―鉄が知恵空党に捕まった





その報を聞き、けたたましいサイレンが
江戸の街に響き渡り


MSFの装甲車LAVを混じえながら


真選組と見廻組のパトカーが知恵空党が指定した
マンション跡地へと続々と到着する







隊士や隊員達が一箇所へと集ったのを見計らい





ご苦労様です、お互い大変ですね」


その一言で沈黙を破り、呆れ混じりに異三郎が続ける





「あんな出来損ないのためにこんな所に
駆り出される事になるとは」


「お前…知ってたのか、アイツと連中のつながりを」





問う土方へ彼は 他人事のように語る





身分を隠して知恵空党に出入りしていた鉄は


金回りがよかったからか、頭目の厭魅 眠蔵
かわいがられていたらしい


しかし日に日に過激になりゆく組織と同時に


警察の縁者である事が組織に露見するのを
恐れ、逃げ出したのだと





「結局アレの居場所は
どこにもなかったというワケです」


「悠長に語らっているようだが
最悪な形でバレてしまったのではないか?」





割り込む形で、そこへカズが口を挟む





「見廻組局長であるアンタの弟、真撰組副長の
小姓である鉄を利用して、江戸最強の2組織
一気に潰せるチャンスを与えてしまったも同然だ」





それを聞き、とんだ見当違いと異三郎は鼻で笑う





「真撰組と見廻組、両局長の首が
あの軽い首と等価だとでも?」



息をのむ、カズに構わず彼は命令を下す





総員出撃だ 人質に構う事はない
攘夷浪士どもを残らず殲滅するのだ」











第五訓 棘の鋭さは古今東西侮れない











廃墟へ向かおうとする見廻組隊士達を

慌てた近藤が立ちはだかるようにして止めた





ま、待て佐々木殿!
あんた弟を見殺しにするのか!?」



「ならば取引に応じると?残念ながら私の首は
アナタ程安くはありませんよ」





眉一つ動かさず異三郎は、目の前の相手へ
自分達の心配をするように忠言する







"元攘夷浪士"を小姓として使い 更には
人質に取られ今回の一件を引き起こした挙句


佐々木家から預っていた子息を"死なせた"失態


これらについてどう責任をとるのか…


「ファンとして楽しみにしてますよ」





そう告げた直後、土方は異三郎の胸倉をつかむ





「てめぇ、鉄を道具に使いやがったな」





怒りを瀬戸際で堪える彼に近藤の制止は聞こえない





元攘夷浪士で厄介者の弟を真選組に預け


今回の事件が起こると予期していながら
責任を真選組に擦り付け





「邪魔な弟とオレ達を消して万々歳ってワケか」


「誤解ですよ、私はあなた達のファンだと
言ったでしょ」





しらを切りながら異三郎は 組織において
真選組のようなはみ出し者を扱いかねる
無能な輩がいる、とお為ごかしを口にする





我々は歯車の一つである事を理解した方がいい
私ですか?理解してますよ、自分がとてつもなく
優秀な歯車でしかないと言う事位」


「テメェは一生人に罪をなすりつけてやがれぇ!!」





刀を抜き放とうとする土方を止めようと言いさした
近藤の背後に、強い殺気がひらめく





「私の首をもっていくというのならば
首が一つ足りませんよ」



彼や達が気づく間もなく背後に現れた
長い黒髪の少女が鯉口を大きく切り







解き放たれるより早く、沖田がその刃を
鞘ごと刀で貫き止める






「抜いてみろ、次は○○○ブチぬく


「や、やめろトシ、総悟!





これを機に両陣営の隊士が臨戦態勢へと入ってしまい





おちつけてめーら!
今はんなことやってる場合じゃねーだろ!」








一触即発の空気にMSF隊員もみな困惑していた





「ボス、これは…!」


ああ…!予想以上に事態は深刻だ…」


「今回はかぶき町の時の様にはいかない
下手に動けば国際問題だ」





迂闊に介入もできず、は歯を噛み締め







「FU〜!戦争決闘そりゃ結構!!」





廃墟の屋上部分に現れた眠蔵が緊迫した空気を壊す





野郎共!奴等局長の首どころかサツ同士の
潰し合いをみせてくれるらしいぜ!」





彼らの争いを、最高の見世物として手下どもと
野次を飛ばしながらあざ笑い


刀の側面で鉄の顔を叩きながらはやし立てる





「早くやれYO!
待ちきれなくて手がすべっちまいそうだ!」



「あいつら…!」


「こんなところまで似せてんじゃねーぞ
エセラッパー共が…!


とカズが野次を飛ばす知恵空党を睨み付け





その直後、土方が見廻組の前へと躍り出る





「正気ですか土方さん、そこをどきなさい」


「あいつらに乗るつもりはねぇよ」


煙草を踏み消しながら彼は ここから先へ
行くなら通すわけにはいかないと告げる





「この先は…オレ達がゆく道だ」





土方の語りの最中、近藤とカズ達が互いに
アイコンタクトを取り合って行動を開始し





「オレ達ゃ茨斬り開いてでもここをゆく
茨斬り開いてでもここを帰る


鉄(あいつ)と…バラガキどもと一緒にな





見廻組の周りを真選組の隊士が取り囲む





「その覚悟のねぇ奴は、何人たりとも通さねぇ
この茨掻(いばら)、容易く通れると思うな」








当惑する部下達のただ中 異三郎だけが
平素の冷静さを保っていた





「成程、あなた達が私達を引き止め連中の注意を
引きつけている間に裏から忍び込んだ別働隊が
鉄之助を救い出す…そういうわけですか」





その別働隊は、先程のやり取りの合間に
抜けだした近藤・沖田・山崎・カズが担っている





「だが別働隊ならこちらも向かわせました」





そう語る異三郎が指し示しているのは


慎重に裏を回る四人の前へと現れた、先程の女





「皆さんのお役にたつといいのですが」





暗殺部隊から引きぬいた腕前は折り紙つきながら


一度定めた目標の殲滅を果たすまで攻撃の手を
緩めることをしないため


人質や真撰組(みなさん)にまで
手をのばすのでは
と、少し心配ですが」





うそぶく異三郎へ土方は皮肉めいた口調で返す





「ごちゃごちゃぬかしてんな オレぁただ
てめーが気に食わねーだけだ」







その手に握られた刀を認めて





「お互い相手を消せる大義名分を得たんだ 喜べよ


「その顔、最早警察と呼べる代物ではありませんね」





こちらもまた、同じように刀を握りしめた





「「あくとう(怪物・鬼)が」」







始まるであろうバラガキ同士の戦の気配に
とMSFの面々は、固唾をのんで立ち尽くす









マンション跡地の上で見物を続ける浪士達の
群れに混じり、銀時とが言葉をかわす





「なんか知らねぇ間にエラい事になってんな」


「うむ、それにあの男…人質の価値はないようだ」





距離があったため詳しい会話の内容は聞き取れずとも


"佐々木家の人間である"鉄がいるにもかかわらず
見廻組が強行しようとしていた素振りと


そのすぐ後に真選組が反発した様子は見て取れた





薄情な肉親ってのは流行りか?ったく適当なとこで
抜け出そうかと思ってたのにしちメンドくせぇ」


「仕方なかろう、気に食わぬが今しばし
片メガネ殿が突入するまで待つしか……!!







言葉半ばで凄まじい殺気を感知し身を震わせるが


次の一瞬で、表情を変えずには言う





「…銀時、ここは任せる」


「何だションベンか?さっさと済ませてこい」





短く頷き 間を置かず少女の姿が掻き消える









…おりしもその頃、マンション跡地の裏手で


見廻組の少女―今井 信女が先陣切って
向かい来る攘夷浪士を次々斬り捨て進んでいた





「あの女まるで死神だ!!」


「急所を一撃でしとめるあの技…
よもや暗殺剣の使い手か!?


「二人とも感心してる場合ですか!」







派手に暴れまわる彼女は別働隊の都合も人質も


何もかもお構いなしでガレキを足場に飛び移り


知恵空党の連中が潜伏している廃墟へと入りこんで





突き出された白刃を身を反らしてかわし


反射代わりに繰り出した斬撃をあり得ない
角度で避けられて
 そこでようやく立ち止まる





「殺気を垂れ流すとは、お主…
人質を助ける気は毛頭ないのか?」


人質?テロ組織の殲滅が異三郎からの命令」


言葉が終わらぬ内に彼女はへと斬りかかるが

その一撃は柄によって防がれ 流された





「それにアナタも死ぬのは変わりない」


「悪いが、殺されてやる筋合いなどない」





床を蹴り 壁や柱をも足場にして


似たような無表情突き合わせ、二人の少女は
鋭い剣と槍の一撃を虚空に踊らせ続ける







な…なんて攻防だ お互い終始致命傷になる
一撃を繰り出しておきながら、ほんの数ミリの
踏みこみ、数秒の判断で共に回避し続けてやがる!」


「ああスゲェ、ちゃん落ちながら戦うとか
ここまでのポテンシャルを持ってたのか…!!」


何解説キャラに徹してんのアンタら!?
さっさと潜入した方がいいですって!!」






玉の汗を流す近藤とカズへ厳しいツッコミを
入れながら、山崎も廃墟の外壁をよじ登る





近くにいた見張りの浪士が、すわ敵襲かと身構え







攻撃に移る間もなく 沖田の刀の錆となる





が攻撃の手を止め、信女は同じく
殺気満々の彼もまた"標的"と定める


それを察知して彼は神妙な口調で言った





「ザキにカズの旦那、近藤さんを頼まぁ
、一緒に斬られたくねぇなら引っこんでろぃ


「…全く 仕事でなくばお主らに加勢するのだが」


呆れ混じりにため息をついた、次の一呼吸で





すぅと目を細めた少女から 人を思わせる
感情や気配が一切合切失せてゆく





「ここから上は通さぬ、聞かぬなら
腕一つ二つ失う覚悟はしてもらおうか?」



「おいおい、お嬢さん方そう生き急ぎなさんな
こっちだって荒事にしたい訳じゃ」





とりなそうと這い上がって歩み出たカズの
アゴ先へ、槍の石突がぶち当たり


浮き上がった身を横薙ぎの追撃が襲って


彼の身体はビルの端っこまで吹き飛ばされた





…唖然とするしか無い近藤と山崎を他所に





通さぬと言ったハズだ」


容赦も遠慮も身もフタも聞く耳も持たない
の言動を横目に見ながら





「近藤さん コイツの狙いは鉄の首でも
まして敵の首でもねぇ…オレの首でさぁ





言う沖田の頭上スレスレに柱を斬り落とし


抜き身の二刀を構えた信女が二撃目を繰り出す





「いいえ、あなたの○○○よ





砕かれた柱の落下音が面倒極まりない
三つ巴の、開戦の合図となった








――――――――――――――――――――――
あとがき(管理人出張)


狐狗狸:のぶめさんとの絡みとかを考慮した
その結果がこれだよ!でも反省はしない!!


山崎:しろぉぉぉ!どう収集つけんのアレ!


狐狗狸:無論、メインはのぶめvs沖田です
そこは履き違えませんよ


近藤:しかしあの子ら、こう言っちゃなんだが
似ている気がするなぁ…もしかして親戚?


沖田:バ管理人のキャラ立てが甘いだけでさぁ


狐狗狸:ギクリ


異三郎:それにしても、おそらくこの短い戦闘で
彼女らは何か相通ずるものを感じたんでしょう


銀時:いやそれ一方的なもんだよね?
短編で本人メッチャ迷惑そうだったよね?




展開上、退助さんサイドが少し空気ですが
見せ場の時にはどーんと暴れる模様!


様 読んでいただいてありがとうございました!