて 彼女はハッと目を見開く
「まさか…兄上!兄上ぇぇぇぇぇ!!」
「おい待て勝手に行くなっ!!」
「…もう手遅れだ」
スルリと滑り込んだ低い声音が
出て行こうとしたと
止めようとした銀時達の動きを止めた
「あの方と梗子主任が動き出したんだ
この街には…もう男は一人も残っちゃいない」
何処か楽しげに呟いたのは
二話目で捕まっていたまま奥の方に
転がされていた 白衣の男
「アンタら…ジーンと結託して一体何を企
「ガキ誘拐してショタ王国でも築くつもりか?
自分好みに成長させて食うつもりか あん?」
「半ズボンはかせて"お姉さま"とか
言わせて召し使うつもりかコラァ?」
「そんなショボイ人類変態計画だったら
管理人を変態容疑で真撰組に引き渡すわ!」
「…子供を集めると罪になるのか?」
「今はソレについてあまり考えないでください
てゆうか僕に説明を求めないでください!」
茶々交じりの追求に、しかし男は
口の端をほんの少し歪めるだけ
「お前らは分かっちゃいない
コレは始まり、やがて全てが変わる」
続けるその目は あらぬ方を向いていた
「世間のバカどもめ…子を奪われた者の
痛みと恨みを今こそ思い知れ」
とにかく仲間へ連絡を告げた後
白衣の男を卵に任せ、七人はサニーを
引き取りの自宅へと集まった
「サニーはアイツが見ていてくれるそうだ
これで当分は大丈夫だと思う」
「そうですか…安心しました
僕の方も姉上の安否を確認した所です」
借りた電話の受話器を置いて、新八も
全員の集う部屋へと歩いていく
『さて、皆 話を聞く準備は整った?』
彼らが囲んだテーブルの上には
すっくと立ったメタルギアMk.U
小型のオモチャに見えるその兵器から
聞こえてきた軽やかな声音の主は
ハンディカメラのようなモニター画面に
映し出されたショート目の女性
「ああ始めてくれ、パラメディック」
『今までのやり取りで一通り事情は聞いてるわ
サニーからもデータは受け取ってる』
どうやら街へ戻る移動の合間に
入手したデータは無事 送られていたようだ
『解析は終わっているから、あと少しで
解毒薬は完成するわ…四人分を至急で処方して
ヴィナスに届けに行ってもらうから』
「かたじけない」
「所でさ、あの薬って結局何なんだ?」
『薬の通称は"WHITE CROW"』
「横文字はよく分からぬ…」
「直訳すると"白いカラス"だな」
途端にやれやれと言った顔をする銀時と神楽
「オィオィ、いくら長編が"白鴉"だからって
そこちょっと安直すぎじゃねぇの管理人よぉ」
「創作とバイト連勤の板バサミで
頭パーンなってるからって手ぇ抜きすぎアル」
「「内部事情はどーでもいいから!!」」
繰り出されたWツッコミを華麗にスルーして
『アルコールと薬品の主成分が結合する事により
化学反応を起こし、体内または皮膚からの
摂取により染色体から細胞に影響を』
得意げに語る彼女の言葉を
無表情のまま 挙手で途切る
「すまぬパラメディック殿、全く分からぬ」
『…これでも分かりやすくしてるんだけど
しょうがないわね、もう
平たく言えばお酒に混ぜて使うタイプの物で
飲むか身体にかかると 男の人だったら
みんな子供になっちゃうお薬ってこと』
口には出さないまでも、他の六人も
その説明にようやく納得したようだった
「なるほど、酒と混ざっていたのは
ごまかしだけではなかったのか…」
「チ○コがついてりゃガキに戻る薬って
コ○ンより不完全なシロモンだな」
「ちょ銀さん、子供になっても伏字は
自重してくださいよホント」
「しかし俺達が飲んだものより効き目が
早いモノも出回っていたらしいが…」
彼の言葉に、すかさずモニターから
自信に満ちた返答が返された
『それは二種類の効果を持つ同薬と
考えて良さそうね』
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:安直言うな!こっちだって必死に
展開進めようとしてんだよ!!
新八:最初の発言が作中ツッコミ!?
銀時:つーか今だってまだ奴らの本拠地に
入り込んだ辺りで止まってんじゃねーか
神楽:どんだけゲームに集中してるネ
両立できないなら創作止めなさいバカチンが!
狐狗狸:お母さん!?つかさり気に
ネタバレしちゃダメ銀さんんんんん!!
銀時:あん?テメー程度だと今後の展開ぐらい
ガラス張りにスッケスケだっつの
なぁ ここ読んでるみんな?(カメラ目線)
新八:同意求めても返ってくるかぁぁぁぁ!
次回でようやく彼らの反撃が始まりそうです
様 読んでいただきありがとうございました!