いまだに外では乱闘の騒ぎが続いており
途中から新たな轟音が加わって
こちらへやってくる浪士どもが何人かいたが
先を行く新八や神楽の敵ではなく
薙ぎ倒される者どもを尻目に、私と鉄子殿は
息を合わせて銀時を連れ出し
「おーう邪魔だ 邪魔だァァ!!」
「万事屋銀ちゃんがお通りでェェェェ!!」
ようやく甲板へと戻ってきた
少数に減ったが果敢に戦うエリザベス達と
鬼兵隊に混じり 天人の戦士が増えており
隣には今まで無かった戦艦が停泊している
あの印は…"春雨" とすると私と戦った
天人どもは船員だったのか
「あっ…あれは!!」
「間違いない あの時の侍…」
天人の一人の言葉半ばに、ちょうど私達の
反対側の方から桂殿が現れる
「どけ オレは今虫の居所が悪いんだ」
『桂さん!!』
皆の声と共に、私達は中央へと固まり
推し包まんとする敵へと構える
第十二訓 明日の事はケセラ・セラで乗り切れ
「桂殿 無事だったか」
「ああ…要らぬ心配をかけたな、」
表情から察するに 高杉との話し合いは
上手く行かなかったようだ
桂殿と背中合わせになった銀時が言う
「…よォヅラ
どーしたその頭 失恋でもしたか?」
「だまれイメチェンだ」
「貴様こそどうしたそのナリは
爆撃でもされたか?」
「だまっとけや イメチェンだ」
「どんなイメチェンだ」
…いつ敵が迫るとも分からぬこの状態で
軽口が叩けるとは、旧友なだけはある
「桂さん!ご指示を!!」
「退くぞ」
戸惑う同士をよそに、桂殿は冷静に続ける
「紅桜は殲滅した、もう この船に用はない
うしろに船が来ている 急げ」
『させるかァァ!!
全員残らず狩りとれ!!』
叫びと共に突進してきた尖兵を 一足踏み出し
ただの一太刀で全て切り伏せると
「「退路はオレ達が守る いけ」」
剣を構え、銀時と桂殿が勇ましく告げる
「……了解した、鉄子殿は私が連れて行く」
「頼んだぜ 」
銀時の言葉に頷いて
鉄子殿の手を引き 前へと導いた
いまだ戸惑う新八と神楽を抱え、
エリザベスも船へと駆けて行く
「放すねエリー!」
「待てやテメェらあぁぁ」
横手から 少数残った残党が襲いかかったが
「この者達には 指一本触れさせぬ!」
私は槍を振るって、そいつ等を払い
皆と共に船へと乗り込んだ
船が離れる寸前 振り返れば
敵陣に向かい、鬼神の如く突き進む
銀時と桂殿の姿がそこにあった
「…無事、生きて戻られよ」
その姿から目を離せぬまま
誰にとも無く 私は呟いた
―――――――――――――――
船に残された二人の首を取らんと
次々に攻め立ててくる敵を物ともせず
銀時と桂は剣を振り 戦場を駆ける
彼等の周囲には、一撃で屠られた
天人の 或いは人の死体が際限なく転がる
「あれが坂田銀時と桂小太郎」
騒がしい戦場を"春雨"のデッキ上から眺め
「強い…一手死合うてもらいたいものだな」
河上万斉は呟き 離れ行く船の上で
じっと戦場を見やるへと視線を移す
「そして…か、こちらも中々
興味深い女子でござるな」
「ククク…テメェも物好きだなァ」
音もなく隣に佇む高杉へ 河上は
視線をちらとも向けずに答える
「お主ほどではござらんよ、晋助」
「まぁな に迂闊に手ェ出すなよ
…オレもアイツに興味がある」
銀時と桂が再び背中合わせになり
「―お前を斬るのは骨がいりそうだ
まっぴら御免こうむる」
「ヅラ お前が変わった時は
オレが まっ先に叩き斬ってやらァ」
お互いへと言葉を交わした直後
携えた刀の切っ先を、船の上の高杉へと向ける
「「高杉ィィィ!!そーいうことだ!」」
二人の烈白の気合を 当の高杉は
不敵な笑みを持って受け止める
「「オレ達ゃ 次会った時は
仲間もクソも関係ねェ!
全力で…てめーをぶった斬る!!」」
啖呵を切った後 銀時と桂は同時に
船から下へ飛び降りて
銀時は桂へ捕まり、桂は事前に用意した
パラシュートで落下の速度を落とした
――――――――――――――――――
離れたこの船は しばし砲撃圏外の
空中を漂い
浪士達も二人の安否を気遣っていたが
「あ…あれは、銀さん!桂さんも!」
「やっぱり無事だったアルな!」
『よっしゃあぁぁ!
桂さんを拾う為 取り舵いっぱーい!』
落下傘を開いて降りてくる姿を見つけ
甲板にいた全員が喜びの声をあげ
桂と銀時を拾うため 船員は位置を調整する
浮き足立つ船の片隅で、鉄子殿は
切り取った鉄矢殿の遺髪を握り 項垂れていた
「鉄子殿 辛いのは分かるが元気を出されよ」
気休めや、慰めにもならぬ言葉だろうが
私は言わずにはいられなかった
彼女の姿が あの時の私に
重なって見えたから
余計に放って置けなかった
「きっと鉄子殿の兄上も、お主の笑顔を
望んでいるはずだ」
「…ありがとう」
柔らかく微笑んだ鉄子殿を見て
私も僅かながら、救われた気がした
「所で…どうしてアンタ
私や兄貴の名前、知ってたの?」
思わぬ鉄子殿の問いかけに、内心動揺する
「以前 腕のいい鍛冶屋として聞いており
同じく兄を持つ者故、憶えていただけの事」
何気ない様子で 取り繕う
…幸か不幸か 表情は乏しいので
動揺は悟られなかった筈である、多分
「ふぅん そうなんだ」
納得したらしく鉄子殿の追及はそれ以上なく
私は安堵した
しかし 一難去ってまた一難
「そういえば、さん あの時の言葉
まだ忘れてませんよ?どういう意味ですか?」
「さーチャキチャキはいてもらうアルよ」
気付けば 側には疑いの眼差しをする
新八と、手をボキゴキと鳴らす神楽が
正直 マズイなこれは
「……さらば」
一旦船内へ身を潜めるべく、逃げようとしたら
「待てやコラ」
いつの間にか銀時が 私の襟首を掴んでいた
「銀時 桂殿は?」
「ヅラなら着地にしっぱ…いや厠だろ、うん」
……どうやら 落下傘の着地にしくじって
動けなくなったようだ
「おかげで奴から理由が聞けなくてよー
だからお前は逃がさねーぞ」
逃げたい 今すぐこの場から逃げたい
だが、襟首を掴む力も私に向けられる気配も
ゆるむ様子は全くない
「つー訳で吐くまではくすぐりの刑だ
新八ぃしっかり抑えとけ!神楽ぁ、やるぞー!」
「了解です 銀さん」
「腹筋捩れ死に寸前まで追い込むアル!」
逃げる間も無く 新八に羽交い絞めにされ
銀時と神楽が 手をワキワキさせながら迫ってきた
「やっやめろ、いややめて下され、やめ…!」
その後 しばらく、くすぐり地獄が続き
お陰で半日は腹筋がつったまま過ごすハメになった
……事件はひとまず、ここで決着がついたのだが
この一件により 元々ひどかった怪我が
更に悪化したため
銀時は新八の道場で、しばし療養する事となった
その見舞いに行った戻りに 道端で
あやめ殿に出会う
「あら 随分久しぶりねぇ
万事屋に銀さんがいなかったんだけど
どこにいるか 知らないかしら?」
「ああ、銀時ならば 新八の道場にて
怪我の療養をしておるぞ」
告げるとなにやらぶつぶつと煩悶した後
「勝負服に着替えて、夜にお見舞い行かなきゃ
それじゃあね」
と言って立ち去った
勝負服…何のことだか分からぬ、帰ったら
兄上に問うてみるか
「おおっちゃん!総悟から聞いたけど
伝言してくれたんだって?ありがとな」
「いや礼には及ばぬ…妙殿には会えたのか?」
「それがお妙さん恥ずかしがって来なかったから
元気になったし会おうと思ってさ」
「妙殿なら自宅にいると思うが ただ今はぎ」
「よっしゃあぁ!早速ハーゲン買い占めだぁぁ!」
皆まで聞かず 勲殿はコンビニへと
駆け込んでいってしまった
唖然とそれを見つめたまま立ち尽くしていると
向こうから、鉄子殿がやって来た
「あ…こんにちは」
「こんにちは、調子はどうだ鉄子殿?」
「お陰様で そこそこ元気にやってるよ
…あのさ、さん」
「何だろうか?」
鉄子殿は 少し頬を赤らめて呟く
「銀さんが療養してる場所って…知らないかな?」
「お見舞いなら、迷惑でなくば
お供いたすが いかがか?」
「いや、いいんだ…
近くまで案内してくれるだけで」
どうやら 鉄子殿も平素を取り戻したようだ
その笑顔が、私にとっては何よりの証拠
……よかった、本当に
「わかりもうした」
私は、来た道を引き返す
鉄子殿を 道場へ導く為に
――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:何とか年内に紅桜篇が終わりました
読んでいただきありがとうございました!
三人:ありがとうございました〜
新八:って、この挨拶は前もやりましたよね?
銀時:いーんじゃねぇの とりあえず
終わりの挨拶はこーいうシメで
神楽:本当、今回もグダグダばっかりアルな
MGSのアイツ乱入とかマジありえねーよ
狐狗狸:終わった事をグチグチ言うなぁ!
大人だって色々あんだからっ!!
桂:しかし、は"春雨"については
特に何も語ってはおらなんだな
狐狗狸:餓鬼椿製造での関与は銀さんとヅラしか
知らんし、船にいたなら手を組んだことぐらい
予想がつくだろうから 割愛っす
妙:でも 結局鉄子さんはお見舞いに
来なかったわよ?
狐狗狸:案内はしたけど鉄子さんはその時、
照れて一旦引き返したんでしょうね
新八:じゃさんは?
狐狗狸:鉄子さんを道場まで案内した後、
ちょっと話をして別れたんでしょう
銀時:つかあの騒動、半分はのせいかよ
狐狗狸:ちょっと蛇足かもだけど その方が
らしいかなーと思ってさ
捻じ曲げ気味ながら お付き合い
ありがとうございました!
次回長編まで、ちょいとお待ちを…
様 読んでいただきありがとうございました!