「今宵は、月がキレイでござ候」
満月を見つめながら、呟き 私は夜道を歩く
兄上の仕事は明け方に終わる事が多いのだが
最近は辻斬りが起きているとか聞き、
自主的に夜 兄上を迎えに行く
浪人ばかり狙われているとも聞いているが
辻斬りなどをする輩の白刃が、いつ何時
兄上を襲うかわからぬからな
「しかしこの月の麗しさも兄上の御前には
朧になろう…」
吹いた風に流れる匂いが 私の足を止めた
「この匂いは…?」
夜風に乗って漂う 微かな血の匂い
脳裏に辻斬りの事件を思い出し
嫌な予感が頭を巡る
まさか、兄上が―!?
いつも迎えに行く道筋から、
血の匂いの濃くなる方へ歩を進めた
「ぐあぁっ…!」
進む方向から聞こえた かすかな悲鳴は
兄上のものではない
だが、嫌な予感は今だ消えぬ
やがて 私はある橋の前に辿り着いた
橋の上には、倒れている人物と
刀を携えている男 二人の人影
そのうち倒れている人物に見覚えがあった
血を流し、髪を切られているが
「桂殿…!?」
第一訓 辻じゃなくても辻斬りは出る
「おやまぁ、マズイ所を見られたねぇ」
笑うように呟き、男は刀と視線を共に
私の方へと向けた
その男の右腕の刀は、何処かおかしくて
男から噴出す殺気も また尋常ではなかった
「こんな夜中に一人歩きかぃ?お嬢ちゃん」
「…お主には用がないが 戦うとあれば
こちらも容赦はせぬ」
私は槍を瞬時に組み立て、身構える
向けられた殺気から察するに
正直、勝てる相手とは思ってはいないが
ここで逃げるわけにもいかぬ
「そういやお嬢ちゃん 名前は?」
「人に名を尋ねる時は 自分から
名乗るのが礼儀だ」
「つれないねぇ、オレは岡田っていうんだが
知らないかぃ?」
言いながら、男が右足に踏み込む力を入れた
―――――――――来る!
確信し、迎え撃つ覚悟を決めた刹那
急に 苦悶の表情を浮かべ
「うぐ…ぐああぁぁぁっ!」
呻き声をあげて、男が左手で右手を抑えた
「………なっ!?」
握られた刀と右腕が奇妙に絡まりあい
蠢いているように見え 目を疑った
あれに似た動きは 以前何処かで…!
「お主、その刀は一体…!!」
「残念ながら時間切れでねぇ、あんたと
遊べなくて残念だよ ちゃん」
刀を鞘に納めながら、男―岡田は
名乗ったはずのない名を 笑いながら口にした
仕事時に名乗る二つ名で呼ぶということは―
「お主も、闇の住人か」
顔が強張るのが、自分でもわかった
そんな私を一目見て ニヤリと顔を
笑みに歪めると
「今日は機嫌もいいから…大人しく帰って
あげるよ また会ったら殺りあおうぜぃ」
そのまま、きびすを返して男は去っていった
私は 何もせず…いや、何もできずに
しばらくその場に佇んでいた
「……う」
「…っ、桂殿 ご無事か!?」
我に返り 私は桂殿に駆け寄る
鋭く、間違いのなく致命傷の見事な一太刀に
反して 出血は思ったより少ないようだ
だが、決して楽観はできぬ状況だ
「か…何故こんな所に…」
息を整えながら、半身を起こす桂殿に
私は端的に答えた
「兄上のお迎えだ」
「……そこはせめて、たまたま
通りかかったとか言うべきだろ」
「嘘は言うておらぬ」
キッパリ言うと 桂殿が首をがくりと下げる
しかし…この大きな一太刀の傷を負いながら、
よくしゃべる気力があるものだ
「この傷で良くぞ無事だったな、桂殿」
「…ああ、オレはまだ 天に見放されてないらしい」
桂殿が斬られた懐から、何かを取り出した
袈裟がけに斬られた跡と血痕の残る一冊の本
それを見つめ 小さくため息をついている
「…?その本は一体?」
「昔の下らん執着だ、気にするな」
「とにかくその傷の処置のため我が家に
案内しよう…肩を貸そう 歩けるか、桂殿」
「かたじけない」
桂殿を支えながら、私は一旦家へと戻った
「随分の迎えが遅いと思ったら
そんな恐ろしいことがあったなんて…」
てきぱきと桂殿の応急処置を施しながら
兄上がそう呟いた
「に迷惑をかけた点については
まことにすまないと思っている」
「迷惑も何も私が勝手にやったことだ
気にされるな 桂殿」
即座に私はそう返す
あのまま倒れた知り合いを放っておくなど
武士の道に反する
「…とにかく、あくまでこれ応急処置ですから
早めに病院に行ってくださいね」
処置を終え 兄上がそっとささやく
「心遣いは嬉しいが 今のオレは身を隠して
行動せねばならぬ…病院など悠長に行ってられん」
桂殿はグッと握り拳をつくり、真剣な顔で
明後日の方を向きながら
「そう、傷を抱え 世間から隠れながら
ただ一人国の為にボロボロの身体を引きずり」
「本当は元気なんじゃないですか?」
冷めた声でツッコむ兄上も凛として麗しい
…いや違う、確かに兄上は美しいが
肝心なのはそこではない
桂殿を襲った辻斬りの岡田という男とあの刀
そして、あれだけの傷を負いながら
身を隠して行動すると言った時の桂殿の
いつになく真剣な目が 引っかかる
これは 話を聞きだすべきだ
「兄上 桂殿を家でかくまえぬでしょうか?」
私が放った一言で―二人が凍りついた
「、ちょっとこっちにおいで」
手招きされ 私と兄上は桂殿から少々離れた
隅の方で、背を向け声を潜めて
「…一体 どういうつもりなの?」
「怪我をした相手を放っては置けぬし、それに
桂殿に聞きたい事もあるのです」
「だからってワザワザ僕らからゴタゴタに
首を突っ込まなくても…ねぇ」
「心配ご無用、いざとなったら兄上は
私がお護りします」
「そういう問題じゃなくて」
困ったようにヒタイに手をつく兄上に
私は段々申し訳ないように思えてきた
「…兄上がどうしてもお嫌ならばお断り申すが」
「ああもう、わかったよ 君に任せます」
「ありがとう 兄上」
どうやらこの相談が聞こえていたらしく
「かたじけない…お主等二人を巻き込んだ事は
オレがと夫婦となって責任を」
「すまぬが私は兄上と夫婦になるつも」
「こんな時に変な話はやめてください
それに桂さん、まだかくまうと決まってませんよ」
堂々と言う桂殿に、瞬時に否定の言葉をかける
私の台詞を兄上がバッサリ両断した
「むぅ、ならば今さっきの相談はなんなのだ!」
「もちろんあなたの処遇です、でも
決定権は にありますから」
私は 身体の向きを直して桂殿の目を見据え、
「かくまうつもりではあるが、ただし
こちらにも条件がある」
「…条件とは?」
「かくまう以上はお主がする事や
あの辻斬りについて答えてもらうぞ」
桂殿の目の色が、変わった
「それは出来ん」
「ならば、こちらもかくまえん…が
情報だけは教えてもらおう」
「なんだと!?
それは少し横暴じゃないのか!!」
「何と言われようと結構 気になる以上
私はどんなことをしてでも情報を聞き出す」
会話が、ピタリとそこで途切れ
お互いの視線が交差し 時計の秒針が
しばし空白を埋める
ややあって 沈黙を破ったのは桂殿
「どうやら一歩も譲る気はないらしいな
わかった…オレの知っていることを教えてやる」
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:やっぱり書きました紅桜篇!初っ端は
岡田との対峙と桂の会話です
銀時:おーい 銀魂の主役はオレだぞーぅい
狐狗狸:ここで出てこないでください!
ちゃんと次回以降登場させますから!!
桂:フハハハハ ようやくオレの時代が来たのだ!
狐狗狸:そっちも勝手なこと言わないでください
桂:何を言うか!この事件からオレとは
関係を進展させていくくだりになりそうでは
銀時:なるかあぁぁぁ帰れお前ヅラコノヤロー!
桂:ヅラではない 桂だ!
狐狗狸:話初めの初っ端からカオス…
の紅桜篇の役割は、主に桂の手助けと暗躍で
書けていけたら…と思ったそうな(他人事!?)
次回は銀ちゃんたちがでる…はず(何)
様 読んでいただきありがとうございました!