切り払われた衝撃で似蔵は倒れ
束縛から解放された銀時が、身を起こす
「銀さん!!」
新八と神楽が、銀時へと駆け寄る
「テメェらホンッとギャーギャー
うるせぇんだよ お陰で寝起き最悪だ」
私はその場に立ち尽くしたまま、声をかける
「お主が起きぬのが悪いのだ」
「るせぇよ、オレが起きなかったら
間違いなく死んでたろテメェ」
「かもな」
正直、似蔵の前へ立ったあの時
死を 覚悟していた
が…それは守れなかった自責の念ではなく
命を賭して 護る為に
「兄者ッ!!兄者しっかり!」
振り返れば、鉄矢殿を抱きかかえたままの
鉄子殿が 必死で声をかけていた
その呼びかけに答えてか、
鉄矢殿が ゆっくりと目を開く
「剣以外の 余計なものは
捨ててきたつもりだった」
口から血を吐き、弱々しい声音で
鉄子殿へと顔を向けながら
「人としてより刀工として剣を
つくることだけに生きるつもりだった」
手を伸ばし、頬へとそっと触れる
「だが 最後の最後で
お前だけは……捨てられなんだか」
「余計なモンなんかじゃねーよ」
よろよろと、銀時が立ち上がりながら
後ろの鉄矢殿へと呼びかける
「全てをささげて剣をつくるためだけに生きる?
それが職人だァ?
大層なことぬかしてんじゃないよ
ただ面倒くせーだけじゃねーか てめーは」
言葉の最中にも 起き上がった似蔵が
少しずつ、こちらへと近寄ってくる
「いろんなモン背負って頭かかえて生きる度胸も
ねー奴が職人だなんてカッコつけんじゃねェ」
そこから視線を外さぬまま
「見とけ てめーのいう余計なモンが
どれだけの力を持ってるか」
銀時が、右手に握った刀を突きつけて構える
「てめーの妹が魂こめて打ちこんだ刀の斬れ味
しかとその目ん玉に焼きつけな」
第十一訓 経験談には重みがある
まるで その言葉が合図かのように
化け物と成り果てた似蔵が、猛烈な勢いで
銀時に向かって駆けてくる
「銀さん!!
無理だ!正面からやり合って紅桜に…」
「銀ちゃーん!!」
「銀時!!」
瞬きをする間も無かった
打ち下ろされる化け物の刀と被せる様に
銀時が、横薙ぎに剣を振るって過ぎる
何故かその一瞬
目の前にいる銀髪の侍が 別の男に見えた
通り過ぎたような形で二人がその場に留まり
折り飛ばされた銀時の刀が、側の床に
落ちて刺さる
そして、細かい亀裂の音を響かせて
紅桜が―粉々に崩壊した
刀を失くし 人の姿に戻った似蔵が
その場に倒れ伏す
沈黙の中、口を開いたのは
「護るための…剣か…」
鉄矢殿 ただ一人
「お前…らしいな 鉄子」
無言で涙を流す鉄子殿の腕の中で
「……どうやら私は…まだ打ち方が
…足りなかった…らしい」
満足したように笑いかけ
「鉄子 いい鍛冶屋に…な……」
鉄矢殿は 息を引き取った
私達は、いや私は 何も出来なかった
「……きこえないよ…兄者
いつもみたいに…大きな声で
言ってくれないと……きこえないよ」
鉄矢殿の亡骸を抱き 悲しみに打ちひしがれる
鉄子殿に、誰も…何も言えずにいた
しばしの痛い沈黙が続く中、
私は 意を決して口を開く
「……鉄子殿」
振り返る鉄子殿のその表情に
私は後悔と自責の念を感じつつ
「今はここを出る事が先だ、お主に
何かがあっては 鉄矢殿が浮かばれまい」
思った事を そのまま声にする
―今考えてみれば、
互いの事など 何も知らぬ筈なのに
「……うん わかった」
この時だけは 確かに
彼女は私の想いを汲み取ったように見えた
…或いは、周囲の者達の想いだろうか?
「あのさ…アンタのその槍で、兄者の髪
少し切ってくれるか?」
まなじりを拭い、鉄子殿が呟く
「骸はここに置いてかなきゃいけないけど
せめて、位牌に収めたいから」
「…お安い御用だ」
頷き 私は鉄矢殿の遺体の側に屈み込む
槍を手頃な大きさに縮め、黙礼をして
掴んだ一束を 刃の部分で丁寧に斬り落とすと
鉄矢殿へもう一度黙礼し
切った髪の束を、鉄子殿へと手渡す
「…ありがとう さようなら、兄者」
呟いて短く手を合わせたのを最後に
髪を大事に懐へしまい、鉄子殿は
ようやく立ち上がった
私も立ち上がり 二、三歩歩いた所で
今まで止まっていた時が動き出したかのように
新八と神楽がこちらへと駆けてきて―
「「前回の話から学べぇぇぇぇぇ!」」
私の顔面に息の合った拳をお見舞いした
少し後ろに吹っ飛ばされ、三途の風景が
チラリと見えかけるが
何とか踏みとどまって身を起こす
「痛い 何するのだ」
「何するのだじゃねぇよ!さんアンタ
どんだけ死亡フラグ立てりゃ気が済むんですか!」
「まだヅラとの疑惑解けてねぇウチに
勝手にくたばれると思うなよ?」
「いや神楽ちゃん それ何か違う風に
聞こえるから止めてくんない?」
そこに先程の経緯を知らぬ銀時が口を挟む
「ヅラとの疑惑ってナニ?モテねーからってアイツ
ついになんかに手ぇ出しちゃってたワケ?」
「どこの三流ゴシップ!?勝手なデマカセ止めてェェ
話がさらにこんがらがるから!!」
「でもこれ最近あった話ネ、やっと出戻ってきた
あのウマそーなグルm」
「別のWJ作家の傷はほじくっちゃダメェェ!!」
何故だか知らぬがヨダレを垂らし始めた神楽と
謝罪の言葉を連呼し始めた新八は放っておいて
垂れた鼻血を何とか拭き取って止める
…二人もあの似蔵に立ち向かって、それなりに
痛手を受けているはずなのに
ここまで元気があるとは 流石だ
「ところでよぉ、何でがここにいんだよ」
「色々あってな」
「はーい そこ省くな、きっちり説明しろ〜」
言わずに済みそうな感じがせぬので
偶然街で神楽を見かけ 様子が気になり
後をつけたら船で戦っていたこと
その後の助太刀と船でのやり取り
海中に身を投げてからの復活と
万事屋へ相談しに行ったくだり
そして船に行くまでの経緯を簡潔に説明した
無論、桂殿の事は省いてある
「何ていうか…アンタ、スゴイ人だね」
「それ程でも」
「なーんか怪しいアル まだ何か
隠してないアルか?」
「気のせいだ」
「ウソこけ、話の筋道でどーもまだ
抜けてっトコがあんだろ」
ビスビスと銀時が指で頭をひたすら突付くので
話題を変えるべく 私はこう訪ねる
「所で 桂殿は?」
新八と神楽は同時に首を横に振る
「知らないアル」
「僕らより先に行ったはずですけど…」
あの通路からすると 他に寄る場所も
無いように見受けられるから
恐らく、ここが戦場と化す前に
高杉のいる場所まで進んだのだろう
「何だよ やっぱヅラも来てんのかよ
つーか生きてたのかよ」
「銀時は、死んだと思っていたのか?」
「全然 アイツ案外しぶといから
こんな簡単にゃおっ死なねーだろ」
口調はいつもの如く気だるげだが
少しだけ、目が安堵の色を湛えていたのを
私は見逃さなかった
「アイツはほっといても出てくんだろーから
オレ達ゃ先に こっからオサラバしよーぜ
あーでも死にそう 銀さん今にも死にそう
こんなケガしてるからヤバいな〜」
ガクリと少しヒザを落とし、ややワザとらしく
ケガの部分を痛がる銀時だが
神楽と新八もその辺を見極めているようで
「それじゃ僕等は露払いをしますよ」
「体力有り余ってるアル!雑魚は任せるネ!」
「イヤあの 肩なんか貸していただけると…
って聞けよコラァァァ!」
銀時の言葉を無視し、外へと進んでいく
「仕方ない、甲板へ出るまでの間だけ
肩を貸すぞ 銀時」
「お〜ありがとうちゃん
ちったぁ空気読めるようになったなー」
申し出て、少し涙ぐむ銀時の右腕を
肩へ乗せて 進み始める
「私も肩、貸すよ」
そう言って 鉄子殿も左腕の方へ肩を回したので
私達は足並みを揃えて前へと進む
「サンキュー、ってこれ両手に花の状態じゃね?
でもどーせならこれが貧乳な妹じゃなく
ボインボインのオネーちゃんだったらなぁ〜」
「ボロボロのクセに何言っちゃってんですか
アンタはぁぁぁ!」
「乳がなんぼのもんじゃい!
二人ともその天パ引きずっていくヨロシ!」
「「了解」」
奇しくもほぼ同時に肩に回していた手を
床へと叩きつけて進んで行き
「ぎゃあぁぁぁちょっ待て!冗談冗談
銀さんが悪かったァァァ!!」
都合 ニ〜三間ほど銀時を文字通り
引きずって連れて行った
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:貧弱んな体調のせいでズイブン
お待たせしてスイマセンでした 銀さんのター
銀時:いや ぶっちゃけさぁ、銀さんよりも
アイツら兄妹のターンのが長くね?
狐狗狸:あれ?本当だ…でも仕方ないねー
鉄子さん達の話でもあるわけだし、うん
銀時:そりゃそーだけどさぁ もうちょっと
横に避けてぶち抜きでオレの活躍を
狐狗狸:次回も見せ場があんだから文句言うな
(ハンマー構え、黒笑み)
銀時:……はい(引きつり笑み)
新八:てゆーか後半の発言色々あぶねーよ!
このサイト本気で訴えられますよ!!
狐狗狸:うーん…流石にあの発言はマズかった
これはあの人も食わんだろうねートr(踏まれ)
新八:地雷踏む気満々かぁぁ!スンマッセン!
S先生マジスンマッセン!!(管理人共々土下座)
神楽:てか銀ちゃん分かってないネ、私やの
この貧乳はステータスアルよ
銀時:どこのだよ てーか女はやっぱ
爆乳だよ、こー埋めがいのありそーな
新八:何の談義を繰り広げてんだぁぁぁ!!
次回 紅桜篇、ついに決着…!の予定(うぉい)
様 読んでいただきありがとうございました!