廃墟の下で、土方と異三郎はしばし
にらみ合ったまま微動だにしていない





「私があなたの博打に付き合うと思いますか?」


「真撰組(おれたち)を潰せる上ここを通らなければ
弟も消せねぇってんなら乗らねぇ手はねぇだろ」






せせら笑う土方だが異三郎は、あくまでも
落ち着いた態度を崩そうとしないまま


"真選組と鉄の抹殺"が目的なら
別働隊の存在を浪士どもへ知らせれば済むと語り


自らの背後に控える隊士達へ身体を向けて


"安い挑発に乗らぬよう"言い聞かせる





「敵を前に警察同士で私闘を演じるなど
愚の骨頂、見廻組にも責任が生じます」


一歩たりとも動かぬよう言いつけられ、見廻組の
臨戦態勢が瞬く間に解かれてゆく





「残念でしたね土方さん、私の目的は愚弟の首でも
真撰組の首でもありません」





事件の迅速な解決のため こんな茶番
付き合う時間も人員も持ち合わせない、と


その言葉が終わらぬ内に彼は土方へ剣閃を浴びせる





「たった一人の悪ガキを
さっさと片付ければそれで済む話なんですよ」






…しかし、そこに土方の姿はなく
斬られた上着が有刺鉄線の上へと落ちるのみ







「そうこなくっちゃよぉ」


どこか楽しげな当人の声は背後から聞こえた





「存外温室育ちのてめーも野生ってもんは
忘れちゃいねーらしいな 薔薇ガキ





双方がニヤリと殺気混じりの笑みを浮かべて





、手ぇ出すんじゃねえぞ?」


「土方さん…止めても無駄みたいだな」


「そういうことです、アナタには
見届け人となってもらいましょうか」





側で身構えていた金髪の軍人にそう言い含めて


鬼と怪物は、互いに地を蹴り刀を高く打ち鳴らす











第六訓 優雅なだけがバラにあらじ











大混戦になるかと思われていたビル内の三つ巴は


互いを最優先攻撃目標と定めた沖田と信女の
乱闘によって、実質一対一三対一に分かれていた





「後生だちゃん!行かせてくれ!!」





二人の攻防を命がけでかわしながら上を目指す
近藤と山崎が懸命に訴えかけるも


行く手を阻む少女は何一つ動かない





「オレ達が助けないと、人質の鉄まで
一緒に殺されちまうんですよ!!」



「見廻組の連中、鉄もろとも浪士達を」





語る最中で 斬りかかった一撃を避けられた
信女が勢いを殺すことなく二人へと突進する





「「ぎゃああぁぁぁ来たあぁぁぁぁぁ!!」」


「斬る相手間違えてんじゃねぇぜぃ」





流れで突き入れられかけた切っ先を弾き

距離をとる信女から目を切らぬまま沖田は


ほぼ同時にもう一つの凶刃を防いだへ訊ねる





「お前、どっちの味方なんでぃ」


「通さぬとは言ったが、命をとる気はない」





しれっと鉄面皮で返されたので、軽くその頭を
叩いて沖田は 再び彼女とのチャンバラに応じる







破壊音と土煙と鋼の音で満たされるフロアの端で


いつの間にやら復活していたカズが外壁から
上へと目指す素振りをしているのを見て取り





「させるk…っ!


距離を詰める少女は 次の瞬間


自分へと降り注ぐ弾幕を目の当たりにする





…が、甲高く床へ打ち込まれた石突によって
斜め上へ飛んで横の壁へと退避した少女が


間を置かず半ばほどまで走って壁を蹴り


その身を回転させながら前進し、柄で全て
弾丸を弾きながらカズの背後へと着地する





しかし反撃へ転じようとした直後


近藤と山崎が横側から挟み討つようにして
進行方向を塞いできたので身を屈め







「今のをバレルロールで防ぐか普通…しかし
これであの女に聞かれず話が出来るな」





低く呟かれた その言葉の意図がつかめず


中腰に身構えた状態で動きを止める
壁際へ追い詰めたまま、三人は声を潜めて言う





「オレらが上に通るのはダメなんだよね?」


「うぬ」


「でも命をとる気もないし、気持ち的には
オレらへ味方したいって言ってたよね」


「その通りだ」


「つまり、オレ達が上へと行かなければ
人質の救出を邪魔しない
…って事だな?」







そこで彼らの言わんとする事をようやく理解し





「じきに見廻組の者達が来る…気をつけられよ」





は床を蹴って壁穴から外へ飛び出し


槍の刃を外壁へと刺し、テコの原理を利用し
壁を勢いよく駆け上がって姿を消す





うわスッゲぇ…しかし旦那、盛大にタンカ
切っちゃいましたけど何か策があるんですか?」


「任せておけ山崎君、しかし問題は
どこまでこっちの思惑を組んでくれるか…」


不安の残る疑念を 近藤の力強い一言が吹き飛ばす





「心配ないさ!あの子ならきっと分かる!
オレ達は出来る事をやるだけだ!!」






山崎とカズは…納得したように頷いた











連続した剣撃に圧される形で吹き飛ばされ


千切れた鉄線と共に倒れこんだ土方が
起き上がるのを待たず異三郎の拳銃が火を噴く


だが迷いのない銃弾を地を手で突いて横跳びに
回避し、切れた有刺鉄線をつかんだ彼は


それを相手の足へとかけバランスを崩させる


隙を縫うように首を目がけた刃先を刃で防ぎ

距離を詰めた頭へ銃口を合わせるが


発射直前で銃身を掌底でずらされ、頭突きを
くらって異三郎が一瞬よろめく


しかしバック転の要領で土方のアゴが蹴り上げられ


体制を立て直した異三郎は刀と銃を同時に構えた





「踊りなさい」





銃弾を避けた土方が、次の瞬間 左腕へ斬撃を受け


二段構えの攻撃を繰り返されて鮮血を撒き散らす







刀と銃を同時に…あんな芸当ができるなんて…!」





"弾丸を避けさせる事による動きの先読み"
同様、見切っていた土方は


敢えて初撃の銃弾を肩に受けながらも前進する





が、その行動すら予測済みとでも
言うかのように余裕を持って異三郎は告げる





「おしまいです」





肩を貫いた弾丸が 後ろのドラム缶へ被弾し


オイルに引火して爆発し、その爆風が
まともに直撃して土方の身体が宙へ舞い





…その身は 容赦なく異三郎に斬り伏せられた









「ふ…副長ぉぉぉ!!





真選組隊士の全員が、血まみれで倒れた
土方へ駆けつけるのを眺めながら


異三郎は皮肉めいた笑みでこう言った





「茶番はおしまいです」


「あの土方さんをああも容易く…!」


「アナタ方の国は便利な武器を作ってくれました

この様に小さくとも威力は申し分ない、おかげで
今の戦闘スタイルをものにすることができました」





嫌味にも聞こえるその言葉に、
悔しげに呻くぐらいしか出来なかった







一部始終を見ていた知恵空党も唖然としてしまう





「ま…マジかよ」


「ブハハハ!やりやがった!
ホントに殺りやがった佐々木!!



「ん…なんだオイ…何で集まってんだあいつら?」





そして次に眠蔵の目に入ったのは、自分達が
いるビルへ向かって整列している見廻組


慌てて鉄を盾にするも 再三の叫びなど
まるで聞き入れられる事なく隊士達が迫り来る





人質に意味も価値もないと知って彼らは嘆き





「ま、待て!じゃあコレならどうだ!


奥の手とばかりに眠蔵が紙切れを取り出す







その騒がしさの中、浪士達から少し離れた場所で

と銀時が潜めた声音で話す





「どうもやかましいと思ったがアイツらいんのか
…何で攘夷志士(こいつら)気付かんかね」


「全くだな、戦場で油断とは首がいらぬか」


「お前ひょっとして生まれる時代とか
ジャンル間違えてねぇ?ここ銀魂だよ?」






妥当なツッコミがスルーされながらも
二人は黙って事の成り行きを見守る









鉄が大事に抱えていたため眠蔵達が"機密文書"
思っているその紙切れは言うまでもなく





「あれは…土方さんが鉄に預けた手紙!?


やめろぉぉ!お前ら、その手紙は…!」





しかし、宛先が"見廻組屯所"である事を耳にし
鉄の顔色が変わった


(バカな…副長が兄貴に!?





偽名を使ってでも送った文を盾にして
叫ぶ眠蔵の悪あがきへ、異三郎は緩く答える





「ほう、土方さんが私に…それは興味がありますね」


何すっとぼけてんだ!何なら拡声器で
ご近所さんに読み聞かせてやっていいんだぜ!」


「せひよろしくお願いします」





動じない相手へ煽られ、眠蔵は手紙を読む









佐々木 異三郎殿  突然のお手紙お許しください


私が見廻組に手紙を送るなど何かと
風聞もありますが 無礼と存じつつ偽名にて
お送りさせて頂くことご容赦ください


土方の名を目にすれば必ず目を通してくれると
信じて筆を取りました





貴殿から預かった弟御 鉄之助におかれましては

以前とはうってかわり気持ちを改め
我等の元で日々修練しております


長らく浸かった怠慢な生活習慣を身から
そぎ落とすにはまだまだ時が必要でしょうが


立ち止まる事をやめ前へ歩を進めようと
必死に我等に食らいつく その気骨たるや
既に立派な偉丈夫


日々邁進するその姿から恥ずかしながら
私も学ばされることが多々あります





彼はきっと立派な武士になります


彼はきっと私達が立派な武士にしてみせます








どうか、一人前になった暁には


彼を認めてあげてくれないでしょうか


家族として





彼はきっとそれを望んでいます









土方らしからぬ丁寧な口調と、真剣な文面に
鉄の両目から熱いものが溢れ出す





自らの望んだ情景には もう手が届かないのに


まるで我が事のように 他人であるからこそ


自分の事を必死に考えてくれた こんなにも
想ってくれていた副長の心を知って






「ふ…く…ちょ…」







一つの銃声が…無情にも全てを断ち切る







「時間の無駄でしたね」


土方の手紙を、そこに込められた想い

鉄の想いも全て撃ち抜いて異三郎は命ずる





「突入しなさい」


「い…異三郎ぉぉぉぉぉぉ!!


「っ佐々木…貴様!!





こらえ切れず刀を手に踏み出そうとした
を、片腕で押しとどめて


「手ぇ出すなっつたろうが……!」





突入する見廻組の前に躍り出たのは―







「ふ…副長…!





満身創痍でありながらも、戦う意志
捨てていない土方へ鉄は涙ながらに訴える





「や…やめてください!お願いだから
もうやめてください!自分の事はいいから…!


お願いだから…副長ぉぉぉぉぉ!!






彼の後方にある扉へ、威嚇として弾丸が穿たれる





「どうやらアナタのようなタイプは、完全に息の根を
止めねば死ぬまで絡み付いてくるようですね」



撃たれているにも関わらず、煙草に火をつけ
余裕を示している土方へ





「そこをどきなさい バラガキ」





異三郎は狙いを定めて引き金を絞り


それと同時に刀の柄を握って駆け出す





「土方さん避けろ!!」





思わず叫ぶだが、どちらを選ぼうと
結果は変わらないと彼は内心嘲笑う


(弾丸に刃、どちらでも好きな方を選びなさい)







風を切り自身へと迫る弾丸を見据えて





両足を踏ん張り、土方は弾の中心を刀で貫く





止まることなく刀身は弾丸を放った銃を


そして持ち主の異三郎自身をも順に貫いて


串刺しのままビルの壁へ叩き付けた









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あとがき(管理人出張)


狐狗狸:夜〜は墓場…でなく廃ビルの前
決闘する二人の下りがようやく消化されました


異三郎:のぶめさん達のやり取り、時系列として
矛盾してはいませんか?


狐狗狸:多少の前後は多めに見てくださいな


山崎:いや無理でしょ!特に戦闘シーン
あれ夢主だってこと差っ引いても無茶過ぎ!


土方:アレは受け狙いだろ完全に、つうか
槍ムスメとうとう人間辞めやがったか


銀時:いやアレ元々半分ぐらい人間辞めてんぞ


近藤:そーいうこと言ってやるなよ!管理人の
無茶ぶりをやらされてるだけなんだって!


狐狗狸:よーし私も今回の話にちなんでマンガ
朗読しちゃうぞ〜永久/保先生の「生き人


銀時・土方・近藤:止めろォォォォ!!




注・普通の人は生身バレルロールも刀で銃弾
貫通も出来ませんので、絶対真似しないで下さい


様 読んでいただいてありがとうございました!