吉原で逮捕された二人を皮切りに
「神妙にお縄につけオラァァァ!」
「仕事増やしてんじゃねぇぞぉぉぉ!!」
「サツに包囲されて人生オワタ!」
地道な努力が実ってか
自警団・百華や真選組と奉行所などの面々による
便乗しての脅迫や、通り魔を行う人間の検挙が
次々と行われてゆく
同時に宣伝が功を奏して人気を取り戻したからか
"想霊未詳"に対する悪評も少しずつ勢いを弱めて
炎上沙汰も下火となってゆく
そうなれば無論、作者となったを
見出した編集は株も上がって益々勢いづき
映画や商品の利権 続編の根回しを精力的に行う
大江戸スタジオの歌番組で
"ありのままの自分にごほうび!〜
スイーツなんてお笑いぐさ"を歌った寺門通の元にも
出版社の人間が訪れ、契約を勧めていた
「分かりました!映画のためにはりきって
アレンジしマッスルドッキング!」
「ぜひともお願いいたします」
権利関係で同席しているプロデューサー
もとい同席せざるを得なくなった万斉は
退屈そうな視線を、サングラス越しに
テーブルに置かれた名刺へと向けていた
「代理と言う割には
目立つ容姿と名をしているでござるな」
「いえいえ、つんぽさん程では」
万が一を考え撤去されていた"想霊未詳"と
関連商品が再び並んだ吉原でも
朝から営業に走り回っていた青年は
通りで行き逢ったと、兄の近況や
商品の売れ行きなどで話を弾ませていた
「そうか兄上は息災か」
「先生を護るのも僕らの仕事ですから
さんも、あまり無茶はしないでくださいね」
「かたじけないな代理人殿、いやr」
「今まで通りの呼び方で結構ですって」
人当たりのよさそうな顔で笑いながら
土産代わりの新商品"霊子の棒ペロキャン"を
渡して立ち去ろうとした若手編集の肩を
がばりと銀時が抱きこむ
「羽振りがいいね社長〜所でいい話が
あるんだけど、ちょっと聞いてかない?」
「コラボでこのフィギュアや銀魂をつけて売る
利鞘はそっち 仲介料はこっちでwin-winアル」
「そーいう契約はちょっと、社の方にも話を
通していただかないとお答え出来ませんので…」
「スイマセンこの二人は責任持って引き取りますんで
それで、映画に使用されるアレンジ曲なんですけど
先行ジャケットとかポスターなんかは」
群がる金の亡者へ月詠のクナイが炸裂する
第八訓 流行だって鮮度が命
「やめんか見苦しい」
「あ、では僕これで失礼します」
倒れた三人をよそに、そそくさと若手編集が去り
それを見送りった日輪がへ笑いかけた
「それにしてもいよいよ映画化ねぇ
アンタのお兄さんも大した出世じゃないか」
「どれもこれも皆のおかげだ、感謝いたす」
「なんの、こっちこそ協力助かったし
の怪我も癒えたようで何よりでありんす」
土産を受け取る月詠が示す通り
先日、彼女が額と腕に巻いていた包帯は
すっかりと姿を消している
「フォローいらないアルよツッキー
あれ自分でドジ踏んだ不名誉の負傷アル」
「腕の怪我なんか手の甲まであったからな
袖で隠れるし、どこの邪気眼患者だよ」
「じゃきがん?」
「姉には縁のない言葉だと思うよ」
ペロキャンを頬張る神楽と晴太を横目に
復活した銀時が、の隣へ立つ
「あれから兄貴とはまだ連絡とってねぇのか?」
「以前も申したが、兄上はお忙しい身だ
用も無く連絡をしては迷惑になろう」
無表情かつ落ち着いた態度で答えてはいるが
少女の腕はブルブルと震えながら
作務衣から出した槍を組み立てたり解体したりを
エラい速さで行っている
「お前のやせガマンもうバレッバレだから
取り繕ってるつもりでも挙動おかしいから」
「たった数日でもう禁断症状出てるアル」
「通り魔として逮捕されますよ?それ」
狂気に満ちた行動を繰り返す少女へ
ため息混じりに 吉原の守護者が語りかけた
「独り立ちしたといえ 便りのひとつくらいは
寄越した方が相手の励みにもなりんす」
「月詠殿…しかし私は兄上に愛想をつかされて」
「らしくないね、胸張っていつもみたいに
元気な声をお兄さんに聞かせてやんなよ」
「張るほど胸ねーけどこい」
クナイと拳のWアタックで 余計な茶々を
実力排除しながら日輪は続ける
「口じゃそう言ったって、家族なんだから
声が聞けりゃうれしいハズだよ?」
「そうだよ!自信持って姉ぇ!!」
背を押され 意を決したがひとつ頷き
「…分かり申した、しからば今から」
袂を探り…間を置いて懐を探り
それきり動きをぴたりと止めてしまう
「どうしたアルか?」
「まさかさん」
「うぬ…どうやら携帯を落とし「期待を
裏切らないお前にガッカリだよ」
見守っていた三人の顔が、失望に包まれた
とすっかり連絡が取れなくなって
寂しい思いを抱いていたのは
彼が働いていた、夜の店の常連や店員
「あの子が顔見せてくれなくて寂しいわぁ」
かまっ娘倶楽部で突き出しを作る西郷や
客の相手をするオカマ達も例外ではなかった
「ちゃん、売れっ子になっちゃって
アタシ達の事忘れちゃったのかしら?」
「あの子 要領いいからねぇ」
「そんな事無いわよママ!ちゃんも
ああ見えてあったかいんだから〜!!」
気落ちする西郷を励ます青ヒゲ漢女の背後で
陶器がいくつか壊れる音が響く
「ラージの奴、編集に鞍替えしやがってぇぇ
散々オレが目ぇかけてやったろにぃ」
「あらやだ!またあの客だわ」
すかさずアゴ美が客と店員の座る座敷を縫って
荒れた席へと駆けつけた
「あのヒゲ前々っから気にいらねんだよ」
食器やコップなどを撒き散らすその男は
「オレのが先に入社したってのによぉぉ〜
なぁんでDTP担当のままなんだ!」
「お客様?店内で暴れるのはお止めくださいな」
注意にも耳を貸さず、周りの迷惑も省みず
編集のワンマン振りをまくし立て
上り調子で出世街道を歩いている事に不満をこぼす
「たかだか作家一人拾ったぐらいであのヤロ
次期編集長だぁ?笑わせんなバーローめ!!」
「ここは楽しくお酒を飲むオカマバーです
お客様のご迷惑になるなら」
「絶対ぇ裏で何かやってんだあのスケベヒゲ!
ラージも周りも騙されてんだボロロロロロ」
「出てけぇぇぇぇ!!」
それが決定打となり
キレた鬼神によって
赤ら顔で管を巻いていた客は追い出される
そんな宵の口での一幕の、一方で
「見っかったか?逃げた女」
「さっぱりでさ、そっちも吉原の店
脅してたロクデナシは見つけたんですかぃ?」
「生憎ハズレばっかりだ」
あったか〜いお汁粉とコーンポタージュを片手に
ドSコンビが 互いの成果を口にしていた
「時期や作者の脳みそ考えても
通り魔と脅迫やらかしてるのは同じヤツだろーな」
「とっ捕まえた連中の中に、通り魔本人がいりゃ
話が早ぇんですがね」
そんな彼らの願いもむなしく
今まで逮捕した者達は、全員がネットや巷の
騒ぎを見ての"便乗犯"だと自白している
「いよいよ"逃げた女"の容疑が濃厚か」
「所がどっこい、女が絡みゃ怪しいのが
もう一人ほど増えちまうんでさぁ」
「あのうさんくせぇヒゲ編集か」
彼の仕事振りは、社内じゃいい意味でも
悪い意味でも知らぬ者はおらず
作家や提携を結んだ事務所や 風俗店での
女性問題でも当人の悪評は絶えないようだ
「権力でモテモテってか?羨ましいこって」
「旦那は権力あってもモテやしやせんが」
「モテますぅ〜アニメも復活したしモテますぅ」
ジト目で缶をすする沖田の視線を
断ち切るように、銀時が強引に話題を戻す
「逆にピーマン兄貴にゃ女の影はねーの?」
「代理で若い男が世話焼いちゃーいやすが
そいつにも女っ気は見当たらなかったそうで」
「疑い始めたらキリがねーよ」
言いながら、自販機の側でたむろする二人へ
近藤が歩み寄ってきた
「ここは原点に返って、じーさんの話を
聞き直してみるのはどうだ?」
「珍しくまともな事言ったなゴリラ」
やかまし、と短く返して携帯を取り出し
近藤は 受け取っていた須藤老人の連絡先へかける
「…出ねーな」
「本でも読みながら厠でウ○コしてんじゃね?」
しばらく待っても応答は無く
老人の身元を引き受けた編集の番号へ繋げば
今度はほとんど待たずに返答があった
『ハロー!次期編集長候補の僕に御用ですかぁ?』
「声デカっ!えーおほん警察の者です
由來さんについてお話を伺いたいんですが」
『伯父さん?ウチに帰って来てませんよ?』
「は?」
電話越しの、腹が立つほど能天気な声は
数日前に出て行ったきり連絡が取れず
行方が知れなくなったと口走った
『きっと美人のチャンネーとトゥギャザーして
ホテルでエンジョイしてるんじゃないですかね〜』
そりゃアンタだ、とツッコめないくらいに
顔が引きつる近藤を見て
二人も 事態の異様さを感じ取った
[∵月∴日 : ようやく周囲の状況が落ち着いてきた
代理人のあの人のおかげで人前に出ずに
執筆に専念できるし、嫌がらせも出版社側で
どうにか処理が出来ているらしい
このまま行けば 僕は売れっ子作家として
不自由のない生活が出来るとか
…でも、そこにはいない
妹をダシに成り上がって振り回してる辺り
本当は僕の方が、妹離れしてないんだろう]
明かりを落した部屋で 携帯電話が鳴り響く
見覚えの無い番号に眉根を寄せながらも
は通話ボタンを押し
黙ったままで、少し離した受話器からの声を待つ
『…兄上?』
聞こえてきた懐かしい声に 彼は受話器を
迷う事無く耳へとつけていた
「?電話してきてくれたの?」
『新たに送られた携帯に兄上の番号があった
…片メガネ殿も、味な真似をする』
結局 落とした携帯は見つからなかったのだが
いつもの事と軽視した彼女は、特にその件を
語らずに言葉を続ける
『いらぬ世話かもしれませぬが、一言
お祝いを告げたくて』
「…ごめんね、あの時は言い過ぎた」
『兄上が謝る必要などどこにもありませぬ!』
気遣うその様子に小さく笑って、は
部屋の壁へ背を預ける
「タカミさんもよく差し入れとか
色々便宜を図ってくれて助かってるよ」
『聞いている 兄上の様子を教えてもらったゆえ』
「でもね、僕もう疲れちゃった」
『…兄上?』
元々世渡りは上手く、多少の妬みや嫌がらせは
ものともしない彼も
急激な環境の変化と次々と押し寄せる期待
そして連続する悪意には参っていた
「続編の執筆が終わったら…いや今からでも
この仕事を辞めよっかなって思ってる」
吐き出された本音は弱々しく部屋の闇に溶ける
しばしの沈黙を置いて
「もしそうなったら また一緒に」
『弱気になってはなりませぬ』
自らに言い聞かせるように重ねたの言葉を
は、力強く叱りつけた
『私は兄上のためならば何も厭いはしませぬ
宇宙のどこにいようと兄上はたった一人だから
だから、したいように生きてくだされ』
自分などを気にして掴める幸せを蹴らぬよう
悔いの残る選択を、自分のせいでしないよう
携帯からのエールは送られ続ける
『安心してくだされ、作家として生きられても
仕事を辞めて逃げても…兄上は私の兄上です』
それは ひどく不器用な一言だったけれど
萎えかけていた彼の魂は
「分かったよ、もう少しガンバってみる」
妹のその言葉を支えに、新たな世界で
生きる事への覚悟を固めた
『幸せになって下さらねば許しませぬぞ』
「…ありがとう、」
通話を終えたの顔には
久々に、安らかな笑みが浮かんでいた
窓の外から遠くに見えるネオンの輝きが
一番映える深夜に 人気の少ない路地を
通っていた勝男が一人の女と出会う
「そないデカいトランク持って
どっか旅行にでも行くんか?嬢ちゃん」
「ええ、荷物が多いものですから」
人一人が余裕で入るトランクを押している
愛想のよい美人の服装を眺めて
すれ違いさま勝男は 意味ありげに口を歪める
「気ぃつけぇや?近頃は物騒でのぉ
そんなカッコじゃ通り魔に襲われるかもしれんで?」
通り過ぎた七三分けの後頭部を
「…脇役風情が」
闇に同化する作務衣姿の女は
ひどく濁った瞳で睨みつけていた
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:区切りがいいので、ほのめかしたトコで
終わりました…ここまで長かった
近藤:こっからだって長いじゃん
神楽:将軍暗殺篇よりゃ短くなるアルよ多分
新八:アンタここで出てていいんですか?
万斉:直接の関わりは無いから平気でござろう
銀時:ピーマン兄貴の小説で儲けといて
オレらのコラボ邪魔するのは何でですかぁ?
日輪:人聞きが悪い、こっちは正規の契約さね
吉原の財政も潤うし 私もあの子のお兄さんの
書いた話が好きだからね
月詠:わっちもじゃ
沖田:フォローに見せかけたステマ乙
老人の行方、そして"謎の女"の狙いは…?
様 読んでいただきありがとうございました!