ブームの裏には影があるモノ


ネット上では、すでに"想霊未詳"ドラマ化やら
二次創作などで盛り上がる反面





『あのラノベ崩れ、実は有名作の
パクリなんだぜ?』


『クソウ0みそー 作者は人殺しの犯罪者』


『ドラマ化と宇宙進出ってマジ?
みんなーお茶の間や宇宙に恥が広がるよww』






口さがない噂やデマ、聞くに堪えない
誹謗中傷が虚実 織り交ぜて広がり


手の付けられないお祭り騒ぎとなっていた





そんな、匿名達の宴に





『ねぇねぇ聞いた?』


また一つ…新たな火種が舞いこんだ





『通り魔に襲われた人、"想霊未詳"
ファンだったり 近くにビリビリにされた
小説が置かれたりしてるんだって』


『なにそれソースきぼんぬ』







ここ数日、江戸の路地にて無差別に殴られる


あるいは切り傷を負う者が増えていた


襲われた者は 比較的軽症ながらも


背後や死角からいきなりの襲撃により
目撃情報は"小柄な人物"程度のモノだった





…しかし ネットや口コミによって





通り魔の"作務衣みたいな"服装と


"おかしな口調"で被害者へ声をかけ
凶器に"棒状の鈍器"を使用した事


更には被害者の共通点であり


現場付近に、これ見よがしにひどい状態な
ウワサの人気小説が残されていた事が


まことしやかに 巷でささやかれ始めている











第五訓 陰での批評はえぐいのばかり











「何ていうか、ネットって怖いですね…」


「今じゃ個人情報もあっさり割れちゃう
時代アル しかもリアルタイムで」





神妙な顔して路地を歩く新八の隣


しかめっ面で神楽が食べているのは


"想霊未詳"コラボフェア食品の
"霊子ーパン"(値引き品)であった





兄妹と別れたあの後、漂う後味の悪さと
の口にした台詞が気になって


ファンや知り合いのツテをたどって
調べてみた所、万事屋トリオは





ネットを媒介に作者のプロフィールやら
今いるであろう旅籠での目撃情報


最近の通り魔の詳しすぎるウワサと


そこかしこで立ち上がっては炎上している
アンチ"想霊未詳"とファンとの対立


…そして 対立する彼らの書き込む

口汚い悪評を知った





「それにしても、あそこまでヒドイ事
書かなくたっていいのに…」


「顔も名前もわかんないのをいい事に
好き勝手言ってて気分悪いアル」





上記の情報やら"想霊未詳"と作者叩きの
文章やらはやたら目にしたものの


肝心の情報の発信源が誰なのかは
特定できず、二人は浮かない顔をする





「…もあんな薄情な兄ちゃんの
肩持つ事 無いアルのに」


「色々忙しいんだとしても、あそこまで
感じ悪い人じゃなかったのに」





いまだ納得のいかない神楽と新八を
無視して、銀時は近くの風俗店へ


「って真昼間から何してんですか銀さん!?





面喰って待ったをかけられても


彼は相変わらずの腑抜けた顔でこう答える





「オメーら駆り出したのは便所の落書き
読ませる為じゃねぇっつの、いいから片っ端から
店をローラーしてあのヒゲ編集探すぞ」


そんな用件!?てかいるわけないでしょ!
普通駆けこむにしても出版会社じゃないの!?」


「あん?やり手の編集なんてのはみんな
隙見て風俗に通う生き物なんだよ、打ち合わせも
催促も風俗、頭ん中は風俗嬢でしめられてんだ」


「アンタ編集の仕事なめてんだろぉぉぉ!!」





どうやらコラボを諦めてないらしい銀時が

新八の制止を振り切り、近くの風俗店のノレンを





「いい所で会ったの」


くぐろうとするのを 通りかかった月詠が止める





「折り入って頼みがありんす」


「後にしろ後に、今こっちは人探しの真っ最中だ」





うっとおしそうに言い放った その直後





「ほう、奇遇じゃな
わっちが頼みたいのも人探しでありんす





間髪入れずそう返され、三人ともが
怪訝な顔になった









[△月※日 : また妹がモノを落とした…


今に始まったことじゃないけれど
もうちょっと周囲に気を配れないものだろうか


そんなんじゃ命まで落としそうだな、と

シャレにならない事まで考えちゃう


まあ、玉やら乳首落とすよりマシだけど]








通り魔の一件とほぼ同時期


吉原の書店および"想霊未詳"関連商品が
置かれている店舗に


多数の脅迫状や、脅迫電話などの被害が
舞いこんで来たと月詠が語った





「内容はどれも商品を撤去せんなら
店の品に毒を盛るだの、火を放つだの
ほぼテロと変わりない内容でありんした」


「犯人探しはオレらじゃなくて税金泥棒か
オメーらの仕事じゃねぇの?」


「情けない話じゃが、便乗するバカが多いのと
通り魔騒ぎとでこちらもあちらも手一杯でな」


「ツッキーも大変アルな」





百華でも模倣犯は何人か捕まえたらしいが


主犯らしき人物は、いまだに
どこの誰とも判明しておらず





万が一を考え 吉原では"想霊未詳"の
小説と関連商品が撤去されているらしい





「いずれこのままでは地上でも脅迫騒ぎが
起きよう、そうなる前に犯人を突き止めてくれ」


「悪ぃが そっちのコラボは後にしてくれや」


「ぬしらの探し人の方も、居所が分かり次第
伝えるとしよう 脅迫された店は」


「おい何成立前提で話してんだ つーか
むしろ教えるなら編集御用達の複数プレイが
可能なエロい店とか






余計な異議は(物理的にも)差し止められ


打って変わっての脅迫者探しをやんわり
強いられた三人は


被害にあった店や 関係者の情報を訪ね回る







…が、大した収穫も得られず


徐々に気力と体力とを殺がれていった





ロクに手がかりがない人探しなんて
久々アルけど…正直勘弁してほしいヨ」


さんの時や地雷亜さんの時みたいに
せめて相手の名前や容姿が分かればいいのにね」





地上程でないにしろ、犯人探しに奔走する
おなじみの黒い制服姿と同じように


げんなりとうんざりが絶妙にブレンドされた
面持ちで吉原を歩き回っていた新八が





ふ、と横手の階段へ視線を上げて気づいた





「ってアレ?全蔵さんだ」





通り過ぎかけた二人も、つられて
そちらに戻ってみれば


やたら長い行李を担ぐ、作務衣姿の老人へ

青い装束の忍が何やら話しかけているようだ





「好きにほっつき歩いてたクセに、急に
江戸に出戻るなんて どーいう心境だ?」


前髪越しに投げかけられた視線を感じてか


行李を背負い直し、小柄な老爺は
どことなく憮然とした顔でこう返す





注文がありゃアタシだって古巣に戻るがね
それで、さっきの話まつがい無いぞなもし?」


「こっちもそれでメシ食ってんだっつーの
それよりよぉジャンプねーの?ジャンプ」


「貸本に高望みしはりなさんな
親子揃ってぶち文句の多い客でありんす」


「数えるほどしかツラ見せねぇでよく言うぜ」







呆れ気味の全蔵と対峙する老人を
じっと見上げて、銀時が呟く





「…あの話してるジーさん、どっかで見たぞ」


んトコ行く前に、ヅラに悪徳商法
逆勧誘されてたジーさんネ」





言われてみれば行李にでかでかと書かれた
"藤岡屋"の字には 見覚えがあった





「へば、アタシゃ行くからこれで」





急かされるように地上へ戻るエレベーターの方へ
去っていく矮躯を見送ってから


近寄り様に、新八が全蔵へと訊ねる





「お知り合いですか?」


「あーさっきのジーさんな、アレ
親父の頃から付き合いがある貸本屋」


「貸本屋?」







耳慣れない言葉に 神楽が首を傾げるも





その名称通り、客の要望に合わせ様々な本を
期日を設けて貸し出すべく行脚する商売


個人経営が多い為 範囲が限定される反面


表にしろ裏にしろ、普通の商売人が
おいそれと関われない客筋や場所での
情報を多く得る機会もあるため





「下手なブン屋よか耳が早ぇんだよ」


と、彼がざっと貸本屋の仕事を懇切丁寧に
捕捉したので すんなりと納得する





「ふーん、でおかしな訛りの地獄耳ジジィに
便所の場所でも聞かれてたワケ?」


「違ぇよ、よく分からんが尋ね人だと」





出会ったのは偶然だったようだが


懐かしげに過去を話していた貸本屋は
通り魔の話題を聞いた途端に


一転して険しい顔になり、こう聞いたそうな





「作務衣を着た黒髪三つ編みの
棒を持った女に心当たりがねぇか、ってな」



「それって…」


「そんな女、オレにゃぐらいしか
心当たりがねぇからな だから」


アイツの泊まっている旅籠を教えた、と


答えた全蔵の一言に 彼らは
誰にともなく互いの顔を合わせる





「銀さん…あの貸本屋の人がいたのって」


「あの旅籠の近くだな」


「通り魔が現れ始めた現場て」


達が泊まってたトコの近くアルな」





奇妙な符号と ネットでのあの詳しすぎる
書きこみとが三人の脳内に浮かんだ矢先


お手本のような悲鳴が、近くで響いた





弾かれるように銀時が駆け出し


全蔵に一礼をして 新八と神楽も
数瞬遅れてその背へと続く







「誰かっ、誰か来てぇっ!」





張り上げられた声を頼りに駆けつけた
人気のない通路の途中で


洒落たデザインの作務衣を着ている

モデルのような美人がへたり込んでいた





「大丈夫ですか!?」


「背中に、背中に箱を背負った人が
いきなり棒で殴りかかって来て


「そいつはどっち行ったアルか!?」


「あ、あっちに逃げていきました」





被害者が指し示した路地の角を曲がって


彼らは、足元にある焼け焦げた物体に気づく





銀ちゃん!コレ」


「おいおい、こいつぁ…ニオうな」





ちょうどハードカバーの本一冊ぐらいの
大きな炭の塊と、燃え損ねた一枚の伝票


それぞれに辛うじて


"想霊未詳""藤岡屋"の字が読み取れた







[Б月∬日 : やっと別紙のコラムを書き終えた


妹だと断られるからって、勝手に
出版社の人間を代理に立てて次々仕事入れるし


その上で続編の催促がしつこい


…あの編集、少しおかしいんじゃないかしら


とにかく鳴り止まない携帯の電源と
旅籠の電話線を引っこ抜いてふて寝してたら


外から、何だかうるさい騒ぎ声がした]










近くにいた真選組の隊士に被害者を任せ


逃げて行った貸本屋を追って


兄妹の泊まる、地上の旅籠まで
駆けて行った万事屋トリオは





一目見ただけで怒り心頭と分かるような
形相をした、貸本屋の老人が


入口に立つへ掴みかかり


口角泡を飛ばして、何事かを喚いている
現場を目の当たりにした





「何の話だ、そもそもお主は誰だ」


はぐしゃれるのも大概にせぇよ!
そっちがその気なら、こちとて容赦は」



言いながら、懐から何かを出しかかった
老人をとっさに新八が取り押さえる





ちょっ!待ってください」


「なにすんねや!!」





拘束を振り払い、なおも懐から
取り出そうとした腕を今度は銀時が抑える





「おいおいジーさん、こんな往来で
警察沙汰はマズいんじゃねぇの?」


ふらーさんけー!アタシゃこの娘に
商売道具ダメにされたんべぇ!文句の一つも
言わな収まりがつかんきに」


「「「は?」」」





ぱっと彼らが手を放したのを見計らい


老爺は、懐から取り出した請求書
の鼻先へと突き付ける





「人の貸本ボロボロにしくさって、全額
耳をそろえて弁償しんしゃい」



「だから知らぬと言うておろう」


「お前、何かした?」


知らぬ つい先程吉原にて代理人殿と
話を終えて戻ったら、この御仁に怒鳴られた」


「代理人て何アルか?」


「出版社の者で何でも、兄上の代わりに
長命丸の契約などを受け持ってくれるらしい」


「著作権ですよね!?」





無表情で検索にかけたらアウトな商品名
口にする少女へツッコミが入った辺りで





するりと彼らの横をすり抜けた宅配便の業者が


旅籠の受付に、こう問いかける





「あのー、こちらに という
お客様はいらっしゃいますか?」


「私だが 何用か?」





応じられ、振り返った業者の青年は
段ボールを小脇に抱えてへと近寄り


伝票とボールペンを突き出した





お届け物です、こちらにサインをお願いします」


「届け物?宛名を改めてよろしいか」


「え?アッハイ」





戸惑いながらも差し出された段ボールの宛先には


彼女の名と、"須藤 由來"という
見知らぬ受取人の名だけしかない





「スドウ、ゆ…読めぬ、そもそも誰だ」


「ああそれ"ヨシキ"て読むんよ」





事もなく答えた貸本屋に、四人の視線が集まる





「アナタの名前なんですか?」


「ああ間違いなか…けど、アタシは
こんな品とどけよらんぞ?だいちっから初対面」


「箱を遠くに捨ててっ!!」


老人の言葉を遮るように、窓から
身を乗り出してが叫ぶ





兄上っ!危ないですからお戻りくだ、っ」


「貸すネ!!」





負けず劣らず血相を変えて叫ぶから
妙に重い段ボール箱を奪った神楽が


思い切り空へと放り投げ


彼が急いで窓から退避した直後





箱からガラスの割れる音と共に

破片がいくつも勢いよく飛び出し


ほどなく投げた当人達も含めた周辺に


ガラスと臭い液体のシャワーが落下してきた






「ぎゃああぁぁぁ!」


くせぇぇ!何このニオイう○こ!?
てか危ねぇぇぇ!何で上に投げた!!」


「ノリってやつアル!くっさ!!







[下はかなり混乱してたけど


神楽ちゃんが爆発物を思い切り投げて
遠ざけてくれたのが功を奏したのか


おかげで奇跡的に怪我人はいなかったみたい


安心する一方で 僕はぞっとする


あれがもし妹の眼前で炸裂していたら


もう悠長な事は言ってられない

早く、何とかしなくちゃ]









――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:貸本屋の名前判明&本格的に
事件のニオイが濃くなってまいりました


銀時:二週間以上も遅れといて、しゃーしゃーと
どや顔するなよバ管理人


月詠:…すまんが今回は庇いだて出来ん


狐狗狸:ええ…わかってました、てゆうか
私が全部悪いんですよ、スイマセンでしたぁ!


新八:開き直って逆ギレ!?
めんどくさっ、何この人めんどくさっ!!


神楽:バ管理人だからほっとくヨロシ
にしてもあの方言まぜこぜジーさん
昔、江戸にいたアルか?


全蔵:オレがガキの頃まではな、会うのも
仕事で他の土地(トコ)の情報拾う時だけだし
出戻った詳しいワケまでは知らねぇよ


銀時:つか作務衣のヤツ増えすぎじゃね?
コラボ食品といい人気か?人気のせいなのか?


月詠:落ち着け、銀魂のコラボやコスプレ
より多く見かけるでありんす


新八:いや月詠さん、コラボはともかく
コスプレは町中で見かけるのはマズいんじゃ




毎度ながら、この長編は捏造のため
実在する須藤&由來さんには一切関係無いです


様 読んでいただきありがとうございました!