とびちったガラス瓶とへばりついた中身


それと周囲に漂っていた臭いから


段ボールの中にあったのは、特定の菌と液体を
目一杯詰めたビンだと判明した





「ガキでもお手軽に作れる分、いつ破裂しても
おかしくねぇお粗末なモノだそうで」


「なるほどねぇ〜オレぁてっきり
う○こ爆弾かと思ったわ」


「ある意味正解じゃねーか、槍ムスメや
テメーら銀バエが現場にいるしな」


私ら被害者アルよ?しかも大惨事未然に
防いでるってのに何様ネ土下座して謝れヨ」


「いや別の意味で被害広げてたよね」


「そんじゃ土方さん、ここはひとつ
達人級の素晴らしい土下座お願いしますぜぃ」


「しねーよ!その携帯で何する気だてめぇ!」





通り魔があったらしい現場から さほど
離れていない場所での事件だっただけあって


迅速に旅籠へ駆けつけた真選組は


ひとまずその場にいた従業員に話を聞き


重要参考人として兄妹と万事屋三人


荷物を届けた配達人と須藤老人を
旅籠の空き部屋で 個別に事情聴取していた







「中身はワインだから慎重に扱ってほしいと

それと、"想霊未詳"の作者へ確実に届けたいから
必ず宛名の相手へ渡すようにと」


「確かなんだな?」





念を押され 配達を勤めた若い青年は
ばつの悪そうな顔をして頷く





「金ももらっちゃったし…それにあの本の
作者に会えるかもしれないかなーと」


「変だとは思わなかったのか」


「まあ"ゆき"って名前の美人はありふれてますし」





すんなりと彼の取調べが終わった反面





アタシは犯人を探しとっただけじゃい!
通り魔なんぞおそがい事するわけないらー」


「うん頼むから日本語しゃべってジーさん
じゃないとこっから出らんないよ?いいの?」


「勘弁しなさんしょ刑事さんよぉ〜
まだ在庫ようさんあんで、はよしねいかんのに
おだあげべーしてるヒマないっちゅーの」


「日本語でおkえぇぇぇぇぇ!!」


「副長落ち着いてぇぇぇ!これ一応日本語!!」





須藤老人の事情聴取は 大変難航していた











第六訓 悪意は際限なく伝播する











送り主の名前と、直前までと揉めてた事

付近で起きた通り魔の 目撃証言と証拠により


そちらへの容疑及び関連について
かなり厳しく追及されていたようだが





方言と訛り混ざり過ぎでワケ分からん!
ナニイッテルカワカリマセン共和国の人間か!?」


「通訳で終兄さん呼びやしょうか」


「いやいやいや、アタシゃ旅好き(シュミ)と
商売上(じつえき)かねて現地渡ってだはんで
そこの訛りがア・リトル移っただけです」


「ワケわからん言葉でしらばっくれても
無駄だぞじーさん、こっちにゃ証拠が…」





と、ドアを開けて部屋の外で待機していた
万事屋トリオと作務衣娘がなだれ込む





「おいコラ勝手に入ってくんなって」





渋面の土方を無視して、老人を指差し銀時が訊ねた





、このじーさんに心当たりは?」


「何度も言うが初対面だ」


たっすいこと言われん!アタシはアンタに
何度も本をわやにされてんだ!」



「人違いでは無かろうか」


ゆくさー!アタシはハッキリ見てるっちゃ
黒いひと房の三つ編みで作務衣に棒たがいた…」


棒?槍じゃないアルか?」


「うかしなカト言う子供だ、江戸で柄串持った女なぞ
いよればとっくに捕…いたあぁぁ!


『まぁ普通の反応(だわな・ですよね)』





槍を取り出した少女に老人が悲鳴を上げる様を

残る者達は"知ってた"と言いたげな顔で見ていた







…方言と訛りたっぷりの聴取を要約すれば


とある企業名義で、破格の値段と
他言無用の条件で"想霊未詳"を置くよう依頼され

久々に江戸へ舞い戻ったらしい


が、指定された場所に誰もいない事が気にかかり


ある時こっそりと様子を伺ってみたら


と一致する特徴を持った人物

置かれた小説をライターで燃やしだしたのを見て





「もちろんぶっか…追っかけたけんど
奴さん足が早くってねぇ、逃げられたンゴ」


「ほうほう、それでを犯人だと
勘違いして追っかけてたアルか」


「まだウリは信じられんニダ、というか
おめさんらが謙虚な警察なら善良な老人よりも
この娘っ子をもっと疑うべきそうすべき」


「安心しろ、てめーら全員疑ってるから」


大体なんざましょ咥えタバコとか本の敵!
皆殺しでも詰まらして居ねー」


「おいジジイ、方言とか訛り以前に
さっきから明らかにこっちの悪口言ってんだろ」


「生殺しの方が長く楽しめます土方死ねー」


「オレぁ半殺しがいいです土方死ねー」


「こういう時だきゃ順応早ぇなテメェら!」





おちょくられた当人が隊士と新八に
なだめられている対面で、彼は深くため息をつく





「全く身内の働いてるトコだから
やくやく来たんにこれじゃ商売あがったりだ」


「身内って、誰ですか?」


「ハイどーも〜、やぁやぁちゃーん!
今回とんだ災難だったねぇ〜」






この場に似つかわしくない程の能天気な声が


八人がいる部屋の ドアの前であがる





そこには派手な柄シャツスーツで、小脇に
流行キャラが描かれた目立つ箱を抱えた無精ヒゲ男が


憔悴しているへ、陽気に笑いかけていた





「ええ…編集さんのお身内だったんですね」


「そーユニークでしょ?ウチの伯父さん」


きさん何ぞねそのちゃらついたカッコ!
おまけに おきゃしなその箱は!」


「ああこれ?発売前の"妖怪ぼっち"コラボゲー
アインちゃんに欲しいって頼まれちゃってフラゲ」


「クラゲだか知らんがはんかくさい事言いよって
父御はんが見たら泣くぞ こんのなりき者が!」



マジで風俗行ってたぁぁ!ダメだこの編集!」


「ご老人"ふらげ"は外国語だぞ意味は分からぬが」


「分かんないなら口出ししないで!」


「フラゲてーのはプレイの一種で一度も剃られず
残った「「そこ嘘教えんな!」」





作務衣の二人を中心に場の空気はカオスさを増す





「フリーランスでグローバルに渡り歩いてる
自由人の伯父、引き取りに来ました」


「自由度に関しちゃアンタも相当だけどな」


HAHAHAこれで案外意固地なんですよ
前もウチにあった妙な落丁本お祓いに頼んでて」





…が酒で滑ったヒゲ編集の一言に


約四名の顔色が変わり





「あの本こっちじゃ有名きに、ぶち危ないけぇ
お祓い勧めたてのにこのがしんたれは」


だーから伯父さんそれ迷信だって〜
現にあのボロ本捨てた母さんはド派手なチークと
マスカラつけて今日もテニスクラブ行ったし」


「聞いとらんしー!お前やお前のかかどんの
した事にゃアタシはやっきりしとんだかんね!」



「はいはい、とにかく今度から連絡くらいしてよ
おかげで僕も母さんも陰陽師の人に あの後
滅茶苦茶怒られた『お前かぁぁぁぁ!!』





放たれた万事屋トリオのただならぬ
絶叫と蹴りが、酔いどれ編集へと炸裂した






「何やってんのてめぇらぁぁぁぁぁ!?」


「な、なんでれてー大声なんぞ出して」


「…こちらの話だ」


絶対なんかあったよ!ちゃんの目
ハイライト消えて死んだ目になってるし!!」


「一体編集さんとあなた方に何が?!」


「あたた、酔い覚ましにしちゃーアグレッシブ…
あ!もうこんな時間じゃん!」





腕時計へ目をやった編集が慌てて身を起こし


「スケジュールがけつかっちんなモンで
僕らは退散しますよ〜さ、いこっか伯父さん」


「こら待ちアタシゃお前の世話いらねーし!」


「おい待ちやがれ勝手に帰ってんじゃ」





止めるのも聞かず、須藤老人の背を
強引に押してその場を立ち去った





呆れ返った土方の視線がへ向けられる





「…おい、あのヒゲのおっさん
いつもあんな感じか?」


「ええ 大体ご覧になった通りですね」





うんざりしたように 彼は頷く







とにかく一通りの聴取も終わったので


一礼した兄妹は、隊士に連れられて
泊まっていた部屋へと戻っていった





「てめーらも邪魔だからとっとと巣に帰れ」


「はいはい精々冤罪ださねーようにガンバレ」


「あのっ、路地で襲われてた女の人は
大丈夫でした?」





襲われた被害者の様子を訪ねた新八だが


返ってきたのは、予想だにしない言葉だった





「どーもその女
目ぇ離した隙に逃げたらしいぜぃ」


逃げたぁ?それ軽く不祥事じゃねーの?」


「うるせぇ目下行方を捜索中だ…
絶対ぇとっ捕まえて泥吐かせてやる





聴取のストレスも相まってか、どうやら
逃げた女は容疑者リストに入っているらしい







[φ月..日 : 妹が、誰かに手紙を書いていた


筆不精…所か書き物なんて全くもって
縁のないが文通だなんて


神楽ちゃんみたく そよ姫様とでも
お手紙でやり取りしているのだろうか?
思い切って聞いてみた





…相手は男だった


しかも、真選組の三番隊隊長とかいう
何だかおっかない人みたい


その人が桂さん追っかけてた時に
落としたモノを届けたのが、きっかけらしい

…相変わらずよく分からない人脈を作る子だ


手紙内では 銀さん達の話題も
かわしているらしい


今度、どんな人か彼らに聞いてみよう]










凶器を持つ通り魔のニュースが発信されるに従い





『犯罪者が書いた小説読むとかガイキチ杉ww』


『通り魔も脅迫も"想霊未詳"を貶めようとする
アンチの仕業で間違いない!』



"作務衣の襲撃者""想霊未詳"の名が
堂々と巷に流布し


批判や対立が激しくなってゆく





そんな世間の風当たりに影響されて





「ひとまず騒ぎが収まるまでは、販売や
関連商品の紹介は自粛するべきじゃないかね?」


「世間をこれ以上刺激しては売り上げや
自社の株に影響が…」





及び腰になる経営陣とは反対に





「なあにを弱気になってるんです!
むしろこの逆境こそビジネスチャンスでしょ!


そっ、そうです!卑劣な脅しに屈しては
先生のファンが悲しみます!!」





を見出した敏腕編集を始めとした
若手編集は強気の姿勢


続編の出版や関連商品の販促を推す





「よっし!まだまだボクらで"想霊未詳"ブーム
続けていくよ!目指せ売り上げ宇宙一!!


『おー!』


「タカミくんもちゃんのサポート
しっかり頼むよ〜よっ女房役!」


「ちょ勘弁してくださいよ
こんな独身男捕まえて、も〜」





指揮を取る編集の決断を 快く思わぬ社員との
温度差がありながらも


大手出版は"想霊未詳"を支え続ける







…そんな上記の結果によってもたらされたのが





「こちらの須藤 由來さんは自らの資産を損壊され
更には通り魔の濡れ衣まで着せられました!」


「妨害工作に、断じて屈してはいけません!」


「通り魔被害に会った者同士、全員で
一致団結し犯人へ然るべき報いを!





往来を練り歩きながら市民へと呼びかける


"想霊未詳"ファンと通り魔の被害者とで集った
作務衣軍団による自警活動であった







「何あの集団 無双合戦でもおっ始める気かよ」


「アイドルオタといいオタクはやっぱ
集まるとロクなもんじゃないネ」


「あんなのと一緒にしないでくださいよ!」


「同じ穴のイボ痔だろーが、お前だって散々
お通が出てるあのドラマに目ぇ剥いてたろ」


『ドラマの話はするなぁぁ!』





新八と 作務衣軍団からの予期せぬ集中砲火に
思わず銀時がドン引きするが





あぁ?ドラマはドラマでありだろーが
曲とか演出はそこそこ見れたぞ」


あんなもん黒歴史だっつの!原作レイプも
甚だしいわ、大体主役がド素人の時点で終わって」


「お通ちゃんバカにすんなぁぁぁぁ!!」





実写ドラマをきっかけに内部で口論が始まり


新たな火種に反応した新八が作務衣軍団へ
踊りかかって、無双状態へと発展する





一致団結してねぇぇ!どこぞの親衛隊より
まとまりがねぇじゃねぇかぁぁぁ!!」



「どんもファンの間でも実写ドラマは意見が
分かれる…古事記にもそう書いてある、いいね?


「アッハイ…じゃなくて止めろジジイ!」


「"想霊未詳"などもはや時代遅れ!」







聞き捨てならない発言に


乱闘をしていた作務衣軍団らと
万事屋トリオが、動きを止めれば





「あんな娯楽小説など価値はない!

これからは"世界を変える百の方法!
〜これであなたも革命上手〜"
の時代だぞぉぉ!






通りの向こうで、荷台一杯の自伝を引く
長谷川を従えた桂とエリザベスが


"想霊未詳"を貶しながら自書の宣伝を





「アンタなんでアンチ活動してんのぉぉ!?」


殿の書籍は落ち目と鑑みてな
どうせなら流れを利用し布教を行おうかと」


「でマダオは何で手伝いしてるアルか」


「こっちについたら酒くれるって言ったから」


「どこまで自分の尊厳落とせば気が済むんです!」





睨み合うファンとアンチの縮図へ、銀時は
鼻をほじりながらやる気なく言い放つ





「諦めろ、いくらカマピーの本がこき下ろされようが
てめーの本だきゃ売れねぇよヅラ」


ヅラではない桂だ…銀時
そういう貴様はどちら側なのだ?」


「あん?」


「そりゃ脅迫の犯人すぐせしよるんだから
ウチらの味方だしょう?」


そちらの活動は少々目に余る、それにこの男も
コラボを断られた同士だ 派閥ならこちらに近い」





桂と 作務衣軍団から一斉に視線を注がれ


アゴを掻きながら、彼はこう返した





「オレ?オレぁどっちかっつーと
誰でもいいから一発やろうぜ派」


『それ単なる欲求不満じゃねぇかぁぁぁ!』





この時ばかりはファンもアンチも
足並み揃えてツッコミを入れたのだった









[ж月ψ日 : 襲撃を受けたので旅籠を移った


事情が事情だけに、真選組の人達が
何人か警備にあたってもらえるとの事


こんなに大事になるなんて


…そろそろ 潮時かもしれない]








疲れの色が濃いため息を聞きつけて





「きっと犯人は捕まりましょう
ご安心くだされ、兄上の御身は私が護ります





優しくそう告げたの言葉を聞き


机に向かっていたが、筆をおく





「ねぇ
一体いつまで、側にいるつもり?」


失礼しました!目障りにならぬよう
身を隠します故 御用があればお呼びくださ」


「そういう事が言いたいんじゃないの」





無表情のまま動揺する自らの妹へ向き直り





「…と、申しますと「分からない?」





彼は、哀れむような冷笑を突きつける





「君が邪魔なんだよ」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:将軍暗殺篇がかなり佳境に来てるのに
何やってんだろう私…


土方:知らねーよ、てめぇの事だろ


銀時:ぶっちゃけ真面目に書いてたら
暗殺篇入る前に終わってたよなこの長編


神楽:主に力量不足と方言ジーさんが
原因アル、完全無欠の自業自得


新八:というか企画ネタといい この話といい
実写版への恨みがにじんでません?


狐狗狸:…別に根本的な所を変えなければさー
最悪"別解釈"で楽しめるの、けどキャラや
原作のイメージ無視して大本の部分を勝手に
変える脚本や演出 配役の多いこと多いこと


沖田:そいつぁ壮大な自虐かぃ?


銀時:捏造汁ブシャー!で原作レイプ妊娠
させちまってるもんな〜このバ管理人


新八&土方:全年齢対象にしてもアウトおぉぉ!




次回、告げられる 冷たい決別…


様 読んでいただきありがとうございました!