船の泊まっている場所へ付くと、
「オイ なんだ貴様」
「あやしい奴め」
何やら騒ぎが起きているようだった
気づかれぬよう船に接近しつつ伺う
「こんな怪しい奴は生まれて初めて見るぞ」
「怪しさを 絵に描いたような奴だ」
あれは、桂殿!?
…いや 桂殿の作ったエリザベスの衣装に
長髪と着物はなかったはず
それに落ち合う場所は船内だ
そこまで考えて、あそこにいるのは
本物のエリザベスだという結論に達した
落ち着いてよく見れば、エリザベスから
少し離れた物陰に新八もいる
…驚くのは分かるが 頭をもう少し
低くせねば見つかってしまうぞ
と、人の心配をしていても仕方ない
さて いかにして船へ近づくか…
再びエリザベスの方を見やれば、
何やら立て札を眼前の浪士達に見せている
「あ?」
顔をしかめる奴らに、エリザベスが
新たな立て札を出した
その、次の瞬間
轟音が辺りの空気を振るわせた
第八訓 気付かず出来る青アザの原因は
大抵よそ見衝突
音が幾分か収まってから
船の横腹に
大砲のようなものが被弾したと気付く
エリザベスの口から出たバズーカらしきものから
紫煙が濃く立ち込めている
「な…何してんだてめェェェ!!」
見張りの者達も、船にいる者達も
今の音に注意を向けているようだ
乗り込むなら 今が機なり!
私は混乱に乗じ、昨晩桂殿に教えられた
道順から船へと乗り込んだ
立て続けに爆破音が響き渡る船内を
浪士の姿に気をつけながら約束の場所へ向かう
雑多に物が詰まれた とりたてて
目立つものの無い薄暗い、物置のような部屋
そこに 通常のエリザベスに扮した桂殿がいた
「遅かったな」
「すまぬ それより神楽はどこに?」
「リーダーは恐らくこの先を左に曲がった部屋に
閉じ込められ…って待て!」
すぐさま部屋へ突入せんとする私を
布越しの手が、強く押し留める
「止めるな桂殿、私は神楽に助けると約束を」
「気持ちは分かるが何事も順序が肝心だ
とにかく オレについて来てほしい」
表面こそエリザベスだったが
声音に込められた真剣さに、重大な意図を感じ
私は突入を中断する
「了解した…しかし、何をすればいい」
「あらかた仕掛けは済んだが 最後の一つが
手間でな…は人が来ぬ様、見張りを頼む」
私の心を読んだかのように、桂殿は
すぐさまこう付け足した
「終わったらすぐにリーダーを助け出すから
それまで辛抱してくれ」
「……うぬ」
最後の仕掛けは 現在いる場所から
少し奥の方で行われた
入り口の死角で気配を殺し 周囲を伺うも
先程からの騒ぎのせいで、誰一人として
こちらに注意を払わぬため
途中から 桂殿の作業を見る方に集中していた
なるほど、狂乱の貴公子と呼ばれるだけはある
爆発物の扱いに熟達した桂殿の作業は
その動き一つ一つが 裏稼業の私には
勉強になるモノばかりだ
「… 頼むから見張りに専念してくれ
側でじっと見られてるとやり辛い」
「私のことは気にされるな」
「気にするから、すごく気になるから
てゆーか見張りの意味ないから!」
「桂殿 声が大きい、誰かに気付かれるぞ」
黙々と作業をする桂殿の顔が、
若干引きつっていたが 気のせいであろう
外の方響く爆発音と振動が まだ船を揺らし
強い振動に重心を崩し 前のめりに倒れかけ
私は咄嗟に受身を取る
「一体 どんな騒ぎが起こっているやら」
「、大丈…って 右肩ブラブラしてない?
それもしかしてブラブラしてない?」
「いや 私は大胸筋矯正サポーターは付けぬ派だ」
「違う!それをいうならランジェリー…いや
問題はそこではなくてだな!!」
頬を朱に染めつつ言う桂殿はさておき
「心配ご無用、受身の際に腕への負荷が
おかしい方にかかっただけゆえ」
言いつつ、右肩の間接をはめ直し
「…この船にネズミが忍び込んでいるやも…」
聞き覚えのある声が耳に入ったのは
ちょうど、その時だった
部屋の入り口から少し出た先
神楽が捕まっているらしき部屋の辺りを
物陰から慎重に覗き見る
「どちらにせよ コレを利用しない手はないです」
「オイ、このガキを連れてけっス!」
神楽が 鬼兵隊の者達によって
何処かへ移動させられていく所を目撃する
行き先は…船の甲板のようだ
奴らの姿が見えなくなったことを確認し
「桂殿、神楽が甲板に連れてかれている
私は先に行くから 後から参られよ」
「え、ちょっと待…」
いまだに仕掛けをしたままの桂殿を
その場に残し、私は駆け出した
まるでそれが合図であるかのように
急速に船が浮上し、私はしたたか
バランスを崩し 壁に身体をぶつける
途中 転がってきた浪士に見つかるも
身をかわし、或いは槍の柄などで
昏倒させてやり過ごす
打撲の痛みに構わず甲板へ進めば
「助けてェェェェェ!!」
「そりゃねーぜぱっつァん」
「のん気でいいなてめーはよう!!」
磔に括りつけられた神楽を抱え
必死に上へ登り続けている新八が見えた
やはりあの騒ぎで、入り込めていたのか
先を越されてしまったな
…いや このさい順序はどうでもいいな
落ちかける二人をこちらに引っ張り上げるべきだ
「こっちだ新ぱ」
かけた声は、飛来した砲弾に掻き消された
爆発を近くで喰らい 周囲から音が消える
二、三度 視界が暗転し
ようやく視界と音を取り戻し、辺りを見ると
落下するギリギリで、神楽をその場に繋ぎとめ
引き上げようと奮闘する新八がいた
あのままでは…新八も落ちる
すぐさま駆け寄り、新八の横手から
磔ごと神楽を引き上げんために手を伸ばすと
落ちかけた新八の襟が 誰かに引っ張られた
「エリザベス!それにさんも!?」
驚いたように左右を見やる新八
確かに、エリザベスの紛争をした桂殿も
新八の隣にいた
「、来るのが遅いヨ」
「すまぬ神楽 遅くなった」
引き上げ、一息ついた所で私は謝る
「二人とも こんな所まできてくれたんだね!!」
私は無言で頷き、
『いろいろ用があってな』
あくまでエリザベスになりきっているらしく
桂殿はプラカードで語る
その背後に 音もなく高杉が歩み寄った
全員が声を上げる間もなく
エリザベスの顔の部分が一刀両断される
やけにゆっくりと 切り離された布が
甲板に落ちて
「エリザベスぅぅ!!」
新八の叫びが 私の耳を裂いた
「いつから仮装パーティー会場に
なったんだ ここは?」
「不意をついて背後からなどと卑怯者め…!」
「生きてたとはなァ、だが
ガキが来ていい所じゃねーよ ここは」
せせら笑う高杉に斬りかからんと
瞬間的に槍を組み立てた
まさに、その刹那
「ガキじゃない」
声が聞こえたのは、斬られたはずの
エリザベスの半身から
そこから飛び出し 高杉を斬りつけたのは
「桂だ」
間違う事無く、桂殿だった
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:悩み悩んで書き進め、こんな展開に
本当不甲斐ない作者でスンマセン
新八:つーか今回僕ら さんとロクに
絡みなかったんですけどォォ!?
狐狗狸:次回は増えるから耐えてください
桂:それより大胸筋サポーターとはなんだ!?
神楽:おっくれてるアルなーヅラァ
私 こないだとTVの最新CMで見たヨ!
桂:そ、それはまことかリーダー!
神楽:今時"ランジェリー"なんて古いアル!
最先端は大胸筋ネ!
新八:ねぇぇよそんな流行!てゆうか
さん、ドサクサ紛れでサラッと
ものすごい事カミングアウトしたよ!!
狐狗狸:いーじゃん、多分神楽ちゃんもノ
新八:サイト閉鎖になるからやめてぇぇ!!
狐狗狸:あーもう蜂の巣騒ぎだー(離れ)
高杉:…ずいぶん愉快にやってんなぁ
狐狗狸:杉様、何でいつも背後から現れるの
だからに卑怯呼ばわりされるんよ!
高杉:くくく…といいテメェといい
人の事 言えたタチかァ?
大胸筋〜の下りは、恐らくN○TEの
CMを見た という事にしといてください
次回は新八と神楽も絡んで来ます 多分(ヲィ)
様 読んでいただきありがとうございました!