"想霊未詳"の評判は 留まる所を知らなかった





「G嫌、テクノブレイクって何?」


姫様ぁぁぁ!?
どこでそのようなはしたないお言葉を!!」



「忍の方が持ってきてくださったお話に
乗っていたの、どういう意味なのかしら?」





天下の江戸城内でさえも
その名を口にする者が少なくなく





「映画楽しみ〜」


「劇場限定で霊子愛用の曼珠沙華ハンカチ
もらえるんだって!絶対チケ予約しなきゃ!!」


すっかり社会現象となった小説に背を押され

ファンの熱狂も、恐ろしい勢いで広まってゆく





それは彼らとて例外ではなかった







「昨日は何人ほど住所特定した?」


「ようやく三人、まったくバカが多くて困るよ
犯罪者は全員死刑になればいいのにな」





活動事務所として借りたマンションの一室で


集まった作務衣の人々を見回し
代表格の男が派手めな作務衣の裾ひるがえし叫ぶ





「これ以上通り魔の被害者を出さないためにも
我々"ASS(アス)の会"は本日も総力を挙げ
犯人特定のため活動していきましょう!」





通り魔の被害者と、作品を好むファンが
有志を募って集まった彼らは


『"想霊未詳"を貶める犯人を突き止め
社会的制裁を受けさせる』
をスローガンに掲げ

日夜 調査と多方面への啓蒙に励んでいる





…その啓蒙の一環で呼ばれた金髪の青年は


応接間のソファから、周囲の様子を
やや冷めた様子で見つめていた





「司法や地域住民に働きかけるのはまだしも
アレは少し行き過ぎなんじゃないか?」


「きっと彼らも不安なのでしょう」





青年の側にいた狂死郎が 苦笑しつつ続ける





「ウチの店でもお客様や従業員の送迎に
気を使っていますし、実際こちらの会の方々の
情報提供で模倣犯の検挙率が上がったそうで」


「ソレに関してはこちらも聞いてはいるが…」





興信所まがい、下手をすれば違法まっしぐら
個人調査には警察機構も渋い顔をしているが


全面的に犯人逮捕へ協力もしている手前


面と向かって規制がしづらい、と近藤が
呟いていたのは青年の記憶にも新しい





そこへ一通り話し合いを終えた代表者がやって来る





お待たせしましたお二方!それで本日は
地域の自治体での警戒体制についてですが」


ふぅと息を吐き、二人と向かい合う形で
つやつやとした革張りのソファへ腰を下ろし


…尻に妙な違和感を覚え 男は腰を上げた











第九訓 解決を後回しにした結果がコレだよ











「どうかなさいましたか?」


「いえ、ソファに何かおかしな感触が…」


「クッションに変なモノでも紛れてるんじゃ?」


「かもしれませんね、異物混入とは
新しく買ったばかりだというのに嘆かわしい」





彼が不満を呟いていられたのも


カバーを取り外し 腰かけ部分を改めるまでだった





「え…」







三人の目の前へ 見知った人物が現れる


そこにいたのは全身に殴打されたアザを作り
縄で縛られぐったりとしている…






「須藤さん!?」


待て!迂闊に触れるんじゃない!!」





呼びかける代表者を脇に避けた青年が
応急処置を施すものの当人に意識はなく


脈も息も微かで、身体も冷たく死人同然の体である





「一刻を争う…狂死郎さん、救急車を!


「はい!!」





異様な雰囲気を察知して他の作務衣集団も
集まってきたが、みな遠巻きに眺めるばかり





そんな中…一人が須藤老人の手を指差した





「おい!この人何か持ってるぞ!!」





節くれだった指が硬く握りしめていたのは


が無くしたハズの、携帯電話であった







[〃月=日 : 童子の里から特産の野菜が届いた


梗子さんの作った肥料と院長先生による
無農薬栽培のおかげか、見た目はともかく
大きさと味が段違いなので調理のしがいがある


しかし野菜のほとんどが僕やではなく
銀さん達の口に入るんだと思うと何かやりきれない


どうせ今日あたりタイミングを見計らって
来るだろうから、餃子にでもしよう

前もそれで一度 追い払った実績があるし





…餃子って言えば、下野の辺りに最近
隠れた名店が出来たって聞いたな


HPもあるようだし取り寄せられるなら
ちょっと頼んでみようかな?


店主のオジさんの堂々とした顔や
具材や製法への、並々ならぬこだわり


そして"帝王"っていう店名が


商品や腕前の自信を期待させてくれる]










須藤老人が襲撃され、作務衣集団が
へ事情を聞きに向かった事
を知り





銀時達が駆けつけた家の門前では

既に人だかりと怒号が連なっていた





「何をわけの分からない事を!」


「もういっそオレ達の手でシメちまいましょうよ」


「いや待て、我々は真偽を確かめるため
訪れたのであって」





集まる野次馬を掻き分けて


「何やってるんですか!?」





興奮している作務衣集団の先頭まで
近づいていった万事屋三人は足を止める







「その娘が犯人に決まってますよ
アンチを味方にしている時点で疑わしいし!」





そこには派手作務衣の代表者を盾にわめく数人と


無表情で糾弾を受ける作務衣少女





「確かに"想霊未詳"を貶めた時期はあった
しかし!今では無意味であったと反省している

そこで侘びの印としてこの本を無償提供しよう」


そして両者の間にある祭壇にて

積んである本の一つを作務衣集団へ差し出す桂が





「え?何このカオス極まりない現状は」


「騒がしさに出てきたらこうなっていた」


「祭壇が撤去される前にいつも通り布教を
行おうとスタンバッたら連中が怒鳴り込んできた」


「大体把握したわ、てことでヅラ帰れ」


「ヅラじゃないかt「これじゃ埒が明かない
今すぐ捕まえて警察に突き出しましょう!」






周囲の勢いに押され、頷きかける代表者へ
銀時が待ったをかけた





「おい落ち着けよアナ○の会」


"ASSの会"です!正式名称は"アナタと
想霊未詳の正義を勝ち取る会"ですけどね!!」



「ジーさんが襲われたっつーのは聞いたが
それで小娘一人に大挙して押しかけるのはどーよ?」


それは誠か!?してあの老人は無事か?」





老人を案ずる言葉へ、しかし作務衣集団は
敵意を露に少女を睨みつけた





「しらばっくれるな!須藤さんの手には
アンタの携帯があったんだよ!!」



「それに目撃者だっている!!」


「目撃者?」


ああ!オレはこの目で見たんだ!!」







不機嫌そうな薄茶の作務衣を着た男によれば


ちょうど先日、吉原にて銀時達が
脅迫犯と放火犯を捕まえるべく奔走していた頃


"後ろで一つにまとめた黒い三つ編みに作務衣
額に包帯を巻いた緑眼の女性"
と須藤老人が

人気のない裏路地に消えていった…らしい







神楽と銀時が ちらりと彼女を見やる





「そーいや、ボヤ騒ぎん時
先回りするためにちょっと姿消してたアル」


「まさかお前 そん時にジーさんを「断じて違う」


「そうですよ!いくらなんでもさんが」


ホラ見ろ!やっぱりあの娘が犯人だ!!」


弁明する新八の言葉を呑みこみ、作務衣集団が
鬼の首を取ったようにまくし立てる





「アンチどもと加担して須藤さんを見せしめに
襲い、我々への脅迫を行ったんだ!」


『自首しろ!認めろ!土下座をしてここにいる全員と
家族と関係者に侘びろ!相応の賠償を支払え!
命とその身を持って償え!!






異様な熱気を持って 被害者達は

祭壇の桂を無視して彼女へと迫る





「そこまで言う事ないでしょう!?」


「皆さん、まずは事情を聞いてそれから
聴取のため奉行所への出頭を頼むはずでは」


思わず止めに入る新八と派手作務衣の言葉も
彼らには届いていない





「肉親が犯行をやらかす例なんかざらじゃないか!」


「言動がおかしい娘だって評判らしいし」


「大方、成功していく兄に嫉妬でもして
邪魔していたんだ!アイツが犯人で決まりだろ!


「人を殺していそうな冷血なあの顔!
同情する余地なんかないでしょう!!」



「田足事件の容疑者の一人って話だし
きっと済ましたツラで家族に濡れ衣着せて―」



好き勝手な事を口にしていた作務衣集団へ





「いい加減にせんか!!」





祭壇を叩き、桂は一括を浴びせた





「動かぬ証拠もなくこの娘を犯人と決め付け
あまつさえ大勢で吊るし上げ詰るとは

貴様ら、それでも日本の国の者達か!!








真剣のごとき鋭さにさしもの彼らも怯んだが





「ぶ…部外者が偉そうな口を利くんじゃない!」


「そ、そうだそうだ!それに第一
そこの娘が犯人じゃない証拠がどこにある!」


苦し紛れの指摘に、今度は桂と銀時達が
うっと言葉を詰まらせる





曲がりなりにも長い付き合いの彼らは

彼女がそこまで悪質な事をするとは考えていない


しかし須藤老人とが揉めていた事

一人になる時間があったのは事実で


目撃情報も、作務衣に黒い一本三つ編み
緑眼に額の包帯と特徴が一致し過ぎていて…







そこで新八はあることに気がつく


「包帯…?あの!ちょっといいですか!!





目撃者である薄茶作務衣は
いまだ不機嫌そうに眉をしかめていたが





「アナタが目撃した作務衣の女の人って
腕にも包帯巻いてませんでした?」






そう問われ 虚を突かれてか目を丸くした





「んん…無かったぞ、腕に包帯なんて」


「間違いないアルか?」


詰め寄る神楽へ戸惑いつつも薄茶は答える





ああ!須藤さんに何か指差してた時
まっさらな手ぇしてたから確かだ」


「そんな事どうだっていいだろ!」


「まぁ待てアナユルな会」


「"ASSの会"だっ!!」


「いーからケツ穴かっぽじってよく聞け

確かにこのバカ娘は包帯巻いてやがったが…
頭だけじゃねぇ、腕も怪我してたんだよ







その一言が 作務衣集団に動揺をもたらす





「そ、そんなの単なる記憶違いか見間違いだろ」


「だったらどうして頭の包帯だけは
覚えてたんです?おかしいじゃないですか!


「そ…それは…!」


「何にせよ確たる証拠がない以上
この娘の糾弾は諦めるべきだな」







言葉もなく、歯噛みする数人を手で制し





「その様だな…推測で早計な事をしてしまい
失礼した、では我々はこれで」


「あ、おい待て!せめてこの本を」





無理くり布教活動へシフトする桂だったが


代表者は頭を下げると 背後の作務衣集団を
引き連れて事務所へと戻っていった





「くそ…もっとアピールするべきだったか」


「余計話がこじれるんで止めてください」





息をつき、は四人へ頭を下げる





「…すまぬな、手間をかけた」


「安心するのはまだ早いネ」


「リーダーの言う通りだ、犯人の可能性が
増えただけでまだお主の疑いは晴れておらん」





またしても、そこで新八が新たに気付く





「須藤さんを襲ったのって、目撃された
女の人ですよね…てことは」


言葉の続きを 銀時が引き継いだ





「犯人はの特徴と怪我、その日の行動を
知ってたってヤツってこった」












関係者による緘口令は敷かれていたハズだったが


須藤老人が襲われた件と"ASSの会"による
家訪問および糾弾は

その日のうちにネットでも話題となり


燃料を見つけたアンチによって火がくべられ


たちまちの内に信者とアンチの暴論合戦が
そこかしこで起こり


合戦の場となった掲示板やブログなどは
あっという間に炎上してゆく





…そこに、一人の匿名の書き込みが投下された







『ある店で作務衣を着た緑色の目の女が


"ASSの会"が家まで怒鳴りこんできたから
殺してやる、と言っているのを聞いてしまった



手始めに会の連中がいるマンションで
全員を殺して、家族を狙うって言っていた』





それは…誰がどう見ても、犯行予告だった









書き込みにあった予告された日の
予告された時刻よりも 遥かに前であろう朝方


荒れ果てた門前で、無遠慮なノックが響く





険しい顔をした作務衣の男を中心にした数人が


落書きだらけの汚れた戸口を力任せに
叩き続けながら叫んでいる





「あの犯行予告はどういう事だ!!」


「犯罪者を生み出した作者の身内として
責任を取れ!出てきて謝罪しろ!!」






己の正義感に突き動かされた"ASSの会"の一員と

予告を見て現場へ突入するアンチ集団


それと事態を面白がった野次馬達が
徹夜から早朝にかけて群れ集い


一体となって、彼女の家を取り囲みつつあった





「私の友達はあの本のせいで顔にひどい傷を
負ったのよ!まだ若いのに!!


「隠れてないで出て来いよ犯罪者ぁ!」


「須藤さんは今でも病院で苦しんでるんだぞ
それについて何とも思わないのか!?





嘘か真か判別のつかない言葉と様々な感情が
渦巻く玄関口での喧騒は続き







やがて…静かに扉が薄く開く





「出て来たぞ!」





同時に、開いた戸の隙間から覗く
作務衣の袖口ごと腕をつかまれ


引きずり出された人影へ


周りの数人が勢いよく飛びかかって








『ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!』





吹っ飛ばされて、路地や壁へと叩きつけられた







硬直する人々をよそに扉が大きく開き





「会場が開くまで待つなぁ結構なこったが
徹夜して並ぶのとコスプレーヤーへ直接
手を出すのは禁止
なのは、コミケじゃ常識だろが」


「オタクならルールは守りましょうよ」





出てきた作務衣姿の銀時と新八





「騒音なんちゃらと名誉どーたら
ついでにロリへの事案で訴えるアルよ!」



先ほど引きずり出されていた、同じく作務衣
神楽の側へと歩み寄った








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:この二次創作もフィクションなので
実際の団体とは関係ないです、マジでないです


新八:流石にあの会の名前はナシでしょ


銀時:甘ぇな新八、本当はアレ
"イクイク団"にしよーって思ってたんだぜコイツ


神楽:でも上手いこじつけが出来なくて
やめたらしいネ 最期までやりきれヨ


新八:やり切ったらそれはそれで別の所を
敵に回して裁判沙汰なんですが


桂:敵が強大なほどかえって燃えるではないか!
本誌でオレも活躍しだした所だし、ここは張り切って


万事屋トリオ:布教活動もマナー違反です




"予告"に引き寄せられた者達へ、彼らは
どう立ち向かうのか!?


様 読んでいただきありがとうございました!