ヘリの墜落直後、土壇場まで悪あがきし続けた
眠蔵を追い詰めて 鳩尾に重い一撃を見舞い
「命までは取らぬ…今はな、だが」
槍の刃でアゴ下を持ち上げ は言う
「身内を裏切って安穏と生きられると思うな」
ありったけの殺意をゼロ距離で叩きつけられ
耐えられず、眠蔵は白目をむいて失禁した
近接しているビルへと飛び移り、舞い上がる
爆炎を眺めながら沖田が語りかける
「どうやら決着ついたようだぜ どうでい
そろそろオレ達も「ついてない」
しかし剣戟で斬られ崩れてゆくガレキから
飛び来た信女は、問答無用で刀を横へと払う
"一度定めた標的を斬るまで鞘に納まらない"
人斬りの持論を相手にも問いながら留まらぬ
攻撃と落下する柱の残骸を避けながら
「おさまる鞘がねーなら てめーに
おあつらえ向きなのを用意してやらぁ」
足のバネを生かして目と鼻の先にまで踏みこむと
…両刀を眼前へ構えた信女ではなく
彼女の背後にあった支柱を斬り落として
悠々と抜け出した沖田は、倒壊するビルを背に呟く
「鞘ん中で眠りやがれ なまくら」
息つく間の無い乱痴気騒ぎが静寂を破り
「局長!あちらのビルが!!」
「次から次に…一体何が起こっている!?」
うろたえる見廻組の面々の前へ、ビルの入り口から
負傷した白い制服の隊士がよろめきながら現れる
第八訓 積み重ねても、想いは変わらず
「救護…至急応援を頼む」
彼の横をすり抜け、隊士全員が廃墟へと突入し
間もなく鳴った携帯へ異三郎は耳を傾ける
「きょ…局長!浪士達が全員捕縛されてます!
投降を訴えかけてきていますが…」
より正確に言うならば、ボコボコにされて気絶している
彼らの上に"自首します"と書かれた布が貼ってあるだけだ
そんな珍妙な光景もさることながら
先に別働隊として潜入したハズの同僚達の姿が
見当たらず、困惑のまま隊士が辺りを探る
「屋上に昏倒しているぞ!」
「ま、待て!これっ…
真撰組の隊服を着た…見廻組だ!」
「どこにもいない!真撰組も、人質も
…どこにも見当たりません!!」
報告が聞こえてくるのと ほぼ同時に
負傷していた隊士が上司の前で立ち止まる
上げられた顔は、口角を吊り上げ笑う土方だった
直後 背後から異三郎へ刀と銃口が突きつけられる
「そうですか、おそらく見廻組に成りすまし
突撃隊をだまし討ちにすると共に、ヘリの襲撃を
見廻組に向け同士討ちさせたのでしょう」
淡々と電話口へ答える彼を取り囲みながら
変装した土方と近藤、そして山崎が
慇懃な口調で芝居を打つ
「しかし、何分屋上の隔離空間で起こった事ゆえ
査問委員会にかけても攘夷浪士による犯行であると
言い逃れされる恐れがありますな」
「さらには此度の私闘、挑発してきたのは
真撰組とはいえ先にしかけたのは見廻組
我々の責任も問われるのは必定ですよ」
とカズも、最もらしくその芝居へ便乗する
「我々MSFはこの事態を収拾すべく現場に急行
…しかし到着時、既に混戦によって
敵味方の識別が不可能な状況となっていた」
「この状況下で下手に手を出すと、最悪
国際問題へと発展しかねるため我々は
恥ずかしながら静観を決め込む形であった」
「しかし、この度の私闘の一部始終は証拠として
押さえ、幕府及び国連へ報告する準備がこちらにある」
後方へ控えるMSFの面々を親指で示しながら
しらを切られる可能性と、大事にしたくない意を
口にする第三勢力の両者に乗っかるように
白尽くめ達も事件の解決と手柄とを言葉にする
「今回の件は痛み分けという事でお互い
不問に処し 手を引かれては?」
「いかがでしょう、局長」
一拍の沈黙を置いて 彼は静かに命じた
「……浪士達を捕縛しなさい
結構です、人質はくれてやりましょう」
"事件の解決"を断言し、撤収の指示を部下へと
伝達して通話を終えた異三郎へすれ違いざま
「英断心より感謝しますよ、局長」
言いながら、土方が称えるように肩を叩く
「いえ、これからもお互い江戸の治安を
護る者として頑張っていきましょう」
「ええ、せいぜいエリートの足を
引っ張らないよう気を付けます」
「ご謙遜を…アナタ達は立派なエリートですよ」
鉄と部下達を引き連れる 土方達の背中へ
「悪ガキの、エリートですよ」
不敵な笑みと共に異三郎は呟いた
廃ビルへと入っていく白い制服の群れを見送って
黒い制服と外人部隊の方は車両へと歩いてゆく
「トシ、ホントにアイツらに浪士共を任せて
大丈夫なのか?」
「心配いらねーよ、投降してきた連中を
斬り殺す真似はさすがにしねーよ 処遇については
松平のとっつぁんに言付けしておくさ」
「しかしこれで見廻組の評判はうなぎ昇り
おいしいトコどりじゃないですかアイツら」
「んなこたねーさ」
憤慨やるかたなしの山崎へ、しかし土方は
至って気にすることなく楽しげに返す
「なんせこっちは」
言いながら一台のパトカーの扉を開ければ
「超大物のホシあげたんだ、なぁ白夜叉殿?」
そこには手錠をかけられた銀時との姿が
「だから元だよ元!てめーらオレ達のおかげで
助かったのに恩を仇で返すつもりか!」
「どうにもくせー野郎とは思っていたがまさか
てめーが桂どもと並ぶ伝説の攘夷志士だったとはな」
「こっちも驚いているさ、まさかが
巷で名を上げてる"亡霊葬者"だったなんてな…」
「美しいバラには棘があるって言うだろジャック」
「その名は好かぬ、あと兄上に棘はないぞ」
「「いやそうじゃなくって!?」」
真顔のボケで周囲からのツッコミをもらう
少女に苦笑しつつ、カズは銀髪の侍へ視線を移す
「しっかし、銀時がお袋から聞いてた
白夜叉だったなんてな〜」
「だから元だっつってんだろ!今は善良な
市民である所はテメーらご存じだろーが!!」
"善良"のセリフでキラキラな顔をして
善良であることをアピールする銀時だが
無表情なまま申し開きしないと見比べて
全くもって信用がないのを確認したらしく
山崎がじと目で見返す
「殺人未遂犯してましたよね
鉄殺そうとしてましたよね」
「ああわかった!じゃあ百歩譲ってオレが
攘夷志士だったとしよう!
だったらコイツも元攘夷志士だろーが!!」
と、銀髪侍は逆ギレまぎれに隣へ意見を求める
「なぁ鉄君!人の罪なんてたどっていたら
全員罪人だよね?きりがないよね?
パクんならコイツもパクれ!!」
「なにとんでもないこといってんだこの人!?
さっき言ってたこと全部台無しだよ!」
もっともすぎるのツッコミの直後
今までうつむいたまま悶々としていた鉄が
意を決したように顔を上げて叫ぶ
「その通りッス!責任取らせてください
自分切腹するッス!!」
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!?」
同意どころか責任を取るつもり満々なその様子に
銀時が汗だらっだらで驚愕する
「今回の件は全て自分の責任ッス!」
「いやちょっと待って!?そーいう流れに
したいんじゃないんだけど!?」
「往生際が悪いぞ銀時、ワケはどうあれ
こちらが罪を犯したのは事実だ」
「こんな時くらい空気読めピーマン娘ぇぇ!!」
外野を他所に 鉄は自らを悔いる言葉を口にする
土方に元攘夷浪士であると知られるのを恐れ
そのせいで、皆にこんな迷惑をかけてしまった事
何も知らないくせに偉そうな口を叩いて
「折角預かった手紙さえも 届ける事ができなかった
副長の兄上にも…自分の兄貴にさえも」
嘆きを受け止め、土方は鉄から目をそらさずに言う
「届かなかったんならもう一度出せばいいさ
今度は自分自身の手で 約束しただろう?
オレより強くなるって…今度はてめーの番だろーが」
確かに兄貴(いさぶろう)には届かないかもしれない
だが、と言葉を切り そこで彼は後ろにいる
真選組の面々を見やって続ける
「少なくとも、お前と同じ
ろくでもねぇアニキどもには、きっと届くさ」
「ああ…字が読めるかどうかは保証しねーが」
近藤の返事で豪快に笑う隊士達を見て
"手紙は…出さなくても、既に届いている"と
は心の中で確信して微笑んだ
「鉄、てめーの手紙…
オレ達はいつでも待ってる事を…忘れ…」
緊張の糸が切れたのか、土方は力尽き倒れた
「おいトシ!?」
「まずいすぐに病院に搬送するぞ!」
「トシぃぃぃぃ!!」
迅速な対応により 病院へ搬送された土方は命に
別状なかったのだが、治療のため入院となり
今回の事態が収束するまで MSFは
真選組と協力体制を組む事となった
…結局 お咎め無しとなった銀時は
「ったくなんでオレがこんな事しなきゃならねーんだ!」
その後日、のバイクと並走しながら
原チャリの後ろに鉄を乗せてそうぼやいていた
「そんな事言わないでください!
副長にあなた達の無実を解いたのは自分ッスよ!」
「つーかオレらハナから無実だし!
むしろてめーら助けたのはオレらの方だし!」
「んなこと言わずに頼むよ報酬も出すし、な?」
サイドカーに乗っていた少女は 相変わらずの
無表情のままで青年へと答える
「…お主らには迷惑をかけたしな 異論はない」
新たに書いた手紙をを握り締め、鉄は決意を口にする
「今度こそ絶対届けなきゃいけないんです!」
「手紙って誰に!?」
「副長は…自分のために兄貴に手紙を
書いてくれました!だから今度は自分が!」
「はああ!?死人に手紙!?」
四人がやって来たのは…土方為五郎が眠る墓地だった
恩返しのため、土方が立派にやっている事を
墓前に報告したいと熱弁する鉄だが
"何の意味があるんだ"と銀時の機嫌は降下する一方だ
「冗談じゃねーぞ、ったく茶番の茶番じゃねーか」
「銀時…少しは意を汲め 薄情になるぞ」
「まあ、言わんとする事は俺も同意だな
いいじゃないか手向けの手紙くらい」
「えーと副長の兄上殿のお墓は…」
目当ての墓所には 一人の先客がいた
「あら?これはこれは珍しい
あの人のお墓にあの子以外にお参りなんて」
「え?もしかして兄上殿の…いやあの自分は」
しどろもどろになる鉄へ為五郎の奥方と思しき
女性は、その手に握られた手紙を見つけて笑む
「そうかいそうかい、あの子の手紙を
届けにきてくれたんだね」
いつも挨拶もなしに手紙だけ置いていくのだ、と
聞かされ 鉄はつぶらな目を丸くする
「え!?もしかして副長が!?」
「ええ 毎月このお墓まで…生前はあの人も
楽しみにしてたからねぇ、トシからの手紙」
何年も帰ってこなかった彼が、兄と最後に
顔を合わせたのは近藤達と江戸へ旅立つ前日で
ひょっこり帰ってきたにも関わらず
彼は黙って一緒にご飯を食べ、酒を飲んで
「トシ…手紙、よこせよ」
為五郎のその一言にも答えぬまま、一切口を
利かずに黙って出て行ったけれども
それから毎月来る手紙を 為五郎は嬉しそうに待っていた
「目も見えやしないのにいっつも笑って読んでた
トシの手紙はまだかトシの手紙はまだか、って」
"だから今もこうして毎日読み聞かせてあげている"と
言いつつ屈んで奥方は、袂から手紙を取り出す
「手紙でも、相も変わらず
無口で頑固な兄弟だけれどね」
中身の便箋は白紙だったけれども…あの二人の
兄弟には、それでも何か伝わっていたのか
「いや…きっと兄弟ってのは、家族ってのは
生きているって ただそれだけきけたら
十分なのかもしれないよ」
しんみりと どこか楽しげに言うその言葉を
鉄はただ、黙って聞いていた
「あなた…トシからまた手紙が来たってさ
ホラ…アラ?」
彼女は振り向くけれども、そこにはもう誰もおらず
立ち去った鉄達は 江戸の河原で夕日を眺めていた
「結局、また届けられなかったな」
「鉄、これでよかったのか?」
「いいんです、あんな手紙見せられたら
自分の手紙なんて…渡せませんから」
鉄は自らしたためた手紙を紙飛行機に折り
「副長は…兄上殿は確かに繋がっていた
それだけきけたら…自分は十分ッスから」
暮れてゆく空に向かって 真っ直ぐに放つ
それは大して飛ばずにブロック塀に落ちた
…が、あくる日 筆を片手に悩む土方の病室へ
"バラガキ"からの紙飛行機が風と共に舞いこむ
その一通が床へと落ちたのを見届けて彼は
「ダメだ、やっぱ何も浮かばねぇ」
ため息混じりに筆から手を放し 寝転がる
何も書かれていない中身を収める封筒には
"バラガキ様へ"の宛名がつづられていた
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あとがき(管理人出張)
狐狗狸:きっと最後の紙飛行機はどっかの
バラガキが…と思いつつ彼らの話は語り収めです
全員:ありがとうございました〜!!
土方:最後まで往生際悪すぎだテメー ちったぁ
槍ムスメの潔さを見習って刑に服しやがれ
銀時:あんだとヤクザ警官が!むしろ人の話
ガンスルーとか容赦ないボコり辺り、お宅んトコの
ドSうつされて迷惑してるんですけどねぇ!!
沖田:旦那も同属性でしょ、まーよっぽど
気に入らねー事でもあったんじゃねぇんで?
異三郎:それは痛ましいですねぇ、せっかくですし
ストレス解消方をメールでお教えしときましょう
のぶめ:身体を動かすのが一番だと思う
山崎:いや、アンタらが原因増やしてどーすんの
狐狗狸:それなら精神ケアとして江戸に△様か
\(◎)/の手配を頼みますか 外人部隊面子に
近藤:逆に精神バッサリいかれるぅぅぅ!!
退助様の協力の元、無事に話を書ききれた事
そして読んでくださった事に ありがとうを!
…同時進行中の代無し童話をちまちま消費しつつ
次回の長編を もっか水面下にて計画中?
様 読んでいただいてありがとうございました!