「まず、あの辻斬りについて教えて欲しい」
私は第一にそう尋ねる
「仮にも狂乱の貴公子と言われる人がこんな怪我を
するなんて…普通の辻斬りじゃないですよね?」
兄上の言う通り、あの男は普通の辻斬りなどではない
対峙した私が 一番よく分かる
あの殺気に腕前ならかなりの使い手…だが
なぜそれほどの者が辻斬りを?
「あの男の名は岡田 似蔵、有名な人斬りだ」
桂殿は淡々と言葉を続ける
「奴はオレを桂 小太郎だと承知の上で襲ってきた
…それが奴の独断か高杉の差し金かは知らぬがな」
「ええっ 高杉ってあの!?」
「なぜ、桂殿の命を…?」
「オレが革命家だということも関係してるだろうが
正確な理由はわからん…」
何か 嫌な予感がする
あの時の岡田という男が持ってた刀を
見た時から、ずっと
いったい、高杉は何を狙っている?
私の質問を先読みしたかのように桂殿が答えた
「実は高杉の奴が鬼兵隊を復活させたらしくてな
近々江戸に攻め込むと言っていた」
第二訓 箱に隠れた人とか書くとホラーっぽい
「江戸に…なんて物騒な!」
「オレが独自で調べた所、様々な闇の住人を中心に
武闘派の攘夷浪士を集め 武器を集め…
更には生物兵器らしきものも開発してるらしい」
私の脳裏に、あの時の事件がよみがえる
天人をエサにして暴れまわるあの兵器との
戦いの記憶が
そうだ 高杉はあれにも関わっていた
「では桂殿 あの刀ももしや…」
「ああ、お前の関わった件と同じく
生物兵器である可能性が高いな」
「それなら 銀時達に早く知らせねば
いずれあちらにも危険が…」
言って立ち上がろうとすると、桂殿に腕を掴まれた
「待て!
銀時達にはまだ知らせないで欲しい」
「なっ 何故ゆえ?」
訊ねると 桂殿は真剣な目をして
「奴らは…少なくともあの岡田は
オレが死んだと思っている、ならばこれを
利用し 高杉一派の様子を探るつもりでいる」
なるほど、と私は思った
「高杉たちの企みを見破るまでは、オレが
生きている事を知られてはマズイのだ」
「…了解した、しかし銀時達は危なくは
無いのだろうか」
「案ずるな あいつらはそんなに弱くない
きっと何とかなるだろう」
その言葉に、私は再び納得した
そうだ 銀時達は強い、あの時だって
私や兄上を助け出してくれたのだから
「そうだな」
「何とかって…そんなにアバウトで
いいの二人とも?」
何故か兄上はいまだ不安そうになさっていた
「これで 知っている事は一通り話したつもりだ」
「わかりました、じゃあ桂さん 出来るだけ
外出は控えてくださいね」
話が一区切りつき、兄上がテキパキと指示を出す
「何かあったら僕やに買い物を頼むなりして
じっとしてて下さい、僕の携帯の番号も教えときます」
「かたじけない殿…しかし、の番号は?
どうやって連絡すればいいのだ」
「仕方ないでしょう、は携帯持ってないんですよ」
溜息をつきながらも二人は番号を交換する
ううむ…意外に文化人だな、桂殿
「桂殿、知った以上は兄上の番号を
悪用しないよう心がけていただきたい」
「よ オレのことを信用していないのか?」
「念のためだ、近頃はどこから情報が漏れるか
わからぬ故気をつけねば愛しの兄上が危機に」
「…少なくとも君よりは騙されにくいから
安心して」
そうか、よかった
「すまんが、早速一つ頼まれてくれるか?」
「何だろうか?」
桂殿は 先程より更に真剣な顔つきで言った
「奴らの手がエリザベスに伸びぬか心配なんで
様子を見てきて欲しい…ついでに銀時たちも」
「友達なのについでですか」
「引き受けた、早速明日見に行こう」
「… 引き受けるのはいいけど
ちょっとは場を読む事を覚えようね」
兄上の言葉に、私は内心首をかしげた
場を読む?何を読むのだろうか?
私は悩みながら辺りを見回す
そして とりあえず部屋の中で目に付いた
本の名前を片端から挙げたのだった
翌朝 昨日の橋まで行くと人だかりがあり
エリザベスの姿も見つけた
首を振り、万事屋へ走るエリザベスの後へ
物陰に隠れつ ついて行く
用心に用心を重ね、
外を見るための穴をあけた
ポリバケツの中に隠れて気配も消す
こっそり見張るのは仕事でもよくやるため
ずいぶん慣れている…つもりだ
大抵は関節を外し、人が隠れれぬような
小さき箱などで気配を消して行う
……たまに移動もそのまま行うため
時折通行人に恐れられる事も多少
そういえばこの間は冷蔵庫に隠れて
標的をしばらく監視していて
凍死しかけた事もあったような…
万事屋へたどり着き、部屋の中の様子を聞く
天井裏から中を覗く事も出来るが それを
やったらあやめ殿に義理が立たぬのでやらない
「お茶くみだったらそのへん見極めろヨ
だからお前は新一じゃなくて新八アルネ〜」
「言ってません〜どら焼き 横からの〜」
何やらエリザベスをもてなすのに困ってるようだ
…しかし言っていることはあまり良くわからない
何が起こっているのだろうか?
そのまま聞いていると
「仕事〜お客さんの相手は頼んだぞ」
銀時が万事屋から出て行った
…恐らく、エリザベスは辻斬りの件を
あの橋で調べるよう依頼するだろう
ついで、と桂殿は言っていたが
やはり私は気になっていたので
まずは銀時の方へついていく事にした
「あの〜すいませ〜ん万事屋ですけどォ
すいませーん万事屋ですけどォ!!」
たどり着いた刀鍛冶屋で銀時は声を
張り上げるけれど
鉄を打つ音量に紛れて聞こえぬらしい
聞こえぬと思って悪口を言った銀時は
金槌の直撃を食らっていた
鍛冶屋は入り口が開けっ放しで外から
室内が丸見えだったため
様子を見聞きするのにそれほど
苦労はさせられなかった
鉄を打っていた二人は兄妹で、
「申し遅れた 私達は兄妹で刀鍛冶を営んでおります!
私は兄の鉄矢!!そしてこっちは…」
大きな声で元気よく話す鉄矢殿は、
亡き父上をどことなく思わせ
この二人に妙な親近感を覚えた
「オイ 挨拶くらいせぬか鉄子!名乗らねば
坂田さんお前を何と呼んでいいか
わからぬだろう鉄子!!」
「お兄さんもう言っちゃってるから
デカい声で言っちゃってるから」
「すいません坂田さん!!コイツ シャイな
あんちきしょうなもんで!」
銀時が溜息をつきつつこっそり
「兄妹ってこんなんばかりか」と呟いた
…他にも手を焼かす者がいるのか 大変だな
「実は先代…つまり私の父が作り上げた傑作
「紅桜」が何者かに盗まれましてな!!」
「ほう!「紅桜」とは一体何ですか?」
「これを 貴殿に探し出してきてもらいたい!!」
「アレェェ!?まだ聞こえてないの!?」
銀時 もっと腹から声を出さねばダメだ
それから話を聞くと、どうやら稀代の名刀
「紅桜」は赤く輝くもので
打った鍛冶が死んだのを皮切りに関わる者
全てに不吉を呼び込む妖刀らしかった
「オイオイ ちょっと勘弁してくださいよ
じゃあ オレにも何か不吉なことが起こるかも
しれないじゃないですか!!」
「坂田さん 紅桜が災いを呼び起こす前に
何卒よろしくお願いします!!」
「聞けやァァァ!!コイツ ホントッ
会ってから一回もオレの話聞いてねーよ!!」
だから腹からの声が足りぬのだ 気づけ銀時
「…兄者と話す時は もっと耳元によって
腹から声を出さんと…」
鉄子殿 良くぞ伝えてくださった
私は思わず拳を握った
「お兄さァァァァァァん あの…」
「うるさーい!!」
が、結局 銀時は鉄矢殿にしばかれた
銀時は別の場所へと移動し始めようとしていた
恐らくは「紅桜」の所在を聞きに
…とくにこれ以上進展もなさそうだし
頃合もそろそろよさそうなので、私は
エリザベス達の方へと向かった
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:紅桜篇二話目を十一巻と睨めっこしながら
書き上げました
桂:いきなりが室内の本の題名を復唱するから
何かに取り付かれたのかと思ったぞ
狐狗狸:あーそういや桂さん、あの後ビビって
南無阿弥陀仏とか唱え始めたもんね(ぇ)
銀時:ヅラが神頼みしようがんなこたぁ
どうでもいんだよ オレとの絡みはどしたぁー
桂:ヅラではない 桂だ!
狐狗狸:出番じゃなかったっけ!?
絡みって 聞いてないですけど一切!!
神楽:私 新八なじったあのセリフ一言しか
しゃべってないアル、ふざけんなコノヤロー
新八:人聞き悪いな!てか僕なんか一言も
しゃべらず終わりましたけど今回!!
狐狗狸:あーはいはい、それは次回に
神楽・新八:それはもう聞き飽きたわあぁぁ!!
(ダブルジャンピングキック)
狐狗狸:ブルアァァァァァ!!銀さんっ桂さんっ、
この荒ぶるお子様二人を止めてぇぇ!!
銀時:つーかよぉ、よくの行動がさっちゃんと
鉢合わせしなかったもんだ なぁヅラ
桂:ヅラではない 桂だ!!
狐狗狸:子供から目を離すな大人二人ィィィ!!
本編での伏線やらへのツッコミどころ
オール無視でスイマセンでした
次回はきちんと絡みます 神楽と新八が(ヲィ)
様 読んでいただきありがとうございました!