日がすっかり暮れるまでの、土方との剣の稽古で





「ったく情けねぇ野郎だ そんな調子じゃ
一日もたずに浪士どもに斬り殺されるぞ」


体力が尽きた鉄は 床に倒れて荒い息をつく





「死にたくねーなら強くなるこった
晩飯までに三千回素振りしておけ」


「ふ…副長」





煙草を咥えて稽古場を後にしようとした
土方の背に、寝転んだままの鉄の声がぶつかる





「じ…自分…強くなるッス き…きっと
兄貴より…副長より強くなってみせるッス


もう二度と立ち止まらないように、早く…
みんなと一緒に…同じ道を歩めるように…






以前と比べてチャラついておらず、芯のある
重い言葉を吐き出して なおも彼は言う





「だ…だから副長も強くなってください」





何のことかと振り返った土方は





「副長の兄上は…副長の事を恨んでなんか
いませんよ きっと副長に会いたがっています」



その一言に、ハッとした顔で息を飲む







過去の土方は 小さい身体で暴漢から兄を
必死に護ろうとしただけ


その兄は必死に土方を護ろうとしただけ





二人は立派な兄弟だ と鉄は言った





「自分は副長が羨ましいです、だから
どうか兄上から逃げないであげてください

アナタ…バラガキのトシでしょ







黙って聞いていた土方は…しばらくして
おもむろに稽古場の戸を開くと





「ったくどこのどいつだ、アホに余計なことを
吹き込んだ奴ぁ…いいか、今度オレの前で
その名を口にしてみろ」


"全身の穴にマヨネーズぶちこんで殺すぞ"

本人らしい脅し文句を残して出ていく











第四訓 職場も携帯も、新規だと
慣れるのに一苦労だよね












外で月を眺めながら、吐いた煙が闇に広がって





バラガキのトシ…ねぇ…」





声に気づいて土方が顔を向ければ、側の
庭の木から現れたが歩み寄って来ていた





な、テメェいつの間に…」


「土方さんらしい名じゃないか?」


「テメェまでそれを口にするか…
ホント何処のアホだよ言いふらした奴は」


「バスケしてた時に、ゴリラからちょっとね」







あの一件にて土方を案じる鉄へ、近藤は
彼の生い立ちが鉄と似通っているコト


行き場のない土方を引き取った"兄"の存在


けれども自分のせいで兄に傷を負わせ
感情に任せて暴れた自らの業にも悔い


家を出た彼が、大切なモノを守りたくて

傷つきながらも力を求めていたのだと伝えた


だからこそ、悪ガキどもが震え上がる
"バラガキ"となったのだと





『いつだって 茨をゆくバラガキであれ』





鉄の背を押すように言う近藤の金言が


側で聞いていたにも、強く染み渡った







「やっぱあいつの仕業か…」


毒づく土方へ苦笑して 彼はこう言う





「頑張ってるじゃないか、鉄」


「ああ…いつかは本当にオレ達を
追い越すかもな 油断してらんねぇや」


「だな、昔の俺を思い出すよ…
あの人より強くなろうと必死だったっけな」





隣にいる青年が、自分や鉄と似た境遇
人間であることを思い出しつつ


の横を通り過ぎながら 土方は言う





「オレはお前が羨ましいよ、家族として
決着をつけれたお前がな…」


「土方さん…?」


「な、何でもねえ とにかくテメェも
あんまりその名を口にすんじゃねえぞ?」





足早に去るその背を、彼は黙って見つめてた







鉄の土方に対する献身ぶりは翌日も変わらず





「副長、ひょっとして勃ってんzy
「もういいっつってんだろーが!!」


うわ、何だ何だ!?」


当人の部屋から障子を突き破って吹っ飛ぶ
鉄の姿に とカズも驚かされた





「言われた事だけやってりゃいいんだよ
うっとーしい!」


「申し訳ありません!何か副長の役に
立てる事はないかと!」



「テメェは槍ムスメかっての これじゃあ
仕事が少しも進まねえ…もういい」





一枚の封筒を鉄に投げ渡し、土方は
外に出てそれを郵送するように命ずる





「副長…この手紙って…」


オレより強くなるって?
やれるもんならやってみろよ」


それだけ言うと土方は 障子戸を強く閉める





「相変わらずだな、鬼の副長は…」





呆れるカズの声を耳にしつつも鉄が手紙の
宛名を確かめれば、そこには





土方為五郎様    と書かれていた





「はい…必ずや…やりとげてみせます!


「頑張れよ、鉄」


はい!
殿、カズ殿、行ってまいります!」






二人にお辞儀をして、鉄は嬉しげに
屯所を出てかぶき町を駆けてゆく









「見つけた」





その姿を、物陰から複数の攘夷浪士が
様子をうかがいながら連絡を取り合う





「標的が一人になった 狙うのは今しかねぇ
もうすぐそちらに向かうはずだ」


"裏切り者を絶対逃すな"との連絡を受け





「おい新入り、もうすぐこっちに来るぞ
逃がさねーようにちゃんと見張っとけよ」


浪士が銀髪と黒髪の浪士に向かって
指示をしたが、返事が返ってこない





オイ、聞いてんのかオイ!」


え?あ、あいあいさ〜」


「こちらも抜かりはない」





答えたのは、変装した銀時と





「おい大丈夫なのかあいつら…」


「もう一人は女子供だし…ふざけた奴らだぜ」





渋い顔で舌打ちする浪士達よりも地味な
袴に長足袋の浪人姿で 両者は通りを見張る


銀時は後ろ髪を無理やりくくってマゲにし


は三つ編みを、束ねただけの髪に
帯を巻きつけた簡素なモノへ変えていた





「よもや九兵衛殿の真似事をするとは…」


「今更男装ぐれぇでガタガタ言うなぃ
普段だって女らしさ欠片もねぇカッコだろ」


「仕方なかろう、動きやすいのだから」





不満そうに返す彼女を見下ろす銀時の懐で
携帯がバイブ音を鳴らしたので


取り出して開くと メールが届いていた





[仕事の調子はどうですか?(´∀`ゝ”
たまにはメール下さいm(_ _)m ]







…二人がこうして攘夷浪士と行動を共に
しているワケは、異三郎の依頼に関係していた







はぁ!?潜入捜査!?」


「ええ、実は今我々見廻組である組織を
追っていまして、そこに潜入し情報を
こちらへ流していただきたいのです」





よからぬ話に向かい合う銀時がやる気なく言う





「AKBとかなら喜んで潜入すっけど 3サイズまで
調べてくっけど、どうせJOY(攘夷)だろ?
「ポニーテールと天誅」
だろ?」


「…しっての通り、我々はエリートエリートによる
エリートのためのエリート警察ですから
浪士達にまぎれてもエリートがだだ漏れで
すぐにエリートと発覚してしまう恐れがあります」


「何回エリートって言うんだよ」


「AK○の板○友美の様にかわい過ぎて
逆に浮く恐れがあります」


「エリートのする例え話じゃねえよ」





ツッコミ不足のお鉢が回ってきている
銀時を他所に、首を傾げたが訊ねる





「エリートとは何処から漏れるのだ?」


「それはもう、あらゆるところから
トイレをしてても臭いでバレます」


「エリートの臭いってなんだよ!」





しかし異三郎は外野のガヤに動じず続ける





「しかしアナタ達のガラの悪さならJOYでも
センターをとるのも夢ではない 会いに行ける
テロリストNO.1も夢ではない」


「嬉しくねーんだけど
ソッコー逮捕されそうなんだけど」





異三郎の指示した標的は 知恵空(チェケラ)党


元は幕府(おかみ)をラップでディスるだけの
不良グループだったが


抗争を繰り返し傘下を増やし、討幕思想も過激化し
巨大な暴徒集団と化したらしい


彼らが近いうちに大規模なテロ活動を画策する
情報が入ったので 潜入し彼らが集結する時に
一網打尽にするのが、見廻組の作戦だと語った





「危険な任務ですが、仕事を終えた時には
CD何百枚でも貢ぐ事をお約束しますよ」


総選挙で一位を取らせる、と今回の依頼と
関係のないボケを挟みつつ二人の潜入は決まった







「しっかし…まさかいきなり犯罪の片棒
担がされることになるとは」


「新八と神楽を呼ばなくて正解だったな」


「ああ、裏切者への復讐だがなんだかしらねーが
コレ責任とってくれんだよな佐々木…」


「今さら騒いでも怪しまれるだけだ
やるしかない、腹をくくろう銀時」


「だな、





二人が話している間、異三郎からメールが届く





「んだよまた佐々木か、しつけな
今メールしてる場合じゃねーんだよ」


「…緊急連絡?片メガネ殿に何かあったのか?」





件名[緊急連絡]を開いて、内容を確認すると


ドーナツが入った箱の写メが添付されていた





[部下のノブたすが差し入れ ギザうます(^〜^(
早く帰ってこないと銀たんとたんの分
なくなっちゃうお(v^-`)


P.S ほしかったらメールしてネ]


もちろん、このメールを銀時は速攻で閉じる





間を置かずにメールが受信されたので
画面を見ると、お守りの写メと


[ウソだお☆銀たんとたんの分は
とってあるからお仕事頑張ってね


無事を祈ってお守りを買ったお(^_^)ノ
P.S 安否が気になります メールしてね]


くだらないメールの内容を全て読み終える前に
携帯を閉じて 見張りが再開されるが


今度はてるてる坊主の写メ付きメールが


[晴れるのを祈って
てるてる坊主を作ったお(^o^)


P.S そちらの天気が気になります
メールしてネm(_ _)m ]


段々と携帯を閉じる速度が早くなるけれど


お構いなしに、メールは送られてくる


しばらく無視を決めこむ銀時だが 携帯の
振動は止むことなく空気を震わせる





「銀時、"めぇる"だぞ」


「分かってるっつの、つか気になんなら
お前が代わりに返事打っとけよ」


「それが…よく分からぬので押していたら
白くなったまま動かなくなったのだが」





そう言って彼女が差し出した携帯は


形は新品同様なのに、どのキーを押しても
電池やシムカードを入れ替えても取り返しが
効かない程に無反応なオモチャと化していた





データ全消去よりヒデェェェェ!
どんだけ神がかった機械オンチなのお前?!



その合間も携帯はメールの受信を告げ続け





「ちっ、わーってるよ今度はなんだ!


怒り混じりでメールを開いてみれば―





[メールがくるのを祈ってみたお☆
P.S ウサギってさびしいと死んじゃうんだよ]



という本文と、下に異三郎が首吊りしてる写メ


「ぎざウザす!!」


彼は叫びながら携帯を地面に叩きつけて壊した





「どんだけメールほしいんだ携帯依存症がぁぁ!
しょこたん並みの構ってオーラだぞ!
てめぇに打ってる暇はねーっつってんだよ!」



「物を粗末にするのはよくないと、痛」


「お前も空気読め!こっちは仕事中なんだよ!


「オイ何騒いでんだ落ち着けぇぇぇ!」


つーかなんでメールの時だけテンション高いんだ
お前はメール弁慶か!!こっちは仕事中なんだよ
邪魔すん
「銀時、そこから何か出てきた」は?」


が示した窓の隙間から、着信を
知らせながら出てくる携帯を取って電話に出る





『壊しても無駄だお』


「てめぇの用意周到さの方が一番無駄だわ!!」





目を剥く通話相手の怒声もどこ吹く風と
いった感じで、異三郎は答える





『エリートに無駄などひとつもありませんよ
それと、さんには後々アメーバでも分かる
携帯のマニュアル本一式をお送りしておきます』


「おお…心遣いかたじけないな片メガネ殿」


いらねぇから!
何このイヤミ完全スルーのボケ合戦んんん!?」






ボケの飽和にとうとう堪忍袋の緒が切れたのか


銀時の声と怒りのボルテージも最大値に達した





邪魔すんじゃねーっつってんのがわかんねー
『邪魔などしていませんよ、そろそろお目当て
来るころと連絡して差し上げたのです』


「お目当て?」





ウカウカしてたら行ってしまう、という
電話の指示と同時に彼女が背を叩く


「銀時、後ろ





視線を向ければ ちょうど鉄が通りすぎていく





「あ、しまった」


「任せろ」


「お、おい?」





は地面を蹴り様に身を低くし、鉄に
気付かれずに走り 素早く前へと躍り出る





「な、なんスかアンタ!?


すまぬ、こちらも仕事故」





言うやいなや槍の刃を鉄めがけて突き出し


相手が怯んだ瞬間、槍を回転させて底部を
アゴにぶつけて卒倒させる





「おおやるじゃねえかあの娘っ子!」


歓声を上げた浪士達が鉄の元へと向かう







苦しげに鉄が手紙を拾おうと手を伸ばすが





「お使いですか、鉄之助君?」


知恵空党のリーダーが手紙を踏みつける





倒れた鉄を浪士達(と銀時と)が包囲した





「あの暴れん坊のTETUが、オレ達と幕府を
ディスりまくってたお前が幕府の犬の
使いっぱしりとは…丸くなったもんだな 裏切者









屯所の縁側で、土方達三人が鉄の帰りを待った





「アイツ、ポストとかどこにあるか
わかってんだろーな」


「さすがに分かるだろ、今のアイツなら」





の言葉へ、"心配ない"と近藤も続ける


「ポストなんざなくてももう届いたさ
お前からアイツへ送った手紙なら…
鉄はもう大丈夫だ





そこへ慌ただしくMSF隊員が飛びこんでくる





「大変です、ボス!」


「どうした?」


「んだよ騒々しい」


「たった今、知恵空党から犯行声明文が…
鉄之助を預かったとの伝文が届きました!





それを聞いた三人に緊張が走り、廃墟になった
アパート街を取引場所に指定した
と耳にして


土方が矢のように屯所を飛び出していく





「おいトシ!」


俺達も行くぞ、カズにも連絡を!」


「了解!」








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あとがき(管理人出張)


狐狗狸:ボケ合戦とメールのやり取りでエラく
長くなってもーた…ツイッターでもやってろよ


異三郎:やっていますよ?アナタもぜひ
フォロワーになりませんか 土方さんもご一緒に


土方:誰がなるか!てゆうかこれぐれーで
へこたれてたらこの先どうにもなんねぇぞ?


銀時:だよなぁ、お宅ら警察のドンパチとか
銀さんの大活躍とか出張るアイツらとか
てんこ盛りの盛り沢山になるってーのに


近藤:いや、どっちかっつーと万事屋と
ちゃんのボケが話の圧迫の原因じゃ?


狐狗狸:ですよねー




攘夷浪士に捕まった鉄の命運は…!?


様 読んでいただいてありがとうございました!