桂殿に頼まれた買い物を終えると
辺りはすっかり暗くなっていた
「とりあえず、これで一通り
頼まれたものは揃ったわね」
手提げ袋を両手に携えた兄上の足取りが
少しよろけているように見える
…重い荷物が兄上の負担に
なっているに違いない
「兄上 荷物は重たくないだろうか?」
「ひょっとして、僕の分も持とうとしてる?
気持ちは嬉しいけどそれ以上は無理だよ」
言われて 両手で抱えるようにして
荷物を持っていたことを思い出す
しかし、そんなことは問題ではない
「上体を逸らして上に積んで持ち帰れば」
「何もそこまでしなくてもいいから!」
「いえ、兄上への負担が少しでも軽く
なるのならいくらでも持ちますぞ!」
本当にいいから、と遠慮なされる
兄上から荷物を受け取ろうと手を伸ばした所
「おや、ちゃんにお兄さんじゃないか」
向こうから 普段着の勲殿がやって来た
「あ、勲殿」
「どうも 妹がいつもお世話になってます」
私と兄上は、お互いにペコリと頭を下げる
「二人で買い物かい?仲がいいな〜
オレもあやかりたいもんだ」
「諦めねばいつか勲殿の気持ちも
妙殿に伝わりますぞ」
「おおそーかそーか、嬉しいことを
言ってくれるなぁちゃんは!」
「嘘ではない、以前三途の川にて
父上が話してくれた母上との馴れ初―」
「で、近藤さんは何をしに行かれるんですか?」
問いかけに勲殿は親指をグッと立てて
「最近辻斬りだのなんだの物騒だから
お妙さんのボディーガードに行こうかと」
「スゴイですね ある意味尊敬しますわ」
…兄上の声音が心なしか冷たいように
思えたのだが 気のせいであろう
「がんばって下され勲殿、それでは」
笑顔で勲殿と別れてほどなくして
遠くの方で何かの不吉な鳴き声が
聞こえた…気がした
第四訓 ヤバイ事件の発見者はきな臭いのが定番
「、あんまり三途の川の話とか
人前でしちゃダメよ」
「何故ですか?」
「頭のおかし…おほん、亡きお父上が
照れちゃうでしょ?」
言われてみれば、母上との馴れ初めを
聞いた時 父上は照れていらっしゃった
今まで 大して気にしてはいなかったが
三途の川での父上の話は、
あまり軽率に話すことではないことなのか
「わかり申した兄上」
兄上の方へ視線を上げて答え
少し先の通りの奥に、見知った姿が目に入った
あれは…神楽と定春
桂殿の匂いを追っていたはずなのに、
何ゆえあんな路地へ入ってゆくのだ?
妙な胸騒ぎがした
前の晩と同じ、嫌な予感が
「兄上、すみませぬが すぐ戻ります
荷物を見ていてくだされ」
「ええっちょっと!?」
荷物と兄上をその場に残して
私は一人、神楽の跡を追った
―――――――――――――――――――
いきなりどこかへ行っちゃったを
少しは待っていたけれども
その場で待ち続けるわけにも行かず
「桂さんが待ってるのに…ったら
どこいっちゃったんだろう、もう」
両手に荷物を抱えて
僕は家への道をふらふらと歩いていた
僕だって 見た目はアレだけど
これでも一応男だし
この位の荷物を持って帰宅出来ない程
ふがいないわけじゃない
でも、荷物を持つのは重い上に
カサもある方だから面倒くさい
それに僕のこの繊細な指が傷ついて
泣く"お客"が何人いることやら
「…そこら辺の岡引でも
たらしこんで荷物持ちさせようかしら」
辻斬り事件のせいか、この辺りにも
岡引がよくうろついているみたいだし
誰かに出くわさないかと辺りを伺っていると
強い 血の匂いがした
間違えるはずもない、あの時間近で
嗅いだのと寸分違わない
僕とを引き裂いた あの件で―
胸騒ぎに駆られ、臭いの元に歩み寄る
胴体から真っ二つに切られた
岡引の死体が 血の海に沈んでいた
「……うっ」
思わず吐きそうに成るのをどうにか堪え―
少し先の橋で、誰かの声が聞こえた
「銀さんんん!!」
エリザベスと川を見つめて叫ぶ新八君
異様な剣を持った男と戦っている銀さん
この場所にいても分かる殺気ですぐに、
この死体はあの男の仕業だと理解できた
でも僕は、あまりの事にただただ
目の前の状況を眺めるだけしかできない
「喧嘩は剣だけでやるもんじゃねーんだよ」
「喧嘩じゃない 殺し合いだろうよ」
吹き飛ばされて石垣に叩きつけられ
彼の木刀も砕け散る
よろよろと立ち上がるけれど
銀さんの胸が一文字に切り裂かれ
血が噴水のように溢れ出すのが見えた
「ぎっ…!」
新八君の叫び声に 凍り付きかける
自分の思考を必死に働かせる
このままでは、銀さんが
いや…銀さんだけでなく新八君や
エリザベスも殺されてしまうかもしれない
でも 僕にはみたいに戦う力はない
ならば、僕のやり方で―
「…銀さん!」
新八君が動き出すのと同時に、
僕はきびすを返して走り始める
幸か不幸か、今の僕の姿は
仕事着用の華美な振袖姿
瞬時に身体中の間接や骨格、声帯を
"仕事用"に変化させ
辺りを駆け周り 声を張り上げた
「誰か!誰か来て!」
うら若き女性の悲鳴のような声を聞きつけて
岡引の提灯が あちらこちらに近づく
「辻斬りよーー!誰か来てーーー
川原の方で 辻斬りよーーー!!」
僕はその提灯を 川原へと導いた
はたして、川原へと駆けつけた岡引達が
高らかに笛を響かせる
「オイ!そこで何をやっている!!」
久々に走り回ったから、少し物陰で
息を整えている間
川原から激しい飛沫の音が聞こえてきた
「ああ!!待てェェ」
同時に岡引が何人か川上へと走って行く
…よかった うまく辻斬りが
立ち去ってくれたみたいだわ
川原の方を伺うと、新八君が
倒れている銀さんへと駆け寄っていた
「銀さん 銀さーーーん!!」
ぐったりとしている銀さん
悲痛な叫び声をあげる新八君
残った岡引が数人、川原へと降りて
彼らの方へと駆けつけている
そこで、ようやく僕は
自分の置かれた今の状況を思い出して
内心冷や汗をかいた
…ここにいるのはマズイ
銀さんがあの傷で助かったのか心配だし
駆けつけたいのは山々だ
けれど、あの場に行けば間違いなく
岡引の誰かに身分や職務の質問をされる
僕も、叩けば埃の出る身
それに持ってる荷物も出歩いている時間帯も
かなり胡散臭いことこの上ない
下手をすれば最悪、死んだ筈の攘夷志士を
匿ってることまでバレかねない…
「逃げよう」
彼らには申し訳ないと思いながらも
荷物を手に 早足で退散した
――――――――――――――――――
「あれ…坊主 あの女性を知らないか?」
岡引の一人に問われ、新八が首を傾げる
「女性?誰のことです?」
「いや ここの川原で辻斬りが、と
叫んでいる女性の声でここまで来たんだ」
「あの…駆けつけたのは斬られた死体を
見たからじゃないんですか?」
彼は首を大きく振って否定する
「ああ…確かにいた筈なんだよ
長い髪で、派手な振袖のいい女が」
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:今回は達が目撃って形ですね、
てゆーか兄上のターン?
銀時:絡みが少ねぇぞコノヤロー どんだけ
傍観者路線貫く気だ、アン?
新八:まぁまぁ銀さん落ち着いて
神楽:銀ちゃんセリフあっただけまだいいネ
私今回名前だけアル 全てが憎いヨ(岩持ち上げ)
狐狗狸:安心して神楽ちゃん、次回はと
立ち回りやるからセリフも絡みも満点だよ?
神楽:マジでか、私の時代アルか!?
銀時:ちょっ主役オレぇぇぇ!つーかの
兄貴、見てねぇで救急車呼べよな!?
新八:あと言いそびれてたけど近藤さん!
あの人冒頭で何やってんですか!?
神楽:あれ?ゴリラはどこアル?
狐狗狸:…そろそろ剥製にされてる頃かと
お妙さんに
銀時:うぉぉぉい やめたげて!
マジ洒落になんねぇからやめたげて!!
次回はちゃんとキャラと絡みもあるし、
死亡フラグもおっ立ちますので(!?)
様 読んでいただきありがとうございました!