眉をハの字に下げて、青年は不安げに

付き添っている黒服へと問いかける





「本当に先生にお怪我は無いんですよね?」


「ええ、あの人でしたらピンピンしてますよ
それにしても…」





やや目線を下げて黒服(山崎)は


歩きつつ側にいる妙にのっぺりとした顔の
若手編集と、渡された名刺とを見比べる





「失礼ですけど、ものスゴい名前ですね」


「あはは よく言われます…読みづらいし
呼びづらいので皆さん苗字で呼んでくださいます」


「その気持ちオレもよーく分かりますよ」





基本苗字、一部まともな呼び方をされない
扱いな山崎は深々と頷いた





「今後の軽い打ち合わせとお見舞いの
ご挨拶だけですので、用が済んだらすぐに帰ります」


「そうしていただけると助かりますよ
つーかやたら人気なんですね〜あの人の本」


そりゃもうウチの看板ですよ!映画化や
有名ブランドとのコラボ契約も進んでましてね」






ぱっと目を輝かせて語り始める彼の言葉を
興味半分に聞き流しつつ


部屋へとついた山崎が扉をノックしようとして





「一々ずっと付きまとわれてちゃ
ロクに商談も食事も休息も出来やしない」



ドアの向こうから聞こえる、刺々しい台詞に


思わず若手編集と顔を見合わせた







こっそりと薄く戸を開いて様子を伺えば





「いい機会だ、もう独り立ちしたら?





藍色の作務衣をまとう少女の背中と


いかにも質のいい単を着こなす美しき兄の
冷たい微笑が、隙間からよく見えた





出来るよね?もう自分で何だって
やっていけるくらいには力があるんだから」


「し…しかし兄上を狙う輩がいつ現れるか」


「自惚れないで、僕だって自衛ぐらい出来るの」





弱々しく肩を落とす少女と裏腹に


兄は苛立たしげに腕を組み、眉をしかめている





「護衛気取りで側にいられたって迷惑なのよ
真選組の人達がいれば十分だし

目障りだから早く出てってちょうだい


「言い過ぎでしょさん!」





溜まりかねて顔を出した山崎に面食らうものの

は毅然とした態度で冷たくあしらう





「家の問題に口出ししないでくださいな」


「だからってアンタ、今まで側にいてくれた
妹にそんな言い方「あい分かった!」


と、小気味よく両手を鳴らし


が場に不釣合いなほど明るい声を張る





「愛想が尽きたと申されるなら、私もこれにて
暇を頂こうと存じます」





目を見張る兄へ恭しく頭を垂れてから





振り返った少女は緑の瞳で山崎と、その後ろに
控えている若手編集を認めると


「山崎殿 それに代理人殿」


「え、あっはい」


「不甲斐ない私に代わってお主らで
兄上を護り通してくれ…頼んだぞ





ぎこちなく微笑んで


きょとんとしている二人の間とドアとを通り抜ける





「いやオレ山崎…って合ってるぅぅ!
じゃなくて、ちょっ待ってちゃん!?」





慌てて声をかける山崎だが 彼女は振り返らず
その場から立ち去ってしまった





戸惑いながらも入室した若手編集が


気遣わしげにへと声をかける


「先生、お取り込み中申し訳ありません…その」


構いません あの子を甘やかしすぎてた
僕の責任でもありますし」





清々した、と言いたげに笑う彼の緑眼に


ちらりと見えた暗いかげりを 若手編集は
あえて胸の内へと仕舞いこんだ











第七訓 閑話休題とか使い所がよく分からん











[ν月ζ日:出したゴミを荒らしていた犯人を

妹がゴミ出しついでに片付けていた


店の常連で鼻噛みプレイを強要してた人だった


夜中に袋を開けてティッシュくんかくんかしてる
変態を顔色ひとつ変えずにしばき倒して
奉行所に放り込んだ、と教えてくれた


こういう時ばかりは頼りがいがあるように
見えてしまうから不思議だ


…いや、実際この子はそんじょそこらの
男なんかよりもずっと頼りになる





もともと男前な性格してたけれども


神楽ちゃんやお妙さんらを始めとした
男顔負けに気風が良すぎる女性との交流が
多くなって、ますます潔さに磨きがかかった


らしいといえばらしいけど


仮にも男であり兄である立場の僕としては


肩身が狭いというか、立つ瀬がなくなってくると
いうか…とにかく複雑]










山崎づてに二人がケンカ別れをした事が伝わり





「どうやらのヤツぁ、あの家に戻って
来てるみてぇだぞ?物好きなこった」





直った掃除機を引き渡しに行った源外から
彼女の在宅を耳にして





「ブラコンだから絶対落ち込んで、そのまま
三途まで急降下して溺死しかねないアル」


「三途でも死ねたっけ?てか二回死ぬの?」


万事屋三人組もまた 彼女の様子を見に
かつての兄妹の住まいへ赴く





「茶でも飲みながら、ついでに薄い本でも
差し入れしてからかってやろーぜ」


「妹キャラも無表情系も蔓延してきてるから
そろそろ腐属性の一つや二つ追加しとくべきネ」


二次BLはやめたげて!それだったら
お通ちゃんの新曲聞かせてあげた方が万倍マシですって」





ちなみにその新曲は、彼が毛嫌いしていた
例のドラマの主題歌でもあるのだが


指摘に対し"それはそれ、これはこれ"


親衛隊内では暗黙の了解で通ってるらしい







目的地に近づくにつれ 異臭が彼らの鼻を刺激する





「うぉーいしばらく来ねぇウチにこれ
パワーアップしてんぞ?マジでいるのか





戸口には異臭の原因である様々な液体が
へばりつき、更に壁と戸一面に卑猥な落書きと
典型的な誹謗中傷のビラがべったり貼られている


新聞受けには収まりきれずこぼれるほど
ぎっしりと詰めこまれた手紙の束


極めつけは入り口付近に

どっかりと鎮座した謎の祭壇





「声かけたら出てきたってジーさん言ってたアル」


「呼んでみます?」


「いや待て、これいつものパターンだと
室内で三途ってる可能性高ぇだろ」





念のため家をぐるっと回ってみれば
木の板で補強された窓と割れた窓があり


展開を先読みして彼らは家の中へと不法侵入する





畳と天井、押入れの三方向から同時に
飛び出した銀時達を迎えたのは







スレスレで肌を掠めた無数の飛ぶ斬撃だった





「脅かすな、危うく斬る所だ」



こっちのがビックリどっきりしたわぁぁぁ!
いろんな意味で度肝抜かれるわ!何してんのお前!?」



「見て分からぬか?掃除だ」


「家のってんなら定義調べてこい、これどう見ても
強盗殺人起きた後の現場だから」


「銀さん 少なくとも一部は僕ら加担してます」





ため息をひとつつき、槍を収めた


室内に散らばるガラス片を箒でまとめる





「生憎だが、掃除なら手が足りている」


何言ってんの?玄関とかスゴいんだけど
おかしな祭壇とかあるんだけど」


「すまぬな 片付けても二日持たずああなる」







改めて見れば、機械のように黙々と
ガラスを処理する当人の額と腕には包帯が巻かれ


床には散乱したゴミと紙に混じって
鮮やかな血痕が残っている





ひとつひとつ床の紙をつまみあげれば


それらは外に貼られた中傷ビラや 手紙の類





手紙の内容も似たり寄ったりな悪罵や





「何でチ○コのドアップ送ってんだコイツ
つーか被ってんじゃねーか」


真性のド変態アルな」


「肝もモノも粗末なモンだ、見てみホラ」


「そんなモンに興味示すなら
掃除手伝いましょうよ」





モザイクフル活用な(性的)トラップ





「"先生の作品に出会えたのはもはや運命です
前世で私達は信頼しあう相棒同士でしたよね?
絆の力があれば見つける事は容易ではありますが
早急に連絡を頂けると準備も出来て助かります…"」


「電波乙」


もはやおぞましいと形容しても差し支えのない
ファンレターで占められている





「迂闊に開けるな、刃や毒が仕込まれたモノも」


うえっげほっ!うげぇぇっ、イカくさっ!!」


「おぼろろろろろろろろ」


話を最後まで聞かず、封を開けた瞬間
発動した悪臭トラップに二人がむせて吐く





掃除を手伝う新八が増えた手間に頭を抑え


下げた視線の先に、窓が割れた原因であろう
こぶし大の石を見つけて問いかけた





「ひょっとしてそのケガ この石のせいで…?」


「いや、息抜きに稽古をしてたら手元が狂った」


「自爆!?」





ガラスも集め終わり 掃除もひと段落して


お菓子漁りが空振りに終わって舌打ちする

銀時と神楽にも茶が振舞われた





「それで あの祭壇は何アルか?」


「兄上の作品愛好者が持ちこんだモノだ」





作務衣軍団による"被害者の会"が月水金で開かれ


翌日に祭壇が汚されるか壊され、の繰り返しが
行われているらしい





「当事者なのにされるがままかよ」


「キリがない故、隙を見て桂殿も利用するが
いずれも大して効果はない」


「ヅラぐらいは追っ払っとけヨ」


「…ここにずっと住む気なんですか?」


「案ずるな新八、しばらくの辛抱と思えば
一人暮らしも満喫できて気楽なものだぞ?」





顔色こそは以前よりもマシになったとはいえ





妙に明るいその物言いは
を知る三人にとって、違和感しかない





「しばしここで過ごし
慣れたなら引越しも検討してみるかな」


「やめとけ、殊勝なフリとか似合わねーから」


「此度の事は互いによい機会であっただけだ」


「そんなのさんらしくありませんよ
いつもみたくさんの側にいなくちゃ」


「華々しい門出を迎える兄上には
まさしく私などお呼びではないのだよ」


「まだあんな兄ちゃんの味方するアルか?」





咎める神楽だが


彼女は面持ちも意思も変えず平然と答える





「例え人の道を外れても私は最後まで
兄上の味方だ、なればこそ兄上が決めたなら
縁を断たれようが見送らねばなるまい」


「結婚だの家庭だのほざいてたじゃねーか」


しかし銀時の一言にだけは





どこか不慣れで、寂しげな笑みを浮かべていた





「兄上が幸せになるのならば…
結ばれなくたっていいんだ」








(((なんか大人になってるぅぅぅ")))

と 事態についていけない三人は心の中で絶叫した





が壊れたアル!」


「何その悟ったような対応?お前偽モンだろ
絶対偽モンだろ?いつものKYどうした!?


「よく分からぬが、期待に答えられずすまぬな」


「やべぇ対応が大人だよ 何か色々ありすぎて
完璧に吹っ切ってる感じですよコレ」


「まあせっかくだ ゆるりとしていけ
どうせ掃除以外することもないからな」





そこで自然と途切れた会話の空白に





「ならもっと幸せになれる事をしない?」


『へ?』





いつの間にか現れた妙が、笑顔をたずさえ
当然のように割って入る







[≠月@日 : 臨時ですまいるのヘルプとして
客引きさせられてた妹が


松平公を案内してきてビックリした


しかもお連れがお忍びでいらっしゃった将軍様で


当人目の前にしてあの子が妙に親しげに
「将軍殿にも苦労をかける」とか話してて


おまけに将軍様が苦笑してて連鎖でビックリ





…いや話には聞いてたけど、馴染みの店に
警察庁長官が一国の城主連れてくるってどうなの





ともかく遠ざけないと危ないので


雑談してる将軍様から離れた
早く帰るように伝えていると


松平様が弾みであの子に抱きついて引き止める





ともかく遠ざけないと危ないので


どうにか営業スマイル浮かべながら
悪質なお客様を、妹から引き剥がした]








話を聞いていたからか、それとも二人の
ケンカ別れから既に決めていたのか





妙は四人と月詠、たまにキャサリンを連れ


吉原での"想霊未詳フェア"出張宣伝へ繰り出した





「猿飛さんや九ちゃんにも声をかけたんだけど
あっちも色々忙しいみたいで」


「ウチモ店ノ宣伝ニ便乗サセテモライマス」


「月詠殿まで…わざわざすまぬな」


「近頃は過激な犯行も多いみたいでな
見回りをするにはちょうどいいでありんす





宣伝をするなら、何か目を引く文句が
あるのが一番だという提案に





「だったらお通ちゃんの新曲なんか
宣伝効果バツグンですよ!」



生き生きとした目で新八が息を大きく吸い込み





「ありの〜ままな〜自分にご褒美〜」


公害レベルの騒音をあたりへ撒き散らす





「ありの〜ままの〜自分を愛してとかそれ
めっちゃメンヘラの常〜套〜句」



「…銀時、周囲の視線が冷たいのだが」


よーしつかみはバッチリだ!次は軽快な
セールストークで押していこーぜ!!」



冷徹な緑眼を無視した銀時をはじめ


八人は曲が終わるまで、耳を押さえながら
遠巻きに見る民衆の向こう側の物陰で


老人の顔と、長めの行李の端
見え隠れしているのに気付く





「アレって…」


「間違いなく訛りジジイ
アレで隠れてるつもりアルか?箱丸見えね」


「私への疑いは晴れておらぬのか…」





何ともいえないの呟きへ


心中を察してか、たまが口を開く





「本を大切にする方なら、本の売り上げに
貢献すれば逆に潔白をアピールできるのでは?」


「そんならまずはキャサリン お前は帰れ


アン?アタイハマスコット枠ダッツーノ」


「呪いのマスコットの間違いだろ」





ともあれ急造の宣伝部隊は


本を片手に行脚し、小説と店の名を
盛り込んだ呼び込みの文句を叫び


精一杯 作品のアピールをするのだが





巷の悪評と事件のせいか通行人の食いつきは悪く







「小説をお買い上げの人には、もれなく
ツッキーの脱ぎたてパンティーをプレゼント」


「お妙さんの下着以外には興味がないぞぉぉ!」





不用意な発言やらゴリラやらクナイが拳が
飛び交う地獄絵図が展開し





コッチ見テンジャネーヨ 金寄コスカ
本買ウカ店ニ来イヤ」


「この小説ってとてもお肌にやさしい成分で
出来ているんですよ?試してみます?


「さらに今買えば特典として銀魂全五十七巻と
コラボ限定フィギュアが付いて来る!」



抱き合わせ商法!?まだ諦めて
なかったんですかグッズのコラボ!!」


畳みかけるスレスレな話術でダメ押しされ


もれなくドン引きするか 悪態をつくか
ダッシュで逃げ出していた





後をつけている須藤老人も
八人のグダグダっぷりには唖然とするばかり





「誰が読むかよそんなモン」


「む…」





呼びかけに協力してはいるものの


状況に拍車をかける鉄面皮の少女を
銀時と神楽がせっつく





「ほらテメェも何か商品価値をつけて宣伝しろ」


「兄ちゃんの売り上げに貢献するヨロシ」


「ええと…今なら先着一名に三途の川をご招待」


「「いらんわそんな負荷価値ぃぃぃ!!」」





そこへ口元を布で覆った百華の一員が二名ほど
月詠の元へと駆けつけてくる





「頭!この先の店で、商品に毒を混ぜたとの
脅迫文が届いたそうです」


「本屋でボヤ騒ぎが起きたとの報告が」


「分かった、わっちは店側へ行く!」





短く告げて駆け出した月詠に続き


銀時達も、二手に分かれて行動を始めた









…幸いにも双方死傷者はなく


現場付近にいたであろう犯人も素早く
駆けつけた八人によって捕らえられ





「貴様のような迷惑極まりない輩には
地獄の片道切符を渡してやろう」



さん加減して加減、犯人死んじゃう」


凶行は未然に防がれたのだった





しかし…その騒ぎに紛れて


消えた須藤老人に気づく者はいなかった








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:暗殺篇で終わる所か、三度アニメ化で
正直どひゃってる管理人です


山崎:とっつぁん何やってんの!?
あの店に上様引っ張り回しちゃダメですって!!


松平:将ちゃんだって"息抜き"は必要だろぉ?


月詠:そういう問題ではありなんし


銀時:こー言う時こそ吉原デリバリーサービス
活用すりゃいいじゃねーか


キャサリン:ソレヨカコノ時点デヤット七話カヨ


たま:睡眠時間の低下により、管理人が
仕事中に眠りに落ちる確率は


神楽:流石は学習しない事に
定評のあるバ管理人アル




オレ、この長編書き終わったら…
将軍暗殺篇 書くんだ(←おおテンプレテンプレ)


様 読んでいただきありがとうございました!