鉄子殿と共に万事屋の応接室に通され
二人で並んで ソファに座る
怪我を負った銀時を案じつ、隣に座る妙殿
…おおそうだ、総悟殿からの伝言があったな
「妙殿、勲殿が峠らしく 最後に一目
お主に会いたいと話していたそうな」
「あらありがとう 後でお迎えに行くわね?」
い、一瞬凄まじい殺気を感じたが…気のせいか?
「…何か言えよオメーら」
銀時に促され 慌てて私は声を出す
「「あの」」
「…私は大丈夫だ そちらから先に話されよ」
進めると、鉄子殿はこくりと頷く
「いいのかよ、ぜってぇお前には
わかんねぇ話だぞ?」
「構わぬ」
さして興味ないふうにため息をつくと
「本当のこと話にきてくれたんだろ?
この後に及んで妖刀なんて言い方で
ごまかすのはナシだぜ」
鉄子殿を見据えたまま、静かに銀時が尋ねる
「ありゃ なんだ?誰がつくった あの化け物」
第七訓 傘忘れるのは大抵何か考えすぎてっ時
強まる雨音がしばし部屋を埋め
鉄子殿が 重い口を開いて語った
「…紅桜とは、私の父が打った紅桜を
雛形につくられた 対戦艦用機械機動兵器」
小難しい説明は生憎よく分からぬが
紅桜が戦いを経て学ぶ兵器であることと、
高杉の元にあること そして
製作に鉄矢殿が加担していたことは
否が応にも理解した
…最後の言葉を信じたくはなかったが
鉄子殿の話には、矛盾も嘘も見当たらぬ
「頼む 兄者を止めてくれ」
座したまま頭を下げ 鉄子殿は続ける
「連中は…高杉は…紅桜を使って
江戸を火の海にするつもりなんだ」
「なるほどね 高杉が…」
納得したように呟くその目はどこか、
寂しそうにも見えた
「妖刀を捜せってのも要は その妖刀に
オレの血を吸わせるためだったんだろ」
一連の辻斬りも、銀時が襲われたことも
全ては紅桜の為になされたことだったのか
「それとも オレに恨みを持つ似蔵に
頼まれたのか…いや その両方か」
皮肉のこもる銀時の言葉は
正しいが故に、鉄子殿を容赦なく
責めたてているように見える
「兄ちゃんの目的を知った上で黙ってたんだろ
それで 今さら兄ちゃんを何とかしてくれって?」
うつむいたままの鉄子殿は、まるで
以前の自分を見ているようで
「お前のツラの皮は月刊少年ジャンプ?」
見ている事が辛くて、口を挟む
「銀時、少し言い過ぎだ」
「あん?お前は口出しすんじゃねーよ」
「事実だから述べたまでだ」
「KYでブラコンなちゃんは
黙っておこうね、てゆか黙らせるぞコラぁ」
売り言葉に買い言葉のケンカが
始まろうとしていた所で
「…スマン 返す言葉もない」
ようやく口を開いた鉄子殿の言葉に
私と銀時は争いを一時中断し、
彼女へと顔を向けなおす
「アンタの言う通り全部知ってた…
だが…事が露見すれば兄者は ただでは
すむまいと…」
罪だと分かっていても、誰にも
打ち明けれず隠し通すしかない辛さ
もしも私が鉄子殿と同じ立場なら
おそらく 同じようにしていただろう
「大層 兄思いの妹だね
兄貴が人殺しに加担してるってのに見て見ぬフリかい?」
「銀サン!」
耐えかねて叱り付ける妙殿に、私も続く
「それ以上この者の気持ちを侮辱するならば
怪我人と言えど容赦せぬぞ 銀時」
「そーいやここにもいたっけね病的な兄思い
こっちの事情を知らねぇクセに半端に
肩入れしてんじゃねぇぞ」
過ぎてしまった今 致し方ないことと
頭では分かっていたはずなのに
刺々しい銀時の言葉に、怒りの炎が
一気に燃え上がり
思わず卓を叩きつ 身を起こして怒鳴る
「お主とて同じだ!私がどれだけっ…」
「ちゃん、落ち着いて 悪気はないの」
必死に宥めかかる妙殿に、どうにか
頭に上る血を抑えて 座りなおす
見届け、今度は隣に厳しい視線を向けて
妙殿は銀時へと問いただす
「いくらなんでも、今のは武士として
見苦しいですよ 銀さん」
しかし 銀時は黙ったままで、返答を返さず
再び雨音の支配する空気を破ったのは
「…刀なんぞはしょせん 人斬り包丁だ
どんなに精魂こめて打とうが使う相手は選べん」
低く静かな 鉄子殿の呟きだった
「死んだ父がよく言っていた
私達の身体に しみついてる言葉だ」
懐かしむように、鉄子殿が今までの
兄の動向を語るその様子に
幼き頃 父上と兄上と三人で
仲良く暮らしていた情景と
あの事件の記憶が 重なる
「わかってんだ人斬り包丁だって
あんなモノはただの人殺しの道具だって
…わかってるんだ」
言葉半ばで、鉄子殿の目端に涙が滲む
「…なのに 悔しくて仕方ない」
膝に置いた手を震わせながら強く握り、
「兄者が 必死につくったあの刀を…
あんな事につかわれるのは…」
身を切るような声で鉄子殿は語り続ける
「私はどうすれば…」
「どうしていいのかわからんのは
オレの方だよ」
よっこいせ、と声をかけつつ立ち上がり
「こっちはこんなケガするわ ツレが
やられるわで頭ん中グチャグチャなんだよ」
机の引き出しから取り出した分厚い封筒を
鉄子殿の前へ乱暴に放り出し
「さっさと帰ってくれや
もうメンドクセーのは御免なんだよ」
突き放すように、銀時は言った
済まなさそうに頭を下げて鉄子殿が去り
これまでの手の平を返すような態度に私は
やり場の無い怒りを込めて睨む
気付いて、銀時がチラリと視線だけを
私の方へとよこした その時
ほんの瞬き程度の時間だけ
強い意志を宿した光を その瞳に垣間見た
「…何だよ、オメーも何か言いたいこと
あんならさっさと話して兄貴んトコ帰れ」
「銀時…力になれず、すまぬ」
「あん?いきなり何謝ってんの、つか
どこ行く気だ オィ聞いてんのか」
私は答えず 席を立ち上がり玄関へ向かい
忘れられていた鉄子殿の傘を掴むと
一度だけ振り返って、短く告げた
「必ず、神楽を無事連れ帰る」
二人の制止の声は 飛び出した先の豪雨に
かき消され、聞こえなくなった
――――――――――――――――
「それにしても…ちゃんは一体
何を相談しに来たのかしらねぇ銀さん」
「さぁな アイツ肝心なことは
ぜーんぶ省きやがるから知らねぇよ」
銀時は床の間の布団へと身を横たえたまま
そっけなく答えて寝返りを打つ
「アイツ…なにか知ってやがったのか?」
妙に聞かれぬよう小さく呟き、
銀時の脳裏に 先程の光景がよみがえる
―お主とて同じだ!私がどれだけっ…―
―銀時…力になれず、すまぬ
必ず、神楽を無事連れ帰る―
珍しく感情を表へと現していたの姿に
銀時の中で、とある予感が浮かぶ
―どんな形にしろ、新八も神楽も
そしても 高杉んトコに集まる―
根拠はないが、それはずいぶん
すとんと彼の附に落ち込んだ
――――――――――――――――
「オィ 気をつけろ!」
幾度か通行人にぶつかりつつも、私は
頼りなく歩く鉄子殿へと追いつく
「待たれよ、傘を忘れていた」
「ありがとう あんた…
一緒に万事屋に来てた…?」
傘を受け取りつつ聞かれ、一つ頷く
鉄子殿の目は悲しげに曇っていて
桂殿と落ち合う時刻が迫るも、やはり
放っては置けず 私は口を開いた
「聞いて欲しい…私にも、兄がいる」
「…そう みたいだね」
「故あって生き別れ 辛い目にもあったが
兄上の事を思わぬ日は、なかった」
ずっと、罪の意識を感じて生きていた
赦されずとも、己の罪を謝るまでは
死すら許されないと思っていた
「長らく探しさまよって諦めかけていたが
銀時達のお陰で ようやく生きて会えたのだ」
こちらを見やる瞳に、僅かに希望の色が灯る
「だからお主の兄を思う気持ち…
きっと、銀時に伝わっている」
「そう…でも、あの人は……」
つい先程の事を思い出し、再び俯く
鉄子殿をじっと見据えて
「諦めるな 銀時を信じろ」
強く その言葉を口にした
あの時、瞳に宿った強い光は
あの事件で私と兄上を助けてくれた時と
寸分違わぬモノだった
口では 態度では冷たいけれども
私は確信を持っている
銀時は、決して鉄子殿を見捨てたりせぬ
「現にこうして、私が生きていることが
何よりも確かな証だ」
半信半疑ながらも鉄子殿が頷いたのを見て
「それでは…私は行く しからば」
別れの言葉を口にし、あの場所へと向かった
――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:やったら時間かかってスイマセンでした
今回、夢主の名前変換少ないや…(汗)
妙:私が空気と化してるのはどういうことかしら?
狐狗狸:ヒィ!ゴメンナサイ!!(震)
銀時:これと絡む所か、若干恨まれてね?
病人のオレに対する新手のSMですかコノヤロー
狐狗狸:キャラの性格上諦めてくださいよ(呆)
銀時:つーかよぉ、鉄子だかケツ子だか
知んねーけどアイツとの絡みいらねーだろ
狐狗狸:いや必要だから、つーか
鉄子さん公式キャラなのになんつー呼びか
妙:(薙刀振りかざし)女性の名前言い換えるなんて
武士として恥ずかしくないんですか?
銀時&狐狗狸:すすスイマセンでしたぁぁ!!
グダグダなクセにギャグも少なくて申し訳ないです
次回は…まぁ、ギャグも増えるかな?
様 読んでいただきありがとうございました!